【R18】取り違えと運命の人

テキイチ

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後日譚・取り違えたその後の二人

109 にくいあんちくしょう ⑨

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 ジュリエッタは月に数度の呪術師のお仕事以外家にいるので、いろいろ用事を頼まれる。初日に洗礼を受けたグロいものの採集やら、魔道具の手入れやら、古くなった家の修理やら。俺、なんでも屋の様相を呈しつつある。その日も一緒に採取をしていた。

「久しぶりだな、嬢ちゃん!」
「……こんにちは」

 人のよさそうなおっちゃんが声をかけてきたので、ジュリエッタは挨拶を返す。

「隣の兄ちゃん、見かけねえ顔だな。嬢ちゃんのいい人かい?」
「……な……!」
「あ、えーと」

 自己紹介しようとすると、ジュリエッタがすごい剣幕でさえぎる。

「そんなんじゃないから! ルーカも余計なこと言わなくていい!!」

 ジュリエッタは真っ赤になってその場から逃げてしまった。

「……えーっと……」
「ははは、相変わらず照れ屋だなあ。嬢ちゃん」
「はあ」
「で、兄ちゃんは何者なんだい?」
「ジュリエッタの神託の相手で、ルーカと申します。婚姻届も出したので、まあ、夫、でいいはずなんですが、あの扱いです」

 なんか全然そんな自覚なかったけど、社会的な立場はそうか、俺。

「そうか! お前ほんとに嬢ちゃんの……。よかったよかった!!」

 おっちゃんは破顔し、俺の背中をバシバシ叩く。痛え。

「すげえ安心したわ。嬢ちゃんをよろしくな、兄ちゃん!」
「はあ」
「また、通りかかったら声掛けるわ!」

 おっちゃんは鼻歌を歌いながら去って行った。
 何者かわからないけど、ジュリエッタを気にかけてくれる人がいる、というのはなんだかとても嬉しい。



 家事と頼まれごとの合間を縫って部屋の片づけに挑んでいたのだが、ついにジュリエッタの私室を残すのみとなった。

「入らせろ」
「……べ、別にいいわよ、この部屋は」
「私物はまあ好きにすればいいけど、クローゼットはちゃんと管理した方がいいだろ。お前、白と黒の二着しか着ないじゃねーか。整理できてないからだろ?」

 同じ服しか着ないヤツは大抵たくさんの服を死蔵している。服が多すぎて取り出せなくなってたり、組み合わせ方がわからなくて、つい無難な同じ服ばかり着てしまうからだ。持ってるのはかまわないが、カビとか虫とか発生させられたらたまらないからな。

「これはそんなんじゃ……」

 ぐだぐだ言ってるのをおして、ドアを開ける。
 ジュリエッタの私室に入ると、意外なほどスッキリしていた。というか、物がほとんどなくて殺風景だった。小さなドレッサーが窓際に設置されていて、その上に少しのアクセサリーが乗せられているくらい。

「呪術に使う材料と魔道具は専用の部屋があるし、本は書庫があるから、これでいいの」

 クローゼットを開くと、同じデザインの白い服と黒い服がそれぞれ三着ずつ入っていた。

「面倒だから交互に着てただけ。ほんとに一着ずつだと服傷むから、ローテーションして」

 呪術師としては妥当で合理的なのかもしれない。そして、初めて会った日はたまたま白を着る日だったんだな、とも気づいた。

「……服に興味ないのか?」
「わざわざそんなのにお金かけることないでしょ」

 それを聞いて、なんだか無性にムッとした。

「買いに行くぞ」
「え?」
「若い女子なんだから、いろんな色の、いろんなデザインの服、着たらいいだろ」
「別に必要ないし……」
「俺が! 見たいから! 行くぞ!」
「……は、はい……」

 俺の勢いに圧倒されたのか、ジュリエッタがめずらしく折れた。

 俺は知っている。ジュリエッタは綺麗なものが好きだ。家から出ると景色をよく眺めているし、町に出ると同じ年頃のオシャレな女子や服飾品のショウウィンドウをさりげなく目で追っている。
 けど、自分を飾ろうとはしない。ドレッサーのアクセサリーも、呪術師の仕事で外出する時しか身に着けてるの見たことない。

 最初は単にケチで金を使いたくないのかと思ってたけど、最近、どうもそうじゃないのでは? と思うようになっていた。使う資格がないみたいに思っていそうというか……。
 好き放題やってるようなのに、なんで自分を大事にしない。そんな気持ちがもたげてきていたところだったから、つい、強く出てしまったのだ。
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