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第2章「裏世界」
第74話「幻惑のスキル」
しおりを挟む「—―すべてを取り込み、すべてを塗り替える?」
言っている意味が分からなかった。
しかし、そんな頭をかしげる俺とは裏腹に周りに立っていた三人は視線をギョッとこわばらせていた。
禁忌のスキル、幻惑のスキル……別に聞かない話でもない。
幻想のスキルだとか、夢のスキルだとか、惑わす系のスキルはないわけではない。
何しろ、その程度よくあるってレベルだ。
それが普通の世の中が今の世。誰もが何かのスキルを持ち、その優劣でその人々の価値が決まる。だからこそ、アンチスキルなる組織が存在し、それを仕事にする探索者が生きている。
かくいう俺もその一部であり、俺の所属する組織もさらにその一部。
むしろ、たかがスキルに禁忌など言われるなど絵本とか伝説の話だ。
黒崎さんの無限零度《サーパスゼロ》なんて常に冷気を放出しているし、彼女でなくては使い方次第では脅威だ。
比べるならそっちのほうがよっぽど禁忌だし、何より俺のスキルだって見方を変えたら禁忌だ。
神様のいたずらで出せるパワーが変化する――なんて馬鹿げてるしな。
とにかく、莉里の持つスキルは――そんな大したものではない。というのが俺の見解だった。
しかし、周りのみんなの反応は俺のそれではなかった。
「—―そんなっ」
「……」
「莉里ちゃん……っ」
俺以外の三人は地面を見つめて暗い顔でそう呟いていた。
まぁ、こんな反応をされてしまえば俺がおかしいのは言われるまでもないが一体何が禁忌なのか知りたい。
それに、死んでいる莉里と今いる莉里とは何が関係しているのかもっと詳しく知りたい。
「—―その、スキルはいったいどういう効果があるんですか」
「幻惑のスキルについてか?」
「はい。正直な話、俺からしてみれば別に危険なスキルだとは思えないんですよ。それに俺たちと暮らしている莉里は別に危険な子ではありません。記憶を忘れたただのかわいそうな女の子ですっ」
言い切るとギルド長は少し気難しそうな顔をして、席を立ちながら動き始める。
さっきまで映っていた莉里についての情報を見つめ、指パッチンをして画面を切り替えた。
そして、先ほどまでのお茶らかけたかのような表情を180度反転させて、俺に向かって冷徹な視線を向ける。
「—―莉里が危険でないという君らの観点での反論は無意味だ」
それは、ドスの効いたまさに指揮者の声だった。
「え?」
思わず声が出る。
その一言にはさすがの俺もむかついた。
「無意味? どういうことですか⁉ 別に俺はただ本心を言っただけで……いくらギルド長でもそんなこと言う権利は――」
「君たちは幻惑に魅了されているから」
「え? 何を言って……俺は普通に」
そこまで言いかけると、隣にいた黒崎さんは手をぎゅっと包んできた。
驚いて顔を向けると彼女は悔しそうな顔を浮かべていて、何か言いたげで、悲壮感がまとわりついているように見える。
「—―黒崎さん」
「ぎる、黒沢のいうことは間違っていないわ」
苦虫をかみしめるような顔で本音を押し殺しながら呟く姿を見て、俺は何も言い返せなかった。
間違っていなかった。
一体、何が間違っていないのか理解はできない。
今まで莉里と一緒に暮らしてきて、別に長くない期間だったけどおかしなことはなかった。
それだけの時間を共有してきた俺たちからしてみれば間違いだなんてすぐにわかるはず――なんていう俺の言いたかった言葉は打ち消されていた。
「間違っていないとは……?」
「幻惑のスキルはさっきも言ったでしょ?」
さっきも言った?
最初のか?
「すべてを取り込み、すべてを塗り替える……」
「えぇ。その通り、幻惑のスキルは名前の通り人に対して幻惑を見せるスキル。確かに一見して危険なスキルには見えない。よくある夢系のスキルと同じように見えても不思議じゃないわ」
「だからこそ……」
「でも、ランクはSなのよ」
「え? S?」
「もちろん、理由はある。それは言った通りすべてを取り込んで塗り替えてしまうから。自ら、最初に念じたことを自分と話した人に植え付けることができるのよ」
自ら念じたことを他人に植え付けることが出来る。
それは、つまり?
でも、別に俺は悪いことをしているわけではない。
「—―ただ、そうだとしても悪いことはしてないじゃないですか」
「悪いことは確かにしてはいないわ。でも、そのあの子を思う気持ちがすべて幻惑のスキルによって作られた気持ちなのよ。懐疑心を消し、100パーセントの信頼を置かせることが出来る。話してしまえば終わりなのよ」
確かに、言われてみればそうだったかもしれない。
最初はおかしいなと感じていた。でも、それがいつの間にか考えもしなくて受け入れていた。むしろ、黒崎さんの警戒心は俺よりも拭えていなかったし、よく耐えていた――というべきなのか?
「それを死んだ人が持っていた。死んだとされていた。アンチスキルの目的はあなた、國田くん」
「え、俺?」
「えぇ、あの二人のことと言い、奴らは近づいてきた。手ごまのように捨てて、今度は近づかせた。だから莉里ちゃんは――アンチスキルの」
そこまで言いかけて、黒崎さんは口ごもる。
言いたくないといわんばかりの間を空けて、その場に突っ伏した。
すると、ギルド長が続きを言い放った。
「涼宮莉里はアンチスキルの工作員ってことになる」
「ま、まさか……そんなバカな話」
「不思議だと思わないか? でるわけもないAランクモンスターが急に出たり、異常事態のように出てきたBランクモンスターの背後に彼女がいたり、ましては記憶を忘れている」
「記憶を忘れることは別にあるわけで」
「あり得ます。幻惑のスキルは一度使うとそれまでの記憶を忘れますから」
下田さんが苦肉な表情でそう言った。
「でも、それじゃあ接触してきた意味が」
「私たちもあのスキルに関してはそこまでしか知りえません。でも、きっとその理由はアンチスキルが知っているはずです」
口から出まかせだと信じたかった。
ただ、下田さんは嘘はつかないことを俺は知っている。
それに、斎藤さんの笑う姿も今では無言で、黒崎さんなんてわかりやすく苦しい顔をしている。
その状況が物語っていた。
「じゃあ。どうすればいいんですか」
「どうもできない。捕らえて、思い出すまで吐かせる」
「そんな……彼女はまだ14歳じゃ」
「関係ないさ。そういう組織に組した時点で終わりだ」
ギルド長の言葉で俺はもう何も言い返せなかった。
数時間後。
話が進み、捉える作戦が本格的に決まった後。
俺は気晴らしに真夜中の星空を眺めていた。
元春『朝帰るから、明日もどこか行こうな』
莉里『うん!』
映し出されたメッセージアプリのトーク画面。
彼女が工作員。
邪悪の権化。
その一因だなんて、今でもよくわからなくて。
迷いながら目を閉じる。
「スキルとはいったい……なんなんですか」
【—―神様の生んだいたずらです】
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今日投稿された分が昨日投稿された分とダブってます。
申し訳ございません。
昨日投稿していた第59話の内容が間違っていたので編集しました。
よければ確認してくださると嬉しいです。
ほんとにすみません!!
59話と60話、内容が一緒。
59話が間違ってました。
修正しました!
ご指摘ありがとうございます!!
あの城ちゃん
嬢ちゃん