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第2章「裏世界」

第54話「装備新調」

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「それで……実際、俺って何を変えればいいんですかね?」
「そうね……」

 あの会話からさらに一週間。
 季節は秋口から寒くなり、あっという間に冬の兆しが感じ取れるまで冷え切るようになっていた。

 そう訊ねるとすっかりと秋コーデにイメチェンをしている黒崎さんがジーッと集中した目で俺の体を見つめてくる。

 銀色の髪を三つ編みにして頭には黒のキャップ。
 黒のトレンチコートに身を包み、中には暖かそうなタートルネックを着ていて普段と打って変わったダークな雰囲気が俺の中の何かを震わせる。

 まぁ、そんな恰好をしていれば分かると思うが周りの人からの注目具合は凄かった。ただ、注目されると言っても目元は伊達メガネでカモフラージュしているのでただの綺麗なお姉さん――みたいに思われている感じだ。

 にしても、隠しきれてないそのオーラには俺もやや圧倒されていた。

「一応、ギルド御用達の装備品点があるからそこで一式そろえる感じかしらね?」
「うーん。でも、別に持ってはいるんですよ? 色々と」
「予備は持っておいて損じゃないでしょ? それにさ、もっと他の攻撃手段も考えておかないと困るものよ」
「まぁ、黒崎さんが言うなら……」
「えぇ、ギルドが全部出してくれるんだから。気にせず買っちゃいましょ?」
「……悪さしようとしてる目に見えるんですけど」
「悪さじゃないわ? 私もほら、戦闘用のタイツ破けてたし欲しかったところなのよ~~」

 にひひといたずらな笑みを浮かべる彼女の背中について行くように、俺は夕方の街中に入っていった。



 というわけで、なぜ俺たちがこんな会話をしているのかと聞かれたらそれは1時間ほどまえに遡る。

 色々と書類を提出した後ギルド長と話をしていたときにこんなことを言われたのだ。

『引っ越しも終わったら普通の任務を与えようかなって思ってるから、装備品新調してきな』

 と。
 もちろん、装備品と言うのは探索者として迷宮区に潜る時にする服装の事だ。服以外にも回復ポーションや武器、防具などのことも装備品という。

 急な提案に驚きながらも、否定的に答えた。

『いや、でも一応ありますけど……』

『使い古しても悪くはないけど、ほら。この前みたいにピンチがあった時は困るだろ? それに、君にももっと自覚というものを持ってほしいからね?』

『じ、自覚ですか?』

『あぁ。そりゃあ、機関の一員に加わったんだ! 最強装備で挑んでもらいたい。それに、君が万が一にも奴らの手に渡れば――絶対にただじゃすまないよ?』

『そ、それは……まぁ』

 と色々と言われて丸め込まれた結果、俺は今黒崎さんと街中に出ているわけだ。




「んと、まずは洋服屋さん行く?」

 札幌駅、その隣に入っている大きなデパートに入ると黒崎さんは俺の肩をすとんと掴みながらそう言った。

 洋服屋さん?
 装備品を売ってる装備屋さんではなく?
 頭の中に「?」が浮かんでくる。

「え、服や?」

「うん、だめ?」

「いや、だって俺たちはギルドに言われた場所に」

「それはあとで行けるでしょ?」

「黒崎さんのタイツだって……」

「あのね、私もオシャレしたいだけど、よくない?」

 胸を張ってきりっと言われると確かになと納得してしまう。今日の格好。明らかなるお洒落だ。露骨なくらいにお洒落すぎて俺が釣り合っていない人間にも見える。

 それに、女子高生。
 いくら重要人物とは言え、まだまだ思春期の女の子でもある。

 それを否定するのは確かに野暮なのかもしれないし、何より雫からよく言われている。

『女の子が行きたいと思った場所には胸を張って連れていく!』

 と。いや、ほんとどこからどう考えたら毎回役立つ情報がポンポンと出てくるのか分からないが、確かに将来の俺にとっても重要なことではある。

 こくりと頷く。

「——そ、そうですね」

「でしょ? それにさ、國田君にもお洒落させたいし」

「え、俺ですか⁉」

「そりゃそうよ? 周りの目見えないの?」

 無論、見えている。
 好奇の目が見えている。

 数百年前は見世物小屋っていう商売形態があったと言われているが、今の俺はまさにそれだ。

 超絶お洒落な美女の隣にいるフツメンのモブ男。
 格好はいたって普通で、ただのダウンジャケットに黒いスウェット。髪にはもちろんワックスなんてつけていないからぼさぼさだ。

 自分で言ってはなんだが、好きな人と一緒にデートする格好ではない。
 むしろ、これで何も言わなかった黒崎さんが凄いまである。懐がでかい。太っ腹!

「ねぇ、なんか今変なこと考えてない?」
「……べ、別に」

 心が読めてやがる!
 さすが、すげえよ、黒崎さん!

「まぁ、いいけどね。とにかく、國田君のイメチェンも含めていくわよ!!」
「は、はいっ!」

 そんな風に意気込んだ頼もしい小さな背中を追いかけ、俺達にとって初めてのデパートデートが始まったのだった。



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