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第1章「始まり」

第35話「Aランクの壁」

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 ドガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



 凄まじい轟音を上げながら飛び出してきたのは市街で戦ったブルードラゴンよりも大きな巨体だった。

 茶色の体表に、金属の様に光沢する銀色のこぶのようなものに覆われている背中には四方に伸びる結晶のように綺麗で鋭くとがった角が無数に生えていて、分厚く乾いた唇からは日本のどでかい牙が生えている。

 これって最近の魔物のトレンドなのか?
 って、まぁどうでもいいけど。

 とにかく見た目はトカゲで、いたるところにはおかしなギミックがくっついている。まるでトカゲがそのまま戦車にでもなったんじゃないかってくらいだ。

 体長は目算で20mはありそうで、迫力が凄まじい。まさに化け物。その名前がふさわしい。正直、体の細胞が救難信号を出しているように思えてくる。

 怖くはない。もちろん、精神力がバグった値のおかげで恐怖感じないが、やばいんじゃないかと俺の野生の部分、深層心理的なところが気を付けろと言っている気がする。

 そんな化け物みたいにデカい魔物は——口から青い炎を噴射しながら、おそらくマップ上での青マークだった探索者3人を追いかけていた。

 あんな化け物から普通に走って逃げる根性が凄い。以前のならば覇気にやられてそのまま焼き魚みたいにされているだろう。

 しかし、3人は必死に逃げ惑っていて、攻撃を躱しながらこっちへ走ってくる。

 そう、こっち。
 おい、俺らに押し付ける気なのか⁉

「ぎゃあああああああああああああああああ‼‼‼‼‼」
「助けてください、誰かぁああああああああああああ!?!?」
「ぬぁあああああああああああああああああああああああ‼‼‼‼‼」

 学生?
 多分、俺よりも年上なんだろうけど、大学生程大人には見えない。高校2年生あたりだろうか。

 男が2人に女が1人。
 剣士に魔法士に回復士って言う感じで、バランスの取れたパーティのようだ。

 攻撃が見えるのに周りが見えていないのかそのままの勢いで俺たちのいる最下層の行き止まりまで走ってくる3人。おかげでそのトカゲのような化け物は刻々と近づいていた。

 そのどデカい身体を左右に振りながら、気持ち悪い動きで脚を動かし進んでくる化け物戦車。

 Eランク迷宮区の横幅は30m以上あるので体長的には余裕そうなのにその特徴的な走り方のせいで、背中から伸びた結晶のような角が壁を抉っている。

 一体全体なんて硬さなんだ。
 迷宮区《ダンジョン》の壁はどのランクでも硬いと有名じゃないか。

 魔力を用いた最新機器でも掘削できないからテーマパークにしようとしていた企業は倒産したり、アメリカが開発した地中貫通ミサイルだって通らないほどの今までの地球にはなかったはずの物質で出来ているはずで、壊せない――というのは常識だった。

 しかし、そんな俺の知っている常識を覆しているその魔物。背中に生えた角は何なのか、興味が湧いてくる。

 一瞬で行き止まりまで到着し、3人は左右に散った。
 ただ、余りの巨体に止まれ切れず、突っ込んできた化け物に突き飛ばされるアックスホーンが目に入った。

 おっと、今時間の流れが遅い。
 さっき、『跳躍《ジャンプ》』からだろうか、勝手に意識していたんだ俺。さすが、もう成長してる。いいね、このためにやったんだからな2時間も。

 と、そんなことよりも黒崎さんだ。
 彼女は―—飛び退いていた。

 綺麗なバク宙。美しい銀髪が空を舞うその姿はまさにそのものだった。

 とはいえ、黒崎さんの表情は苦渋の色が浮かんでいた。さっきまで真っ赤になっていた女の子とは思えないほどで、その表情とこの状況からヤバいのは俺も何となく感じ取っていた。

「黒崎さん! こ、これって」
「おかしい……どうして、こんなところにいるのよっ」
「え? だ、大丈夫ですか?」

 苦渋、きついというものではなく驚きからの表情だった。
 そう言われて俺はすぐに『魔物特性《モンスターブック》』を発動させる。トカゲを視界に入れるとすぐに詳細が浮かび上がった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――
名前:『クリスタルドラゴン』
ランク:A
全長:21m
体重:120トン
特徴:大きな図体に、硬い体表。その硬度は戦車の150ミリ装甲と同等であり、火を吐く戦車と言われている。また、背中を覆っている銀色のこぶは鋼鉄で、その上から生えているクリスタルのような角はアダマンタイトとダイヤモンドと何らかの方法で結合させた物質である。Aランクの魔物の中では最高度の硬さを持つ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 いや、マジかよ。Aランクって化け物じゃん、真面目に。
 いやしかし、だから黒崎さんは厳しい顔していたのか。そりゃそうだろう、この迷宮区はEランクだ。Dランク以上の魔物は出てこないと公式で発表されている。

 ただ、目の前にいるのは紛れもなくAランクのクリスタルドラゴンだった。

「クリスタルドラゴンですね……」
「え、えぇ……よく知ってるわね」
「あれですよ、スキルで」
「そんな知らない魔物まで分かるの、國田君のスキルっ」
「魔物特性ってやつですよ。まぁ、そうなりますね」
「……びっくりね、ってそんなこと話してる場合じゃないわよ。こっち来てるっ!」

 おっと、会話が弾んでしまった。
 そんなところ、なぜか向きを変えたクリスタルドラゴンがこっち側にものすごい勢いで走ってきた。

「っ黒崎さっ——って早!」
 
 なんとか突っ込んできたドラゴンを避けるも、黒崎さんはすでに散らばらした冷気を手に纏わせていた。そのまま一気に固まらせて氷剣を作り出す。

 そのまま反転して壁を蹴り、畳みかけるようにクリスタルドラゴンの頭に表見を突き刺した。

 さすがの硬度。
 150ミリ装甲に貫通させられるわけもなく、当たった場所が一気に凍っただけだった。

「っく、やっぱりね――!?」

 そのまま飛びのくも狙われているのか、一気に回転して回し蹴りの様に尻尾をしならせた。

 ギュインッ‼‼‼‼

 風を切る音がして、それが一気に加速し黒崎さんを直撃する。

「っがぁ!?」

 ギリギリのところで表見を構えるも受け流しきれずそのまま壁まで吹っ飛んでいった。

「く、黒崎さん‼‼‼」
「か、かはっ――」

 やばい。
 これはやばい、って俺の方向いてやがる。

 直後、咆哮をあげる。

 ————ギィヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!

「っく」

 そして、始まる。
 Aランクとの戦いが。







――――――――――――――――――――――――――――――――

 しかし、その一瞬。
 知覚向上を働かした俺の耳には微かに声が聞こえていた。

「さぁ、本物の力を見るとしましょうか……」







<あとがき>
 流行りのウイルスにかかりました……
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