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過去作品<抜粋版>

(20)「震える指先で…」

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(どうしよう…。)

スマートフォンを眺めて、もう10分は経過しました。

(けど、見るだけなら平気よね…。)

戸惑いながらも、SNSに貼られたアドレスをクリックします。

それはあるフォロワーの方から教えて頂いた通販サイトでした。

「ええっ!?」

正直なところ、あまり期待もしていませんでした。

『送って頂いてもいいですけど、きっと興味は湧きませんよ。』

その方にはそう返信をしていました。

しかし、実際にそのサイトを見てると、もう目が釘付けになりました。

(うそっ…。こんなに、リアルなの?それに、種類もこんなたくさん…。)

そこには、私が想像もしていなかった世界が広がっていました。

(色も形も、こんなに…。それに、こんなに大きいのまで…。しかも、これ、動くの?)

最初はすぐ閉じるはずだったサイトを隅から隅まで見てしまっている私がいました。

息子と喧嘩しているとき、SNSに愚痴を漏らしていました。

その時に勧められたことが、息子の他に恋人を作ることと、自分で慰めるということでした。

(恋人って…。浮気ってこと?それだけは無理よ…。)

夫がいるにも関わらずに息子と逢瀬を繰り返している私が言うセリフでもありません。

ただ、その時は前者の選択支はあり得ませんでした。

『恋人が無理でしたら、おもちゃを使って自分でしてみては?』

それがこのサイトを紹介された発端でした。

もちろん、そのようなおもちゃの存在は知っていました。

しかし、今に至るまで、それを使うことはありませんでしたし、興味もありませんでした。

何より、息子もそういうものを使う事に否定的でしたので、その世界に触れるきっかけが全くありませんでした。

ただ、実際、目の当たりにしてしまうと、その考えは一変しました。

(す、すごい…。こんなのまであるんだ…。これなんて、まるでゆうちゃんのそっくり…。)

特大と書いてるサイズのものには、女性が握った際のイメージ図も付いていました。

(私がゆうちゃんのを握ると、こんな感じ…。これを買えば、ゆうちゃんの代わりを…。)

見るだけ、という思いだったのが、どれを買おうかという危険な思考に移っていました。

(けど、生身じゃないし、ちょっと怖い…。それに…。)

息子に似ているものを選ぶとすると、そのサイトでは一番大きなサイズとなってしまいます。

(最初から一番大きいの選ぶのって、なんか恥ずかしい…。それに、材質もわからないし…。)

付け加えると、一番大きな分だけ、お値段もそれなりでした。

(買ったけど、使えなかった、ではやっぱりもったいないよね。それに、こんなサイトで購入するのも、少し怖い…。)

大手の通販サイトでしたら安心ですが、おもちゃ専門のサイトでは、やはりプライバシーが気になりました。

結局、断念することにしました。

しかし、それは翌日にはすぐに翻りました。

『やっぱり最初は怖いですよね。しかしも女の人が買うのですから。けど、女性の利用者も多いらしいですよ。それでも気になるようでしたら、〇〇〇〇で購入しては?種類は少なくなりますけど、売ってますよ。』

(えっ、〇〇〇〇でも、買えるの!?)

〇〇〇〇で購入出来るとなると、もう不安の原因の大半は消えてしまいました。

それからはもうどれを購入するか、ということしか頭にありませんでした。

色々な形があり、それぞれの特徴も説明を読んでわかりましたが、結局選んだものは、普通の形、をしたものでした。

(このくらいなら捨てることになってもいいし…。)

色はピンクで、形は普通の男性に近いもの、そして、大きさも一番大きなものは避けました。

(本当はゆうちゃんくらいのにしたいけど、少し怖いし…。それに〇〇〇〇ではそこまで大きいのは無いのね…。)

やはり専門サイトとは違って、種類の豊富さでは少し引けを取りました。

(もし…。もし、使ってみて、良かったら…。次は…。)

そんな思いで、商品を選択し、買い物カートに商品が入りました。

(あとは購入ボタンを押すだけ、よね…。)

必要項目はすべて入力、あと1クリックで確定となります。

しかし、それがなかなか押せませんでした。

(本当にいいのかな…。おもちゃだけど、なんかゆうちゃんを裏切ってるみたいで…。)

昔、息子に言われたことがあります。

「ゆうちゃんは、こういうものを使ったりしたいと思ったりする?」

「えっ?これのこと?」

それは2人でホテルに行ったときのことでした。

見本として、色々なおもちゃのパンフレットが置かれており、購入も出来るようになっていました。

「俺はこんなのは使わないよ。気持ち良くさせるなら自分で気持ち良くさせたいからね!それに、こんな無機質なものに好きな人を取られたくないよ。」

購入を目の前にして、そんな言葉が頭を過りました。

(けど…。)

『息子さんだけが恋人を作って、恵子さんだけが我慢するのでは、フェアではないのでは?』

(そうよね…。)

震える指先は、もう購入決定のマークをクリックしていました。

(お母さんが先じゃないから…。)

そう心の中で言い訳をしました。

ただ、自分でも本当はわかっていました。

(色々言い訳してる…。本当は私が気持ちよくなりたいだけなのに…。)

数日後、それを証明するかのように、私はおもちゃの虜になっていました。

(ゆうちゃん、ごめんね…。お母さん、もう、逃げられないの…。こんなに、気持ちいいなんて…。)

「あっ、あっ、もう、もう、だめぇ、あっ、あっ、あああああああぁっ!!」


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