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第8部 晴れた空の下手を繋いで…

第3幕 第26話  波乱の朝

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「後3日で到着かー」
「船旅も良いですね」
「定期的にやろうよ!」
「いんじゃない」
大食堂で他の客達と共に朝食のセルフサービススタイルを楽しむ、好きな具材をパンに挟んでサンドイッチにしたり、ジャムを塗ったりと自由に食べて過ごしている。
詠斗、率、晴海、懐記が朝食を食べ、舵はベルン達とミルクを売りに、崇幸は千眼達と船造り、大河、千歳はチグリスとまだ寝ている、綴とラジカは奴隷達と話しを聞いている。
「朝飯食べたら、俺も綴さん達の所で皆の希望聞いてどうしたいのか…」
「僕も行きます」
「俺も!」
「俺も行くわ」
「うん」
朝食を終え、綴達の元へと向かった。

『うみぅ』『うみゅ』『うみゃ』
「結構出来てきたな」
「素晴らしいです!これで海を…」
「後は細部…」
「海上に動く船の島…素敵ですね」
大食堂は賑わっているので会議室に移動し、千華が船の美しさにうっとりしている、優美さと自然との共生をテーマに造りあげられていく船は美しくヒュール達やフユーゲル達も感動と興奮をしていた。
「今日中に《アタラクシア号》と並走したいな」
「夜には…」
「なら、内を造り込みましょう」
はしゃぐ崇幸達子供のようにわいわいと作る、魔力を注ぎ鉱物の形を変え希望を聞きカスタムしていった。

「お、オレはドワーフと人の子だ。今までは採掘してたが腕をダメにした…腕がな治ったなら鍛冶をしたい」
「俺は家族に売られて闘技場で闘士だったが足をダメにしてあそこにいた、治療の礼をしたい!力仕事には自信がある」
「お、オイラは捨て子で盗みで捕まって奴隷堕ちしたす…字も計算も出来ないす…」
「親兄弟を生かす為に自分で自分を売った、故郷は食うものに困る貧困の村…まだ家族が生きているなら実りある土地に連れて家族で暮らしたい」
「俺は戦奴隷だ、家族の顔もしらん。戦で目を潰されあそこにいた、何が出来るかわからん」
「俺は良い仕事があると騙され奴隷として売られた、家族の元へ帰りたい」
奴隷達の希望を各自綴とラジカが聞いていく、皆首輪は残る物の感情は前向きに瞳も生気を帯びていた。
「分かりました、ここに残ると言って下さった皆さんには仕事や学ぶ場、住居の手配を行います。まずは心身をしっかり休ませて下さい。首輪は必ず外しますから」
「故郷に戻りたい、家族をこちらにという希望者の方々は少し待って下さい。すぐに…とは少し難しいですね」
「ああ、もう無理だと諦めていたんだ…待つ」
「感謝します、こうしてまた未来に希望を持てる日が来るとは…」
「身体もどこもいたくないんです!ありがとうございます」
口々に元奴隷達が喜ぶ、その姿を見て綴は顔を綻ばせラジカは淡々と希望を纏めていく、船が|《ホウラク》に到着する頃には全員の首輪を外すつもりでいた。
「皆さんの希望は聞きましたので、後はゆっくり休んでください。食事は大食堂に用意があります」
「あ、あのここの食事は本当に美味しいです。俺料理とかしてみたくて手伝いとかしても良いですか?」
「ええ、なら厨房に行きましょうか」
「俺も一生かかっても返しきれない恩が出来た、何でも言ってくれ!」
「皆さんありがとうございます」
綴が笑う、傷が癒え皆前向きで良かったと思った…。

「ふぃー仕事後の惰眠はさいこ~」
『うみぃ』『うみゅ』
プールサイドのサイドチェアで日差しを浴びて寝ているトラングの腹の上にカジノに遊びに行ったヒュール2名が乗って一緒に寝ている、昨夜のジャックポットをモギと争い買ってご機嫌な2名だった。
取り損ねたモギ2頭は不機嫌になり、リースに宥められたいたが…今日はカジノが休みの為また明日も行くつもりだ。
「よ、お疲れ。ミルク飲むか」
「ん~飲む」
『うみゆ』『うみぃ』
「お前たちも飲むか、ほら」
プールでひと泳ぎしていたジラが濡れたままグラスに入れたミルクを飲み、トラングとヒュール達の分の注いで渡してやる。
「うまいわー」
「だよな」
『うみゅ』『うみぃ』
「美味いか?良かった」
「あれ~言葉分かるの?」
「妖精の言葉は血を飲んだ時からな、きゅう達の言葉も最近分かるようになった」
「へぇ~」
いつの間にかいたヒヨコとおりがみの子達がジラにタオルを運んでくる、ジラはそれを受け取り雑に体の水分を拭きとり隣のサイドチェアに腰を降ろした。
「どう?ひと泳ぎ」
「俺泳げないし~しばらくしたら寝るよ~」
「自分の弱点そんな簡単に晒してし良いのか?暴君?」
「傭兵王に晒してもね~どうせなんかやらかしたらゴーシュ殿に怒られるしー」
「それもそう…」
『うみゆ!』『うみぃ!!!』
「風早ちゃん!」
「っち、結界を抜けてくれるぞ!トラング得物は?」
「なし、悪いけど魔法で応戦ね」
「了解、風早!守りを固めろ時間は稼ぐ…海の荒ぶる者か…」
「暴走…飢餓か…グリッちを呼び戻すか」
少し離れた場所から凄まじい殺気と共にこちらへ向かう気配に、ジラとトラングが反応しヒュール達が怯える、風早が結界の強化で時間を稼ぎ船内に放送を流した。
『非常事態発生、侵入者が間も無く結界を抜け船に侵入します!侵入者は暴走飢餓状態の、ガーランバラーダです!現在プールにてジラ様とトラング様が待機中です、マスター綴、非戦闘員の皆さまを大食堂へ避難させて下さい。船内の護衛は直ちにプールへ、また相手は北海の覇者、ドラゴンの皆さまは船内の守りをお願いします。船内の皆さまは全員大食堂へ向かって下さい』

「綴さんは大食堂へ」
「分かりました!ラジカさんは!?」
「外へ行きます、あの2人では荷が重い!皆さんの安全を第一に!」
「分かりました、皆さんこっちへ。ラジカさん僕の魔法が入った札です」
「助かります」
綴から縛鎖魔法の札を受け取り、おりがみの子達とヒヨコ達もどこからともなく現れ、奴隷達を連れた綴とプールへ向かうラジカに付いていく者達に別れ向かっていく。

「食堂へ急ぐぞ」
「…船を守る…」
「そうだね、僕はプールへ向かうよ。転移で」
『現在結界強化の為転移魔法は使用できません』
「急いで向かうよ、きゅう君とグリ君は風早君…結界が破壊された後に呼んでくれるかい?」
『承知しました』
起きたばかりの大河、チグリス、千歳が瞬時に判断、スマホで風早に状況を確認後支持を出し、それぞれプールと大食堂に向かった。

「プールへ急ぐ…転移が使えない程の影響がある結界だが…破られる可能性はある…」
「私も行きます、ゆきさんはヒュール達と彼らを連れて大食堂へ、私達も結界の強化へいきます」
「……そうか分かった、みんな大食堂へ」
「わ、我々も外へ!」
「問題ない…傭兵王がいる…あくまで結界の強化だ」
「ええ、皆さんは大食堂へ」
「行くぞ!」
『はい!』
崇幸の指示のもとフユーゲル達とヒュール達が走り出す、千眼と千華もプールへと向かった。

「ガーランバラーダ来ましたすか…ドラゴンと北海の覇者ガーランバラーダの一族とは事を構えられないす、申し訳ないです」
「ま、色々あるだろうし。へーき、で、まずは船の安全確保」
「ジラさんとトラングさんがいるから大丈夫…だよね」
「みんな集まったか?」
「大河さん、はい、集まりました」
「風早が結界を強化したが恐らく破られるとの事だ、今は転移が使えないが破られたら皆を船から出す」
「分かりました」
船内の全ての戦闘員以外の人員が大食堂に集まり懐記から茶を配られる、テーブルに座れば不安を掻き立てないように窓が全て暗転し明かりが灯される。
『全員の集合及び準備が整いました、状況が落ち着くまでこちらで待機を…』
「分かった」
「じゃ、ただ待つのもつまんないだろ?こんな時は率っちの雑貨屋から重曹だして」
「あ、分かりました!」
懐記が率に声を掛ける、率も意図を理解し気を紛らわせる為に重曹を購入する。
この船にじたばかりのフユーゲル達や奴隷達は怯えているが、遊びに来ていた子供達や《ガルディア》の面々は何をするのか楽しみにしている。

「ジラさん、トラングさん」
「あ~ラジカー武器なんかない?」
「これで良いですか?」
「んーいいねー借りる」
「皆!まだ向こうは来てないね、みんな食堂に移動出来たよ」
プールサイドに着いたラジカ、千歳、千眼と千華は結界の強化を図る、ラジカの収納袋から細身の剣をトラングに渡し、ヒヨコ達も警戒ししている。
「来るぞ!」
「はあー始めて見たけどガーランバラーダってデカいわー」
「シャチみたいだねー」
「これでは結界もあまり持ちませんね」
『ぐぅうがぁぁ…ツヨイ匂い…腹が…飢える…くわせろろろお!!!』
巨大な白と青みを帯びた黒い巨体…シャチの様な生物が雄叫びを上げ乍ら、結界に体当たりをしてくる。
「すごい迫力だね」
「もう結界を破壊が持ちませんね」
意外に悠長にしているトラングと千歳、ジラとラジカが剣を構え千眼と千華が魔法の援護に入る事にした。
「仕事明けの戦闘は身に染みるわ~」
「ほら来るぞ」
トラングがやれやれといった感じで供える、ジラはガーランバラーダから目を逸らさず体当たりしては海に潜る狂える生物を見据え、結界に亀裂が入り船に侵入されてしまう。

「あ、あのどうして最初に船ごと転移しなかったんでしょうか?いえ、差し出がましい真似を…」
「逃げるだけじゃこの海で皆が安全に暮らせないでしょ?」
「そ、せっかく船造ったからには安全に航海して貰わないとな!」
「あ…皆さん海の為に…」
懐記達がちょっとしたお菓子作りの準備をしている所で、フユーゲルが言い辛そうに尋ねた。
詠斗や崇幸も手伝いをしつつ朗らかに笑う、子供達や住人達も手伝いをしている皆不安がっていなかった。
「逃げるのは簡単だけどそれじゃ根本的な解決にならないし」
「話し合いとかで止められるようにと決めたんです、思ったよりも早く来ましたが」
『想定内です、すでにきゅう様とグローリー様には連絡済みですので、結界が破壊され次第呼べます』
事前に話し合いを行い粗方決めていた想定内での行動だ、只ガーランバラーダの実力が未知数という事だけが懸念だった。
「それじゃ簡単お菓子作りね」
『はーい』
本当に大丈夫だと信じて疑わない彼らにフユーゲルも肩の力を抜いて、無事に事が過ぎるのを願った…。
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