親友の彼氏と、一つ屋根の下。

第2章「甘苦い二人暮らし」

騙された。

え、あたしの聞き間違いだったかな？
…いやそんなはずない！

「っ…歩美を泣かせたら許さないからね！」
「これから一緒に住んで、あんたが素直に感じて泣かなきゃいいだけでしょ。ガンバッテね」

水野くんはそう言うと、近くの棚に肘をついて、あたしに笑みを向ける。
その言葉に一瞬意味がわからず黙り込んだけど、だけどすぐにその意味がわかったあたしは更に顔を赤くした。

「っ…最低！歩美に全部言いつけてやる！」
「…どこから？一緒に住むってところから？友情壊れそうだけど大丈夫？」
「っ、ちゃんと話せばわかってくれるって言ってたじゃん！」
「俺まだアイツに話してないし。っつかよくよく考えたら言わない方が平和だろ」
「アンタの性格歩美にバラして速攻別れさせるから！」

あたしは半ば興奮気味にそう言うと、「離して！」とずっと掴まれていた手首を振り払う。
そして部屋を出ようとしたらその後ろで水野くんが言った。

「歩美と俺を別れさせて、」
「…？」
「自分は俺の家に俺と一緒に住むんだ？っつか強制的だし一人じゃ断れないか」
「！」
「まぁ頑張って。楽しみにしてる、いろいろ」

そう言って、悪びれた様子もなく微笑む水野くんの態度に、あたしは思わず再び水野くんの元へと詰め寄る。
しかし、目の前のそいつに平手打ちをしようとしようとしたその瞬間…
あたしの目にトンデモナイ文字が飛び込んできた。

「…“雄用ケージ”…？」
「…」

その文字が書いてあったのは、あたしがついさっきまで手に持っていたハムスター（太郎）が住んでいるケージ。
え、雄用？ちょっと待って。

「え？このケージって、雄雌両方入ってるんじゃ…」
「…ふっ…くく…」
「…！」

あたしがそう言うと、ふいに隣から聞こえてくる笑いを押し殺すような声。
まさか、と思って再びそいつに目を向けても、もう遅い。
あたしはまんまとこいつに騙されて、こいつの理想通りの言葉を口にしてしまっていたらしい。

「ね、ほんとに！？今気づいたの！？わざかと思ったよ、マジで」
「だ、だってこんなこと書いてあるなんて…っていうか騙したの酷くない！？」
「いや途中、もしかしたら俺誘われてんのかなって思ってビックリしたわ」
「！」

そっか、アレ素で言ってたのか、残念。
そいつはそう言うと、今も尚笑っているから、恥ずかしくてたまらないあたしはそいつの頬を右手で殴り掛かった。
殴り掛かったけど、その手を水野くんにあっさり掴まれて、言われた。

「俺わりと好きだよ、瀬川さんのこと」