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作戦と独占欲

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「今日なんか予定あったんじゃないの?」
「え、」

帰り道の車の中。
あたしはあれから、閉店後に車で来ていた柳瀬さんに送ってもらうことした。
すると土砂降りの中車を走らせる柳瀬さんが、ふいにあたしに問いかけるから。
あたしが返答に少し困っていると、柳瀬さんが言葉を続けて言う。

「えっと、合コンだっけ」
「!」
「エリナちゃんから聞いた」

…その言葉に、まさか「昼間店に来た女の人のことが気になりすぎて行く気が失せました」なんて口が裂けても言えるはずもなく、あたしは夏木さんにも言ったように「体調が悪くて」と誤魔化す。

「え、そうなの?大丈夫?」
「…まぁ。…でもちょっと休みたいです」
「…そう。熱でもあんの?」
「それは多分ないと思いますけど」

…いや、ある意味熱があるけど。そんなことは言わないけれど、やがて車はすぐにあたしのマンションに到着してしまった。
…早い。もう少し一緒にいたい、のに。

「はい。今日と明日はゆっくり休んで」
「…ありがとうございます」

あたしはそう言うと、車を出ようと扉に手をかける。
だけど…この車を出たら、離れてしまう。
もしかして、もう柳瀬さんのマンションにも泊まることはもうないかもしれない。
だって今日はきっと、柳瀬さんのマンションに、あの人が…来て。

『今夜は2人でゆっくりしようね』

あたしは少し考えるとドアノブにかけていた手を離して、柳瀬さんの方を振り向いた。

「…」
「…どした?」

…柳瀬さんを見つめる今のあたしの顔は、どんな顔をしているんだろう。
でも、いい顔じゃないことは確か。
あたしと目が合った柳瀬さんは、そんなあたしに首を傾げていたけれど…

「…!」

あたしは、ハンドルにある柳瀬さんの手に自身の左手を重ねると、言った。

「…帰りたくないです」
「…」
「柳瀬さんともっと一緒にいたいです」
「…」
「柳瀬さん、どこにも行かないで下さいっ…」

普段はこんなことを自分の口から言うことはないのに、自分の気持ちに気が付いた時にはもうあたしは相当柳瀬さんのことが好きだったらしい。
まぁもしかしたら、昼間のあの女の人の存在もあるからだろうけど。
あたしがそう言って柳瀬さんの手を握ったままでいたら、やがて柳瀬さんが口を開いて言う。

「…どこにも行ってほしくないのは、俺も一緒だよ」
「え、」

その言葉と同時に、反対の手で、柳瀬さんの手に重ねていたあたしの手を柳瀬さんに握るように掴まれる。
そしてその言葉の意味を考える隙もなく、あたしは次の瞬間柳瀬さんにキスをされた。

「…今日はらしくないね」
「え、」
「鏡子ちゃん、いつもと違って積極的じゃん。もしかしてアユミのこと気にしてる?」
「…アユミって、」
「今日昼間店に来た女」
「!」

そう言いながら、握られている手を柳瀬さんに優しく絡ませるように握られるから、ただでさえキスでドキドキしてるのに、更にドキドキが激しくなる。
だけど、

「…正直、凄く嫌でした」
「…」
「柳瀬さん、他に彼女いたんだなって」

あたしはそう言うと、まだ少し不安が残っていて、思わず柳瀬さんを見つめた。
柳瀬さんは、あの人とどういう関係なんだろう…。
するとそんなあたしの言葉に、柳瀬さんは何故か笑い出して…

「な、何で笑うんですかっ」

まさか笑われるなんて思わなかったあたしは、少し恥ずかしくなってしまうけど、そんなあたしに柳瀬さんが言った。

「や、ごめんごめん」
「笑うとか酷いですっ」
「ごめんって。いや、アユミは俺のイトコだから」
「!」

い、イトコ!?
柳瀬さんはそう言うと、「彼女にでも見えた?」なんて更に笑うから。
まさかそんな答えが返ってくるなんて思わなかったあたしは、「心配して損した」と項垂れる。

「て、てっきり彼女さんかと…」
「そんなに心配した?」
「う…ちょっと心配しました。だって『今夜は2人でゆっくりしようね』みたいに言ってたから」
「ごめんね。アユミは昔から俺に懐いてるから。でも何もないから安心して。…もしかしてショックだった?」
「…合コン行く気力が一気に失せたくらいショックでした」
「!」

あたしは柳瀬さんの言葉に、思い切ってはっきりとそう言ってみる。
すると再び柳瀬さんからの甘いキスが降って来て、あたしはしばらく柳瀬さんと甘い時間を車内で過ごした。

「…じゃあこのまま俺のマンション行くよ、」
「ん、連れてって下さい」

あたしが柳瀬さんの言葉にそう頷くと、やがて柳瀬さんは再び車を走らせた…。


******


あれからマンションに帰って、2人でご飯を食べて、鏡子ちゃんには先にお風呂に入ってもらった。
時刻はもう20時半を回っている…。
俺はコンビニに行くフリをして、アユミがいるマンションの一階まで下りた。

「…おっそい」
「や、ごめん。鏡子ちゃんに気づかれるとヤバイから抜けられなくて」

アユミはマンションの入口付近に立っていて、俺がアユミのすぐそばまで行くと、昼間店に来た時とは違って冷たい口調で俺に言う。

「とりあえず約束のものだけ渡してくんない?」
「…ああ」

彼女にそう言われると、俺はスーツの内ポケットから茶封筒を取り出す。
そしてそれをアユミに渡すと、言った。

「…ありがと。おかげで鏡子ちゃんが合コンに行かなくて済んだ」
「彼女にはあたし達の関係をどう説明したわけ?」
「イトコって言っといた」
「…相変わらずね。ほんっとクズ」

…アユミは俺のイトコなわけない。
昔散々遊んで振り回した俺の元オモチャ。
まぁ、彼女でもないけど。
アユミは鏡子ちゃんがどうにかして合コンに行かないように俺が仕掛けた彼女役だったのだ。
そして今渡した茶封筒は現金が入った所謂バイト代。

「…雨は恵の雨だったな」
「空が何でアンタの味方になったのかほんと謎。×ねばいいのに」
「あ、鏡子ちゃんにはもう金輪際関わらないでね。彼女は俺のものだから」

俺はそう言うと、「じゃあね」と自分の部屋に戻ろうとする。
でもその背中をすぐに引き止められた。

「待って」
「…なに」
「これ。あの子に返しといて」

そう言われて渡されたのは、鏡子ちゃんの折りたたみ傘。
俺がそれを受け取ると、アユミが言った。

「まさか修…あの子と付き合うの?」
「付き合うっつーか付き合ってる。付き合いだした。鏡子ちゃんよっぽど嫌だったみたい。俺に彼女がいるの」

可愛いねぇ、なんて俺が呟いたら、
「本気なの?」とアユミに聞かれて、俺はその問いかけに頷いた。

「本気じゃなかったら、今日もわざわざお前に頼まない」
「!」
「鏡子は俺のものだ。他の男になんか絶対渡さない」

俺はそう言うと、少し驚いた表情をして見せるアユミに背を向けて、再び自分の部屋 へと歩きだした…。





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