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聖女無双。(ぱーとわん)
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再現してみよう。
『聖女』アイシアは王太子の瞳の色のドレスを左手で掴み、階段を転げるように降りてくる。
その危なっかしさに王太子アルフィノは手を広げた。その腕に吸い込まれるようにアイシアは近寄ってくる。
抱き合う二人を見たくなかったミスティアは顔を逸し、瞳を閉じた。
「アルフィノさま!! 」
「危ないアイシア!! 」
アイシアは右手の拳を握った。
「われ、男気見せろや!! 」
ドゴッ!!
アルフィノの左頬に『聖女の鉄槌』が下った。鼻から血が吹き出し、歪んだ口から白いものが二、三個飛び出した。
ぎゅるるん!!
殴られた勢いで体が浮き、拗れるように回転する。
ガッ!!
吹き飛んで、床に体を打つ。
ガッ!!
吹き飛んで、体が床に打つ。
ガッ!!
吹き飛んで、顔が床に打つ。
ガガガガガガ、ガッ!!
顔で床を削りながら、止まった。
何かが、ミスティアの横をすり抜けて行った。
静まり返る会場。
ミスティアはゆっくりと目を開けた。
「きゃあぁぁぁぁああ!! 」
ミスティアはすり抜けて行ったものを見て悲鳴をあげた。
「アルフィノ様!! 」
ミスティアは王太子の名前を叫びながら駆け寄った。その声に、王太子の学生の側近達も転がった王太子に駆け寄ってくる。
「われも、婚約者大切にしろや!! 」
「きゃあぁぁぁ、ロッド様!! 」
一人目の側近に『聖女の一撃』回し蹴りが腰に炸裂する。蹴られた者も回転しながら床を何度か飛び跳ねる。
「おのれも、婚約者泣かしてるんじゃないわ!! 」
「いやああぁ、ケビン様!! 」
二人目の側近に、一本背負いの『聖女の飛翔』で空高く飛ばされ天井にぶち当たり落下した。
「おのれら、婚約者が好きなら思いをつらぬけや!! 」
「ああ、ナバラン様!! 」
三人目の側近に、往復ビンタの『聖女の嘆き』で最終的に横に弾き飛ばされ床にダビングして転がる。
悲鳴をあげた令嬢達が、アイシアに無双された婚約者に駆け寄り縋り付く。
アイシアはそれを背に階段を上がって行った。玉座の前までたどり着くと、陛下を上から被るように両肩に手をついた。
「われ、勝手な事ぬかしてるんじゃねえよ。ああん? 」
庇護欲を唆るような可愛らしい顔の目が座っている。
「人さまの男に手を出すような女に見えるかい? あたしは聖女だよ。」
国王陛下はアイシアの眼光から目を逸らすことはできなかった。
「婚約者がいる者をあてがうってか? ばかにすんじゃねぇよ。」
「し、しかし…… 此れは国の定め……で、」
陛下は聖女と王家の婚姻は古くからの定めだと反論をする。
「あたしは聖女だよ。人のものを欲しがったり、愛する者同士を引き離したりするのは忸怩が許さないんだよ。」
「し、しかし…… 」
「古びた定めなんか関係ないな。よしんば政略結婚でも、相手に非がないのに解消させるなんて『聖女』のあたしが許すとでも思うかい? 」
「そ、それは…… 」
「今までの聖女がどうかは知らないが、あたしは嫌だね。考えてもみな、婚約者の為に努力をしてきたものをあたしが奪うなんて道理とし『聖女』に相応しくはないだろうが。」
道理を導く神に選ばれし『聖女』が、非のない者から婚約者を奪うなど許されるはずはない。例えそれが、国の定めだとしても。
「許してくれ、ミスティア!! 王太子として国の定めに従わなくてはと、君と婚約解消を!! ミスティアを愛しているのに!! 」
「アルフィノ様、それはわたくしも同じです。公爵家の娘として定めに従わなくてはと。アルフィノ様を愛していたのに。」
「ミランダ、僕は僕は。任務にかまけて、愛しい君に甘えてしまった。許してくれ!! 」
「いいえ、ロッド様。私も我儘を言ってしまいましたわ。」
「キャンディ、俺は君を泣かしてしまった。護りたいと思っていた君を。」
「ケビン様、あなたの任務を分かっていながら聖女様に嫉妬してしまった私を許して。」
「イライザ、君を愛しているんだ!! どうか、私を見捨てないでくれ!! 」
「ナバラン様、私も私も愛しておりますわ!! 」
舞踏会会場で、愛する者達の告白の言葉が飛び交う。『聖女』の制裁を受けた男達は、怪我は一つも負ってなかった。『聖女』のアイシアは制裁を加えた瞬間、回復魔法をかけたからだ。
一瞬の痛みだけで、怪我を残さなかった。その一瞬の痛みが、王太子達の心を覚醒させた。
「どうやら話は決まったようだよ、国王陛下。」
「しかし、定めが…… 」
古いしきたりを言う国王陛下に。
「目え、覚ましや!! 」
『聖女の警め』頭突きが国王の頭に下る。その衝撃に国王は額から血を流し、白目を向いて気を失った。
次の瞬間、覚醒する。
「聖女アイシア、貴方の言われる通りだ。何の非もない婚約を解消するとは、国のエゴでしかない。」
国王は玉座から立ち上がった。
「先程の王太子とミスティア嬢の婚約解消を訂正さしてくれ。二人はこのまま婚姻させる。」
会場に集まっている貴族達に、二人の婚姻を承諾を宣言した。
「聖女アイシア、貴方には王家の血を引く者の中から相手のいない者を選びます。」
「まあ、落としどころだね。」
アイシアも、国に保護されることが一番安全だとは分かっている。
「『聖女』との婚姻は、相手のいない王族の者とを此れから国の定めとする。」
新たに国王は、国の取り決めを宣言した。
「アイシア…… 」
アイシアを呼ぶ声に振り向く。
寄り添うように立っているミスティアと王太子アルフィノ。
「ミスティアお義姉様。」
アイシアはにっこりと微笑んだ。
「アイシアはお義姉様の幸せを、この国の幸せを祈っていますわ。」
アイシアは、手を組み目を閉じて祈りを捧げた。
きらきらと、国中に優しい『聖女の慈愛』の光が降り注いた。
【完】
『聖女』アイシアは王太子の瞳の色のドレスを左手で掴み、階段を転げるように降りてくる。
その危なっかしさに王太子アルフィノは手を広げた。その腕に吸い込まれるようにアイシアは近寄ってくる。
抱き合う二人を見たくなかったミスティアは顔を逸し、瞳を閉じた。
「アルフィノさま!! 」
「危ないアイシア!! 」
アイシアは右手の拳を握った。
「われ、男気見せろや!! 」
ドゴッ!!
アルフィノの左頬に『聖女の鉄槌』が下った。鼻から血が吹き出し、歪んだ口から白いものが二、三個飛び出した。
ぎゅるるん!!
殴られた勢いで体が浮き、拗れるように回転する。
ガッ!!
吹き飛んで、床に体を打つ。
ガッ!!
吹き飛んで、体が床に打つ。
ガッ!!
吹き飛んで、顔が床に打つ。
ガガガガガガ、ガッ!!
顔で床を削りながら、止まった。
何かが、ミスティアの横をすり抜けて行った。
静まり返る会場。
ミスティアはゆっくりと目を開けた。
「きゃあぁぁぁぁああ!! 」
ミスティアはすり抜けて行ったものを見て悲鳴をあげた。
「アルフィノ様!! 」
ミスティアは王太子の名前を叫びながら駆け寄った。その声に、王太子の学生の側近達も転がった王太子に駆け寄ってくる。
「われも、婚約者大切にしろや!! 」
「きゃあぁぁぁ、ロッド様!! 」
一人目の側近に『聖女の一撃』回し蹴りが腰に炸裂する。蹴られた者も回転しながら床を何度か飛び跳ねる。
「おのれも、婚約者泣かしてるんじゃないわ!! 」
「いやああぁ、ケビン様!! 」
二人目の側近に、一本背負いの『聖女の飛翔』で空高く飛ばされ天井にぶち当たり落下した。
「おのれら、婚約者が好きなら思いをつらぬけや!! 」
「ああ、ナバラン様!! 」
三人目の側近に、往復ビンタの『聖女の嘆き』で最終的に横に弾き飛ばされ床にダビングして転がる。
悲鳴をあげた令嬢達が、アイシアに無双された婚約者に駆け寄り縋り付く。
アイシアはそれを背に階段を上がって行った。玉座の前までたどり着くと、陛下を上から被るように両肩に手をついた。
「われ、勝手な事ぬかしてるんじゃねえよ。ああん? 」
庇護欲を唆るような可愛らしい顔の目が座っている。
「人さまの男に手を出すような女に見えるかい? あたしは聖女だよ。」
国王陛下はアイシアの眼光から目を逸らすことはできなかった。
「婚約者がいる者をあてがうってか? ばかにすんじゃねぇよ。」
「し、しかし…… 此れは国の定め……で、」
陛下は聖女と王家の婚姻は古くからの定めだと反論をする。
「あたしは聖女だよ。人のものを欲しがったり、愛する者同士を引き離したりするのは忸怩が許さないんだよ。」
「し、しかし…… 」
「古びた定めなんか関係ないな。よしんば政略結婚でも、相手に非がないのに解消させるなんて『聖女』のあたしが許すとでも思うかい? 」
「そ、それは…… 」
「今までの聖女がどうかは知らないが、あたしは嫌だね。考えてもみな、婚約者の為に努力をしてきたものをあたしが奪うなんて道理とし『聖女』に相応しくはないだろうが。」
道理を導く神に選ばれし『聖女』が、非のない者から婚約者を奪うなど許されるはずはない。例えそれが、国の定めだとしても。
「許してくれ、ミスティア!! 王太子として国の定めに従わなくてはと、君と婚約解消を!! ミスティアを愛しているのに!! 」
「アルフィノ様、それはわたくしも同じです。公爵家の娘として定めに従わなくてはと。アルフィノ様を愛していたのに。」
「ミランダ、僕は僕は。任務にかまけて、愛しい君に甘えてしまった。許してくれ!! 」
「いいえ、ロッド様。私も我儘を言ってしまいましたわ。」
「キャンディ、俺は君を泣かしてしまった。護りたいと思っていた君を。」
「ケビン様、あなたの任務を分かっていながら聖女様に嫉妬してしまった私を許して。」
「イライザ、君を愛しているんだ!! どうか、私を見捨てないでくれ!! 」
「ナバラン様、私も私も愛しておりますわ!! 」
舞踏会会場で、愛する者達の告白の言葉が飛び交う。『聖女』の制裁を受けた男達は、怪我は一つも負ってなかった。『聖女』のアイシアは制裁を加えた瞬間、回復魔法をかけたからだ。
一瞬の痛みだけで、怪我を残さなかった。その一瞬の痛みが、王太子達の心を覚醒させた。
「どうやら話は決まったようだよ、国王陛下。」
「しかし、定めが…… 」
古いしきたりを言う国王陛下に。
「目え、覚ましや!! 」
『聖女の警め』頭突きが国王の頭に下る。その衝撃に国王は額から血を流し、白目を向いて気を失った。
次の瞬間、覚醒する。
「聖女アイシア、貴方の言われる通りだ。何の非もない婚約を解消するとは、国のエゴでしかない。」
国王は玉座から立ち上がった。
「先程の王太子とミスティア嬢の婚約解消を訂正さしてくれ。二人はこのまま婚姻させる。」
会場に集まっている貴族達に、二人の婚姻を承諾を宣言した。
「聖女アイシア、貴方には王家の血を引く者の中から相手のいない者を選びます。」
「まあ、落としどころだね。」
アイシアも、国に保護されることが一番安全だとは分かっている。
「『聖女』との婚姻は、相手のいない王族の者とを此れから国の定めとする。」
新たに国王は、国の取り決めを宣言した。
「アイシア…… 」
アイシアを呼ぶ声に振り向く。
寄り添うように立っているミスティアと王太子アルフィノ。
「ミスティアお義姉様。」
アイシアはにっこりと微笑んだ。
「アイシアはお義姉様の幸せを、この国の幸せを祈っていますわ。」
アイシアは、手を組み目を閉じて祈りを捧げた。
きらきらと、国中に優しい『聖女の慈愛』の光が降り注いた。
【完】
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