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12:役者は揃った?
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エッカルト様がカサブランカお義姉様と初めて顔合わせしたその日から、おかしくなったことは承知していました。
昔からある程度のことはお互いに無関心だったということもあって、子爵子息が侯爵令嬢に無礼な振る舞いであると貴族的にアウトであっても『婚約者だから』と大目に見ておりましたし、行きすぎた際には当人ではなく子爵夫妻にお伝えすることもありました。
ですが、今回のこればかりはどうしようもありません。
フォロー? するわけないじゃないですか。
やってることはただの恥さらしですよ、ええ、どこまでいっても恥さらしな行為ですよ。
前世の記憶があるとかないとか関係ないレベルですよね、これは。
そもそも婚約破棄を複数の人がいるところ……それも夜会という社交場で行うこと自体非常識な話だったんですが、あれは物語の中だからと割り切っていたというのに!
少なくとも私が転生して、尚且つこちらの常識をベースに生きている身として言えることはただ一つ。
「……ありえない……」
「そうだ! あり得ない! お前は侯爵令嬢という貴き身分でありながら、自分の血を分けた義姉を蔑ろにし、あまつさえ平民を馬鹿にするかのように物を知らぬとあげつらい、婚約まで勝手に決めたという! これまでお前が非情な女だとは知らず婚約を続けていたが、それももうしまいにさせていただこう!!」
「それは……私と婚約を解消したいというお考えですの? ご家族はそれを知っておいでですか?」
「いいや、解消ではない。破棄をする! 両親にはまだこれから伝えるが……お前のような悪鬼がごとき女と結婚することにならず喜んでくださるに違いない!」
「まあ……なんてこと……!」
勝ち誇った顔で言っているエッカルト様は私の言葉がショックのあまり出てきた言葉だと思っているようで、いやショックには違いないのですけど……そういうんじゃないんですのよ?
私は侯爵家で、跡取りという立場。
エッカルト様は子爵家の次男坊で、どこかに婿入りするか立身出世しか道はない立場。
ご両親からすれば私と結婚すれば息子の将来は安泰、なのにこんな恥知らずな行動で婚約を破棄したいと大勢の前で宣言して、どうして喜ばれると思ったのかしら!?
まったく理解ができません。
私が呆れて二の句が継げないでいると、私の後ろでお義姉様がパァンと良い音をさせて扇子を閉じました。
あ、いけない。
これはお怒りです。お義姉様は基本的に朗らかでおおらかで大抵のことはしょうがないで済ませてくださる方ですし、笑って次は気をつけよう精神の持ち主ですが……怒ると大変怖いのだと、お義母様が仰っておられました。
まさかパーティー会場で大暴れなんてことはないと思いますが……!!
「おお、カサブランカ嬢! そのような場所におられたとは気づかず……忌々しいルイーズめが貴女を隠していたのですね!」
「はア?」
「えっ」
短いけれどそのドスの効いた声に、エッカルト様だけでなく私たちを遠目に見ていた人々まで竦み上がりました。
かくいう私も怖くて後ろが振り向けません。
「ザァーけんじゃねえですわよ、このすっとこどっこい!」
「す、すっとこどっこい!?」
すごい、すっとこどっこいなんて言う人初めて見た。
そしてキレながらも義姉様、なんとか令嬢らしく振る舞おうとしてらっしゃって結果不思議な口調になっているのがとても気になる!
思わず目を丸くしてしまって恐怖もそこそこにお義姉様を見てしまいましたが、私のことをギュッとお義姉様は抱き寄せて守るようにビシッと畳んだ扇子をエッカルト様の方へ向けました。
さながら、騎士が悪鬼に剣を突きつけるかのように。
「お義姉様……!!」
「ルイーズたん大丈夫だからね、あーしが絶対守ってあげるかんね」
小声でそう囁くお義姉様は私に小さくウインクをしてくださって……あらやだ、素敵。
私が思わずときめいてしまっていると、背後に別の馬車が来た音がしてそちらを振り返ればライルお義兄様が下りてくるところでした。
「……これはこれは、一体何の騒ぎかな? どうやら渦中にいるのは俺の婚約者殿のようだが」
昔からある程度のことはお互いに無関心だったということもあって、子爵子息が侯爵令嬢に無礼な振る舞いであると貴族的にアウトであっても『婚約者だから』と大目に見ておりましたし、行きすぎた際には当人ではなく子爵夫妻にお伝えすることもありました。
ですが、今回のこればかりはどうしようもありません。
フォロー? するわけないじゃないですか。
やってることはただの恥さらしですよ、ええ、どこまでいっても恥さらしな行為ですよ。
前世の記憶があるとかないとか関係ないレベルですよね、これは。
そもそも婚約破棄を複数の人がいるところ……それも夜会という社交場で行うこと自体非常識な話だったんですが、あれは物語の中だからと割り切っていたというのに!
少なくとも私が転生して、尚且つこちらの常識をベースに生きている身として言えることはただ一つ。
「……ありえない……」
「そうだ! あり得ない! お前は侯爵令嬢という貴き身分でありながら、自分の血を分けた義姉を蔑ろにし、あまつさえ平民を馬鹿にするかのように物を知らぬとあげつらい、婚約まで勝手に決めたという! これまでお前が非情な女だとは知らず婚約を続けていたが、それももうしまいにさせていただこう!!」
「それは……私と婚約を解消したいというお考えですの? ご家族はそれを知っておいでですか?」
「いいや、解消ではない。破棄をする! 両親にはまだこれから伝えるが……お前のような悪鬼がごとき女と結婚することにならず喜んでくださるに違いない!」
「まあ……なんてこと……!」
勝ち誇った顔で言っているエッカルト様は私の言葉がショックのあまり出てきた言葉だと思っているようで、いやショックには違いないのですけど……そういうんじゃないんですのよ?
私は侯爵家で、跡取りという立場。
エッカルト様は子爵家の次男坊で、どこかに婿入りするか立身出世しか道はない立場。
ご両親からすれば私と結婚すれば息子の将来は安泰、なのにこんな恥知らずな行動で婚約を破棄したいと大勢の前で宣言して、どうして喜ばれると思ったのかしら!?
まったく理解ができません。
私が呆れて二の句が継げないでいると、私の後ろでお義姉様がパァンと良い音をさせて扇子を閉じました。
あ、いけない。
これはお怒りです。お義姉様は基本的に朗らかでおおらかで大抵のことはしょうがないで済ませてくださる方ですし、笑って次は気をつけよう精神の持ち主ですが……怒ると大変怖いのだと、お義母様が仰っておられました。
まさかパーティー会場で大暴れなんてことはないと思いますが……!!
「おお、カサブランカ嬢! そのような場所におられたとは気づかず……忌々しいルイーズめが貴女を隠していたのですね!」
「はア?」
「えっ」
短いけれどそのドスの効いた声に、エッカルト様だけでなく私たちを遠目に見ていた人々まで竦み上がりました。
かくいう私も怖くて後ろが振り向けません。
「ザァーけんじゃねえですわよ、このすっとこどっこい!」
「す、すっとこどっこい!?」
すごい、すっとこどっこいなんて言う人初めて見た。
そしてキレながらも義姉様、なんとか令嬢らしく振る舞おうとしてらっしゃって結果不思議な口調になっているのがとても気になる!
思わず目を丸くしてしまって恐怖もそこそこにお義姉様を見てしまいましたが、私のことをギュッとお義姉様は抱き寄せて守るようにビシッと畳んだ扇子をエッカルト様の方へ向けました。
さながら、騎士が悪鬼に剣を突きつけるかのように。
「お義姉様……!!」
「ルイーズたん大丈夫だからね、あーしが絶対守ってあげるかんね」
小声でそう囁くお義姉様は私に小さくウインクをしてくださって……あらやだ、素敵。
私が思わずときめいてしまっていると、背後に別の馬車が来た音がしてそちらを振り返ればライルお義兄様が下りてくるところでした。
「……これはこれは、一体何の騒ぎかな? どうやら渦中にいるのは俺の婚約者殿のようだが」
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