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11:なんか思ってたのと違う
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なんだかんだ忙しく過ごしていたら、あっという間に一月ほど経ってしまいました。
私も父に代わって領地運営についてあれこれしなきゃいけないことも多かったですし、お義姉様の婚約関係で走り回りましたしね……。
その間、エッカルト様が若干何かしていたようです。
なんでも、突然やってきて私たち姉妹がいないと知ると執事に『カサブランカ嬢は虐げられていないか。自分に会いたいと言ってはいなかったか』などと質問していたそうで……。
執事も首を傾げちゃってたからね?
何言ってんだ、あの男。
おっと、口が悪くなってしまいました。
「……それにしても、気が重いですわねえ」
「ルイーズたん大丈夫?」
「大丈夫ですわ。まさか迎えにも来ないなんて思いもしませんでしたが……」
馬車の中なのでおおっぴらにため息吐いても許される。淑女だって人間ですもの。
そう、今日は姉妹揃って馬車で移動しております。
本日はお義姉様の社交界デビューとなる、大きめの夜会に行くのです。
本来であれば、私はエッカルト様に、そしてお義姉様は正式に婚約と相成ったライル・ヴィズ男爵様にエスコートされて会場に向かうのが一般的な貴族の作法なのですが……。
なんと私はエッカルト様から放置されるというこの屈辱。
事前に迎えに行けないとかそういう連絡すら一切無く、それどころか本来であれば婚約者の義務としてそういった公式の夜会前に贈り物をするとかそうした儀礼的なことまですっぽかされたんですからね! なんたる屈辱!!
私はきちんと彼に今夜、王族が参加する夜会に相応しいカフスボタンを贈りましたから、彼が知らなかったなんて言い訳は到底できないってものです。
まったく、親が決めた婚約者とはいえ、これまではそれなりに義務を……いや、果たしてませんね。
会場で顔を合わせた際にはこの件をきちんと話し合いたい旨を伝え、その結果次第では婚約解消に動くとしましょう。
ちなみにヴィズ男爵――親しくなった今は、ライルお義兄様と呼ばせていただくようになったのだけれど……彼は、任務で遅れるため先に会場で待っていてほしいと連絡をくださっているわ。
勿論、お義姉様宛にドレスとアクセサリーなどプレゼントもバッチリ。
(……我ながら、婚約者運がないわ)
お義姉様に相応しい方を選別して、きちんと間を取り持てた自分の手腕には満足しているけれど……少し、妬けてしまうなあと思わずにいられません。
まあ、そもそも私の婚約はあの父親が勝手に結んでしまったもので、顔合わせも相性も確認しないまま結ばれてしまったんだからしょうがないのよね……。
家のメリットになるかどうかっていう政略性も何もないってわかっちゃってたからこそ私もエッカルト様に対してどこか期待できずにいたんだし。
もし彼が歩み寄ってくれたり、私も彼に興味が持てていたら恋愛までは発展しなくても、それなりにお互いを尊重した夫婦にくらいなれたかもしれない。
(でも実際は、お互いに婚約者じゃなくて婚約自体に不満があったのだものね。そこをどうにかするのが両家の親がすべきことだったんでしょうが、どちらも何もしなかっただけで悪いことはしていない)
そう、何もしなかった。
幼いうちに婚約を調えられて不満を覚えた私たちを諭すことも、諫めることもしなかっただけだ。
年齢を重ねれば勝手にどうにかなると思って何もしなかった、それだけだ。
私たちも我慢していれば、そのうちそういうものだと思えるのだと……少なくとも私は勝手に思っていました。
(エッカルト様は、そうじゃなかった……)
お互いに、なんて身勝手なんでしょうね。
結局、私たち姉妹は揃って婚約者不在のまま夜会に行くのです。
本来ならばこういう時は父親や親戚を頼るものですが、まあそちらも頼りないったらないので……。
(エッカルト様はどうせ来ていらっしゃるのでしょうね。お義姉様に心が移ろったのだとしても、なんと不誠実なことかしら!)
そもそもお義姉様はライルお義兄様に夢中ですからアンタなんか眼中にないですけど!?
思いっきり心の中で罵ってやって、会場ではなんとか怒りが暴発しないように心がけねばなりません。ええ、淑女らしく。
未来の女侯爵として恥ずかしくないように。
そう、意気込んでおりましたのに。
御者の手を借りて馬車を降りた瞬間のことです。
「無様だな! ルイーズ!!」
「はっ?」
「これが貴様への罰だ! どうだ、思い知ったか!!」
「……は?」
思わずポカンと口を開けてしまいました。
淑女らしからぬ行動だと反省はするものの、ここは会場の入り口にある階段ですよ?
王族が起こしになる大きな夜会ですよ?
その会場に向かう、他の紳士淑女もいらっしゃる中で階段の上からエッカルト様が私を見下ろすようにして嘲ってくるなんて、そんなこと予想できる?
(少なくとも物語の中では、騒ぎを起こすのは室内だったと思うけど!?)
いや、それでも騒ぎを起こすこと自体論外だけどね!
私も父に代わって領地運営についてあれこれしなきゃいけないことも多かったですし、お義姉様の婚約関係で走り回りましたしね……。
その間、エッカルト様が若干何かしていたようです。
なんでも、突然やってきて私たち姉妹がいないと知ると執事に『カサブランカ嬢は虐げられていないか。自分に会いたいと言ってはいなかったか』などと質問していたそうで……。
執事も首を傾げちゃってたからね?
何言ってんだ、あの男。
おっと、口が悪くなってしまいました。
「……それにしても、気が重いですわねえ」
「ルイーズたん大丈夫?」
「大丈夫ですわ。まさか迎えにも来ないなんて思いもしませんでしたが……」
馬車の中なのでおおっぴらにため息吐いても許される。淑女だって人間ですもの。
そう、今日は姉妹揃って馬車で移動しております。
本日はお義姉様の社交界デビューとなる、大きめの夜会に行くのです。
本来であれば、私はエッカルト様に、そしてお義姉様は正式に婚約と相成ったライル・ヴィズ男爵様にエスコートされて会場に向かうのが一般的な貴族の作法なのですが……。
なんと私はエッカルト様から放置されるというこの屈辱。
事前に迎えに行けないとかそういう連絡すら一切無く、それどころか本来であれば婚約者の義務としてそういった公式の夜会前に贈り物をするとかそうした儀礼的なことまですっぽかされたんですからね! なんたる屈辱!!
私はきちんと彼に今夜、王族が参加する夜会に相応しいカフスボタンを贈りましたから、彼が知らなかったなんて言い訳は到底できないってものです。
まったく、親が決めた婚約者とはいえ、これまではそれなりに義務を……いや、果たしてませんね。
会場で顔を合わせた際にはこの件をきちんと話し合いたい旨を伝え、その結果次第では婚約解消に動くとしましょう。
ちなみにヴィズ男爵――親しくなった今は、ライルお義兄様と呼ばせていただくようになったのだけれど……彼は、任務で遅れるため先に会場で待っていてほしいと連絡をくださっているわ。
勿論、お義姉様宛にドレスとアクセサリーなどプレゼントもバッチリ。
(……我ながら、婚約者運がないわ)
お義姉様に相応しい方を選別して、きちんと間を取り持てた自分の手腕には満足しているけれど……少し、妬けてしまうなあと思わずにいられません。
まあ、そもそも私の婚約はあの父親が勝手に結んでしまったもので、顔合わせも相性も確認しないまま結ばれてしまったんだからしょうがないのよね……。
家のメリットになるかどうかっていう政略性も何もないってわかっちゃってたからこそ私もエッカルト様に対してどこか期待できずにいたんだし。
もし彼が歩み寄ってくれたり、私も彼に興味が持てていたら恋愛までは発展しなくても、それなりにお互いを尊重した夫婦にくらいなれたかもしれない。
(でも実際は、お互いに婚約者じゃなくて婚約自体に不満があったのだものね。そこをどうにかするのが両家の親がすべきことだったんでしょうが、どちらも何もしなかっただけで悪いことはしていない)
そう、何もしなかった。
幼いうちに婚約を調えられて不満を覚えた私たちを諭すことも、諫めることもしなかっただけだ。
年齢を重ねれば勝手にどうにかなると思って何もしなかった、それだけだ。
私たちも我慢していれば、そのうちそういうものだと思えるのだと……少なくとも私は勝手に思っていました。
(エッカルト様は、そうじゃなかった……)
お互いに、なんて身勝手なんでしょうね。
結局、私たち姉妹は揃って婚約者不在のまま夜会に行くのです。
本来ならばこういう時は父親や親戚を頼るものですが、まあそちらも頼りないったらないので……。
(エッカルト様はどうせ来ていらっしゃるのでしょうね。お義姉様に心が移ろったのだとしても、なんと不誠実なことかしら!)
そもそもお義姉様はライルお義兄様に夢中ですからアンタなんか眼中にないですけど!?
思いっきり心の中で罵ってやって、会場ではなんとか怒りが暴発しないように心がけねばなりません。ええ、淑女らしく。
未来の女侯爵として恥ずかしくないように。
そう、意気込んでおりましたのに。
御者の手を借りて馬車を降りた瞬間のことです。
「無様だな! ルイーズ!!」
「はっ?」
「これが貴様への罰だ! どうだ、思い知ったか!!」
「……は?」
思わずポカンと口を開けてしまいました。
淑女らしからぬ行動だと反省はするものの、ここは会場の入り口にある階段ですよ?
王族が起こしになる大きな夜会ですよ?
その会場に向かう、他の紳士淑女もいらっしゃる中で階段の上からエッカルト様が私を見下ろすようにして嘲ってくるなんて、そんなこと予想できる?
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