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 あれから月日が流れた。


 私は帝国にたどり着いた後、皇帝陛下の計らいでしばらく皇城に滞在させてもらえることになった。本当の家族とは言っても初めて会うのでは心休まらないだろうからと。
 皇城なんて畏れ多いと遠慮しようとしたがハルに却下されてしまった。却下されてしまっては仕方がないので少しの間滞在させてもらうことに決めた。
 でも本当はハルが近くにいるので安心だということは恥ずかしいので秘密にしている。



 帝国に着いて数日後に私の本当の家族であるマリアント公爵家と会うことになった。
 とても緊張していたのだがハルも同席してくれることになり緊張が解れたのを覚えている。

 城の応接室で待っていると扉がノックされ開いた扉から三人が部屋へと入ってきた。
 一人は父であるマリアント公爵だ。
 そしてもう二人は母と兄だった。


「っ!あぁ…!ずっと、会いたかった!」

「私の妹…。神様感謝いたしますっ…!」


 二人は私を目にした途端その場で涙を流していた。
 私は心のどこかで本当の家族にも受け入れてもらえなかったらどうしようと不安に思っていた。しかしそんな心配など不要だったようで母と兄は私を受け入れてくれた。
 ただ家族というものに初めて触れる私はどうするのが正解なのか分からない。だから少しずつ知っていければと思った。
 愛された分愛したいし、私からもいつか愛を伝えたい。そしていつか心から本当の家族になれたら嬉しいなと思った。

 そしてその願いは家族からの溢れる愛によって早々に叶うことになる。

 それと私は家族から新しい名前をプレゼントしてもらった。
 私の新しい名前はレイラ・マリアント。
 ミレイアという名前には特に思い入れもないしいい記憶もない。ただハルから呼ばれるレイの愛称は残したいとお願いして新しい名前を付けてもらったのだ。




 ◇◇◇




 あの卒業パーティーでの出来事についてだが聞いたところによるとあのあと帝国は激しく抗議したらしい。
 いくら本物の公爵令嬢だと知らなかったとしてもあの時だってノスタルク公爵家の令嬢だったのだ。しかも王太子殿下の婚約者であった私を冤罪で貶めようとしたのだ。
 こんなことはあってはならないことだと帝国は国際的な会議の場で王国を非難したそうだ。
 当然各国は帝国の発言を支持し、そんな王族がいるメノス王国との付き合いを考え直す国も出てきたと聞いた。

 その後メノス王国の国民が各地で暴動を起こした。
 帝国の怒りが収まらなければ主食である小麦の輸入を止められてしまうかもしれない。それに帝国を支持している国からの物資も途絶えてしまうかもしれないという不安から起こった暴動だった。
 結果国王は暴動に恐れをなし自ら退位。王太子は廃嫡され辺境の地へと送られたそうだ。
 ノスタルク公爵家は取り潰しは免れたものの公爵から子爵へと降爵され領地のほとんどを没収され日々の生活すらも困る状況だそうだ。
 だからなのかリリアンは金持ちだが随分歳の離れた商会長の後妻になったらしい。ただその商会には後ろ暗い噂が沢山あるそうで一時は贅沢を享受できるかもしれないが一生は難しいであろう。

 ただ今だから思うのは断罪する場を帝国の皇子であるハルがいる卒業パーティーを選んだことが間違いだったのだ。
 これが他の国の人が誰もいない場であれば私は死ぬまでいいように使われていただろう。
 そう思うとむしろ私は王族とノスタルク家の愚かな考えによって救われたのだ。ただ救われたといっても全く感謝などしようとは思わないが。

 メノス王国は元国王の腹違いの弟が国王に即位することになった。彼は幼い頃から元国王に虐げられており邪魔だからと他国に無理やり追い出されていたそうだ。
 その後他国で結婚し子どもにも恵まれ穏やかに暮らしていたそうだが他に王位を継げるものがいないことと、長く他国で暮らしていたこともあり柔軟な考え方ができる人物であると判断され帝国の支持を受け国王に即位したのだった。

 王国に特に思い入れはないが国民に辛い思いをして欲しいわけではないのでこれで王国内が落ち着けばいいなと思った。




 ◇◇◇




 そして王国での出来事と家族との関係が落ち着いた頃ハルとの関係が大きく変わった。
 なんと私がハルの婚約者になったのだ。


「私の婚約者になって欲しい」


 以前ハルからはマリアント公爵家に女児が生まれたら婚約者になるはずだったと聞いていたので義務でそう言っているのではと不安になったが


「義務なんかじゃない。私はレイを愛しているんだ。初めて会ったあの日からずっとレイのことだけを想ってきた」  


 私にとってハルは特別で大好きな友達だった。けれど学園で再会してからいつの間にか友達とは違う好意を抱いていた。
 ただ相手は帝国の第二皇子だ。メノス王国にいた頃はもちろんのこと正式にマリアント公爵令嬢になってからもこの好意は秘めなければと思っていたのだ。
 けれどハルは私を望んでくれた。それなら私もこの想いを伝えなければと思った。


「私もハルのことが好き。友達との好きとは違うってことに気がついたの。でも私は婚約破棄された身だからこの気持ちを伝えてもハルに迷惑をかけると思って…」

「迷惑なんて思うはずない!私はレイ以外の人と結婚なんて考えられない。…どうか私を選んではくれないか?」


 熱の籠った瞳でまっすぐに想いを伝えてくれたハル。
 不安がないと言えば嘘になるがハルと一緒なら乗り越えていけると思えた。


「…はい。よろしくお願いします」


 そうしてハルと私の婚約が発表された。
 今まで全く浮いた話がなかった第二皇子と突然現れたマリアント公爵令嬢との婚約に帝国中が大騒ぎ。
 突然のことで批判的な意見が多いのではと心配したがそれはハルを狙っていた人たちだけでほとんどの人が私達の婚約を祝福してくれた。
 そして私が二十歳になったら結婚式を挙げることに決まった。
 本当ならもっと早い方がいいのだがようやく家族と過ごせるようになった私と公爵家を気遣ってくれたのだ。

 私は王国で王太子妃教育を受けていたこともあり皇子妃教育はすぐに終わった。こればかりは一生懸命学んだことが無駄になることがなくてよかったと思う。
 そして教育が終わった今は家族やハルと過ごしたりお茶会や夜会に参加したりと充実した毎日を過ごしている。


 それと祝福の一族が与える祝福について教えてもらったのだが、一族の直系の者が一生に一度自分以外の人に与えることができるそうだ。
 ただその発動条件はいまだによく分かっていないらしく人それぞれだということらしい。
 ちなみに父は母に祝福を贈ったそうでその話を聞いて素敵だなと思った。私もいつかハルに祝福を贈れたらといいなとまだ見ぬ未来に想いを馳せるのだった。




 ◇◇◇



「ねぇハル」

「うん?なんだい?」

「今さらだけど…私のことを見つけてくれてありがとう」

「急にどうしたんだ?」

「ううん、なんとなくちゃんと言葉にして伝えたいなって思って。ハルが私のことを見つけてくれたから今があるんだもの」

「…私がレイに出会えたのは偶然ではなくて必然だったと思ってる。だってそうだろう?そうじゃなければ帝国から遠く離れた場所で出会うなんて限りなく不可能なはずだ。それなのに私達は出会えたのは運命だからだと思ったんだ」

「運命…」

「…ごめん。レイは辛い想いをしてたのにそんな無責任な言葉嫌だったよな」

「えっ!あ、ち、違うの!」


 どうやら私の反応でハルに勘違いさせてしまったようだ。


「でも…」

「嫌とかじゃないの!たしかに王国にいた頃は辛い毎日だったわ。でも今はとても幸せだもの。辛い日々があったからこそより幸せを感じられるの。だって今の生活が当たり前だったら幸せを感じられるか分からないじゃない?だから今までのことも運命なんだったんだってハルの言葉を聞いたらその通りだと思ったの…っ!ハル!?」


 突然ハルに抱きしめられて驚いてしまった。


「っ私が、必ずレイを幸せにする。」

「…今も十分幸せよ?」

「いや、今よりももっと幸せにするし一生大切にする。だからこれからも私の側にいてくれないか?」


 抱きしめられるのは初めてではないのになんだかとてもドキドキする。でもずっとこうして抱きしめて欲しいとも思ってしまう。


「…私もずっとハルと一緒にいたい。二人で幸せになりましょう」

「っ!あぁもちろんだ。レイ、愛している」

「私も愛しています」




 こうして偽物だと捨てられた令嬢は帝国の地で本物の家族と愛を手に入れ幸せに暮らしたのだった。
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