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しおりを挟む突然聞き覚えのない声が会場に響き、会場の扉が開いた。
「ら、ランカ帝国っ、こ、皇帝陛下の、ご入場です!」
扉には二人の男性が立っていた。
一人は赤い髪の美丈夫。あの髪は間違いなくランカ帝国の皇帝陛下だ。遠くからだがハルとよく似ているのが分かる。
そしてもう一人は皇帝陛下の一歩後ろに立っているがとても存在感のある男性だ。その男性の髪の色は輝く銀色だった。
(銀色の髪…。私と同じ…?っ!)
銀色の髪の男性と目が合ったような気がした。
遠くて正確には分からなかったがそんな気がして心臓がとてもドキドキしている。
そして二人が歩き始めると参加者達は慌てて頭を下げその場から移動し自然と道が出来上がった。
その道は私達がいるところまで続いており二人はこちらに向かって歩いてくる。
私は頭を下げることも忘れその様子から目が離せなかった。
「皇帝陛下、いえ父上。お待ちしておりました」
「あぁ。待たせたか?」
「いえ、ちょうどよかったです」
「な、なぜランカ帝国の皇帝陛下がこのパーティーにいらっしゃるんだ!?」
「わ、儂もそんな話は聞いておらんぞ!」
ハルと皇帝陛下の会話に王太子殿下と国王陛下が割って入った。いくらこの国の王族といっても相手は格上の国の皇族だ。二人の行為はあまりにも不敬である。
しかしハルと皇帝陛下は見逃してあげたのかなんでもないかのように答えた。
「ん?あぁ!これはこれはバルカス殿にガイアス殿。挨拶もせずにすまなかったな。なに、先ほどこっちに着いたばかりでな、ははは!」
「今日はなぜこちらに…?招待状を出した際には欠席するとの返事でしたが…」
「あぁ最初はそのつもりだったんだがその後に息子からぜひ参加して欲しいと言われてな。息子がそこまで言うのなら皇帝としてではなく家族として参加しようと思ってね。家族の参加は自由だろう?」
「っ!そ、そうですが…」
「そんなことより今はこちらのご令嬢の話だったのだろう?初めましてお嬢さん」
「っ!こ、皇帝陛下にご挨拶申し上げます」
「ははは!驚かせてしまったね。そんなにかしこまらないでくれ。…ふむ、銀の髪に新緑の瞳、それに顔も公爵夫人とよく似ているな」
皇帝陛下にこれでもかというくらい見られているのだが一体どうするのが正解なのだろうか。
「父上、彼女が困っています」
「ん?あぁすまない。うら若きお嬢さんに失礼だったな」
「い、いえっ」
「ほらニールもこっちへこい」
「…」
皇帝陛下にニールと呼ばれた銀髪の男性が無言で私を見つめている。その新緑の瞳は涙で潤んでいるように見えた。
そして少しずつ私に近づき私の目の前で膝をついた。
「…?」
「…顔を、よく見せて、くれないか?」
「っは、はい…」
銀髪の男性の手が壊れ物を触るかのように私の頬に触れた。
「っ、ああ…。本当にイリーンにそっくりだ。目も、鼻も、口も…。そして私と同じ色の髪と瞳…。間違いようがない!この子はっ、私とイリーンの娘だっ…!」
そう言って私の両手を強く握りしめた。
初めて会う男性に突然手を握られたら不快に感じるはずなのにそんなことはなく、むしろ心地よく感じた。
「やはりな」
「ええ、間違いありません。引き離されたあの日からずっとこの日を待ちわびていましたっ…!」
(私を見て泣いている…。この方が私のお父様、なの?)
突然の出来事で何がなんだか分からずハルに助けを求めた。
「ハル…」
「…ニール殿。彼女が戸惑っているようだから少し落ち着いてくれ」
「っ!す、すまない!」
そう言って握っていた手を離してくれたが、手を離されてホッとしたような少し寂しいようななんともいえない気持ちになった。
「それに早くこの茶番を終わらせましょう」
「あぁそうだな」
「「「「っ!」」」」
(そうだったわ…)
皇帝陛下の登場で忘れていたがこの場で断罪されていたのを思い出した。どうやら他の人たちもこの状況に飲まれていたようだ。
「国王陛下にガイアス殿、そしてノスタルク公爵にノスタルク公爵令嬢。今のやり取りを見ていて分かっただろう?この者は祝福の一族であるマリアント公爵家の当主であるニール殿だ。そんな彼と我が父が彼女を本物のマリアント公爵令嬢であると認めたのだ。これでもまだ彼女が、レイが偽物であると断罪するのか?」
「そ、それは…」
「嘘だ…」
「本物、だと…?」
「ありえないわ…」
「それと彼女が着ているドレスは皇帝陛下と私、それにマリアント公爵家からの贈り物だ。彼女を想い彼女のためだけに作られたドレスは間違いなく彼女の物だ。それなのに彼女の言葉すら聞かず罪人だと決めつけるなんてな」
「ぐっ…」
「それに罪のない彼女を断罪するだなんて。しかもそれを行ったのが王族と貴族の頂点である公爵家だなんて信じられない。今回のことはしっかり抗議させてもらうから覚悟しておくといい。…さぁレイ行こうか」
「えっ?どこに…?」
「もちろんレイの本当の家族が待つ帝国さ」
「私が帝国に…」
「嫌かい?」
「…ううん、嫌じゃないわ。ただ一度にたくさんのことがありすぎてまだ頭と心が追いついてないの」
突然身に覚えのない罪で断罪され、気付けば皇帝陛下まで現れ自分が本物の公爵令嬢だと言われて頭がこんがらがっているのだ。
「ここから帝国に着くまで時間はあるからゆっくり行こう」
「…そうね。私がここにいなければならない理由はもう何もないものね。…ハル、私を帝国に連れていって」
「!あぁもちろんさ」
「ま、待てっ!」
そうして私はハルにエスコートされパーティー会場を後にした。
会場を出る際に何やら後ろが騒がしかったが私にはもう関係のないことだと振り返らなかった。
偽物はいらないと容赦なく私を捨てたこの国に未練など微塵もない。
王太子殿下の婚約者とノスタルク公爵家の養子という枷が無くなった私はようやく自由になったのだ。
帝国へ向かう馬車の中でハルとたくさん話をした。マリアント公爵とも話をする時間があり少しずつ私が生まれてからのことを教えてくれた。そして私の気持ちが整理できたその時は"父"と呼んで欲しいと言われたのだった。
そして長い馬車の旅が終わり私は帝国の地に降り立った。
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