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「…それは本当か?」


 私の発言を聞いた父はとても驚いているようだ。それに隣に座っている母も同じように驚いているのが分かる。それもそうだろう。父も母も私の性格をよく知っている。気が弱く争い事が苦手。そんな私がまさか皇帝の座を目指すとは思っていなかっただろう。


「はい」

「この選択は今日この後開かれるアンゼリーヌの生誕パーティーで発表される。そこで発表されてしまえばもう後戻りはできなくなるがそれでも私の後を継ぐことを望むのか?」


 父は心配してくれているのだ。私の性格では簡単に姉に潰されてしまうのではないかと。でも今の私は三度目までの私とは違う。生きるため大切な人たちを守るために戦う覚悟はできている。


「はい。私は皇帝陛下の後を継ぎます。そのための覚悟もできています」

「!…そうか、そうか」


 父は小さく言葉を発しながら頷いている。その表情はとても嬉しそうだ。隣に座る母も微笑んでいる。


 (お父様とお母様の表情…)


 これまでの三度の人生ではどの道を選んでも父は「分かった」の一言だけ。母は皇后の顔をしたまま私を見つめているだけだったはず。なのに今回は違う。二人は私に皇帝の後を継いでほしかったようだ。


 (…私は父と母の気持ちにも気づいていなかったのね。今までの私は国のためという言葉に気を取られ過ぎていたわ)


「この後のパーティーでそのように発表しよう」

「ありがとうございます」

「ではこれで話は終わりだ。…パーティーが始まるまで部屋に戻って休んでいなさい」

「…あのお父様」


 過去三回も進むべき道を選び終わると皇帝の顔から父の顔へと戻った父にすぐに部屋へと戻るように指示されてきたが、今回もそれは変わらないようだ。今までの私は父の指示に従いすぐに部屋へと戻っていたが、今回は違う。まだ父と母に話したいことがあるのだ。


「どうした?」

「じ、実はお父様とお母様にお願いしたいことがありまして…」

「アンゼリーヌが願い事などめずらしいな」

「ええ。むしろ生まれて初めてではなくて?」

「そうかもしれないな。それでアンゼリーヌ、一体何をお願いしたのだ?」

「えっと…」


 私はもじもじしながら話しにくそうに宰相の方をチラリと見る。それにつられて父と母も宰相の方に視線を向けた。


 (お願い事はこの場から宰相を追い出すためのただの口実。そのためにはちょっと恥ずかしいけど子どもらしい振る舞いをするのよ…!)


「宰相がどうかしたのか?」

「皇帝陛下の後を継ぎたいと言った手前、子どもの様なお願い事を聞かれるのが恥ずかしくて…」

「はははっ!そういうことか。そのお願い事とやらはずいぶんと可愛らしいお願い事なのだな」

「…はい。だから宰相様に聞かれたくないの」

「うふふ、何だかんだ言ってもアンゼリーヌもまだ十歳になったばかりですからね」

「そうだな。必要な話は終わったしいいだろう。宰相、そなたは先に戻ってパーティーの準備に取りかかってくれ」

「陛下、しかし…」

「少し話をするだけだ。アンゼリーヌの願い事が国に影響を与えるものであれば宰相に声をかけるから心配はいらん」

「…かしこまりました。それでは準備に取りかかりますので失礼いたします」


 宰相は一度食い下がったものの無事にこの場から追い出すことができた。これで謁見の間にいるのは父と母と私だけ。しかしあまり長い時間はかけられない。


 (本当は今までのこと全部話したい。でも今はその時じゃない。まずは今からする話を信じてもらわなければ何も始まらないわ)
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