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しおりを挟む「…さて、これでいいか?宰相を追い出してまでするお願い事とは一体どんな可愛らしいものなんだい?」
「ありがとうございます。…皇帝陛下ならびに皇后陛下に第二皇女アンゼリーヌが申し上げます」
「「っ…」」
私は先ほどまでの子どもらしい雰囲気を消し、ラスティア帝国の第二皇女として口を開く。先ほどまでとのあまりの違いに父と母が驚いて息を飲んだのが分かった。しかしそれでも一国の皇帝と皇后だ。すぐに切り替え私の発言に許可を出した。
「申してみよ」
「ありがとうございます。私の願い事は先ほどの話に一つ条件を追加し、それを内密に認めていただきたいのです」
「先ほどの話とはそなたが私の後を継ぐことを選んだことか?」
「はい、そうです」
「…認めるかどうかは話を聞いてからにしよう。それでどんな条件を付け足したいのだ?」
「先ほどお伝えした通り皇帝陛下の後を継ぎたいと思う気持ちに嘘偽りはありません。ですが私はお二人の御子が皇位に就くべきだと思っております」
「っ!それは…」
「ですから条件を追加したいのです。私はただ皇帝陛下の後を継ぐのではなく、いつか生まれるであろうお二人の御子が成長されるまでの中継ぎの皇帝になりたいのです」
「なっ!?アンゼリーヌ!そなたは自分が何を言っているのか分かっているのか?」
「アンゼリーヌ…」
「分かっております。お二人は御子に恵まれず、第一皇妃様と私の生みの母が皇妃となりお兄様とお姉様、そして私が生まれたことは理解しております」
「それならなぜ…!」
「…皇后陛下にお尋ねします。皇后陛下はお茶や食べ物など決まったものを毎日医者からの指示で口にされてはいませんか?」
「え、ええ。医者になかなか子に恵まれないのは血の巡りが悪いからだと言われて勧められたお茶を毎日飲んでいるわ」
「その医者は皇宮医ですか?それともウラヌス公爵家から?」
「いえ、宰相が手配してくれた医者よ。この手の治療にとても詳しくてそれに確かな実績もある医者なのよ」
その話を聞き私は確信する。母に子を生ませないために宰相が手を打ったのだ。父と母は真面目で忠実な宰相を信頼しきっている。だからこそその医者をすんなりと受け入れてしまったのだろう。実績なんていくらでも捏造できる。しかし宰相から紹介された医者の言うことならとなんの疑いもなく受け入れてしまった結果、二人は子を授かることができないでいるのだ。父と母から少しも疑いを持たれず信頼を勝ち得ている宰相の手腕は恐ろしいものである。しかしその信頼も次第に揺らいでいくことになるだろう。その時が来たら二人に私が経験した全てを話そうと思っている。
「そうでしたか。しかしその話を聞いた上で申し上げます。皇后陛下、今すぐにそのお茶を飲むのをおやめください。情報の出所は今はお話しできませんが、そのお茶には子を出来ないようにする成分が含まれているはずです」
「な、なんですって?そんなわけ…」
「気分を害されたのなら申し訳ございません。ただ私は心からお二人が御子に恵まれることを望んでおります。皇后陛下、私を娘と思ってくださっているのでしたらどうかお願いいたします」
私は深々と頭を下げた。今は全てを話す時ではない。しかし私は宰相のように自らの手で信頼を得ているわけではないのだ。だから私は娘という立場を使って情に訴えることしかできない。でも私は父にも母にも可愛がられてきたという自負はある。それに二度目の人生の時に姉も言っていたのだから端から見ても間違いないはずだ。
「陛下…」
(お願い!どうか受け入れて…!)
「…分かった。アンゼリーヌの言う通りにしよう」
「陛下!」
「皇后よ、むしろこれはいい機会だ。私たちが子を望むのは年齢的にそろそろ厳しいのが現実だ。それに私たち自身ももう無理だと心のどこかで諦めていただろう?それなら効果がないものをこのまま続けるよりもいいのではないか?それにアンゼリーヌがここまで言うのだ。私たちの娘を信じてはみないか?」
父の言う通り年齢というタイムリミットが刻一刻と迫っている。現在父は三十五歳、母は三十二歳だ。この国の平均寿命が五十歳前後であることを考えると、母の年齢ではおそらくあと一年くらいが限界だろう。
「皇后陛下!お願いいたします!」
私はもう一度頭を下げてお願いする。ここを突破しないことには何も始まらないのだ。
「…分かりました。アンゼリーヌの話を受け入れましょう」
「っ!ありがとうございます!」
「でも念のため私の方でも調べるけどいいかしら?アンゼリーヌを信じていないわけではないけど今は情報の出所を教えられないのでしょう?」
「もちろんです。しかしお調べになるのであればウラヌス公爵家の伝を使って内密に調べるのがよろしいかと。皇宮にはどこにどのような目と耳があるか分かりませんから」
「ええ、分かったわ」
「ありがとうございます」
「アンゼリーヌの言う追加の条件も認めよう。ただ私たちに子ができなければこの話は無かったことにするがよいな?」
「はい、もちろんです」
これで今伝えたいことは伝えた。あとは結果が出るのを待つしかない。
この後二人に挨拶をして謁見の間を後にした私はクリスとケイトを引き連れて部屋へと戻っていった。
そうしてその後開かれた私の生誕パーティーで私が後継者の一人となったことが発表された。その時の姉の顔はとても歪んでおり、どうやら私はこの頃にはすでに姉に嫌われていたようだ。しかし今さら姉に好かれたいとはこれっぽっちも思ってない私は、むしろ清々しい気持ちでその表情を見ていたのだった。
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