13 / 21
13
しおりを挟むキルシュタイン公爵邸の応接室にて。
今この場にいるのは四人。私、キースさん、マチルダさん、そしてキルシュタイン公爵であるヴィンセント様だ。
「――ということでして例の求人で雇ったのが彼女なのです」
「改めましてレイラ・ハーストンと申します。公爵様の婚約者役を務めさせていただいております」
「君が…」
「私の判断でお伝えするのが遅くなり申し訳ございませんでした」
「…いや、私もそのことはまったく頭になかったからな。キースの判断は私を思ってのことだろう?それに自分のことなのに確認せずにいた私も悪い」
「恐れ入れます」
私はヴィンセント様からお出掛けの誘いを受けてすぐにキースさんに相談した。すると数日後にこうして場を設けてくれたのだ。
私は勝手にヴィンセント様と交流してしまったことをキースさんに謝罪したら、キースさんはすでに知っていたようで特に怒られることはなかった。むしろ笑顔で感謝された。謎である。
「君はなぜメイドとして働いているんだ?」
「そ、それは…暇だったので」
「暇…」
「ヴィンセント様。彼女はとても優秀で時間が余ってしまったのです。そうしたら彼女から空いてる時間はメイドとして働きたいとの申し出があったのです」
「一年間の契約が終わってもここで働けたらなと思って…。申し訳ございません!決して騙すつもりはなかったんです!」
「ハーストン嬢、頭を上げてくれ。私は騙されたなど思ってはいない」
「でも」
「…むしろ嬉しいくらいだ」
「え?」
「あ、いや…」
「レイラさん。ヴィンセント様もこう仰ってますので」
「キース!」
「そうですよ。ようやくお坊っちゃまが心を許せる女性に出会えたと思うと私は嬉しくて涙が出そうです」
「マチルダまで…!それにその呼び方はいい加減やめてくれ」
「私にとってお坊っちゃまはいくつになられてもお坊っちゃまなのです」
「っ、くそ…」
「うふふふ」
「まぁそういうことですので、レイラさんは気にしなくて大丈夫ですよ」
「は、はぁ。わかりました」
なんだか拍子抜けである。それになぜかキースさんとマチルダさんは嬉しそうな表情だ。まぁ怒られないのならそれに越したことはない。解雇もされなさそうでよかった。
(ヴィンセント様も嬉しいって言っていたけど、本当に嫌じゃないのかしら?)
そういう私もヴィンセント様の言葉を聞いて嬉しいと思ってしまった。一年という短い期間ではあるが、少しでもヴィンセント様の役に立てればと思う。そしていずれ正式に迎える婚約者を大切にしてもらえたら、と考えたところでチクッと胸が痛んだ。
(…今の胸の痛みはなに?)
564
あなたにおすすめの小説
事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。
木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。
彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。
しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!
さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」
「はい、愛しています」
「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」
「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」
「え……?」
「さようなら、どうかお元気で」
愛しているから身を引きます。
*全22話【執筆済み】です( .ˬ.)"
ホットランキング入りありがとうございます
2021/09/12
※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください!
2021/09/20
幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。
完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。
誰からも必要とされていないから出て行ったのに、どうして皆追いかけてくるんですか?
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢ミリーシャは、自身が誰からも必要とされていないことを悟った。
故に彼女は、家から出て行くことを決めた。新天地にて、ミリーシャは改めて人生をやり直そうと考えたのである。
しかし彼女の周囲の人々が、それを許さなかった。ミリーシャは気付いていなかったのだ。自身の存在の大きさを。
隣国の王族公爵と政略結婚したのですが、子持ちとは聞いてません!?
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくしの旦那様には、もしかして隠し子がいるのかしら?」
新婚の公爵夫人レイラは、夫イーステンの隠し子疑惑に気付いてしまった。
「我が家の敷地内で子供を見かけたのですが?」と問えば周囲も夫も「子供なんていない」と否定するが、目の前には夫そっくりの子供がいるのだ。
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n3645ib/ )
一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。
木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」
結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。
彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。
身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。
こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。
マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。
「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」
一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。
それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。
それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。
夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる