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しおりを挟むその後はなぜか公爵様と会話をすることになった。しかし謝罪されたとはいえ私は公爵様が苦手な女性だ。だからこうして会話していて大丈夫なのかと聞いてみると大丈夫だと言う。
「…正直に言うと私に興味を持たない女性を母と侍女長以外知らなくてな。私自身戸惑っているんだ」
「な、なるほど…」
「私にとって女性は恐ろしい存在なんだ。幼い頃からこの容姿と家柄で苦労してきた。もちろん私を生んでくれた両親には感謝しているがな。幼い頃は屋敷で働く侍女やメイドに狙われ、学園に通う頃には令嬢や夫人たちに狙われてきた。中には裸で部屋に押し掛けてくる女性も何人かいたんだ」
「は、裸…。それは女の私でも恐ろしいです…」
「だろう?それが幼い頃から続いたからか自然と女性に対して身構えてしまうようになってな。だから君にもあの様な態度を取ってしまった」
「そのような事情があったのなら仕方ないと思います」
もしも私が公爵様の立場だったら、同じく女性に対して嫌な感情を抱いてしまうだろう。
(だから公爵様は婚約者を作らないというより作れないのね。そりゃそうだわ。結婚なんてしてしまったら心が休まる時がなくなっちゃうもの)
しかしいつかは嫌でも結婚して子を設けなければならない。公爵様の年齢から考えてその猶予はあと数年しかないはずだ。だから少しでも女性に慣れるために私という婚約者(仮)を雇ったのだろうか。
「だが君は私に興味がない。今ならあの時の言葉が本当だとわかる。だからなのか君に対しては普通に接することができるようなんだ」
「そうだったんですね」
「それでだな、実は君にお願いがあるんだが…」
「お願いですか?」
「ああ。嫌でなければなんだが、たまにでいいから私と会う時間を作ってはくれないか?」
「えっ!?」
「…やはり嫌か?」
予想外のお願いに驚きはしたが嫌ではない。話してみて公爵様が真面目な人だということがわかったし、結構話が合うなと思ったりしたくらいだ。普通なら筆頭公爵家の当主様と貧乏男爵家の娘が会話する機会なんてないだろう。嫌ではないし婚約者(仮)として公爵様のことをもっと知りたいと思った。
「嫌じゃないです!でも公爵様は大丈夫ですか?」
「ヴィンセント」
「え?」
「こうして二人で話す時はそう呼んでほしい」
「で、でも、私はメイドです。雇い主を名前で呼ぶなんて…」
「その雇い主がいいと言っているんだ。君に私が女性に慣れるための協力をお願いしたい。頼む」
公爵様にお願いされれば断ることなどできはしない。それに婚約者(仮)であることは別として、苦手を克服しようとする公爵様の力になりたいと思った。
「…わかりました。私でよければ協力させてください」
「助かる。それでだ、私も二人きりの時はレイと呼んでいいか?」
「っ!だ、大丈夫です!」
(偽名とはいえ美形に名前を呼ばれるのは心臓にくるわね…)
「よかった。では私のことも名前で呼んでくれ」
「わ、わかりました。よろしくお願いします…ヴィンセント様」
「っ!あ、ああ。こちらこそよろしく頼む」
そうして私はヴィンセント様と交流を始めることになったのである。
しかしタイミングを逃し、私はヴィンセント様の婚約者(仮)として雇われていることをまだ伝えられずにいるのであった。
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