【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ

文字の大きさ
29 / 44

28.独占欲の片鱗

しおりを挟む

「……知ってたんですね、遠藤くんが元カレだってこと」

 私の言葉に玲二は「ああ」と短く返事を返す。私に対し顔を背け、まるで拗ねているような様子だった。
 
「いつ知ったんですか。もしかして、あの晩に不機嫌になったのって、このことを知っていたから?」

「…………」

 玲二は答えなかったが、横顔からでも分かるその苦い顔に図星だと理解した。
 小さくため息をつき、玲二の肩を掴んでこちらに直らせる。彷徨っていた目線を無理矢理合わせると、その瞳の奥がゆらゆらと揺れているような気がした。


「玲二さん……さっきの遠藤くんに対する態度はちょっと酷いです。あんな脅すような真似までして。……というかなんでわざわざそんな過去のこと掘り返すんですか。彼とは円満にお別れしたんです。疑うようなことは一切ないです」

 少し呆れつつも言い聞かせるように話すと、玲二は無愛想にそっぽを向く。そして斜に構えた様子で口を開いた。

「……俺はただ、権利を主張しただけだ」

「権利? どういう意味で……」

「お前は俺のものだろ? あんな奴には渡さない。ーーわかったか?」

 私は思わず目を白黒させた。玲二の言葉の意味がうまく飲み込めなかった。

 全く意味がわからない。

 私が玲二のもの?
 遠藤くんに渡さない?

 その言葉はまるでーー。

「……玲二さん、もしかして嫉妬してるんですか?」

「……っ、誰が嫉妬なんて」

「だって私が遠藤くんに取られるのが嫌で怒ったんでしょう? それってそういうことなんじゃ……」

 理詰めに話す私とは比例して玲二は興奮気味にいい募る。

「うるさい! もう黙れ!」

 そう言って唐突に唇を重ねてくる。

 ペロリと口唇を舐られ、突然の快楽に声のない悲鳴を上げた。驚いた際に僅かに開いた唇の隙間から分厚く濡れた舌を侵入させ、内部を蹂躙した。中を全て舐め取られてしまうのではと思うほど吸い上げられたかと思いきや、今度は唾液を注ぎ込まれる。
 玲二は私を翻弄し、ようやく唇が離れたときには息絶え絶えだった。

 私は涙目になりながらも訴える。

「こんなキスして……誤魔化されませんからね」

「うっ……」

「というか、都合が悪くなったときにとりあえずキスしとけってやつ、やめてくれませんか」

 玲二が話を曖昧に濁そうと考えたいたことなど想像に容易い。このバツの悪そうな顔つきを見れば、一瞬で自分の考えが間違いではないことに行き着いた。

 その表情を見ていると、むしろ可愛く見えて来てしまうのは我ながら病気かもしれない。惚れた弱みという奴だ。

 尖らせていた唇が自然と弧を描き、気がつけば苦笑していた。それは玲二が私という存在を心の内で意識してくれていることに他ならない。好きな人に嫉妬されるということは今の自分にとっては喜ぶべきことで。

 玲二が私のことをどう思っているのか、ずっと分からなかった。けれどこの一件で、男の影が見えたら嫉妬してくれるレベルには好きになってくれていたのだろう。

「でも……私もごめんなさい。遠藤くんのこと、結果的には隠していたことになっちゃって。このことを知っていたから共演のこと伝えた日に不機嫌になったんですよね?」

「……仕方ないだろ。妻が元カレと演技とはいえ、恋人になるんだ。ムカつくだろ普通。…………こはるは俺のなんだから」

「……またそういうこと言って……」

 相変わらずな物言いに肩をすくめるも、私はもう一度向き合い真剣な面持ちで伝える。

「それでも! 遠藤くんに対してのあの物言いはありえません。今度、絶対に謝ってください」

「なんで俺が……」

「いいですね? もしこの約束を守らないならーーもう二度とご飯は作りませんから」

 玲二は私の圧に一瞬に慄きつつ言い返そうとするもののーー視線がかち合った途端、負けじと目に力を入れた私に負けたのか「ふん」と言って先に目を逸らした。

 だが。
 軽く触れるくらいのキスをする。
 そしてそのあとーー。

「だが、お前は俺のものだ。そのことは絶対に忘れるなよ? いいか?」

 強い眼差しと真剣な顔つきにこくりと頷く。
 玲二の剥き出しの独占欲の一端が垣間見えた一幕だった。


 そしてそのまま玲二は仕事があるからと帰っていった。スタッフに呼ばれて、撮影初日は何事もなく終了し。
 私は映画の撮影で忙しくなっていきーーなかなか会えない日々が続くこととなる。


『へぇ、月ノ島玲二がそんなことをね。確かに見た目からして俺様って感じだけど、独占欲もやばそうだねぇ』

「独占欲っていうんですかね、ああいうの。……玲二さんの場合、自分のテリトリーにあるものが他人の手に渡るのが嫌ってだけじゃ……」

『なぁに自信ないこと言ってんの! 好きでもない人のためにわざわざ仕事抜け出して応援に駆けつけてくれるわけないでしょ? それに、花だって貰ってるし。……正直大金持ちな男ってブランドバッグとかでっかい宝石とか高いだけのもの贈り物に選ぶとばかり思ってたけど。月ノ島玲二って意外とちゃんと見てんのね、こはるのこと』

 自宅に帰ると香澄から着信に気づき、かけ直して電話をしている最中だった。
 玲二とのことについて度々連絡ツールで相談しているのだが、やはり電話で話す方が気持ちも整理できると思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―

七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。 彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』 実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。 ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。 口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。 「また来る」 そう言い残して去った彼。 しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。 「俺専属の嬢になって欲しい」 ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。 突然の取引提案に戸惑う優美。 しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。 恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。 立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

処理中です...