【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ

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27.衝突の狭間に

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「あ、あの遠藤くん。このことはどうか見なかったことにしてくれると……」

「…………花宮はこの人と付き合ってるのか?」

 遠藤は硬い面持ちのまま私に質問をしてくる。
 まあそうだろう。控室を除いたら抱き合う男女がいたのだ。そう思って当然のことだろう。

 だがその質問は私にとって非常に答えにくい質問であり、思わず口籠もってしまうのだがーー。

「いや違う」

 突如、玲二が私たちの会話に割り込む。
 私の身体を胸に収めたまま、悠然とした様子で答えた。

「付き合う? それ以上の関係だ。ーーこはるは俺の妻だ」

 言い切るような玲二の言葉に思わず目を剥きそうになるも、ここまではっきりと断言してくれる事実に心臓が跳ねた。
 私のことを妻として尊重してくれている。そんな気持ちがひしひしと伝わってきて嬉しさが込み上げてくるのだ。

 対して言葉を聞いた遠藤は「……え」と小さくこぼした。

「ほ、んとうなのか、花宮」

 茫然としながら質問する遠藤に戸惑い、一瞬玲二に視線を向ける。視線が混じり合うと、玲二の瞳は『言えよ』と訴えているようで。私は遠藤に向き直り頷いた。

 答えを聞いた遠藤はどこか虚脱したかのように視線を向けてきた。大方、数年ぶりに再開した元カノがすでに既婚だったと聞いて唖然としたのだろう。

 それにしても結婚していることは隠せと言ってきたのは玲二はだったのにと思いながらも遠藤へと笑いかけた。

「あ、あのさ……このこと、一応秘密にしてるから、どうか黙っておいてくれない?」

「…………花宮がそう言うんなら。……でも、いつ結婚したんだ? その方……もしかして月ノ島の方じゃ」

「よく知ってるな」

 玲二はそう言って横柄な態度で頷いた。初対面の相手にまでこうなのかと内心呆れそうになるも、彼の態度がいつもと違うような気がして。

 もしかしてムキになってる?

 玲二の表情を覗き見れば、まるで手に入れた玩具を周囲に見せびらかして誇示する子供のようにも見える。

 そうか、と思い至った。
 玲二は遠藤に対して対抗意識を持っているに違いない。私が遠藤の写っている雑誌を多く持っていたことで、その気持ちが生まれたのだろう。

 なんてプライドの高さなのか。妻が他の男のファンであることがそんなにも気に食わないのだろうか。……実際にはファンではないのだが。

「俺は月ノ島玲二。月ノ島の次期後継者だ」

「はじめまして、月ノ島さん。俺の名前はーー」

「遠藤朝陽だろ? この映画でこいつと共演する予定の」

 どこか不敵な笑みを浮かべ挑戦的に言う玲二に対し、遠藤は戸惑いの面持ちを浮かべていたのだが。

「それで……俺たちの邪魔をするとは空気の読めないやつだな? なにしに来た」

 撮影が始まるから呼びに来たのだろうか。それなら準備してすぐに向かわなければと思いながら遠藤に視線を送る。

「いえ、ただ花宮の様子を見に……今日撮影初日なので緊張してるかなと思ってるので様子を見に来たんですが」

「生憎とこいつの緊張は俺が解いてやるし、お前の出る幕はない。……それともなんだ? こはるの元カレだから、そういう気配りしてやってるのか?」

 玲二の言葉に遠藤は口を戦慄かせ、目を丸くしたのだがーーそれはわたしも同じだった。

 どうして遠藤が元カレなのだと知っているのだろう。一度もそんなこと話したことないのに。

 そう思ったとき、考えが過った。玲二と再会した初日、彼自身の口から聞いたじゃないかーー俺に分からないことはない、と。

 何かしらの手段を使って調べたのだろう。

 部屋の中がしんと静まり返る。

 今わたしの頭の中にあるのは話さなかったことに対する罪悪感と、訳の分からない状況に対する戸惑いだった。
 
 遠藤とのことは別段隠していたわけではなく、余計なことを話さなくてもいいと考えて黙っていたわけだが。結局知られてしまっているわけで。
 所有欲の強い玲二にとってはあまりいい気持ちにならないだろう。

 静まった空気を破ったのは遠藤だった。ぽりぽりと人差し指で頬を掻き、眉を下げながら答える。

「……こはるのことを助けてやらなきゃって気持ちはありました。……けど、それは元カレだからとかそういう問題ではありません。ただ俺がそうしたいと思ったからです」

「そうか、ご大層なこった。ーーだがな、一つ覚えておけ。こはるは俺の妻だ。手を出すようなら…………二度と芸能界にはいられないようにしてやるからな」

「ちょっと! 玲二さん!」

 過激なことを言い出す玲二を止めに入るよう、眉根を寄せて言い募る。
 玲二は俺様ではあるが、初対面の相手にそこまで言うなんて。
 
 だが言われた張本人である遠藤は怖気付くこともなく、むしろ瞳に力を込めて言った。

「あなたがこはるを大切にしているなら手を出すことはないでしょう」

 突如名前呼びになった遠藤に面くらっている私に対し、玲二は「なんだと?」と地の底から這うような声色で凄んだ。
 
 遠藤は気にする素振りもなく、私に向き直った。

「それじゃあまたあとで。多分そろそろスタッフさんが呼びに来ると思うから。……撮影一緒に頑張ろうな」

「え、あ、うん」

「そんじゃ!」

 遠藤はそう言い残し、手を上げながら去っていった。

 部屋に残された玲二は恐ろしいほど不機嫌な様子だった。

 私は恐る恐る話しかける。

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