【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい

文字の大きさ
上 下
30 / 44

29.忠告と撮影

しおりを挟む
  
「でも気をつけなきゃね。昔、こはに告白してきたの遠藤からだったじゃん? 遠藤の好き好きアピール凄すぎて、気づかないこはに劇団のみんな笑ってたんだよ」

「そうなんですか……全然気づかなかった……」

「こはそういう所、結構鈍いからね。円満にお別れしたっていっても、向こうの気持ちが完全になくなったのかって言われてもこっちには分からないんだから」

 香澄の言葉に過去を手繰り寄せる。

 遠藤と別れた理由は単純なことだった。ーー彼が劇団から退団し、芸能事務所に所属することが決まったからだ。

 遠藤は事務所から退団することが条件でスカウトされたのだが、それと同時に私との交際も同じことで。別れることも条件の一つだったのだ。

 その話を聞いて遠藤は断ろうと口走ったのを聞き、私の方から別れを切り出した。最初は抵抗したいた彼も、『芸能界のスターになるのがあなたの夢なんでしょ』という私の言葉に後を押しされて、自ら決断した。

 お互い嫌いあって別れたというわけでもないため、未練がましくならないよう連絡を断つことを決めた。

 付き合った理由は彼からのアプローチに絆されたということもあったのだが、同じ時間を過ごすうちに彼の隣は居心地良くなり。別れることが辛くなかったと言えば嘘になる。

 だが、遠藤のことを男性として好きだったのは過去の話。今はいい人だとは思っているが、恋愛感情はない。
 それに私は玲二のことが好きなのだ。

「でも数年経ってるし、そこまで気にする必要ないんじゃないんですかね……芸能界で現役活動中の遠藤くんならよりどりみどりですし」

『はぁ……これだからこはは……鈍いったらありゃしない。たしかに遠藤の周りには美女が沢山いるかもしれないけど、やっぱり過去に好きになった人に対しては何かしらの感情が残るものでしょ? こはだって、遠藤の載ってる雑誌買ってたし』

 確かに、と納得する。
 劇団に来る途中に買った雑誌の中身を見られていたのかと、香澄の目敏さに苦笑する。

「それはないことはないですが、私が言いたいのは恋愛感情ですよ? さすがに数年経ってまでってことはーー」

『いやいやいや! あのときの遠藤からこはるへのラブラブビームはかなりのもんだったよ……意外と今でも引きずってるってこともありそう。月ノ島玲二の勘も侮れないね』

 そんなこんなで香澄との電話を終え、ベッドに着く。
 玲二から電話での連絡があり『今日も遅くなるから先に寝てろ』とあったので、お言葉に甘えて眠ることにした。

 明日は今日に引き続きまた映画の撮影。
 それも遠藤と一緒のシーンでありーーキスシーンもある。

 先程の香澄の言葉に加え、玲二の不機嫌な表情が脳裏に思い浮かぶがそのまま目を閉じる。
 気を引き締めて取り組まなければ。

 気持ちを露わにしつつ、私は眠りについたーー。





 そして翌日の撮影現場。

「おはよう、花宮。今日もよろしくな!」

 昨日の玲二とのあれこれについての部の感情感じさせない明るい挨拶をくれる遠藤。こはる呼びは昨日の一回だけで、それ以降は苗字呼びになった。 

 結婚したために苗字は変わっているが、芸名も花宮姓のままなので違和感はない。
 私は微笑みながら挨拶を返した。

「おはよう、遠藤くん。うん、頑張ろうね」

 遠藤は爽やかに微笑む。
 撮影がそろそろ始まる。監督やプロデューサーなど、多くの人が動いている中、私は手に持っている台本をもう一度読み返す。

 何度も読み込んだせいでヨレヨレになっている台本。セリフは何度も繰り返し読むことですでにほぼ完璧に暗記しているといえる。

 それでも落ち着かないのは本日の撮影でキスシーンがあるからだろう。劇団での講演でキスシーンのある役を演じることもあったが、やはり舞台と映画撮影では雰囲気も違うし、緊張もひとしおだ。

 現場の端に置かれた椅子にかけ目を閉じ、深呼吸をしていると隣にかける人がいた。目をゆっくりと開け、その人物に視線を向ける。

「……大丈夫か? もしかして緊張してる?」

「遠藤くん……うん、ちょっとね。でも昨日の初日よりは全然マシだよ」

「昨日の花宮はカメラの外ではガチガチだったな。。……でもいざカメラを向けられると表情も変わって、さすがだと思ったよ。舞台で培った経験が生きてるなって思った」

 遠藤は柔和に微笑み、ながら続ける。

「花宮は俺に比べて凄いよ。……俺なんて初めてのドラマ撮影のとき、何度も噛みまくってカットかけられたし、カメラの前でも震えが止まらないしで」

「あの緊張知らずな遠藤くんが!? 本当?」

「うん。慣れてるから緊張しなかったけど、でも初めて舞台立ったときは震えまくってた記憶ある」

 遠藤は私よりも先に劇団スペードに入団していた先輩であり、そのときの話など初耳で驚いた。私が目を丸くしているのを見て遠藤は頭を掻いた。

「……付き合ってるときはさ、花宮にカッコ悪いところ見せたくなくてこう言う話はあんまりしなかったんだ」

 照れたような面持ちの遠藤を好ましく思い、小さく笑う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」 度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。 事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。 しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。 楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。 その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。 ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。 その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。 敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。 それから、3年が経ったある日。 日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。 「私は若佐先生の事を何も知らない」 このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。 目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。 ❄︎ ※他サイトにも掲載しています。

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

御曹司の執着愛

文野多咲
恋愛
甘い一夜を過ごした相手は、私の店も家も奪おうとしてきた不動産デベロッパーの御曹司だった。 ――このまま俺から逃げられると思うな。 御曹司の執着愛。  

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~

けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。 してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。 そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる… ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。 有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。 美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。 真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。 家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。 こんな私でもやり直せるの? 幸せを願っても…いいの? 動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

処理中です...