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打ち上げ②
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私よりも1時間遅れて家に帰ってきたロマンは、私との会話も夕食もそこそこに部屋に行ってしまった。部屋を訪ねると、ロマンは勉強机の前にぼーっと座っていた。
「ロマン……」
ロマンが私の方に顔を向ける。その目は悲しげにも、怒りを堪えているようにも見える。
「エイヴェリー、どうして隠してたんだ?」
「隠すって……何を?」
「ジャンヌたちにされたことだよ!」
いつになく感情的なロマンの声に脚が竦む。彼女はガタンと音を立てて立ち上がり、言葉を失っている私の前までやってくると、強い憤りと悲哀の入り混じった瞳で私を見つめた。
「今日の打ち上げの時に、君の友達のソニアって子が教室に来て、私に動画を観せた。あまりの酷さに言葉を失ったよ。帰りにジャンヌを問い詰めたら、泣きながら謝った。それでも許せなくて……」
一呼吸置いて、震える声でロマンは再び話し出した。
「実は、彼女に交際を迫られてた。彼女の親にも。同性同士だけど、相手の親は寛容みたいで……。私の両親も彼女を気に入ってたよ、いいとこのお嬢さんだからって。答えを返していなかったけど、今日彼女に言ったよ。恋人になるつもりなんかないって。私の大切な妹を傷つけたことを、一生悔やめばいいって」
ロマンの目から涙がこぼれ落ちる。透明な、深い悲しみを閉じ込めた雫。
「ごめんなさい、ロマン……。あなたに心配をかけるのが……悲しませるのが嫌だったのよ」
ロマンの腕が、私を優しく抱きしめる。その温かい腕の中で、泣き出しそうになるのを必死に堪える。
「エイヴェリー、私はあなたを大切に思ってる。あなたが誰かに傷つけられるのは耐えられない。お願いだから、もっと私を頼ってくれ。じゃないと私は、あなたが心配でどうにかなりそうだ」
ロマンは私を、私が思う以上に大切に思ってくれていた。私ときたら、そんな姉との交流を一切断って心を閉ざしていた。きっと彼女には彼女の苦しみがあったのだ。姉として私を思うがゆえに、突き放さなければいけない辛さ。そして、私を心配する気持ち。傷ついた私を思う気持ちが。
私はロマンの腕をそっと解いて、彼女のその優しげなセピア色の目を見つめた。この短いブラウンの巻き毛も、優しげな表情も、ロマンのままだ。
「ロマン、ありがとう。私はあなたを愛してた。今だってそう。これまであなたには散々迷惑をかけた。私は自分の気持ちを押し付けるばかりで、あなたの気持ちなんて考えていなかったわ。あなたは私をこんなに大切に思ってくれていたのに……。本当に、馬鹿よね」
「エイヴェリー……」
「離れてみて分かった。私たちは、きっと普通の姉妹でいたほうがいいのよね。時間はかかるかもしれない。だけど、あなたを姉として愛せるように、良い姉妹になれるように努力するわ」
まだ何か言いたげな姉に背を向けて、自分の部屋に向かう。部屋に入り、ドアを閉じた途端にそれまで堪えてきた涙が溢れてくる。この涙も、湧き上がる痛みとも悲しみともつかぬ感情も、耳に響く自分の嗚咽もーーいつか綺麗に忘れ去ることができるのだろうか。もしもこの感情がいつか来る幸せのためにあったとしても、今の自分にはあまりに重く、切ないほどに鮮明すぎた。
「ロマン……」
ロマンが私の方に顔を向ける。その目は悲しげにも、怒りを堪えているようにも見える。
「エイヴェリー、どうして隠してたんだ?」
「隠すって……何を?」
「ジャンヌたちにされたことだよ!」
いつになく感情的なロマンの声に脚が竦む。彼女はガタンと音を立てて立ち上がり、言葉を失っている私の前までやってくると、強い憤りと悲哀の入り混じった瞳で私を見つめた。
「今日の打ち上げの時に、君の友達のソニアって子が教室に来て、私に動画を観せた。あまりの酷さに言葉を失ったよ。帰りにジャンヌを問い詰めたら、泣きながら謝った。それでも許せなくて……」
一呼吸置いて、震える声でロマンは再び話し出した。
「実は、彼女に交際を迫られてた。彼女の親にも。同性同士だけど、相手の親は寛容みたいで……。私の両親も彼女を気に入ってたよ、いいとこのお嬢さんだからって。答えを返していなかったけど、今日彼女に言ったよ。恋人になるつもりなんかないって。私の大切な妹を傷つけたことを、一生悔やめばいいって」
ロマンの目から涙がこぼれ落ちる。透明な、深い悲しみを閉じ込めた雫。
「ごめんなさい、ロマン……。あなたに心配をかけるのが……悲しませるのが嫌だったのよ」
ロマンの腕が、私を優しく抱きしめる。その温かい腕の中で、泣き出しそうになるのを必死に堪える。
「エイヴェリー、私はあなたを大切に思ってる。あなたが誰かに傷つけられるのは耐えられない。お願いだから、もっと私を頼ってくれ。じゃないと私は、あなたが心配でどうにかなりそうだ」
ロマンは私を、私が思う以上に大切に思ってくれていた。私ときたら、そんな姉との交流を一切断って心を閉ざしていた。きっと彼女には彼女の苦しみがあったのだ。姉として私を思うがゆえに、突き放さなければいけない辛さ。そして、私を心配する気持ち。傷ついた私を思う気持ちが。
私はロマンの腕をそっと解いて、彼女のその優しげなセピア色の目を見つめた。この短いブラウンの巻き毛も、優しげな表情も、ロマンのままだ。
「ロマン、ありがとう。私はあなたを愛してた。今だってそう。これまであなたには散々迷惑をかけた。私は自分の気持ちを押し付けるばかりで、あなたの気持ちなんて考えていなかったわ。あなたは私をこんなに大切に思ってくれていたのに……。本当に、馬鹿よね」
「エイヴェリー……」
「離れてみて分かった。私たちは、きっと普通の姉妹でいたほうがいいのよね。時間はかかるかもしれない。だけど、あなたを姉として愛せるように、良い姉妹になれるように努力するわ」
まだ何か言いたげな姉に背を向けて、自分の部屋に向かう。部屋に入り、ドアを閉じた途端にそれまで堪えてきた涙が溢れてくる。この涙も、湧き上がる痛みとも悲しみともつかぬ感情も、耳に響く自分の嗚咽もーーいつか綺麗に忘れ去ることができるのだろうか。もしもこの感情がいつか来る幸せのためにあったとしても、今の自分にはあまりに重く、切ないほどに鮮明すぎた。
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