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第四章:諸国漫遊Ⅱ
オークの噂と轍の先
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スタットの街にある冒険者ギルドの会議室で、ある噂に対する会議が行われていた。ある噂とは、金属鎧と両手斧を装備したオークが魔物を襲っていた、魔物に襲われているところを助けてくれた、手を動かして何かの合図を送っていた等の内容である。
グレゴリーは冒険者たちから報告された内容を説明した上で、ギルバートとシドに意見を求める。
「ギルバート、シド、お前らはどう思う?」
「放っといてもいいんじゃねえか? 襲われた訳じゃねえんだろ?」
「あっしは、確認だけはしときたいでやす。重装備のオークが進化したら脅威になるのは間違いないですぜ」
グレゴリーは二人の意見に頷き、決断を下す。
「……よし。俺も久々に出るか。例のダンジョンも気になるしな」
グレゴリーが言う例のダンジョンとは、朔がこの世界に来たときに見つけた、馬車の轍が向かった先で見つかったものである。アベルは轍の調査をしていたのだが、轍は暴龍の森から魔の森へと続いており、岩の陰に隠されるように存在するダンジョンの入り口を最近になってようやく発見していた。
「人選はどうしやすか? 魔の森のダンジョンにも行くなら、一般の冒険者は連れていけないですぜ?」
「この三人で良いんじゃねえか?」
「……スミスはどうだ?」
「パスで」
「理由は?」
「頭が固い」
ギルバートのにべもない断り方に、グレゴリーとシドはただため息をつくだけであった。
翌日、グレゴリー達はまず件のオークの探索から始めた。シドを先頭に飛ぶような速度で森の中を駆けて行く。ギルバートが少数精鋭を好む理由はここあり、だらだらと集団で行動するの嫌っていた。発見報告が多い場所を効率良く探索し、半日もかからずに噂のオークを発見した。
シドがハンドサインでグレゴリーとギルバートに止まるように指示する。オークは川辺で水を飲んでおり、三人は茂みに身を隠し、シドが小声で話し始める。
「いやしたね……あの右手の赤い紐は従魔の証じゃないですかい?」
「じゃあ、ちょっくら挨拶に行くか」
「「(おい!)」」
二人が小声で止めるのも聞かず、ギルバートはずかずかとオークに向かって歩いて行った。
「フゴッ?」(なんだ?)
オークは、足音を消すことも無く近づいてくるギルバートにすぐに気付き、彼の方を向いて声を上げる。オークは見知らぬ人物に関わることを避けるために逃げようとするが、既にシドとグレゴリーが別の方向に回り込んでいた。すると、オークは背中にからっていた革袋を地面におろし、中から木の板を取り出す。
「フゴッ!」(1番目!)
オークが取り出した板には次のように書かれていた。
『こんにちは』
「「「は?」」」
オークは三人に見えるように、字が書かれた方を向けてゆっくりと一回転する。三人が呆気にとられている中、次の板を取り出す。
「フゴッ!」(2番目!)
『僕の名前はルースです』
「ルース? なんだそれ!?」
ギルバートら三人が、笑いを堪えつつも戦闘態勢を解かずにいると、ルースは次を掲げる。
『悪いオークじゃないよ!』
「「「ははははは!!」」」
ついに三人は腹を抱えて笑い始め、ルースは最後の看板を掲げた。
『このオークは、サク・フォン・アサクラの従魔であり、修行の旅に出ている。何かあれば、王都にいるモンフォール伯爵まで連絡されたし』
「くっくっく、腹いてえ。あいつ、なんでオークを放し飼いにしてんだよ」
「流石、兄ちゃんでやす。やることが一味も二味も違いやすぜ」
「ナタリアは何やってんだ? あいつに常識を教えとけよ!」
三者三様の態度で朔のことを言う中、ギルバート達は戦闘態勢や殺気を解いて、ルースに近づいていく。その時、スタット側からもの凄い速さで近づいてくる一人の男がいた。
「待ってくれえええええ!」
「ちっ、なんだ?」
「そのオークは敵ではないのです!」
「知ってやす」
「はあはあ……なぜ?」
「今聞いたからな」
駆けつけてきて、息を切らしているスミスに対し、ギルバートは舌打ちをしてぶっきら棒に言い、シドはいつもの調子で答え、グレゴリーはやれやれといった表情で説明した。
スミスはグレゴリー達に断ってから、手話でルースと話し始め、三人は目を見開いてその様子を見つめた。状況を理解したスミスは、グレゴリー達に頭を下げる。
「私の早とちりで申し訳ない。この通りルースとは、サク殿に教えてもらった手話という方法で意思の疎通も取れる。人を襲わないようにとしっかり言い付けてある。討伐依頼はどうか取り下げてほしい」
「討伐依頼は出ちゃいねえから安心しな」
「しかし、その姿は初心者には刺激が強いでやすね。雑にごまかしてやすが、その武具はミスリルや魔鉄製ですぜ?」
シドは既に鑑定を行使しており、ルースの武具が普通ではないことを見破っていた。そして、ギルバートがルースとスミスに有無を言わせぬ口調で告げる。
「よし! ルース、お前ちょっとダンジョンの探索に付き合え。スミスも通訳代わりについてきな」
「良いのですか?!」
スミスはぱあっと表情を明るくしたが、ギルバートはばっさり否定する。
「通訳としてつってんだろ。とりあえず今回だけだ。ルースを進化させて、魔の森の奥に行かせないと、いつまでもここにいたらいずれ討伐の対象になっちまうからな」
「お前は何を勝手なことを……」
ギルドマスターのグレゴリーがいる前で話を進めるギルバートに、グレゴリーが文句を言うがギルバートはさらに言い放つ。
「良いじゃねえか。この状態で人を襲ってねえんだから、ランクが上がっても大丈夫だろ」
「そんな確証どこにもないだろうがよ」
「そんときはあいつがケツを拭けばいいんだよ。放し飼いにしてるのはあいつだからな」
豪快に笑いながら、ギルバートはダンジョンがある方向へと歩き出す。その後ろににやにや笑っているシド、頭を抱えて首を横に振るグレゴリーが続き、スミスも急いでルースについて来るように説明し、彼らの後ろを追いかけるのであった。
※後書き※
諸事情により短いです。すみませんm(_ _)m
スタットの街にある冒険者ギルドの会議室で、ある噂に対する会議が行われていた。ある噂とは、金属鎧と両手斧を装備したオークが魔物を襲っていた、魔物に襲われているところを助けてくれた、手を動かして何かの合図を送っていた等の内容である。
グレゴリーは冒険者たちから報告された内容を説明した上で、ギルバートとシドに意見を求める。
「ギルバート、シド、お前らはどう思う?」
「放っといてもいいんじゃねえか? 襲われた訳じゃねえんだろ?」
「あっしは、確認だけはしときたいでやす。重装備のオークが進化したら脅威になるのは間違いないですぜ」
グレゴリーは二人の意見に頷き、決断を下す。
「……よし。俺も久々に出るか。例のダンジョンも気になるしな」
グレゴリーが言う例のダンジョンとは、朔がこの世界に来たときに見つけた、馬車の轍が向かった先で見つかったものである。アベルは轍の調査をしていたのだが、轍は暴龍の森から魔の森へと続いており、岩の陰に隠されるように存在するダンジョンの入り口を最近になってようやく発見していた。
「人選はどうしやすか? 魔の森のダンジョンにも行くなら、一般の冒険者は連れていけないですぜ?」
「この三人で良いんじゃねえか?」
「……スミスはどうだ?」
「パスで」
「理由は?」
「頭が固い」
ギルバートのにべもない断り方に、グレゴリーとシドはただため息をつくだけであった。
翌日、グレゴリー達はまず件のオークの探索から始めた。シドを先頭に飛ぶような速度で森の中を駆けて行く。ギルバートが少数精鋭を好む理由はここあり、だらだらと集団で行動するの嫌っていた。発見報告が多い場所を効率良く探索し、半日もかからずに噂のオークを発見した。
シドがハンドサインでグレゴリーとギルバートに止まるように指示する。オークは川辺で水を飲んでおり、三人は茂みに身を隠し、シドが小声で話し始める。
「いやしたね……あの右手の赤い紐は従魔の証じゃないですかい?」
「じゃあ、ちょっくら挨拶に行くか」
「「(おい!)」」
二人が小声で止めるのも聞かず、ギルバートはずかずかとオークに向かって歩いて行った。
「フゴッ?」(なんだ?)
オークは、足音を消すことも無く近づいてくるギルバートにすぐに気付き、彼の方を向いて声を上げる。オークは見知らぬ人物に関わることを避けるために逃げようとするが、既にシドとグレゴリーが別の方向に回り込んでいた。すると、オークは背中にからっていた革袋を地面におろし、中から木の板を取り出す。
「フゴッ!」(1番目!)
オークが取り出した板には次のように書かれていた。
『こんにちは』
「「「は?」」」
オークは三人に見えるように、字が書かれた方を向けてゆっくりと一回転する。三人が呆気にとられている中、次の板を取り出す。
「フゴッ!」(2番目!)
『僕の名前はルースです』
「ルース? なんだそれ!?」
ギルバートら三人が、笑いを堪えつつも戦闘態勢を解かずにいると、ルースは次を掲げる。
『悪いオークじゃないよ!』
「「「ははははは!!」」」
ついに三人は腹を抱えて笑い始め、ルースは最後の看板を掲げた。
『このオークは、サク・フォン・アサクラの従魔であり、修行の旅に出ている。何かあれば、王都にいるモンフォール伯爵まで連絡されたし』
「くっくっく、腹いてえ。あいつ、なんでオークを放し飼いにしてんだよ」
「流石、兄ちゃんでやす。やることが一味も二味も違いやすぜ」
「ナタリアは何やってんだ? あいつに常識を教えとけよ!」
三者三様の態度で朔のことを言う中、ギルバート達は戦闘態勢や殺気を解いて、ルースに近づいていく。その時、スタット側からもの凄い速さで近づいてくる一人の男がいた。
「待ってくれえええええ!」
「ちっ、なんだ?」
「そのオークは敵ではないのです!」
「知ってやす」
「はあはあ……なぜ?」
「今聞いたからな」
駆けつけてきて、息を切らしているスミスに対し、ギルバートは舌打ちをしてぶっきら棒に言い、シドはいつもの調子で答え、グレゴリーはやれやれといった表情で説明した。
スミスはグレゴリー達に断ってから、手話でルースと話し始め、三人は目を見開いてその様子を見つめた。状況を理解したスミスは、グレゴリー達に頭を下げる。
「私の早とちりで申し訳ない。この通りルースとは、サク殿に教えてもらった手話という方法で意思の疎通も取れる。人を襲わないようにとしっかり言い付けてある。討伐依頼はどうか取り下げてほしい」
「討伐依頼は出ちゃいねえから安心しな」
「しかし、その姿は初心者には刺激が強いでやすね。雑にごまかしてやすが、その武具はミスリルや魔鉄製ですぜ?」
シドは既に鑑定を行使しており、ルースの武具が普通ではないことを見破っていた。そして、ギルバートがルースとスミスに有無を言わせぬ口調で告げる。
「よし! ルース、お前ちょっとダンジョンの探索に付き合え。スミスも通訳代わりについてきな」
「良いのですか?!」
スミスはぱあっと表情を明るくしたが、ギルバートはばっさり否定する。
「通訳としてつってんだろ。とりあえず今回だけだ。ルースを進化させて、魔の森の奥に行かせないと、いつまでもここにいたらいずれ討伐の対象になっちまうからな」
「お前は何を勝手なことを……」
ギルドマスターのグレゴリーがいる前で話を進めるギルバートに、グレゴリーが文句を言うがギルバートはさらに言い放つ。
「良いじゃねえか。この状態で人を襲ってねえんだから、ランクが上がっても大丈夫だろ」
「そんな確証どこにもないだろうがよ」
「そんときはあいつがケツを拭けばいいんだよ。放し飼いにしてるのはあいつだからな」
豪快に笑いながら、ギルバートはダンジョンがある方向へと歩き出す。その後ろににやにや笑っているシド、頭を抱えて首を横に振るグレゴリーが続き、スミスも急いでルースについて来るように説明し、彼らの後ろを追いかけるのであった。
※後書き※
諸事情により短いです。すみませんm(_ _)m
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