世界は終わるらしい

瀬戸森羅

文字の大きさ
4 / 5

わすれんぼのゆゆ

しおりを挟む
 再び目を開けた時、既に日は傾いて茜色の空が見えていた。
「ん……夕方じゃん……てか重……」
 ゆゆは容赦なく私の上に被さり続けていたようだ。尚も寝息を立てているのでその頭を軽く撫でる。
「んに……」
 ゆゆはだらしなく口元を緩めていて、涎が口を伝って来ているのに気づいた。
「ちょ、ちょちょ!ゆゆ!垂れる!垂れるからっ!」
 ゆゆの下敷きになっている私は身動きが取れず、その爆弾の投下に抗うことはできないのだ。
「じゅ…んぅ……」
 私の声に反応したゆゆは若干涎を啜ったが未だに起きる気配はない。起きてもらわなければ再び垂れてくるに違いない。
 私はゆゆの背中をぺんぺん叩きながらゆゆを呼び起こした。
「あ、みゆちゃん、起きたの」
 そう言ってゆゆはむくりと身を起こす。……なんとかなったか。
 そう思ったのもつかの間。ゆゆが離れた私の胸元に湿った感触がある。
「あぁ~!」
 私の服はもう既に涎でびしょびしょになっていた……。
「あ、ごめん……」
 そう言ってゆゆは恥ずかしそうに両手で顔を半分隠す。
 かわいいから許そう!

 結局私は服を乾かさなくてはならなくなったため今日はゆゆの家に泊まることにした。シャワーを借りて寝巻きも貸してもらう。
 ゆゆはお風呂も一緒に入りたがったが小さなユニットバスなので遠慮してもらった。
 2人ともお風呂を済ませてあとは寝るばかりなのだが私たちはテレビを見ながら狭いベッドの上で寛いでいた。
「今日は楽しいねぇ」
 ゆゆは嬉しそうに足をぱたぱたさせる。
「ほんと。なんか、家族と一緒にいるみたい。久々だな、こういうの」
 自分で言ってちょっとだけ寂しくなる。
「かぞく?」
 ゆゆは何故か問いかけるようにそう言う。
「そう。ゆゆも思わない?一緒にいられる人がいるのって家族みたいだって」
「えっと……」
 ゆゆは目を逸らしながら少し焦った風にしている。
「……どうしたの?」
 その様子が気になるので私も耐えかねて訊いてみることにした。
「……かぞくって……なに?」
 ゆゆの言葉を聞いて私は絶句した。
 抜けた子だとは思っていたがまさかここまでだとは。
「あの……ゆゆ。そういう冗談は良くないと思う」
 私は少なからず不快に思ってしまったためつい顔をしかめた。
「ちがう、ちがうよぉ」
 そんな私を見たからか、ゆゆは今にも泣き出さんばかりに声を震わせながら否定する。
「……ゆゆ、お母さんは?」
「……いないよ」
「……いつから?」
「わかんないよ……」
 そう言ってゆゆはとうとうぽろぽろと涙をこぼし始めた。
 私はそっとゆゆを抱きしめる。か弱い少女はこんな過酷の中で何も考えずに全てを包容出来るほどに強いものではないのだ。きっとゆゆは、もう壊れてしまっている。そんな穴の空いた器に、私は身勝手を注ぎ込んでしまっていたのだ。
「……ごめんね、ゆゆ」
 ゆゆは泣き続けた。そうしていつの間にか2人とも眠ってしまった。

「おはよ、みゆちゃん」
 ゆゆの声で目を覚ます。昨日のことなど無かったかのようにゆゆは楽しそうに食事の支度をしている。
「ゆゆ……昨日は、ごめん」
「ん~?楽しかったじゃん?」
 やっぱり。ゆゆは楽しいこと以外憶えていられないのだ。
「そ、そうだね!」
「うんっ!あ、そういえばね、昨日面白い夢見たんだぁ」
 ゆゆは手のひらをぱんと叩き合わせて続ける。
「お魚にたくさん囲まれててね、みゆちゃんがその中で歌ってるの!ふふ、かわいかったなぁ」
 そう言ってゆゆはにこやかに笑った。
「ふふ。ほんとね、それは面白い」
 守らなきゃ。私がこの子を。
 この笑顔のためになら私はなんでも言うことをきいてあげられるような気がした。
 ゆゆはそんな決意など何知らぬふわふわとした顔のまま食事の準備を進めている。
「ゆゆ。何作ってるの?」
 私はベッドから立ち上がりゆゆの立つキッチンカウンターへ回る。
「煮付にしてぇ、それとお味噌汁とぉ、あとオシャミさん」
 もう大半が完成している。あとは盛り付けるくらいのものだ。
「手伝わせて」
 私は皿を並べて盛り付けを手伝った。
「ありがと」
「こちらこそ!寝ててごめんね」
「んーん、おもてなしだから」
 料理を机に並べて2人で向かい合って椅子に座った。
「さ、食べよ」
「いただきます!」
 また一日が始まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...