世界は終わるらしい

瀬戸森羅

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わすれんぼのゆゆ

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 再び目を開けた時、既に日は傾いて茜色の空が見えていた。
「ん……夕方じゃん……てか重……」
 ゆゆは容赦なく私の上に被さり続けていたようだ。尚も寝息を立てているのでその頭を軽く撫でる。
「んに……」
 ゆゆはだらしなく口元を緩めていて、涎が口を伝って来ているのに気づいた。
「ちょ、ちょちょ!ゆゆ!垂れる!垂れるからっ!」
 ゆゆの下敷きになっている私は身動きが取れず、その爆弾の投下に抗うことはできないのだ。
「じゅ…んぅ……」
 私の声に反応したゆゆは若干涎を啜ったが未だに起きる気配はない。起きてもらわなければ再び垂れてくるに違いない。
 私はゆゆの背中をぺんぺん叩きながらゆゆを呼び起こした。
「あ、みゆちゃん、起きたの」
 そう言ってゆゆはむくりと身を起こす。……なんとかなったか。
 そう思ったのもつかの間。ゆゆが離れた私の胸元に湿った感触がある。
「あぁ~!」
 私の服はもう既に涎でびしょびしょになっていた……。
「あ、ごめん……」
 そう言ってゆゆは恥ずかしそうに両手で顔を半分隠す。
 かわいいから許そう!

 結局私は服を乾かさなくてはならなくなったため今日はゆゆの家に泊まることにした。シャワーを借りて寝巻きも貸してもらう。
 ゆゆはお風呂も一緒に入りたがったが小さなユニットバスなので遠慮してもらった。
 2人ともお風呂を済ませてあとは寝るばかりなのだが私たちはテレビを見ながら狭いベッドの上で寛いでいた。
「今日は楽しいねぇ」
 ゆゆは嬉しそうに足をぱたぱたさせる。
「ほんと。なんか、家族と一緒にいるみたい。久々だな、こういうの」
 自分で言ってちょっとだけ寂しくなる。
「かぞく?」
 ゆゆは何故か問いかけるようにそう言う。
「そう。ゆゆも思わない?一緒にいられる人がいるのって家族みたいだって」
「えっと……」
 ゆゆは目を逸らしながら少し焦った風にしている。
「……どうしたの?」
 その様子が気になるので私も耐えかねて訊いてみることにした。
「……かぞくって……なに?」
 ゆゆの言葉を聞いて私は絶句した。
 抜けた子だとは思っていたがまさかここまでだとは。
「あの……ゆゆ。そういう冗談は良くないと思う」
 私は少なからず不快に思ってしまったためつい顔をしかめた。
「ちがう、ちがうよぉ」
 そんな私を見たからか、ゆゆは今にも泣き出さんばかりに声を震わせながら否定する。
「……ゆゆ、お母さんは?」
「……いないよ」
「……いつから?」
「わかんないよ……」
 そう言ってゆゆはとうとうぽろぽろと涙をこぼし始めた。
 私はそっとゆゆを抱きしめる。か弱い少女はこんな過酷の中で何も考えずに全てを包容出来るほどに強いものではないのだ。きっとゆゆは、もう壊れてしまっている。そんな穴の空いた器に、私は身勝手を注ぎ込んでしまっていたのだ。
「……ごめんね、ゆゆ」
 ゆゆは泣き続けた。そうしていつの間にか2人とも眠ってしまった。

「おはよ、みゆちゃん」
 ゆゆの声で目を覚ます。昨日のことなど無かったかのようにゆゆは楽しそうに食事の支度をしている。
「ゆゆ……昨日は、ごめん」
「ん~?楽しかったじゃん?」
 やっぱり。ゆゆは楽しいこと以外憶えていられないのだ。
「そ、そうだね!」
「うんっ!あ、そういえばね、昨日面白い夢見たんだぁ」
 ゆゆは手のひらをぱんと叩き合わせて続ける。
「お魚にたくさん囲まれててね、みゆちゃんがその中で歌ってるの!ふふ、かわいかったなぁ」
 そう言ってゆゆはにこやかに笑った。
「ふふ。ほんとね、それは面白い」
 守らなきゃ。私がこの子を。
 この笑顔のためになら私はなんでも言うことをきいてあげられるような気がした。
 ゆゆはそんな決意など何知らぬふわふわとした顔のまま食事の準備を進めている。
「ゆゆ。何作ってるの?」
 私はベッドから立ち上がりゆゆの立つキッチンカウンターへ回る。
「煮付にしてぇ、それとお味噌汁とぉ、あとオシャミさん」
 もう大半が完成している。あとは盛り付けるくらいのものだ。
「手伝わせて」
 私は皿を並べて盛り付けを手伝った。
「ありがと」
「こちらこそ!寝ててごめんね」
「んーん、おもてなしだから」
 料理を机に並べて2人で向かい合って椅子に座った。
「さ、食べよ」
「いただきます!」
 また一日が始まる。
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