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新しい日常
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快晴の空の下、私たちの舟はどんどん町を下っていく。
風が心地良いし景色だって良い。
水路の両端にはずっと居住区が続いているので人々の暮らしを垣間見ることができる。
洗濯を干す人。船着場に腰掛ける子ども。美味しそうなカレーの匂い。
5年も経てば人はこうして安全圏を作って生活できている。
あの日の絶望を思えば人がいかに強かで図太い生き物かがわかる。
ゆゆとともにいられることも奇跡に近いことだ。この子と私は本来出会うことすらなかっただろうに、こうして同じ舟に乗るくらいの仲だ。
「……あれ?そういえば、ゆゆと私って、どこで出会ったんだっけ?」
思えば記憶はやや不鮮明だ。避難所で出会ったのだろうがここまで一緒に居る仲にまでなっているのも少し疑問が残る。
「えぇ?忘れちゃったのぉ?」
ゆゆは少し残念そうな声をあげる。つい声に出してから自分で気づいたが面と向かってそんなことを尋ねるのは友人とはいえ失礼なことだった。申し訳ない……。
「……どこだっけ?」
ゆゆは自分でも答えられずに首をかしげた。
あぁ、この子は結局そういう子だった。
思えばそんな底抜けに間の抜けた、しかしある種なんでも受け容れてくれる包容力に私は惹かれたのだった。
「ふふ、なんとなくわかったよ」
「ね、やっぱりミント味」
そう言ってゆゆは笑う。
相変わらず意味はわからないけど、何も心配なさそうに優しく微笑むゆゆを見ているだけで、私は癒されるのだった。
気がつけばもう水門エレベーターが見えてきた。あっという間にもう1時間が経っていた。
「はやかったね」
「ねぇ~」
水門エレベーターに入り住民カードをリーダーにかざす。
ぴっと音がなり扉がしまると水位が上昇していく。
三分ほどじっとしていると再び扉が開く。やや急勾配のカーブを下ると再び私たちは町の上の方まで帰ってきた。
「やぁ、楽しかったねぇ」
「そうだね!」
舟に乗りながらゆゆとたわいもない会話をしてゆゆの船着場まで行く。
「あがってく?」
「おじゃましよっかな」
もう昼になっていた。ゆゆは私に昼食を振舞ってくれるつもりらしくピンク色のエプロンを腰に巻いた。
「みゆちゃん、何食べたい?」
「えぇ?じゃあ……んー」
何食べたい、って言われて即答できる人、多分ゼロ人。
「ゆゆは?」
「ゆゆはぁ……」
そう言ったままゆゆは固まる。
「はは、なかなか決められないよね」
「そうだよね。あははは。あはははは」
ゆゆも同じことを思ったようで笑っていた。
「じゃどうしよっか」
「冷蔵庫みて」
「いい?」
「うん」
ゆゆはぱたりと冷蔵庫の扉を開け放つ。
中にはやはり海鮮素材がどさり。
「よし、決めたよ」
「おぉっ」
「海鮮チャーハンを作る!」
「ホントに出来るのぅお?」
「できるできる!ゆゆはそこに座ってて」
私はゆゆを椅子に座らせると早速キッチンで調理に取り組む。
エビやらホタテやらの海鮮素材を出しそれらを解凍しオシャミも水につけてほぐす。そうしている間に卵をといておく。そしてネギを刻み海鮮素材と合わせる。これらを油で熱したフライパンにオシャミとともにぶちこむ。あとはもう炒めるだけだ。焦がさず、また均一に火が通るように気を遣いながらフライパンを振る。そして頃合いを見て皿に盛り付ける。
「おあがりよっ!」
そいつをゆゆの前に持っていった。
「ん~いい匂い」
ゆゆは目を細めながらその香りを楽しんでいる。
スプーンを2つ用意してゆゆに手渡して向かいに座る。
「いただきますっ!」
2人で手を合わせて食前の号令を行った。
そしてぷりぷりとした身を持つエビをひとつ含んだチャーハンの一匙を口に運ぶ。
「ん~」
自分の好みに合わせて作ったのだ。不味いハズがない!
ゆゆは……。
「……」
ゆゆの方を見ると匙を口に入れたまま固まっていた。
「ゆ、ゆゆ!?」
「はっ!」
私が声をかけると正気を取り戻したように匙を口から抜き咀嚼を再開した。
「一口目から美味しすぎて……」
それはなによりだ。
食事を終え片付けをしていると眠気が襲ってきた。昼下がりに陽光を浴びながら流水のBGMに晒されていれば、それはもう睡眠導入剤と変わりない。
片付けを終え2人でベッドに腰掛けるも私は眠気に耐えられなさそうだった。
「ちょっと眠くなってきちゃった……そろそろ帰るよ」
私はそう言い立ち上がろうとした。
が、ゆゆが私の服の裾を掴みぐいと引っ張る。
私は再び座らされすぐさまゆゆは私の両肩に手をかけるとベッドに優しく押し倒す。
「おやすみぃ」
そう言ってゆゆも私に覆いかぶさったまま目を閉じた。
「えぇ~いいのぉ?」
まぁゆゆが言うならいいか。そう思って私も目を閉じた。
風が心地良いし景色だって良い。
水路の両端にはずっと居住区が続いているので人々の暮らしを垣間見ることができる。
洗濯を干す人。船着場に腰掛ける子ども。美味しそうなカレーの匂い。
5年も経てば人はこうして安全圏を作って生活できている。
あの日の絶望を思えば人がいかに強かで図太い生き物かがわかる。
ゆゆとともにいられることも奇跡に近いことだ。この子と私は本来出会うことすらなかっただろうに、こうして同じ舟に乗るくらいの仲だ。
「……あれ?そういえば、ゆゆと私って、どこで出会ったんだっけ?」
思えば記憶はやや不鮮明だ。避難所で出会ったのだろうがここまで一緒に居る仲にまでなっているのも少し疑問が残る。
「えぇ?忘れちゃったのぉ?」
ゆゆは少し残念そうな声をあげる。つい声に出してから自分で気づいたが面と向かってそんなことを尋ねるのは友人とはいえ失礼なことだった。申し訳ない……。
「……どこだっけ?」
ゆゆは自分でも答えられずに首をかしげた。
あぁ、この子は結局そういう子だった。
思えばそんな底抜けに間の抜けた、しかしある種なんでも受け容れてくれる包容力に私は惹かれたのだった。
「ふふ、なんとなくわかったよ」
「ね、やっぱりミント味」
そう言ってゆゆは笑う。
相変わらず意味はわからないけど、何も心配なさそうに優しく微笑むゆゆを見ているだけで、私は癒されるのだった。
気がつけばもう水門エレベーターが見えてきた。あっという間にもう1時間が経っていた。
「はやかったね」
「ねぇ~」
水門エレベーターに入り住民カードをリーダーにかざす。
ぴっと音がなり扉がしまると水位が上昇していく。
三分ほどじっとしていると再び扉が開く。やや急勾配のカーブを下ると再び私たちは町の上の方まで帰ってきた。
「やぁ、楽しかったねぇ」
「そうだね!」
舟に乗りながらゆゆとたわいもない会話をしてゆゆの船着場まで行く。
「あがってく?」
「おじゃましよっかな」
もう昼になっていた。ゆゆは私に昼食を振舞ってくれるつもりらしくピンク色のエプロンを腰に巻いた。
「みゆちゃん、何食べたい?」
「えぇ?じゃあ……んー」
何食べたい、って言われて即答できる人、多分ゼロ人。
「ゆゆは?」
「ゆゆはぁ……」
そう言ったままゆゆは固まる。
「はは、なかなか決められないよね」
「そうだよね。あははは。あはははは」
ゆゆも同じことを思ったようで笑っていた。
「じゃどうしよっか」
「冷蔵庫みて」
「いい?」
「うん」
ゆゆはぱたりと冷蔵庫の扉を開け放つ。
中にはやはり海鮮素材がどさり。
「よし、決めたよ」
「おぉっ」
「海鮮チャーハンを作る!」
「ホントに出来るのぅお?」
「できるできる!ゆゆはそこに座ってて」
私はゆゆを椅子に座らせると早速キッチンで調理に取り組む。
エビやらホタテやらの海鮮素材を出しそれらを解凍しオシャミも水につけてほぐす。そうしている間に卵をといておく。そしてネギを刻み海鮮素材と合わせる。これらを油で熱したフライパンにオシャミとともにぶちこむ。あとはもう炒めるだけだ。焦がさず、また均一に火が通るように気を遣いながらフライパンを振る。そして頃合いを見て皿に盛り付ける。
「おあがりよっ!」
そいつをゆゆの前に持っていった。
「ん~いい匂い」
ゆゆは目を細めながらその香りを楽しんでいる。
スプーンを2つ用意してゆゆに手渡して向かいに座る。
「いただきますっ!」
2人で手を合わせて食前の号令を行った。
そしてぷりぷりとした身を持つエビをひとつ含んだチャーハンの一匙を口に運ぶ。
「ん~」
自分の好みに合わせて作ったのだ。不味いハズがない!
ゆゆは……。
「……」
ゆゆの方を見ると匙を口に入れたまま固まっていた。
「ゆ、ゆゆ!?」
「はっ!」
私が声をかけると正気を取り戻したように匙を口から抜き咀嚼を再開した。
「一口目から美味しすぎて……」
それはなによりだ。
食事を終え片付けをしていると眠気が襲ってきた。昼下がりに陽光を浴びながら流水のBGMに晒されていれば、それはもう睡眠導入剤と変わりない。
片付けを終え2人でベッドに腰掛けるも私は眠気に耐えられなさそうだった。
「ちょっと眠くなってきちゃった……そろそろ帰るよ」
私はそう言い立ち上がろうとした。
が、ゆゆが私の服の裾を掴みぐいと引っ張る。
私は再び座らされすぐさまゆゆは私の両肩に手をかけるとベッドに優しく押し倒す。
「おやすみぃ」
そう言ってゆゆも私に覆いかぶさったまま目を閉じた。
「えぇ~いいのぉ?」
まぁゆゆが言うならいいか。そう思って私も目を閉じた。
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