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佐藤一家の家族の形

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「真央、BL嫌悪されなくてよかったわね」
「ほんとにそれ!」
「お菓子作ったから俊介君にも渡しなさい」
「はーい!いってきます!」

ガチャンと玄関の扉を開けて、固まる。
俊介が家の前にいたのだ。

「え、どうしてここに?」
「一緒に行こうかと思って待ってた」

きりっとした顔で言われても、行動が間抜けだ。

「チャイム鳴らしてくれてよかったのに。あとLINE」
「LINEはした。既読つかなかったけど」
「え!?あ、ほんとだ」

オレはLINEは家族以外としないから、あまり見るクセがない。
しかも朝なんて家族は大体家にいるからLINEをしない。
俊介も朝はあまりLINEしてこない。
オレは申し訳ない気持ちになる。

「チャイムは…………していいのか、わからなかった」
「これからはして!?」

少しだけ眉を下げる姿は同情を誘う。
これだからイケメンは。

「これからはって、これからもいいのか?」
「あっ!…………うん、俊介がいいなら」

受け入れてもらえたが、これからがある前提で言ってしまっていた自分に恥ずかしくなった。



朝、学校でのんびりと俊介と話していた時。
急に廊下が、緊張感に包まれた騒めきで支配される。

そんな中を通ってオレ達の教室の扉を開けたのは。

「真央ちゃん!!」
「ちか!?」

幼馴染である小林千景。

ちかはオレに勢いよく飛びつくから、いつもオレはよろける。
しかし今日は俊介が支えてくれたおかげで飛びつかれただけでよろけるという醜態を晒さずにすんだ。


ちかは、ピアスとブレスレットをつけてはいるが、制服を着崩してはいなかった。

(って、違う)

「ちか、なんでここにいるの!?」
「えへへ、サプラーイズ!!みんなにも秘密にしててもらったんだ。昨日言っちゃうよりも今日教えられる方が驚くでしょ?」
「うん、めちゃくちゃ驚いた!」

オレよりも背が小さいちかは、オレよりも力が強い。
そんなちかを俊介は勢いよくべりっと剥がしてみせる。

「真央、コイツとどういう関係だ?」
「「幼馴染」」
「オマエには聞いてねぇよ」
「ふんっ!そんなの知らないもん」
「ああ!?」

(あ、絶対仲悪い)

オレはこの一瞬で悟る。


「真央ちゃん、今日は真央ちゃんの部屋で勉強したい!」
「ん~~、ごめん。今日は俊介と遊ぶから。自分の部屋でやって。ごめんね」
「え~~」

オレとちかの顔の間に、今度は手刀が落とされる。
勢いが凄くて、ぶんって音が鳴った。

「真央、友達を入れたのは初めてじゃなかったのか…………?」

(可愛い!!)

所謂かわいそ可愛いというやつで、捨てられた子犬のきゅーんという幻聴が聞こえてきそうだ。

「ん、ちかは幼馴染で、家族だからカウント外」
「「カウント外……」」

声は揃ったのに、いっそ面白いほど声色が全く違った。
俊介は挑発するように。
ちかは少し悲しそうに、複雑に。


二人がオレの上でバチバチと火花を散らす。
オレを挟むのはやめていただきたい。

「あ!真央ちゃん、バイト求人見てたの?」
「うん、大学に向けてお金貯めようかなって」
「ママ達は絶対出て行くの反対するよ?」

それはわかっている。
でも、オレは子供のことを考えずに自分達のことを考えて生活する期間があの人達には必要だと思うのだ。


俊介が眉間に皺を寄せていることに気がつく。

「どうしたの?」
「いや」

俊介は首をゆったりと振る。
何をやっても様になるなぁとオレは羨ましく思う。

「真央ちゃん、家にあげるなら早めに説明しておいたほうがいいんじゃない?」
「あー……、そう、だね」

オレはみんながそれで幸せなのならいいと納得しているが、外から見てオレの家族の形は歪なのだと理解している。
だから、家族のことは大好きだが、初めての仲のいい友達が離れてしまうかもしれないと思うと気が重い。

「俊介、今日はオレん家言ったら最初に重い話してもいい?」
「ああ」

俊介は真剣に頷いてくれた。





「どうぞ」

オレは俊介を部屋に招き座らせると、ジュースの準備をしにキッチンへと歩く。

「ママ達、オレ、ママ達のこと友達に話していい?」
「「勿論」」

ママ達は頷くとリビングのソファから立ってオレの側へ来ると、頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。

「もう!」

オレは怒ったフリをして、ジュースのペットボトルとコップを持って上へあがる。


一応ノックをしてから扉を開ける。
ジュースまでセッティングして、オレは漸く口を開く。
時間稼ぎもここまでだ。

「俊介、受け入れられないんだったらそれでいいから」

(よくない。いやだ。まだまだ一緒に遊びたい)

俊介からは見えないように膝の上で拳をぎゅうと握りしめる。


「オレの家、佐藤家にはママが二人、パパが一人住んでいる。ママのうち一人がオレを産んだ人で、一人がちかを産んだ人なんだ」

俊介は少し納得したように頷く。
今朝の、オレの家族発言の意味を少し理解したらしい。

「三人は、三人で愛し合っているんだ」
「…………おう」

予想外だったらしく、少し気の抜けた返事を返される。

「で、オレの血の繋がった人達は離婚している」
「…………おう?つまり、真央がパパと読んでいる人は、真央とアイツどっちとも血が繋がってないのか?」

オレは苦笑する。
そうとれるよな。

「いや、オレと血の繋がった父親だ。だけどいつの間にか三人で愛し合っていて、オレが中学に上がると同時に離婚した。どっちかだけと結婚している状態なのは違うからって」

いつの間にかそういう三人で愛し合う形に落ち着いていて、オレは何も言わなかったが察していた。
それはちかも同様で。
急に切り出されたことではあったが、驚きはしたけど負の感情ではなかった。


オレはどの両親も大好きだ。


「……どう?嫌悪感ある?」
「ない」

言い切られて安堵する。

「俺の両親も離婚してるしな」
「そこじゃない気がする」

少しずれた発言につっこんでしまう。


「……んん。大事なのはここじゃないから。愛なんてどんな形でもいいだろ。幸せなんだろ?」

本人もちょっとずれていることには気がついていた。

(愛なんてどんな形でもいい。うん、そのとおり)

「うん!幸せ」

勢いよく肯定する。

(言い切ってくれてありがとう)

照れ臭くて声には出せないから、心の中で。

そんな簡単に言い切れはしないだろう。
だけど迷わず言ってくれた俊介に嬉しさが込み上げる。

オレの中で一番の満面の笑みを浮かべる。
そして分かりきった質問を。

「これからも家に来てくれる?」
「勿論だ」



それに安堵したオレは安心して俊介を夕食に招き、オレの大好きな家族を紹介した。





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