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旅人3箇条

自給自足プラン

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 エイジヒルとヒューは幽街画廊1階の食堂に居る。
 食堂と言っても部屋の真ん中に木製の長テーブルがあるだけで、調理場は別室でいてそれほど広くは無い。長テーブルの両側に椅子5脚づつあり、10人座れる。
 ダークブラウンの壁の所々に、ヒューが描いた野菜や果物の絵が掛けてある。

 食堂にある鳩時計が午後6時を知らせると直ぐに食堂のシャンデリアの灯りが灯る。シャンデリアに仕込まれた。火の妖精由来の妖石が発光する仕組みだ。
 シャンデリアは、それ程に明るく無いが、妖精自体が常に発光しているので丁度良い明るさと言える。
 エイジヒルがテーブルに目を落とすと、ポン、ポンと弾ける様な音と共に、フランスパンとシチューの入った皿が次々と出現する。
「ハリーありがとう。」
 ハリーと言うのは、幽街画廊に住む火の妖精で、主に食事の準備や調理をしてくれている。
 お喋りで陽気な妖精らしいが、残念ながらエイジヒルには感知出来ないが、ヒューにとっては弟分の様な存在で、彼には珍しく呼び捨てで呼ぶ間柄だ。
 
 エイジヒルは、硬いフランスパンをちぎって、ビーフシチューに浸し口に運んだ。
 そこそこに美味い。

 しばらくして、ナセとハズが食堂に来た。

「好き所に掛けてよ。あと、おかわりは自由ね。」

「ありがとうございます。」
 
「・・・」

   ハズが愛想良くお礼を言った後に、ヒューの向かいの席に腰を降ろした。ヒューの向かいとはいえ、ヒューは椅子ではなくテーブルの上に居た。
 ヒューの隣にはエイジヒルが居て、その向かいにナセが座った。

「今日は、食欲無いってさ。悪いけどほっといてやってよ。」
 
 ナセが突然喋り出したのでエイジヒルは面食らったが、ハリーとしゃべっているらしい。
 
「せっかく用意してもらったのにすいません。」

「お気遣いなく、ありがとうございます。

 ハズが見えなくなったもう1人の妖精について話しているらしい。
 どうやら、目の前の2人には、ハリーが見えていると言うことか、火と風の妖精は相性が良いと言うが、火の妖精は、風の妖精に比べて圧倒的に希少な妖精なのだ。

「いいじゃないか別に、君には関係ないだろ!」

「すいません。ナセも不安なんです。」

「ハリーいい加減にしろよ。 
 君は一言多いんだよ。」

「ハズとバルが一番辛いんだよ。
 だからさぁ、ほっとけよ!」

「ナセ!ハリーさんは私たちの為に言ってくれてるのよ!」

「ハズ、僕はなぁコイツらと馴れ合うつもりは無いんだ。
 だってさ、怪しすぎるだろコイツら!」

「おい君、今、コイツらって2回言ったろ!」

「エイさん、勝手に入って来て、突っ込む所そこか!」

「入り口探してたんだよ。
 ところでヒュー、ハリーの奴は何言ってんの!」

「君が、知った所でややこしくなるだけだからさ、もし君が知性があると自負しているなら、今はカカシでいてくれ。」

「・・・・」

「あぁ、ひょっとしてお前ら、自分の仲間も感知出来ないの?」

「・・・・!」

 エイジヒルとハリーに対する、ナセの心無い言葉に皆が凍りついた。
 本来は、エイジヒルとハリーにぶつけた言葉だろうが、今の状況で一番応えるのは、"家族"が見えなくなったハズであるはず。
 エイジヒルに感知は出来ないが、ハリーも多分、凍りついていることだろう。

「ソレ言っちゃあな。」
 
僅かな静寂の中にヒューの呟きが響いた。
 慌てて、ハズを見るナセの引きつった顔は、今の状況を知らなければ、非常に滑稽である。
 しかし、当のハズは、応えて無い様で冷たい表情でシチューを食している。
 
「ヒューさん、宿泊プランの話をお願いします。」
 
「ハズ!こんな宿、メシ食ったら出るぞ!」
 
 ナセが、怒鳴りつけた後に、ハズは表情を変えずにナセを一瞥するとヒューに向き直り「お願いします。」と一言言った。
 
「大丈夫?ナセさん。」

「一応、聞いてやるけど、名前呼びやめてくれない?ハズのこともさぁ。」
 
「私は、結構ですよ。
 名前呼び、好きなんですよ。
 自分の名前が。」

「・・・」

「あっそう、じゃあ行くね。
 プラン名は、・・・・・・激安自給自足プラン3泊4日どうだ!」

 ヒューは、無駄に勿体ぶって、プラン名を発表したが、その魅力と胡散臭さと危険な香りが、プンプンするプラン名には、ナセの失言でも顔色一つ変えなかったハズでさえ怪訝な表情に変わった。

「おい、石ころ!
 お前、サクシュするつもりだろ!」

「君は、このプランの搾取のメカニズムを説明出来るのか?」

「はぁ、お前が説明しろ、石ころ!」

「ふっ、僕が説明するのは、プラン内容だ。
 それを搾取ととるか、サービスととるかは、君の自由だよ。」

「はぁ?サクシュとかサービスとか難しい言葉で言いくるめる気かよ。」

 エイジヒルとヒューは、顔を見合わせた。
 これは、言葉で納得させるのは不可能な相手であることを互いに理解したのだ。

「ナセの事は放って置いて、プランの説明をお願いします。」

「ハズ、コイツらはなぁ!」

「ナセ、あなたにはバルが見えているのでしょ?」

「そりゃそうだけど・・・」

 「ならば、口を出さないでちょうだい。
 あなたには関係ないから。」

「関係無い訳ないだろ。」

「なら何故邪魔するの?」

「邪魔じゃない、ただコイツらが信用ならないんだ。」

「じゃあ、誰が信用できる?
 今のままじゃあ、あなたさえ信用できないから。」 

「ハズっ!」

「黙ってて!」

 ハズとナセが散々言い合った後、ヒューは、ハズを見つめた。

「君の今の心情からして、赤の他人を信用することはお勧めしない。
 しかしだ、もし君が僕らを信用することに、確固たる根拠があるのなら話は別だけどね。」

「貴方達を信用する根拠なんて、私にはさらさらありません。 
 だけど、貴方達が私達に対して危害を加える様な事があるとすれば、それなりの覚悟はあります。」

「ほう、その覚悟とは?」

「ここのホテルは、一ツ星ですよね?」

「あぁ、それね、コネで貰ったんだよ。
 実際三流だろココ。」

「そんなことありませんよ。」

 ヒューの惚けた返答に、ハズの緊迫した表情は軽く緩み、適当なフォローを入れた。

「それで?」

 ハズは、再度ヒューに鋭い視線を送った。

「貴方達が私達に危害を加えた場合、もし、その事を木の組合に報告すれば、このホテルもタダじゃ済まないはずです。
 最低でも自慢の一ツ星を消す覚悟はあります。」

「良いじゃん。
 そういうので良いんだよ。」

 ヒューは、満足そうに頷いた後エイジヒルに瞬き合図を送る。
 例のプラン内容にエイジヒルの協力が必要ということだろう。
 ハズとロビーで話してからディナーまでの間、プランの打合わせをした訳でも無いが、エイジヒルは一応うなずいた。
 これは確実に面倒なことだろうが、それを上回る好奇心が、今のエイジヒルにはあったのだ。

「それでは・・・・」
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