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猫の日おまけSS
しおりを挟む「……猫がいる」
「ねこ?」
ルドルフの指さす先に、小さな子猫が丸まっているのが見えた。この世界にも猫がいるのかと少し驚く。アリアナははしたないと侍女に叱られるのを覚悟して、草むらで丸々子猫の元へ向かう。
「アリアナ」
「ルドルフ、先に行っててもいいよ」
たまたま休憩時間が重なったため、ルドルフとアリアナはお茶でも飲もうしていたところだった。そのためアリアナにもルドルフにも少しだが時間があった。貴重な二人の時間だったが、アリアナは目の前の小さな命を放っておくことができなかった。
「行くわけないだろう」
「そう? ……怪我はしていないみたいだけど、震えてる」
王宮に猫が入り込んでいること自体珍しいことだ。周りに親猫が居ないか辺りを見回す。けれどもそれらしきものは見当たらない。
アリアナは恐怖、または寒さに震える子猫を抱き上げた。
「……よしよし。大丈夫だよ」
にゃーと子猫がか細い声で鳴く。その声がアリアナの庇護欲を誘った。親から離れたせいか。本来の温もりはなく、冷たく感じるほどだった。体温が下がっている子猫を温める目的で、アリアナは持っていたハンカチで子猫を包み、胸に抱いた。数度撫でているうちに落ち着いたのか、子猫の震えが治まった。そしてすぐに、鼻を鳴らしながら子猫は眠りについた。
「みて、ルドルフ。寝ちゃった」
「……そうだな」
アリアナの腕にだかれる子猫を、ルドルフはじっと見ている。その視線は嫌がってるようには見えないが、どこか戸惑いを含んでいるようにも思えた。
「ルー? どうしたの?」
「……いや、生き物とあまり関わってこなかったから。こういう時はどうしたらいいんだろうか」
困ったようにまゆを下げて笑うルドルフに、アリアナは目を細めて笑みを浮かべた。
「可愛いなって思う?」
「それはもちろん。君の腕に抱かれて羨ましいとも思うよ」
「……それで十分じゃないかな?」
アリアナは、子猫を撫でながらそう答えた。
「難しいな」
「難しくかんがえないの。少なくとも、鳥だった私に対して貴方はとても優しかったわ」
「……美味しいご飯をくれる相手だからかな?」
「……半分くらいそうかもね」
そんな冗談を言い合っていると、ルドルフの困った顔に笑顔が浮かぶ。時々見せるルドルフの悲しい生い立ち。それを、アリアナに隠さず見せてくれる事がとても嬉しかった。
「アリアナ」
ルドルフが少し遠くに生えている木を指さす。アリアナが視線をやると、子猫と同じ色の成猫がこちらを伺っていた。
「……良かったわね。お母さんが迎えに来たわよ」
アリアナはなるべく音を立てないように緑の草を踏みしめる。そして、成猫から目をそらさずに、そっと近づいた。
「迎えに来てくれてありがとう。次は目を離さないでね」
成猫の前にしゃがみ、声をかける。
にゃあ、と子猫よりもしっかりした声で成猫が返事をする。ハンカチに包まれた子猫を成猫の前に差し出す。ふんふんと鼻を鳴らして匂いを確認し、ぱくりと子猫を咥えた。
「さよなら」
アリアナの別れの挨拶に、成猫が尻尾を振って応えた。しばらくその背を見送っていると、いつの間にか隣にルドルフが立っていた。
「アリアナ……」
「どうしたの?」
「……いや、君はいい母になりそうだ」
「……まだ気が早いわ」
どうかな? と、ルドルフが意地悪げに片方の口角をあげる。抗議の意味を込めて、腕を叩く。叩いた手はそのままルドルフに取られ、手の甲に唇がおとされた。
「母猫に子猫を返す君は、聖母のようだったよ」
「大げさよ」
「アリアナを見ていると、慈しむという言葉を思い出させてくれる」
「……そう?」
「そうさ。君の前だと俺はただの男になれる」
これは、ある意味ものすごい殺し文句だとアリアナは頬を染めた。ルドルフは分かってやっているのかそれとも……。一瞬そんなことを考える。けれどもアリアナは首を横に振り、ルドルフの言葉を素直に受け入れた。
「私も、貴方の前では一人の女になれるわ」
「……」
同じセリフを返すと、手を持っていたルドルフがびしりと固まった。どうしたのかと思い、アリアナは小首を傾げた。
「ルー?」
「それは、誘われていると思っていいのかな?」
え、違う。アリアナがそう否定しても時すでに遅し。お茶を飲む時間は無くなり、アリアナは私室へと引き摺られていった。
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みんなの感想(8件)
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ふゆかさま、感想ありがとうございます!しかも一気に読んでいただいたとは……決して短い話ではないのに……嬉しいです。お互いに欠点ばかりの二人ですが、これからは楽しい未来が待ってるのかなぁと思います。繰り返しになりますが、お読みいただきありがとうございます!
ヤンデレ…というか、病んでる王子様が素敵です!!
結婚、王太子妃としての生活とか色々ドタバタしながらもイチャイチャしてる二人が見てみたいですね!
音華皇様、感想ありがとうございます!誰かがアリアナに手を出そうものならバシッと一刀両断……。
お読み頂きありがとうございました!
つきこさま、お付き合い頂きありがとうございます!
おじいさんも転生……を考えたんですが。二人の子供?それは怖いなとなってボツにしました……(^q^)
ルドルフ君はやきもちやきなので、アリアナちゃんがほかの男の人と話すのも許せないかもしれません……
感想ありがとうございます!