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どうしても君の瞳を舐めてみたい
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おまけです
王太子妃教育のため登城していたアリアナは、あまりの忙しさに目眩を起こしそうになっていた。休む暇もなく次から次へとやってくる課題をこなしているとあっという間に一日が終わってしまう。これもすべて、ルドルフが早く結婚したいというわがままからだった。
「イレギュラーはあったけど、やっぱり結婚しないうちに身体を重ねるわけにいかないからね。だから早く結婚しよう」
はっきり言ってめちゃくちゃだ。キラキラ笑顔で悪びれもなく言い切るルドルフに、アリアナは逆に何も言えなくなってしまった。
「……疲れた」
歴史に、マナーに、貴族の名前、茶のいれ方、ダンスに、楽器……。うんざりする程だった。合間の休憩時間。アリアナの身体はソファに沈んでいく。少しだけ、と思った時には意識が遠のいていくのを感じた。
□□
アリアナの休憩時間と聞いて部屋を訪ねる。ノックをしても返事がなく、アリアナ付きの侍女も席を外しているようだ。自身の従者に一声掛け、此処で待っているように伝える。そっとドアを開けると、陽の光がルドルフを刺激した。少し目を細めて眩しさをやり過ごす。
毛足の長い柔らかな絨毯に足音が吸い込まれる。人の気配はある。アリアナが居ることは確かだが、呼びかけても返事がない。
部屋の奥まで足を伸ばすと、ソファの上に小さな若草色の塊を見つけた。若草色のデイドレスは、朝方見かけた時アリアナが身につけていたものだ。
「アリアナ」
声をかけても反応がない。一瞬まさかと思った。しかし、近寄って顔を覗き込むと、すうすうと寝息が聞こえた。穏やかな寝顔にルドルフの口元が緩む。
丸まった身体の頭側に腰を下ろす。纏めた髪を崩さないようにそっと触れる。二三度撫でると、薔薇色の唇が緩むのが見えた。
「苦労させているね」
うっすら浮かぶ隈がアリアナの疲労を物語っている。アリアナの評判はルドルフの耳にも届いていた。不器用ながら、真摯に教育に取り組んでいると。それを伝えられた時に、ルドルフはそうだろうと自慢したくて堪らなかった。
最初は本当にちょっとした興味だった。愛した小鳥と同じ色を持つ少女。そばにいるようで、どこか遠くにいる不思議な少女だった。それがいつからか、特別で、なくてはならない存在になっていった。
「こんなに夢中にさせて」
柔らかな頬を摘む。むにむにと言葉にならない何かをアリアナが口にしている。堪らなく愛しくなって、指先でそっと唇に触れた。
白い月灯りの下でひっそりと生きていたルドルフは、アリアナによって陽光の下に連れ出された。新緑を纏う、不思議な少女だ。
「ああ早く目を覚まさないかな」
驚いた時、瞳が色変わりし、まん丸になるアリアナが見たい。
「……死ぬまでに一度くらい瞳を味わってみたいな」
アリアナが聞いていたら飛び上がって怒りそうだ。そこまで妄想して、ルドルフは噴き出してしまった。
「アリアナ。目覚めの時間だよ」
そう言ってルドルフは唇を落とす。場所はもちろん、いつもの所だ。
王太子妃教育のため登城していたアリアナは、あまりの忙しさに目眩を起こしそうになっていた。休む暇もなく次から次へとやってくる課題をこなしているとあっという間に一日が終わってしまう。これもすべて、ルドルフが早く結婚したいというわがままからだった。
「イレギュラーはあったけど、やっぱり結婚しないうちに身体を重ねるわけにいかないからね。だから早く結婚しよう」
はっきり言ってめちゃくちゃだ。キラキラ笑顔で悪びれもなく言い切るルドルフに、アリアナは逆に何も言えなくなってしまった。
「……疲れた」
歴史に、マナーに、貴族の名前、茶のいれ方、ダンスに、楽器……。うんざりする程だった。合間の休憩時間。アリアナの身体はソファに沈んでいく。少しだけ、と思った時には意識が遠のいていくのを感じた。
□□
アリアナの休憩時間と聞いて部屋を訪ねる。ノックをしても返事がなく、アリアナ付きの侍女も席を外しているようだ。自身の従者に一声掛け、此処で待っているように伝える。そっとドアを開けると、陽の光がルドルフを刺激した。少し目を細めて眩しさをやり過ごす。
毛足の長い柔らかな絨毯に足音が吸い込まれる。人の気配はある。アリアナが居ることは確かだが、呼びかけても返事がない。
部屋の奥まで足を伸ばすと、ソファの上に小さな若草色の塊を見つけた。若草色のデイドレスは、朝方見かけた時アリアナが身につけていたものだ。
「アリアナ」
声をかけても反応がない。一瞬まさかと思った。しかし、近寄って顔を覗き込むと、すうすうと寝息が聞こえた。穏やかな寝顔にルドルフの口元が緩む。
丸まった身体の頭側に腰を下ろす。纏めた髪を崩さないようにそっと触れる。二三度撫でると、薔薇色の唇が緩むのが見えた。
「苦労させているね」
うっすら浮かぶ隈がアリアナの疲労を物語っている。アリアナの評判はルドルフの耳にも届いていた。不器用ながら、真摯に教育に取り組んでいると。それを伝えられた時に、ルドルフはそうだろうと自慢したくて堪らなかった。
最初は本当にちょっとした興味だった。愛した小鳥と同じ色を持つ少女。そばにいるようで、どこか遠くにいる不思議な少女だった。それがいつからか、特別で、なくてはならない存在になっていった。
「こんなに夢中にさせて」
柔らかな頬を摘む。むにむにと言葉にならない何かをアリアナが口にしている。堪らなく愛しくなって、指先でそっと唇に触れた。
白い月灯りの下でひっそりと生きていたルドルフは、アリアナによって陽光の下に連れ出された。新緑を纏う、不思議な少女だ。
「ああ早く目を覚まさないかな」
驚いた時、瞳が色変わりし、まん丸になるアリアナが見たい。
「……死ぬまでに一度くらい瞳を味わってみたいな」
アリアナが聞いていたら飛び上がって怒りそうだ。そこまで妄想して、ルドルフは噴き出してしまった。
「アリアナ。目覚めの時間だよ」
そう言ってルドルフは唇を落とす。場所はもちろん、いつもの所だ。
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