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第9章 エドガー
6.エドガー
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「兄様、エドガーさんの死体は茂みにかくしておきました。
さあ行きましょう」
リオンがにっこりと笑う。
「行くって、いったいどこへ……」
転がっていたたいまつを拾い、皆がいる所とは逆方向に、リオンは向かう。
「どこって……あてはありませんが、ここは危険です。
だって兄様の国の方々は、これまで王族に守ってもらった恩を忘れて、兄様のことを恨んでいるではありませんか」
恨まれている。
その通りだった。
最後まで俺を信じてくれていたはずのエドガーでさえ、俺を許しはしなかった。
朝になってエドガーがおらず、殴られた跡のある俺だけがいたら、皆はどう思うだろうか?
俺とエドガーが、火の番をしていた事は皆が知っている。
火の番を代わってもらった婦人は、俺とエドガーが一緒に森の奥に行ったことすら知っている。
朝になれば皆が俺を責めるだろう。
国を裏切り、友を死なせ、のうのうと生きているこの呪わしい王子を。
その事が突然怖くなった。
エドガーになら、殺されても仕方がないと諦められた。
でも、いくらわが国の民だとはいえ、ほんの一言、二言交わしただけの者達に囲まれ、なぶり殺しになるのは恐ろしかった。
俺は城で様々な国の歴史を習った。
民衆に恨まれ、なおかつ権力や後ろ盾を無くした貴族や王族の末路は悲惨だ。
つい十数年前にも少し離れたあたりの小国で革命があり、王も貴族もひどい拷問を受けた上に、手足を切り落とされて狼のいる牢に投げ出されたという。
俺は死ねない体だ。
痛みと恐怖に耐えてやっと死ねたとしても、また生き返ってしまう。
そうしたら今度は『化け物』として扱われ、繰り返し酷い方法で殺され続けるだろう。俺の息の根を完全に止めるために。
そんな地獄は、いくら罪深い俺だとて耐え難く思えた。
それに、リオンの事だって放っておけない。
「……わかった行こう。
でもその前に、これを火の番を代わってくれたご婦人に渡してくれ。
朝になったら、路銀として皆に配るようにって」
肌に巻いた隠し袋の中から、小さな麻袋を取り出した。
中には砂金が入っている。
皆で分けても当面の暮らしには困らないはずだ。
「すまないリオン。これはお前との生活に使おうと思っていた。これが無くなってしまったらきっと、お前に貧しい生活をさせることになると思う。
でも、俺は王子なのにあの者たちに何もしてやれない。
だからせめて、この砂金を路銀として渡してやりたいんだ」
それは単なる言い訳なのかも知れなかった。
砂金を与える事、奴隷をアレス兵から救い出したこと、その二つで俺は自分を満足させようとしていた。
ここで民を見捨てて逃げ出すことは、世継ぎとして育ってきた俺には死ぬことと同じぐらい恐ろしい。
せめてそのぐらいはしておかないと、正気を保てなくなりそうだ。
さあ行きましょう」
リオンがにっこりと笑う。
「行くって、いったいどこへ……」
転がっていたたいまつを拾い、皆がいる所とは逆方向に、リオンは向かう。
「どこって……あてはありませんが、ここは危険です。
だって兄様の国の方々は、これまで王族に守ってもらった恩を忘れて、兄様のことを恨んでいるではありませんか」
恨まれている。
その通りだった。
最後まで俺を信じてくれていたはずのエドガーでさえ、俺を許しはしなかった。
朝になってエドガーがおらず、殴られた跡のある俺だけがいたら、皆はどう思うだろうか?
俺とエドガーが、火の番をしていた事は皆が知っている。
火の番を代わってもらった婦人は、俺とエドガーが一緒に森の奥に行ったことすら知っている。
朝になれば皆が俺を責めるだろう。
国を裏切り、友を死なせ、のうのうと生きているこの呪わしい王子を。
その事が突然怖くなった。
エドガーになら、殺されても仕方がないと諦められた。
でも、いくらわが国の民だとはいえ、ほんの一言、二言交わしただけの者達に囲まれ、なぶり殺しになるのは恐ろしかった。
俺は城で様々な国の歴史を習った。
民衆に恨まれ、なおかつ権力や後ろ盾を無くした貴族や王族の末路は悲惨だ。
つい十数年前にも少し離れたあたりの小国で革命があり、王も貴族もひどい拷問を受けた上に、手足を切り落とされて狼のいる牢に投げ出されたという。
俺は死ねない体だ。
痛みと恐怖に耐えてやっと死ねたとしても、また生き返ってしまう。
そうしたら今度は『化け物』として扱われ、繰り返し酷い方法で殺され続けるだろう。俺の息の根を完全に止めるために。
そんな地獄は、いくら罪深い俺だとて耐え難く思えた。
それに、リオンの事だって放っておけない。
「……わかった行こう。
でもその前に、これを火の番を代わってくれたご婦人に渡してくれ。
朝になったら、路銀として皆に配るようにって」
肌に巻いた隠し袋の中から、小さな麻袋を取り出した。
中には砂金が入っている。
皆で分けても当面の暮らしには困らないはずだ。
「すまないリオン。これはお前との生活に使おうと思っていた。これが無くなってしまったらきっと、お前に貧しい生活をさせることになると思う。
でも、俺は王子なのにあの者たちに何もしてやれない。
だからせめて、この砂金を路銀として渡してやりたいんだ」
それは単なる言い訳なのかも知れなかった。
砂金を与える事、奴隷をアレス兵から救い出したこと、その二つで俺は自分を満足させようとしていた。
ここで民を見捨てて逃げ出すことは、世継ぎとして育ってきた俺には死ぬことと同じぐらい恐ろしい。
せめてそのぐらいはしておかないと、正気を保てなくなりそうだ。
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