滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
71 / 437
第9章 エドガー

5.エドガー

しおりを挟む
 手には魔剣エラジー。
 記憶より刀身が長くなっているその先は、エドガーの心臓近くを貫いている。

「お前……な、何を……」

「見ての通りです。兄様に危害を加える『凶悪な害獣』は、もう退治致しました。
 ご安心なさってくださいね」

 リオンはにっこりと微笑みながら魔剣を引き抜き、痙攣を続けるエドガーの襟首を掴んで傍らに投げ捨てた。

「外の世界って本当に怖いのですね。兄様と親しそうに話していた『優しいエドガーさん』が、あんな方だったとは」

 そう言って、リオンはぶるっと小さく震えた。

 それから振り返って、エドガーを冷たい目で見下ろす。

「ねえ、エドガーさん?
 好き放題言ってくださいましたけど、僕からもあなたに一言、言わせてくださいね」

 リオンは少しかがみ、横たわったまま動けない俺の手をとりながら、エドガーに言った。

「あなたやあなたのご家族が、今まで無事に暮らせていたのは、誰のおかげかご存知でしょうか?
 さっきあなたは、国民全てを犠牲にしてまで弟一人を助けるなんて『間違っている』とおっしゃいましたね?
 でも僕は兄様に会うまで、あなたのように日の光を浴びて自由に過ごしたり、家族と笑い合って暮らすという幸せを知りませんでした。
 僕は、僕を想って下さる兄様のためになら、今からだって自由のない地下に戻って一生祈りを捧げ続ける事が出来ます。
 でも、僕を犠牲にするのが『当然』だと考えるあなたのためになど、馬鹿馬鹿しくって出来ません。
 何も知りもしないで、僕や兄様を否定するあなたを僕は許さない。
 ああでも……もう……聞こえていないようですね」

 リオンはガッカリしたように首を振ると、

「一撃で殺す方法しか習った事が無かったので、うっかり殺してしまったみたいです」

 と、小さく呟いた。

 もう涙も出なかった。
 いろんな事が、一度に起こりすぎて感覚が麻痺してしまった。

 幼い頃から当たり前だった世界が、音を立てて崩れていく。

 気持ちを通い合わせていたはずの友は俺を殺そうとし、その友は弟の手によって、いとも簡単に命を摘み取られた。

 エルシオンに居た頃は、幸せも平和も空気のように周りに満ちていて、それをありがたく思うことすら無かった。

 でも今は、必死で手を伸ばしてもそれらに届かない。

 これがアースラが俺に望んだ『罰』なのだろうか?
 それとも、このようなことは外の世界では『ごく当たり前の事』でしかないのだろうか?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

処理中です...