滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
73 / 437
第9章 エドガー

7.エドガー

しおりを挟む
「……兄様に害なそうとする者たちのために、そこまでなさる気持ちが僕にはわかりませんが、僕にとって大切なのは兄様だけです。
 貧しさなど恐れはしません。
 砂金を渡す事で兄様のお気が済まれるのなら、おおせの通りに致します。
 すぐに戻りますから、ここで待っていてくださいね」

 リオンは渡された砂金を持って元来た夜道を駆けていった。
 俺はたいまつをかかげ、その姿が見えなくなるまで見送った。

 程なくしてリオンが戻ってきた。
 手には、焚き火の側に置きっぱなしにしていた俺たちの荷物があった。

 ああ、荷物の存在さえすっかり忘れていた。
 世にも賢い王子だと言われていたのに、そんな事にすら気がつかなかったことに愕然とした。
 荷の中にはリオンが大切にしていた、あのぬいぐるみも入っていたというのに。

「砂金は確かに渡してきました。とても感謝していましたよ。
 でもあの人たちだって、いつエドガーさんのように豹変するともしれません。
 さあ、早く行きましょう。夜が明けてしまいます」

 リオンは俺の手を取ると、深い闇に向かって歩き始めた。

 2時間ほど歩いたろうか。
 空に薄明かりが差してきた。

 どんな時でもやはり、夜明けはほっとするものだ。
 今頃逃げてきた民たちも起きてきて砂金を分け合い、出発の準備を整えているだろうか?

 ふとリオンが足を止め、目を閉じた。
 そして今来た道を振り返って、しばらく見つめた。

「どうした、リオン?」

 俺の言葉に弟は、いつものように可愛らしく微笑んだ。
 その笑顔にふと違和感を覚えたが、リオンはそのまま言葉を続けた。

「いえ、なんでも無いのです。それより先を急ぎましょう」

 ……?

 何だったんだ、さっきの違和感は。
 でも改めて見ると、リオンはいつも通りのリオンだ。

「……ではリオン、進むのはこちらだ。ほら、アルテナ山が見えるだろ?
 その山麓を右手に見ながら進むと、わが国と交易があったシリウス王国に着く。
 シリウス王国は小さいが交易が盛んで、多民族が混合して住んでいる比較的豊かな国だ。
 治安はわが国に比べて良いとは言えないが、それでも豊かなだけ他国よりはずいぶんましなはず。
 俺にだって、きっと働き口があるはずだ。
 なあリオン。
 そこで2人でやり直そう」

 そう言うと、リオンが嬉しそうに笑った。
 とても綺麗な笑顔だった。

「はい。僕も働きます。いろいろ教えてくださいね、兄様」

 ……ああ、俺にはもうリオンしかいない。

 たとえリオンの中に魔物の狂気が潜んでいたとしても、俺のすべてを知っていてこうして寄り添ってくれるのは、この弟しかいない。

 親も、妹も、国も、友も失った。

 これ以上失えない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...