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第2章 名前のない少年

2.名前のない少年

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 しかし母上の様子を見ると、その子供は生きているとしか思えない。

 母上の気持ちを慮った父上は、その子供の出自を偽らせ、密かに家臣の子供として城内に住まわせているのではないか?
 他国では、貴族たちがそうやって浮気をごまかしている……と耳にしたことがある。

 俺は注意深く、その年齢に相当する城内の子供を見て回った。
 しかし父の目にかなった愛人と、『美王』と呼ばれている父との間に生まれたと思われるような容姿の子供はいなかった。

 そうすると、子供を育てるなら誰にも見られることのない隠し部屋ということになる。
 だがそういった怪しげな場所は、王子の俺にさえ思い当たらない。
 いや、一つだけあるにはあるか――――――。

 まだ建国したてのころ、うちの城には罪人や捕虜を閉じ込めるための地下牢がたくさんあったという。

 そこは『前時代の負の遺産』ということで、始祖王シヴァが亡くなる前に閉じ、以後代々の王しか訪れることは出来ない。
 というか、今の時代には不要な場所なので、別に王であっても訪れてはいないはずだ。

 ……まさかな。

 いくら母上の機嫌を損ねぬためとはいえ、父上がわが子を罪人のよう地下牢に閉じ込めるなんてありえない。
 そうは思うが何となくモヤモヤが収まらない。

 母上も手を尽くして調べているようだが、結局子供は見つかっていない。
 そうなると、その子がいる場所は王妃であっても行けぬ場所しか考えられない。
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