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第2章 名前のない少年
1.名前のない少年
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それから俺は、幾日もモヤモヤしたままだった。
俺には『妹』の他にも『弟』がいる。
母の兄であるエドワードにもこっそりと聞いてみたが、はぐらかすばかりで肝心なことは何一つ教えてくれない。
どうして教えてくれないんだろう?
母上は父上が他の女に産ませた子供に対して、同情的だったように見える。
しかし裏法律に従って生ませただけの子供といえど、内心穏やかではないはずだ。
また、母上は父上に深く愛されている『幸せな王妃』として国の内外から憧れの眼差しで見られてきた。
父上が腹踊りで恥をかくのはどうでもよいが、建国以来初の『浮気された王妃』として母上が恥をかく事だけは、息子として耐えがたい。
国民や城の皆にバレる前に、俺が必ずその憎むべき不義の子を探し出す。
そう……俺はその子が憎いのだろう。
母である妾妃と共に死んでくれていたならば、俺だって同情心しか持たなかった。
でも、『その子』が生きている限り、お優しい母上は苦しみ続けることになる。
そうだ、その子をどこかに隠してしまおう。
密かにどこか、人里はなれた場所にでも隠してしまおう。
大体、『大国の王子の一人』なのに生まれたときから日陰者として扱われるなんて、それはそれで哀れな話。
城から出してあげて自由に暮らさせる方がきっと、その子にとっても幸せに違いない。
……こうなったら、何が何でも突き止めてやる。
俺は作戦を開始した。
まずは王家の過去帳を調べた。
一般の人は閲覧できないが、これにはとても詳しい系譜が記されているはずだ。
王子の俺なら王族のみが入れる書庫にも、簡単に入れる。
こんなものに興味を持ったことはなかったが、探してみると意外と簡単に見つかった。
ふむふむなるほど。
こうしてみると、一妻制のはずのエルシオン国王は極々たまにだが、妾妃を娶っている。
子供の死亡率は俺が思っていたより遥かに高い。
エドワードの所程じゃないが、ほとんどの王が最低一人は子供を亡くしている。
特に子供特有の病気や出産の事故が多いようだ。
うちの国には魔道士が一人もいないが、こんなに死亡率が高いのなら一人ぐらい治癒魔道士を置けばいいのに。
外国では魔道士は忌まれていると聞くが、我が国では始祖王と共に国を造り上げた『大魔道士アースラ』が今でも崇拝の対象となっている。
だから魔道士というだけで忌まれたりはしない。
外国でも、治癒魔道士などに限れば普通に王宮にも街にもいるらしい。
昔は我が国にもアースラをはじめとして、優秀な魔道士がたくさんいた。
なのにどうして、今は全く居ないのだろう?
そう思いながらページをめくる。
父王は10年前、他国の下級貴族の娘を密かに娶ったようだ。
ちゃんと過去帳に記してある。
その娘の顔まではわからないが、面食いの父上の目にかない、かつスーパーシスコンのエドワードが『大変美しい』などと言うぐらいだから、母上と同等かそれ以上に美しかったことと思われる。
生まれたのはエドワードが言ったように男児だったようだ。
しかし名前は記入されていない。
『死亡』とだけ書き添えられているのが、なんだか寂しい。
俺には『妹』の他にも『弟』がいる。
母の兄であるエドワードにもこっそりと聞いてみたが、はぐらかすばかりで肝心なことは何一つ教えてくれない。
どうして教えてくれないんだろう?
母上は父上が他の女に産ませた子供に対して、同情的だったように見える。
しかし裏法律に従って生ませただけの子供といえど、内心穏やかではないはずだ。
また、母上は父上に深く愛されている『幸せな王妃』として国の内外から憧れの眼差しで見られてきた。
父上が腹踊りで恥をかくのはどうでもよいが、建国以来初の『浮気された王妃』として母上が恥をかく事だけは、息子として耐えがたい。
国民や城の皆にバレる前に、俺が必ずその憎むべき不義の子を探し出す。
そう……俺はその子が憎いのだろう。
母である妾妃と共に死んでくれていたならば、俺だって同情心しか持たなかった。
でも、『その子』が生きている限り、お優しい母上は苦しみ続けることになる。
そうだ、その子をどこかに隠してしまおう。
密かにどこか、人里はなれた場所にでも隠してしまおう。
大体、『大国の王子の一人』なのに生まれたときから日陰者として扱われるなんて、それはそれで哀れな話。
城から出してあげて自由に暮らさせる方がきっと、その子にとっても幸せに違いない。
……こうなったら、何が何でも突き止めてやる。
俺は作戦を開始した。
まずは王家の過去帳を調べた。
一般の人は閲覧できないが、これにはとても詳しい系譜が記されているはずだ。
王子の俺なら王族のみが入れる書庫にも、簡単に入れる。
こんなものに興味を持ったことはなかったが、探してみると意外と簡単に見つかった。
ふむふむなるほど。
こうしてみると、一妻制のはずのエルシオン国王は極々たまにだが、妾妃を娶っている。
子供の死亡率は俺が思っていたより遥かに高い。
エドワードの所程じゃないが、ほとんどの王が最低一人は子供を亡くしている。
特に子供特有の病気や出産の事故が多いようだ。
うちの国には魔道士が一人もいないが、こんなに死亡率が高いのなら一人ぐらい治癒魔道士を置けばいいのに。
外国では魔道士は忌まれていると聞くが、我が国では始祖王と共に国を造り上げた『大魔道士アースラ』が今でも崇拝の対象となっている。
だから魔道士というだけで忌まれたりはしない。
外国でも、治癒魔道士などに限れば普通に王宮にも街にもいるらしい。
昔は我が国にもアースラをはじめとして、優秀な魔道士がたくさんいた。
なのにどうして、今は全く居ないのだろう?
そう思いながらページをめくる。
父王は10年前、他国の下級貴族の娘を密かに娶ったようだ。
ちゃんと過去帳に記してある。
その娘の顔まではわからないが、面食いの父上の目にかない、かつスーパーシスコンのエドワードが『大変美しい』などと言うぐらいだから、母上と同等かそれ以上に美しかったことと思われる。
生まれたのはエドワードが言ったように男児だったようだ。
しかし名前は記入されていない。
『死亡』とだけ書き添えられているのが、なんだか寂しい。
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