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第2章 名前のない少年
3.名前のない少年
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俺は地下牢に行ってみることにした。
地下に通ずる鍵は、王室の大金庫の中にある。
その大金庫の鍵は父上が常に身につけていて、王位を継承するまでは触らせてはもらえない。
だが俺はこれでも王子。
辞書の角で叩かれるような王子であったとしても、エルシオン王国の皇太子だ。
政務の勉強をするために、父上が大金庫を開けて他の色々な物を取り出すところを何度も見てきた。
大金庫の鍵は二クロームという金属で出来ている。そして大きいわけでもなく少し古ぼけている。
俺は記憶を頼りに大金庫の鍵を思い浮かべた。
父王は、その鍵をしょっちゅう使うわけではない。
よし。やってやる。
1週間後、父上は領地見回りのために泊りがけで出かける。
もちろんエドワードも一緒だ。
チャンスはその時しかない。
俺は父上が出かけるまでの間に城中をこっそり探し回り、父の持つ大金庫の鍵とよく似た鍵を探し出した。
そして父上が入浴中に、王子ならではの特権を使って忍び込み、鍵を掏り替えた。
もう後戻りは出来ない。
明朝の出発までに父上が鍵のことに気がつかなければ、領地視察の間は鍵に触れることもないにちがいない。きっと、ごまかせるはず。
その計画は、うまくいった。
父達の出立を見送った後、俺は大金庫から地下牢の鍵を取り出し、急いで城下に馬を走らせた。
鍵の複製品を作るためだ。
いくら父上の留守中といえど、俺には勉強も鍛錬もある。
教育係もエドワードだけでなく、専門の先生が14人もいる。
父上の隠し子を見つける時間はそうたくさんあるわけではない。
でも、複製品を作ってしまえばこっちのものだ。
町には何度も身をやつして行ったことがある。
だから、きっと大丈夫。
馬で駆ければ、鍵屋にだってあっという間に着く。
町には、同じ年ぐらいの遊び友達が何人かいた。
そのうちの一人は鍵屋の息子だ。
あの子に頼めば、多分何とかなる。
父上は、俺が町の子供たちと遊ぶことを嫌がったりはしなかった。
そんなにしょっちゅうというわけではないが、月に何度かは、そういう自由時間を与えられている。
他国人からすれば、それはとてつもなく『不思議な事』のようだが、わが国では不思議でも何でもない。
父王だって、王位を継ぐまではやってきた。
王族・貴族が平民のような服を着て庶民に混じり、学んだり遊んだりすることはむしろ良いことだ。
飾り気の全くないシンプルな服は、慣れれば体を動かしやすく快適だ。
亡き祖父などは、外国からの来客がないときは、王宮内ですらそんな格好でウロウロと歩いていた。
そうして暇を見つけては、召使いたちの仕事を手伝ったりしていたものだ。
何故他国の貴族や王族は、庶民と交わることを嫌うのだろうか?
とても楽しいし、治める国の庶民と交わるのは、とても有意義なことなのに。
鍵屋についた俺は、早速複製品を作ることにした。
普通のものよりは複雑な作りのようだが、快く引き受けてもらうことができた。
その後なに食わぬ顔で城に戻り、父の帰りを待つ。
オリジナルの古ぼけた鍵は父王が帰城した後、隙を見てこっそりと戻した。
残ったのは、俺の手の中にあるピカピカの複製品。
さて次は地下牢だ。
エドワードが仕事で出払っている隙を見ては、地下牢を調べた。
薄気味の悪い、廃された地下牢を一人で歩くのはなんとも恐ろしかったが、好奇心がそれに勝る。
しかし子供は見つからない。
何日もかかって隅々まで調べたけれど、やっぱり子供は見つからなかった。
その代わり、奇妙な扉を見つけた。
不思議な文様が一面に掘り込まれた、頑丈で分厚い金属製の扉だ。
その扉には鍵もドアノブもない。しかしよく見ると、本来ドアノブがある場所に十字を文様化した、小さなレリーフがあしらわれている。
……なんだろう、これは……?
いや、もしかして!!
その時、俺の頭にひらめくものがあった。
地下に通ずる鍵は、王室の大金庫の中にある。
その大金庫の鍵は父上が常に身につけていて、王位を継承するまでは触らせてはもらえない。
だが俺はこれでも王子。
辞書の角で叩かれるような王子であったとしても、エルシオン王国の皇太子だ。
政務の勉強をするために、父上が大金庫を開けて他の色々な物を取り出すところを何度も見てきた。
大金庫の鍵は二クロームという金属で出来ている。そして大きいわけでもなく少し古ぼけている。
俺は記憶を頼りに大金庫の鍵を思い浮かべた。
父王は、その鍵をしょっちゅう使うわけではない。
よし。やってやる。
1週間後、父上は領地見回りのために泊りがけで出かける。
もちろんエドワードも一緒だ。
チャンスはその時しかない。
俺は父上が出かけるまでの間に城中をこっそり探し回り、父の持つ大金庫の鍵とよく似た鍵を探し出した。
そして父上が入浴中に、王子ならではの特権を使って忍び込み、鍵を掏り替えた。
もう後戻りは出来ない。
明朝の出発までに父上が鍵のことに気がつかなければ、領地視察の間は鍵に触れることもないにちがいない。きっと、ごまかせるはず。
その計画は、うまくいった。
父達の出立を見送った後、俺は大金庫から地下牢の鍵を取り出し、急いで城下に馬を走らせた。
鍵の複製品を作るためだ。
いくら父上の留守中といえど、俺には勉強も鍛錬もある。
教育係もエドワードだけでなく、専門の先生が14人もいる。
父上の隠し子を見つける時間はそうたくさんあるわけではない。
でも、複製品を作ってしまえばこっちのものだ。
町には何度も身をやつして行ったことがある。
だから、きっと大丈夫。
馬で駆ければ、鍵屋にだってあっという間に着く。
町には、同じ年ぐらいの遊び友達が何人かいた。
そのうちの一人は鍵屋の息子だ。
あの子に頼めば、多分何とかなる。
父上は、俺が町の子供たちと遊ぶことを嫌がったりはしなかった。
そんなにしょっちゅうというわけではないが、月に何度かは、そういう自由時間を与えられている。
他国人からすれば、それはとてつもなく『不思議な事』のようだが、わが国では不思議でも何でもない。
父王だって、王位を継ぐまではやってきた。
王族・貴族が平民のような服を着て庶民に混じり、学んだり遊んだりすることはむしろ良いことだ。
飾り気の全くないシンプルな服は、慣れれば体を動かしやすく快適だ。
亡き祖父などは、外国からの来客がないときは、王宮内ですらそんな格好でウロウロと歩いていた。
そうして暇を見つけては、召使いたちの仕事を手伝ったりしていたものだ。
何故他国の貴族や王族は、庶民と交わることを嫌うのだろうか?
とても楽しいし、治める国の庶民と交わるのは、とても有意義なことなのに。
鍵屋についた俺は、早速複製品を作ることにした。
普通のものよりは複雑な作りのようだが、快く引き受けてもらうことができた。
その後なに食わぬ顔で城に戻り、父の帰りを待つ。
オリジナルの古ぼけた鍵は父王が帰城した後、隙を見てこっそりと戻した。
残ったのは、俺の手の中にあるピカピカの複製品。
さて次は地下牢だ。
エドワードが仕事で出払っている隙を見ては、地下牢を調べた。
薄気味の悪い、廃された地下牢を一人で歩くのはなんとも恐ろしかったが、好奇心がそれに勝る。
しかし子供は見つからない。
何日もかかって隅々まで調べたけれど、やっぱり子供は見つからなかった。
その代わり、奇妙な扉を見つけた。
不思議な文様が一面に掘り込まれた、頑丈で分厚い金属製の扉だ。
その扉には鍵もドアノブもない。しかしよく見ると、本来ドアノブがある場所に十字を文様化した、小さなレリーフがあしらわれている。
……なんだろう、これは……?
いや、もしかして!!
その時、俺の頭にひらめくものがあった。
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