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アリシア外伝2  掴む手

アリシア外伝2  掴む手 12

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 エリス姫の時には散々泣いたヴァティール様は、私の結婚式では泣かなかった。
 口数少なく、ただ微笑んでらっしゃるだけだ。

 手には白いバラの花。

「当日手渡すのは、オマエにふさわしい花だ。
 楽しみにしておけよ」

 ヴァティール様が式の前日におっしゃったのは、そんな言葉。

 ……私の手は、赤く汚れている。
 それはすでにご存知のはずだったのに、ヴァティール様が選んだのは、白だけで占められた花束だった。

 ヴァティール様が近づいてくる。
 エルに愛を誓った私を祝福するために。

 彼は相変わらず黙ったままで、花束を持ったまま私を見上げて止まった。

 その瞬間、気がついた。
 違う。ヴァティール様ではない。これはリオンだ。

 どうして今、彼が蘇ったのか私にはわからない。
 でも微笑をたたえ、花束を渡そうとしているのは彼なのだ。

 もしかしてこれは、ヴァティール様からのエルに対するプレゼント?
 そんな話は聞いてないけれど、優しい彼なら、一時体を返すぐらいの事はやりそうだ。

 良かったねエル。良かったねリオン。

 リオンの代わりに連れてきた縫いぐるみは、もう戻してしまおう。
 だって本人が私たちを祝いに来てくれたのだもの。

 ああでも、今日はリオンの誕生日。
 リオンの生還パーティーと、誕生日祝いをまず優先しなくちゃね。

 結婚式の続きより、そっちの方が重要に決まっている。

『お帰り』と、笑顔でそう言おうとした時――――――冷たい言葉が放たれた。

「おめでとう……兄様」

 それは、祝福の言葉などではなかった。
 凍てつくような『呪いの言葉』だ。

 鋭い痛みが胸をえぐる。

 血がほとばしり、真っ白だった花束は、赤く染まった。
 まるで、私の罪を映したかのように。

 ああ、私は馬鹿だった。

 祝福されると思っていた。

 許されると思っていた。

 だって私は、私なりに頑張った。
 奴隷に落とされ、初恋も諦めて、でも幸せになろうと……誰かを幸せにしようと頑張った。

 リオンの大切なエルだってほら、また笑えるようになったのよ?

 エルには期待させてから失望させないよう黙っていたけれど、ヴァティール様は王に、自分の『本体』を探るよう頼んでいらした。

 何年かかるかなんてわからない。
 でもいつか、ヴァティール様が『自分の本体』を見つけて今の体をリオンに返したら、その時はリオンが大好きだった、太陽のように明るい彼を返してあげられる。

 …………そのはずだったのに。

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