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アリシア外伝2 掴む手
アリシア外伝2 掴む手 13
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私はいったい、何のために生まれてきたのだろう?
母は私を育てるために、しなくてもいい苦労をした。
私がいるがために再婚もしなかった。
美しかった手も荒らして、粗末な服しか着ないで、年よりも老け込んで、それでも私の成長だけを喜んでくれた。
そんな優しい母なのに、私が生きていたがゆえに――――どうしても私を諦められなかったがゆえに、人の道を踏み外して非業の死を遂げた。
ああ、私などさっさと死んでいれば良かった。
歯を食いしばって生き延びたけど、私さえ死んでいれば母さんだって私を諦めて違う人生を歩み、幸せになっていたに違いなかったのに。
今また、良かれと思ってしたことでリオンを傷つけた。
エルがリオンの背に妖刀を向ける。
あんなにも…………自分の命より大事だった弟に。
やめて。
そんな事は駄目。
止めなければと思うのに、もう指さえ動かない。
「うわわあああああああ!」
血を絞るような、エルの絶叫。
彼はその手でリオンを殺したのだ。
愛しい愛しい、誰よりも大切な弟を。
ああ、私など、生まれてこなければよかった。
私がいなければ、エルは弟の事を忘れることはなかっただろう。
実際は忘れるているわけでは無かったのだが、忘れていないという事を『悲しみ』という形でリオンに示すことが出来た。
全部、私のせいなのだ。
薄れ行く意識の中、私には絶望しかなかった。
生まれてきたことを恨み、頑張ってきたこと全てに失望し……。
その私の手を、誰かが掴んだ。
「しっかりしろアリシア!
必ずワタシが助けるからなッ!!」
それは夢だったのかもしれない。
だって、聞いた事の無い人の声だったから。
夢の中、私は小さな子供で、美しい妖魔に抱きしめられていた。
「ワタシの大事な娘、アリシアよ。
オマエもまたワタシを大事に思うのなら、どうか幸せになって良い子をたくさん産んで欲しい。
ワタシはもうオマエには会えないが、きっと時の果てにオマエの子孫には会えるから。
愛しているよ。心から愛しているよ」
それは夢だったのかもしれない。
―――――けれど、私は命を永らえた。
3人の子供を生み育てて慈しみ、その子たちは更に子孫を増やした。
いつかこの子達の誰かは、ヴァティール様に会えるだろう。
その日はもうすぐだ。
だって私の命が尽きるから。
あの結婚式の日の夢の中、私はヴァティール様に言った。
「私が人間として精一杯生き、その寿命が尽きたなら…………リオンではなく、どうか私の体を使って下さい」
そう願ったのだ。
私は魔道士でもなんでもない。リオンの体ほどには使えないだろう。
それでももらって欲しいのだ。
夢の記憶は曖昧で、でも私はヴァティール様が頷くのを感じた。
私の恋は、ある意味叶ったのだ。
母は私を育てるために、しなくてもいい苦労をした。
私がいるがために再婚もしなかった。
美しかった手も荒らして、粗末な服しか着ないで、年よりも老け込んで、それでも私の成長だけを喜んでくれた。
そんな優しい母なのに、私が生きていたがゆえに――――どうしても私を諦められなかったがゆえに、人の道を踏み外して非業の死を遂げた。
ああ、私などさっさと死んでいれば良かった。
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今また、良かれと思ってしたことでリオンを傷つけた。
エルがリオンの背に妖刀を向ける。
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やめて。
そんな事は駄目。
止めなければと思うのに、もう指さえ動かない。
「うわわあああああああ!」
血を絞るような、エルの絶叫。
彼はその手でリオンを殺したのだ。
愛しい愛しい、誰よりも大切な弟を。
ああ、私など、生まれてこなければよかった。
私がいなければ、エルは弟の事を忘れることはなかっただろう。
実際は忘れるているわけでは無かったのだが、忘れていないという事を『悲しみ』という形でリオンに示すことが出来た。
全部、私のせいなのだ。
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その私の手を、誰かが掴んだ。
「しっかりしろアリシア!
必ずワタシが助けるからなッ!!」
それは夢だったのかもしれない。
だって、聞いた事の無い人の声だったから。
夢の中、私は小さな子供で、美しい妖魔に抱きしめられていた。
「ワタシの大事な娘、アリシアよ。
オマエもまたワタシを大事に思うのなら、どうか幸せになって良い子をたくさん産んで欲しい。
ワタシはもうオマエには会えないが、きっと時の果てにオマエの子孫には会えるから。
愛しているよ。心から愛しているよ」
それは夢だったのかもしれない。
―――――けれど、私は命を永らえた。
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いつかこの子達の誰かは、ヴァティール様に会えるだろう。
その日はもうすぐだ。
だって私の命が尽きるから。
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「私が人間として精一杯生き、その寿命が尽きたなら…………リオンではなく、どうか私の体を使って下さい」
そう願ったのだ。
私は魔道士でもなんでもない。リオンの体ほどには使えないだろう。
それでももらって欲しいのだ。
夢の記憶は曖昧で、でも私はヴァティール様が頷くのを感じた。
私の恋は、ある意味叶ったのだ。
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