375 / 437
アリシア外伝2 掴む手
アリシア外伝2 掴む手 11
しおりを挟む
そんな日々を送るうちに、いつしか人々は、ヴァティール様とリオンを『別物』として認識するようになっていった。
怒らせると怖いけど、陽気で楽しいヴァティール様。
彼が『優しい』ということは、私が言うまでもなく人々も気付いていった。
出歩けば、誰かが声をかける。
ヴァティール様も、それに気軽に応える。
いつしか彼は、城の皆の人気者となっていた。
そして私とエリス姫の事を、嬉しそうに『娘』と公言するのだ。
私は父親を知らない。
だからお父さんが出来たようで嬉しかったし、元々父親と触れ合う機会が少なく、捨てるようにわが国に追いやられたエリス姫も、無邪気にヴァティール様の言葉に喜んでいた。
この頃にはヴァティール様の事を悪く言う人はほとんど居なくて、私たちはとても幸せだった。
でも、エルは?
彼には弟の死を悲しんでくれる人も、ヴァティール様を悪く言ってくれる人も、居なくなった。
昔は太陽のように明るい子だったのに、口数も少なくなり、皆に合わせて笑うことはあっても、目だけはどこか冷めたままだ。
そんな兄の悲しい姿は、きっとリオンだって望んでいない。
あの子は『兄の笑顔』が大好きだったのだから。
悩み多きまま時はたち、エルはいつのまにか大人の男となっていた。
そうして私はなぜか、彼と結婚することになっていた。
以前私が高熱を出したとき、ヴァティール様は白湯やリンゴのすりおろしを勧めて下さったけど……エルはでっかいステーキを焼いて持ってきた。
その瞬間、
『コイツ、どんなに顔が良くとも女には逃げられる』
と確信していたのだが、そんな彼からのプロポーズを私は受けた。
最初に会った頃の彼はホンノ子供で、こんなことになるとは思ってもみなかった。
背だって私よりずっと低くて、生意気な小僧だったのに。
彼に寄り添ったのは、同情からだったかもしれない。
可哀想で、見ていられなかっただけかもしれない。
リオンの代わりに、守ってあげたかっただけなのかもしれない。
でも、一番の理由は多分ヴァティール様だ。
彼は私の父親代わりとなって下さったけど、私は、そんな優しいヴァティール様をいつの間にか愛してしまった。
永遠に『小さな少年』である魔物のヴァティール様を想ったところで、報われはしない。
それが苦しくて、他の誰かを愛してみたかったのかもしれない。
エルは私と同類だ。
今でこそすっかり落ち着き、国にとってなくてはならない存在となっているが、とても罪深い過去を持ち、その両手は血にまみれている。
そんな私たちは、お互いに愛を誓いながらも、私は心の奥底で一番にヴァティール様を想い、エルは亡き弟リオンを想う。
人に知られたなら、なんと酷い関係なのだ―――と言うだろう。
それでも私達は互いに深く愛し合い、支えあった。
これから幸せにだってなれるはずだ。
一人ずつでは決して得られない『安息』を得られるはずなのだ。
怒らせると怖いけど、陽気で楽しいヴァティール様。
彼が『優しい』ということは、私が言うまでもなく人々も気付いていった。
出歩けば、誰かが声をかける。
ヴァティール様も、それに気軽に応える。
いつしか彼は、城の皆の人気者となっていた。
そして私とエリス姫の事を、嬉しそうに『娘』と公言するのだ。
私は父親を知らない。
だからお父さんが出来たようで嬉しかったし、元々父親と触れ合う機会が少なく、捨てるようにわが国に追いやられたエリス姫も、無邪気にヴァティール様の言葉に喜んでいた。
この頃にはヴァティール様の事を悪く言う人はほとんど居なくて、私たちはとても幸せだった。
でも、エルは?
彼には弟の死を悲しんでくれる人も、ヴァティール様を悪く言ってくれる人も、居なくなった。
昔は太陽のように明るい子だったのに、口数も少なくなり、皆に合わせて笑うことはあっても、目だけはどこか冷めたままだ。
そんな兄の悲しい姿は、きっとリオンだって望んでいない。
あの子は『兄の笑顔』が大好きだったのだから。
悩み多きまま時はたち、エルはいつのまにか大人の男となっていた。
そうして私はなぜか、彼と結婚することになっていた。
以前私が高熱を出したとき、ヴァティール様は白湯やリンゴのすりおろしを勧めて下さったけど……エルはでっかいステーキを焼いて持ってきた。
その瞬間、
『コイツ、どんなに顔が良くとも女には逃げられる』
と確信していたのだが、そんな彼からのプロポーズを私は受けた。
最初に会った頃の彼はホンノ子供で、こんなことになるとは思ってもみなかった。
背だって私よりずっと低くて、生意気な小僧だったのに。
彼に寄り添ったのは、同情からだったかもしれない。
可哀想で、見ていられなかっただけかもしれない。
リオンの代わりに、守ってあげたかっただけなのかもしれない。
でも、一番の理由は多分ヴァティール様だ。
彼は私の父親代わりとなって下さったけど、私は、そんな優しいヴァティール様をいつの間にか愛してしまった。
永遠に『小さな少年』である魔物のヴァティール様を想ったところで、報われはしない。
それが苦しくて、他の誰かを愛してみたかったのかもしれない。
エルは私と同類だ。
今でこそすっかり落ち着き、国にとってなくてはならない存在となっているが、とても罪深い過去を持ち、その両手は血にまみれている。
そんな私たちは、お互いに愛を誓いながらも、私は心の奥底で一番にヴァティール様を想い、エルは亡き弟リオンを想う。
人に知られたなら、なんと酷い関係なのだ―――と言うだろう。
それでも私達は互いに深く愛し合い、支えあった。
これから幸せにだってなれるはずだ。
一人ずつでは決して得られない『安息』を得られるはずなのだ。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。


思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった
たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」
大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる