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外伝・アルフレッド王編・夢の国の果て

アルフレッド王編・夢の国の果て 6

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 ありえない。

 そんなこと、ありえるはずが無い。
 おとぎ話に出てくるような、豊かで心優しい人たちの住まう国。
 実際にこの目で見たとしてもすぐに信じられるものではない。

 ああ、僕はきっと夢でも見ているのだ。

 ぎゅっと頬をつねってみるが、やっぱり痛い。
 凄く痛い。

 いや、痛いのは宮中……それも大国の王族の方々の前で自分の頬をつねってしまった僕の行動の方なのかっ!?

「まぁまぁ、どうされました?」

 優しげにお后様がお尋ねになる。

「……そ、その、お恥ずかしい話ですが私の国ではいさかいが絶えず、この国の平和なありように仰天いたしまして……」

 最後の方はモゴモゴと消え入るように言ったけど、お后様はそれはそれは美しく微笑まれた。

「わが国にも諍いはありましてよ?
 昨日は下働きの一人が病を得まして、それで仕事が少々増えたのですわ。
 ですが皆こぞってその者のフォロー役をしようとなさって、ついには喧嘩となってしまいましたの。
 そこで私、言ってやりましたわ。
 『草むしりなどは暇な私が致しますから、どうぞ皆様はその者のお見舞いに行って差し上げて』って。
 久しぶりの草むしりは、本当に楽しゅうございました。
 またやりたいものですね」

 にっこりと笑うお后様は本当に美しく、とまどう僕に手を見せた。

 その手には、草を引いたときに出来たらしい傷がついていた。
 ということは、大国の王妃でありながら本当に草むしりをやったのだろう。

「お義母様、わたくしも誘って欲しかったですわ!
 草むしりは得意ですのにっ」

『小国の姫』はぷうっと頬を膨らませた。
 しかしそんな様さえ、噂通りに美しい。

「えっ!! アデルがするなら俺もするしっ!!」

 今度は皇太子までが砕けた口調で言い出した。
 何なんだ、この国は。

 そんな人々に、僕はすっかり毒気を抜かれてしまった。
 この国には上から下まで、あのような人種しかいない。

 諍いは時々あったが、そのほとんどが『どちらがより大変な仕事を引き受けるか』だった。

 つまり相手を楽させるために喧嘩しているのだ。
 こんな馬鹿な現象がありえるのだろうか?

 最初は目を丸くするばかりだったが、そのうち僕も慣れてきた。
 あんなに祖国の正妃や妾妃たちを恨んでいたのに、もうそれさえどうでもいい。

 あの者たちは本当は可哀想な人たちなのだ。
 人があたりまえのように持つ『優しさ』を失ってしまった、気の毒な人たちなのだ。

 恨んだところでどうにもなりはしない。
 見るべきは明日であり……希望への道だけなのだから。



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