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11巻
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二人の話を聞き、アレクシスは「なるほど」と頷く。
「料理科は創設時にかなり話題になったからね。その生徒たちが出場してくれれば、コンテストの注目度も上がるだろう」
「料理科の生徒たちにもいい刺激になりそうですね。将来お店を持ちたいと考えている生徒もいますから」
ジークの言葉に、キャロルが「あら」と呟く。
「もしかして、あの子かしら? まあ、リサちゃんに料理を直接習ったんなら、お店を出したくなるのも当然かもしれないわね」
そう言ってキャロルは楽しそうに笑った。
ジークと同様、リサにも『料理科の生徒のためになれば……』という思いがあった。将来お店を開きたいと思っている生徒はいるが、そのノウハウを教えることはできても、開店資金の面では助けることができない。
カフェ・おむすびも二号店を出店する際に借りたお金をまだ返済中だし、一部の裕福な生徒を除けば親が開店資金を出すというのも難しいだろう。
もし生徒のうちの誰かが優勝したとして、アシュリー商会がスポンサーになって助けてくれるのであれば、これほど心強いものはない。
「では、優勝賞品もその方向で検討しよう。初めての試みだし、賭けにはなるが、やってみる価値はある。細部はこれから詰める必要があるけれど、リサちゃんとジークくんも協力してくれるよね?」
「はい。カフェも料理科もアシュリー商会にはお世話になってますし、何より食材の取り扱いがなくなるのは、ものすごく困りますからね。できるだけ協力します」
「俺も同じ気持ちです。よろしくお願いします」
リサに続き、ジークも承諾すると、アレクシスは「こちらこそよろしく」と微笑んだ。
第三章 卒業課題を発表します。
三日後。リサは料理科にいた。
「はい、みんな席についてー」
始業の鐘と共に教室に入ると、それまで立っていた生徒たちが慌てて席へと駆けていく。
全員が着席し、ざわめきが落ち着いたところで、リサは持参した紙を配る。
前の席から後ろの席へと次々に渡されていく紙。その内容を見て、生徒たちが再びざわめき出した。
「今日は卒業課題について話します。詳しいことはこの紙に書いてありますが、自分で考えた創作料理のレシピを提出すること。ただし、必ず使わなければならない食材があります。それは味噌と醤油です。どちらか一方だけでも構いません」
リサの説明を聞いた生徒の反応は様々だ。あからさまに嫌そうにする者、不安な顔をする者。好戦的な笑みを浮かべる者や、見るからにわくわくしている者もいる。
「提出期限は二ヶ月後。この課題は優劣をつけるものではありませんし、提出しなくても卒業はできます。ただし、みんなが提出した課題の内容は各自の就職先にお伝えするので、そのつもりで取り組んでください」
卒業には関係ないと知って一瞬気が抜けた様子の生徒たちだったが、就職先に内容が伝わることを知るや否や、揃って表情を引き締める。未提出、あるいは適当なものを提出しても卒業できるが、就職先でどう思われるか……。それを考えたら、否が応でも真剣に取り組まざるを得ないだろう。
「あと注意事項が一点。友達と協力して考えても構いませんが、同じレシピを提出するのは不可です。必ず独自のレシピを提出してください。それと――」
リサは一度言葉を切って、教室を見回す。すると、入学時から『将来はお店を開きたい』と言っていた一人の生徒と目が合った。
「今度、アシュリー商会主催の料理コンテストが開かれることになりました。その一次審査のお題も、醤油または味噌を使ったオリジナルレシピです」
料理コンテストという言葉に、教室は先程以上にざわめいた。リサはそれを静めることなく続ける。
「卒業課題のために考えたレシピで、料理コンテストに応募しても構いません。一次審査を通過すると二次審査に進みます。優勝した人には賞金と、副賞としてアシュリー商会の出資でお店を開く権利が与えられます」
そう話すと、生徒たちから「おおー」と声が上がった。
「一次審査の結果が出るのは卒業式の後ですし、料理コンテストへの参加は自由です。してもしなくても構いません。また、卒業課題とコンテストで別々のレシピを提出しても大丈夫です」
リサは説明しながら、コンテストについて書かれた紙も生徒に配る。
生徒たちはそれを興味津々な様子で眺めていた。本気で挑もうとしている子もいれば、腕試し程度に考えている子もいるようで、反応は様々だ。
卒業まであと数ヶ月しかないが、この二つの挑戦が彼らにとって大きな糧になればいいなと、リサは願っていた。
「ねえねえ、ルトとハウルも参加するでしょ! 料理コンテスト!」
授業が終わり、リサが教室を去った後。オレンジ色の髪をツインテールにした女子生徒が、友人たちに駆け寄った。
彼女はアメリア・イディール。先程の話に興奮して頬を赤く染めている。
「俺はどうすっかなー。そういうのあんまり興味ないし」
そう答えたのは、水色のまっすぐな髪をした男子生徒だ。
彼はルトヴィアス・アシュリー・マティアス。アメリアと違い、卒業課題の詳細が書かれた紙を冷静に眺めていた。
「僕も出なくていいかなぁ。優勝賞品は、お店を開く権利だっけ? それは僕の進路とは関係ないし……」
困ったように笑いながら答えたのは、紺色のおかっぱ髪の男子生徒。
彼はハウル・シュスト。アメリアとルトヴィアスとは入学時からの親友だ。
男子二人の消極的な返事に、アメリアはムッとした。
「ええ~、二人ともチャレンジしないの!? せっかくのチャンスなのに!!」
「そうは言ってもなぁ。俺もハウルも進路は決まってるし、いつか店を開くとしても、まずそっちが優先だから。まあ、経験の一つとして応募はしてもいいけど……」
ルトヴィアスはそう言って肩を竦める。彼はカフェ・おむすびに、ハウルは王宮の厨房に、それぞれ就職を希望していた。
一方、アメリアはお店を開きたいという夢があり、就職先の候補はあるものの、あくまでそれは経験を積むための通過点だと思っている。そこにコンテストの話が舞い込んできて、さらにその優勝賞品がお店を開く権利だと聞き、やる気に火がついてしまったのだ。
「でも、僕らが参加しない方が、アメリアとしては嬉しいんじゃない? だって、その分ライバルが減るわけだし」
ハウルの指摘に、アメリアはハッとする。
「確かに!! やっぱり二人は応募しないで!」
「なんだよ、おい……」
一瞬で手のひらを返したアメリアに、ルトヴィアスはげんなりしていた。
「ああ、私にもチャンスが巡ってきたんだわ! この機会を逃すわけにはいかないじゃない!? とにかくオリジナルレシピを考えないと!」
アメリアはやる気充分に、胸の前で拳を握った。
「まあ、俺らにも卒業課題はあるから、どちらにせよレシピ作りに取り組まないとだな」
「そうだね。……それにしても、醤油か味噌を使った料理かぁ。既存のものだけでも結構いろいろあるよね」
ハウルの言葉に、ルトヴィアスが同意する。
「そうなんだよなぁ。でも既存のものはダメなんだろう? リサ先生は創作料理って言ってたもんな」
醤油も味噌も、リサが作った調味料だ。現在はアシュリー商会で生産・販売されており、フェリフォミア国内では容易に手に入れることができる。
料理科の調理実習でもたびたび使われているため、すっかりおなじみとなっていた。
ほぼ同じ材料からできているはずなのに、全く味わいが違う二つの調味料。野菜、肉、魚、何にでも合う調味料だからこそ、レシピは数多く存在する。
そう考えると、なかなか難しい課題だ。
「リサ先生は、友達と相談してやってもいいって言ってたけど……どうする?」
ルトヴィアスが課題の進め方を二人に問う。するとアメリアは、うーんと考えてから答えた。
「私は一人でやってみたい!」
きっぱりと言ったアメリアに、ハウルとルトヴィアスが頷く。
「そう。じゃあ、僕たちもそれぞれ一人で頑張ろうか」
「だな」
卒業課題とコンテストの一次審査に向けて、三人は各自でオリジナルレシピを考えることにした。
「頑張るぞ~!」とやる気をみなぎらせるアメリアに、ルトヴィアスとハウルは顔を見合わせて小さく笑うのだった。
第四章 新しいフェアを開催します。
料理科にコンテストの準備にと忙しいリサだが、本業はカフェ・おむすびのオーナー兼店長だ。
今日は二階の従業員用スペースに本店のメンバーを集めていた。リサを含めて五人のメンバーがダイニングテーブルに着席している。
「じゃあ、再来週から始めるフェアの説明をするね」
リサは「じゃーん」と言って、あるものを見せた。それは、手のひらほどの大きさの黄色い楕円形のもの。すんと匂いを嗅ぐと、甘い香りが漂ってくる。
初めて見る食材らしきものに、リサとジーク以外のメンバーが首を傾げた。
「これは……なんですか?」
濃い黄色の髪をした大柄な男性が問う。
彼はヘクター・アディントン。カフェ・おむすび本店の調理担当だ。本来は王宮の料理人なのだが、現在はカフェで修業を積むため、期間限定で働いている。
「これはパルゥシャという果物でね、次のフェアに使うつもりだから、今日はまずどんな味か試食してもらおうと思って」
このパルゥシャという果物は、リサの世界でいうマンゴーによく似ている。
リサはあらかじめ用意していたペティナイフを右手に持つ。パルゥシャを縦に寝かせて左手で固定し、真ん中よりやや右側を切り離した。ヘタのついた中央部分を残し、左側も同じように切り離す。こうすると中央部分だけに種が残るのだ。
切り離した両側の部分は、果肉にさいの目にナイフを入れる。そして、皮の方から押し出すように裏返すと、濃いオレンジ色の果肉が綺麗なブロック状になって飛び出た。
その様子を見ていたメンバーが「わぁ!」と華やいだ声を上げる。
リサは二個目、三個目も手早く切っていき、メンバー一人につき半玉ずつのパルゥシャが行き渡った。
リサとジークは先日すでに試食しているが、他の三人にとっては初めて食べる果物だ。おいしそうな香りと鮮やかな見た目に、期待でそわそわとしている。
「ブロック状になってるのを、スプーンで一つずつ掬い取るように食べてみて」
そうリサが言うと、メンバーはさっそくスプーンを手に取った。
適度に熟して柔らかいパルゥシャの果肉は、スプーンで簡単に掬える。メンバーは次々と掬って頬張った。
「すごい! 甘ーい!!」
いち早く感想を口にしたのは、焦げ茶のボブをハーフアップにしている女性。
彼女はデリア・オーウェン。小さな子供を持つママさん従業員で、接客を担当している。
甘いものが好きなので、柔らかく熟したパルゥシャを食べて少女のように喜んでいた。
「本当に甘いですね! 逆に、果物特有の酸味はあまり感じません」
ヘクターもパルゥシャの甘さに驚きつつ、これまでお菓子作りなどに使ってきた果物の味と比べているようだ。
「この甘さが、今度のフェアで作るスイーツのポイントになるかもな。生で食べても充分においしいから、この味を活かしたスイーツができればいいが……」
パルゥシャを一度食べたことがあるジークは、改めてその味を確かめながら思案する。おそらく彼の頭の中には、これから作ろうとしているスイーツのイメージが広がっていることだろう。
そんな中、リサは先程から一人黙って考え込んでいるメンバーに気付いた。
「オリヴィア、あまりおいしくなかった?」
リサはミルクティー色の長い髪をした女性店員を窺う。
彼女はオリヴィア・シャーレイン。デリアと同じく小さな子を持つママさん従業員だ。このメンバーの中ではジークに次ぐ古株で、カフェ本店の接客の要となっている。
「あ、いいえ! とってもおいしいわ! ただ、どこかで食べたことがあるような気がして……」
「もしかしたら、スーザノウルに行った時に食べたのかもね。このパルゥシャは、スーザノウルで採れたものを輸入してるの」
「ああ、そうだわ! 乾燥したものをスーザノウルのお土産として買ったのよ!」
謎が解けてすっきりしたらしく、オリヴィアは晴れやかな顔になった。
「確かに、お土産なら乾燥のパルゥシャが適してるね。生だと冷蔵しないと、あんまり日持ちしないから」
完熟パルゥシャは完熟マンゴーと同様、濃厚な甘みがある。その一方で、限度を超えて熟すと柔らかくなりすぎるため、扱いが難しくなるのだ。
「まあ、熟しすぎたらピューレにしてムースとかプリンとかを作ればいいから、使い道はあるんだけどね」
「パルゥシャでプリンが作れるのか!?」
リサの言葉に真っ先に食いついたのはジークだ。彼はスイーツ全般が好きな大の甘党だが、中でもプリンが一番好きなのである。
彼曰く、『卵とミルクと砂糖だけで作られているシンプルなスイーツだからこそ奥が深い』らしい。
「プリンといっても、グリッツで固めるタイプのプリンだけどね。マンゴー……じゃなかったパルゥシャの甘さがミルクと絶妙に合うんだよね~」
そう言いながらリサが思い出すのは、マンゴープリンだ。
中華料理では杏仁豆腐と並ぶ定番のスイーツ。プリンといいつつ卵を使わない上に、蒸すわけでもないので、実際はゼリーに近い。
だが、マンゴー特有の濃厚な味は普通のプリンに負けていない。
しっかりした味でありながらも、ツルリとした喉ごしで、油っこい中華料理の後でもペロリと食べてしまえるのだった。
マンゴープリン、もといパルゥシャプリンがどんなスイーツなのかを話しながら、リサはパルゥシャの種の周りに残った果肉をナイフでそぎ落とす。
そのおこぼれに預かろうと、体長二十センチほどの精霊が隣でスタンバイしていた。緑の服を着たその精霊は、名をバジルという。リサがこの世界に来た時から契約している精霊だ。
「マスター! バジルにも一口!!」
純粋な目で見上げられると、リサもダメとは言えない。
「はい、滑るから気をつけて持ってね」
リサは微笑ましく思いながら、サイコロ状に切ったパルゥシャを渡す。バジルは「わーい!」と言って両手で受け取り、そのまま齧りついた。
リサも行儀が悪いと思いつつ、残った果肉を手で口に放り込む。パルゥシャの旬は始まったばかりなので、あっさり目の味わいだ。それでもパルゥシャ独特の甘さは充分に出ていて、他の果物とは違う風味がとてもおいしい。
「フェアのスイーツ、一つはパルゥシャプリンにするとして、他はどうするんだ? フェアとして打ち出すなら、いくつか用意しないといけないだろ?」
ジークの中では、パルゥシャプリンはすでに決定したらしい。リサとしても異論はないが、何より自分が食べたいんだろうなと想像できて、ついくすりと笑ってしまう。
「そうだね。パルゥシャはこれから三、四ヶ月の間、定期的に入荷する予定だから、スイーツは月ごとに変えてもいいかも。パルゥシャ自体、時期によって若干味が違うと思うし、それに合わせて考えるのもありかな」
「このままでもすごくおいしいのに、いろんなスイーツになると思うと、とても楽しみだわ」
オリヴィアがうっとりしながら言う。パルゥシャが相当気に入ったらしい。
「そんなに長い期間、フェアをするのは初めてじゃないですか? いや、俺がカフェに入る前にはあったのかもしれませんけど……」
「そう言われれば、こんなに長いフェアをするのは初めてかも。他の果物も旬は同じくらい長いし、店頭にも並ぶけど、その間ずっとフェアをしてたことはないもんね」
確かにヘクターの言う通りだとリサは思う。ここまで長期間のフェアというのはやったことがない。それを思うと、メインの食材がパルゥシャだけで大丈夫なのかと不安になる。
「うーん、急に不安になってきた……。パルゥシャだけで三、四ヶ月もフェアって、お客さんが飽きちゃうかな?」
率直な意見が聞きたくて、リサは他のメンバーの顔を窺った。
「でも、スイーツは月ごとに変えるんですよね? それなら……」
デリアがフォローするように言う。だが、ジークが「いや」と口を挟んだ。
「確かにパルゥシャだけで長期間のフェアというのは難しい気がする。他にも売りがあればいいんだが……」
「だよねぇ。パルゥシャだけだと新鮮味がなくなって、最後の方はフェアってことも忘れられそうな気がする。でも他に、売りになりそうな食材かぁ……」
ジークの言葉を受けて、リサは「うーん」と悩む。
果物の旬の時期にフェアをするというのは、リサの元いた世界ではよくあることだ。フルーツパーラーでは旬の果物のパフェや盛り合わせがメニューに並び、ホテルのレストランは期間限定スイーツのビュッフェで賑わう。
だが、一つの果物だけでフェアをするのは、フェリフォミアでは初めての試みだろう。これがお客さんにどのように受け止められるかはわからない。
初めてだからこそパルゥシャだけで挑むべきか、それとも別の食材も取り入れるべきか……
リサは迷ってしまう。
「ねえねえ、リサさん」
オリヴィアの声に、悩んでいたリサは顔を上げた。
「なぁに、オリヴィア」
「パルゥシャを目玉にしつつ、スーザノウルの他の食材も使うっていうのはどうかしら? それならバリエーションも出せるし、スイーツだけじゃなくていろいろ楽しめるかなって思ったの」
「それはいいかも! 同じ地域の特産品なら共通点もあるし、スイーツだけじゃなくて食事系のメニューもたくさんできそう!」
オリヴィアのナイスなアイデアに、リサは表情を明るくする。
スーザノウルの料理にはあまり詳しくないが、食材の持ち味を活かしたオリジナルの料理であれば考えようはある。
ジークも異論はないのか頷いているし、デリアとヘクターはどんな料理ができるのかと期待に目を輝かせていた。
「じゃあ、今度のフェアはパルゥシャをメインにしたスーザノウルの食材フェアってことに決定!」
リサがそう言うと、メンバーは全員一致で賛成するのだった。
第五章 フェアの準備が進みます。
数日後のカフェ休業日。今日はこれからフェアに向けての試作をする予定だ。
リサは午前中だけ料理科の授業が入っていたが、それが終わるとすぐカフェに向かう。裏口から入り、厨房の扉を開けてちらっと中を覗くと、そこにはパルゥシャの甘い香りが充満していた。
「お疲れ様~。試作はどんな感じ?」
調理台で後片付けする男性二人に声をかけると、彼らはパッと顔を上げる。
「リサさん、お疲れ様です!」
「おかえり。試作の方は、まずまずといったところだ」
ヘクターとジークの言葉に笑顔で頷き、リサは着替えのために二階へ向かう。休憩用のダイニングテーブルでは、オリヴィアとデリアが向かい合って作業をしていた。
「二人とも、お疲れ様」
「リサさんも、料理科の授業お疲れ様でした」
リサが労うと、オリヴィアが作業をやめて、そう返してくれた。
「料理科は創設時にかなり話題になったからね。その生徒たちが出場してくれれば、コンテストの注目度も上がるだろう」
「料理科の生徒たちにもいい刺激になりそうですね。将来お店を持ちたいと考えている生徒もいますから」
ジークの言葉に、キャロルが「あら」と呟く。
「もしかして、あの子かしら? まあ、リサちゃんに料理を直接習ったんなら、お店を出したくなるのも当然かもしれないわね」
そう言ってキャロルは楽しそうに笑った。
ジークと同様、リサにも『料理科の生徒のためになれば……』という思いがあった。将来お店を開きたいと思っている生徒はいるが、そのノウハウを教えることはできても、開店資金の面では助けることができない。
カフェ・おむすびも二号店を出店する際に借りたお金をまだ返済中だし、一部の裕福な生徒を除けば親が開店資金を出すというのも難しいだろう。
もし生徒のうちの誰かが優勝したとして、アシュリー商会がスポンサーになって助けてくれるのであれば、これほど心強いものはない。
「では、優勝賞品もその方向で検討しよう。初めての試みだし、賭けにはなるが、やってみる価値はある。細部はこれから詰める必要があるけれど、リサちゃんとジークくんも協力してくれるよね?」
「はい。カフェも料理科もアシュリー商会にはお世話になってますし、何より食材の取り扱いがなくなるのは、ものすごく困りますからね。できるだけ協力します」
「俺も同じ気持ちです。よろしくお願いします」
リサに続き、ジークも承諾すると、アレクシスは「こちらこそよろしく」と微笑んだ。
第三章 卒業課題を発表します。
三日後。リサは料理科にいた。
「はい、みんな席についてー」
始業の鐘と共に教室に入ると、それまで立っていた生徒たちが慌てて席へと駆けていく。
全員が着席し、ざわめきが落ち着いたところで、リサは持参した紙を配る。
前の席から後ろの席へと次々に渡されていく紙。その内容を見て、生徒たちが再びざわめき出した。
「今日は卒業課題について話します。詳しいことはこの紙に書いてありますが、自分で考えた創作料理のレシピを提出すること。ただし、必ず使わなければならない食材があります。それは味噌と醤油です。どちらか一方だけでも構いません」
リサの説明を聞いた生徒の反応は様々だ。あからさまに嫌そうにする者、不安な顔をする者。好戦的な笑みを浮かべる者や、見るからにわくわくしている者もいる。
「提出期限は二ヶ月後。この課題は優劣をつけるものではありませんし、提出しなくても卒業はできます。ただし、みんなが提出した課題の内容は各自の就職先にお伝えするので、そのつもりで取り組んでください」
卒業には関係ないと知って一瞬気が抜けた様子の生徒たちだったが、就職先に内容が伝わることを知るや否や、揃って表情を引き締める。未提出、あるいは適当なものを提出しても卒業できるが、就職先でどう思われるか……。それを考えたら、否が応でも真剣に取り組まざるを得ないだろう。
「あと注意事項が一点。友達と協力して考えても構いませんが、同じレシピを提出するのは不可です。必ず独自のレシピを提出してください。それと――」
リサは一度言葉を切って、教室を見回す。すると、入学時から『将来はお店を開きたい』と言っていた一人の生徒と目が合った。
「今度、アシュリー商会主催の料理コンテストが開かれることになりました。その一次審査のお題も、醤油または味噌を使ったオリジナルレシピです」
料理コンテストという言葉に、教室は先程以上にざわめいた。リサはそれを静めることなく続ける。
「卒業課題のために考えたレシピで、料理コンテストに応募しても構いません。一次審査を通過すると二次審査に進みます。優勝した人には賞金と、副賞としてアシュリー商会の出資でお店を開く権利が与えられます」
そう話すと、生徒たちから「おおー」と声が上がった。
「一次審査の結果が出るのは卒業式の後ですし、料理コンテストへの参加は自由です。してもしなくても構いません。また、卒業課題とコンテストで別々のレシピを提出しても大丈夫です」
リサは説明しながら、コンテストについて書かれた紙も生徒に配る。
生徒たちはそれを興味津々な様子で眺めていた。本気で挑もうとしている子もいれば、腕試し程度に考えている子もいるようで、反応は様々だ。
卒業まであと数ヶ月しかないが、この二つの挑戦が彼らにとって大きな糧になればいいなと、リサは願っていた。
「ねえねえ、ルトとハウルも参加するでしょ! 料理コンテスト!」
授業が終わり、リサが教室を去った後。オレンジ色の髪をツインテールにした女子生徒が、友人たちに駆け寄った。
彼女はアメリア・イディール。先程の話に興奮して頬を赤く染めている。
「俺はどうすっかなー。そういうのあんまり興味ないし」
そう答えたのは、水色のまっすぐな髪をした男子生徒だ。
彼はルトヴィアス・アシュリー・マティアス。アメリアと違い、卒業課題の詳細が書かれた紙を冷静に眺めていた。
「僕も出なくていいかなぁ。優勝賞品は、お店を開く権利だっけ? それは僕の進路とは関係ないし……」
困ったように笑いながら答えたのは、紺色のおかっぱ髪の男子生徒。
彼はハウル・シュスト。アメリアとルトヴィアスとは入学時からの親友だ。
男子二人の消極的な返事に、アメリアはムッとした。
「ええ~、二人ともチャレンジしないの!? せっかくのチャンスなのに!!」
「そうは言ってもなぁ。俺もハウルも進路は決まってるし、いつか店を開くとしても、まずそっちが優先だから。まあ、経験の一つとして応募はしてもいいけど……」
ルトヴィアスはそう言って肩を竦める。彼はカフェ・おむすびに、ハウルは王宮の厨房に、それぞれ就職を希望していた。
一方、アメリアはお店を開きたいという夢があり、就職先の候補はあるものの、あくまでそれは経験を積むための通過点だと思っている。そこにコンテストの話が舞い込んできて、さらにその優勝賞品がお店を開く権利だと聞き、やる気に火がついてしまったのだ。
「でも、僕らが参加しない方が、アメリアとしては嬉しいんじゃない? だって、その分ライバルが減るわけだし」
ハウルの指摘に、アメリアはハッとする。
「確かに!! やっぱり二人は応募しないで!」
「なんだよ、おい……」
一瞬で手のひらを返したアメリアに、ルトヴィアスはげんなりしていた。
「ああ、私にもチャンスが巡ってきたんだわ! この機会を逃すわけにはいかないじゃない!? とにかくオリジナルレシピを考えないと!」
アメリアはやる気充分に、胸の前で拳を握った。
「まあ、俺らにも卒業課題はあるから、どちらにせよレシピ作りに取り組まないとだな」
「そうだね。……それにしても、醤油か味噌を使った料理かぁ。既存のものだけでも結構いろいろあるよね」
ハウルの言葉に、ルトヴィアスが同意する。
「そうなんだよなぁ。でも既存のものはダメなんだろう? リサ先生は創作料理って言ってたもんな」
醤油も味噌も、リサが作った調味料だ。現在はアシュリー商会で生産・販売されており、フェリフォミア国内では容易に手に入れることができる。
料理科の調理実習でもたびたび使われているため、すっかりおなじみとなっていた。
ほぼ同じ材料からできているはずなのに、全く味わいが違う二つの調味料。野菜、肉、魚、何にでも合う調味料だからこそ、レシピは数多く存在する。
そう考えると、なかなか難しい課題だ。
「リサ先生は、友達と相談してやってもいいって言ってたけど……どうする?」
ルトヴィアスが課題の進め方を二人に問う。するとアメリアは、うーんと考えてから答えた。
「私は一人でやってみたい!」
きっぱりと言ったアメリアに、ハウルとルトヴィアスが頷く。
「そう。じゃあ、僕たちもそれぞれ一人で頑張ろうか」
「だな」
卒業課題とコンテストの一次審査に向けて、三人は各自でオリジナルレシピを考えることにした。
「頑張るぞ~!」とやる気をみなぎらせるアメリアに、ルトヴィアスとハウルは顔を見合わせて小さく笑うのだった。
第四章 新しいフェアを開催します。
料理科にコンテストの準備にと忙しいリサだが、本業はカフェ・おむすびのオーナー兼店長だ。
今日は二階の従業員用スペースに本店のメンバーを集めていた。リサを含めて五人のメンバーがダイニングテーブルに着席している。
「じゃあ、再来週から始めるフェアの説明をするね」
リサは「じゃーん」と言って、あるものを見せた。それは、手のひらほどの大きさの黄色い楕円形のもの。すんと匂いを嗅ぐと、甘い香りが漂ってくる。
初めて見る食材らしきものに、リサとジーク以外のメンバーが首を傾げた。
「これは……なんですか?」
濃い黄色の髪をした大柄な男性が問う。
彼はヘクター・アディントン。カフェ・おむすび本店の調理担当だ。本来は王宮の料理人なのだが、現在はカフェで修業を積むため、期間限定で働いている。
「これはパルゥシャという果物でね、次のフェアに使うつもりだから、今日はまずどんな味か試食してもらおうと思って」
このパルゥシャという果物は、リサの世界でいうマンゴーによく似ている。
リサはあらかじめ用意していたペティナイフを右手に持つ。パルゥシャを縦に寝かせて左手で固定し、真ん中よりやや右側を切り離した。ヘタのついた中央部分を残し、左側も同じように切り離す。こうすると中央部分だけに種が残るのだ。
切り離した両側の部分は、果肉にさいの目にナイフを入れる。そして、皮の方から押し出すように裏返すと、濃いオレンジ色の果肉が綺麗なブロック状になって飛び出た。
その様子を見ていたメンバーが「わぁ!」と華やいだ声を上げる。
リサは二個目、三個目も手早く切っていき、メンバー一人につき半玉ずつのパルゥシャが行き渡った。
リサとジークは先日すでに試食しているが、他の三人にとっては初めて食べる果物だ。おいしそうな香りと鮮やかな見た目に、期待でそわそわとしている。
「ブロック状になってるのを、スプーンで一つずつ掬い取るように食べてみて」
そうリサが言うと、メンバーはさっそくスプーンを手に取った。
適度に熟して柔らかいパルゥシャの果肉は、スプーンで簡単に掬える。メンバーは次々と掬って頬張った。
「すごい! 甘ーい!!」
いち早く感想を口にしたのは、焦げ茶のボブをハーフアップにしている女性。
彼女はデリア・オーウェン。小さな子供を持つママさん従業員で、接客を担当している。
甘いものが好きなので、柔らかく熟したパルゥシャを食べて少女のように喜んでいた。
「本当に甘いですね! 逆に、果物特有の酸味はあまり感じません」
ヘクターもパルゥシャの甘さに驚きつつ、これまでお菓子作りなどに使ってきた果物の味と比べているようだ。
「この甘さが、今度のフェアで作るスイーツのポイントになるかもな。生で食べても充分においしいから、この味を活かしたスイーツができればいいが……」
パルゥシャを一度食べたことがあるジークは、改めてその味を確かめながら思案する。おそらく彼の頭の中には、これから作ろうとしているスイーツのイメージが広がっていることだろう。
そんな中、リサは先程から一人黙って考え込んでいるメンバーに気付いた。
「オリヴィア、あまりおいしくなかった?」
リサはミルクティー色の長い髪をした女性店員を窺う。
彼女はオリヴィア・シャーレイン。デリアと同じく小さな子を持つママさん従業員だ。このメンバーの中ではジークに次ぐ古株で、カフェ本店の接客の要となっている。
「あ、いいえ! とってもおいしいわ! ただ、どこかで食べたことがあるような気がして……」
「もしかしたら、スーザノウルに行った時に食べたのかもね。このパルゥシャは、スーザノウルで採れたものを輸入してるの」
「ああ、そうだわ! 乾燥したものをスーザノウルのお土産として買ったのよ!」
謎が解けてすっきりしたらしく、オリヴィアは晴れやかな顔になった。
「確かに、お土産なら乾燥のパルゥシャが適してるね。生だと冷蔵しないと、あんまり日持ちしないから」
完熟パルゥシャは完熟マンゴーと同様、濃厚な甘みがある。その一方で、限度を超えて熟すと柔らかくなりすぎるため、扱いが難しくなるのだ。
「まあ、熟しすぎたらピューレにしてムースとかプリンとかを作ればいいから、使い道はあるんだけどね」
「パルゥシャでプリンが作れるのか!?」
リサの言葉に真っ先に食いついたのはジークだ。彼はスイーツ全般が好きな大の甘党だが、中でもプリンが一番好きなのである。
彼曰く、『卵とミルクと砂糖だけで作られているシンプルなスイーツだからこそ奥が深い』らしい。
「プリンといっても、グリッツで固めるタイプのプリンだけどね。マンゴー……じゃなかったパルゥシャの甘さがミルクと絶妙に合うんだよね~」
そう言いながらリサが思い出すのは、マンゴープリンだ。
中華料理では杏仁豆腐と並ぶ定番のスイーツ。プリンといいつつ卵を使わない上に、蒸すわけでもないので、実際はゼリーに近い。
だが、マンゴー特有の濃厚な味は普通のプリンに負けていない。
しっかりした味でありながらも、ツルリとした喉ごしで、油っこい中華料理の後でもペロリと食べてしまえるのだった。
マンゴープリン、もといパルゥシャプリンがどんなスイーツなのかを話しながら、リサはパルゥシャの種の周りに残った果肉をナイフでそぎ落とす。
そのおこぼれに預かろうと、体長二十センチほどの精霊が隣でスタンバイしていた。緑の服を着たその精霊は、名をバジルという。リサがこの世界に来た時から契約している精霊だ。
「マスター! バジルにも一口!!」
純粋な目で見上げられると、リサもダメとは言えない。
「はい、滑るから気をつけて持ってね」
リサは微笑ましく思いながら、サイコロ状に切ったパルゥシャを渡す。バジルは「わーい!」と言って両手で受け取り、そのまま齧りついた。
リサも行儀が悪いと思いつつ、残った果肉を手で口に放り込む。パルゥシャの旬は始まったばかりなので、あっさり目の味わいだ。それでもパルゥシャ独特の甘さは充分に出ていて、他の果物とは違う風味がとてもおいしい。
「フェアのスイーツ、一つはパルゥシャプリンにするとして、他はどうするんだ? フェアとして打ち出すなら、いくつか用意しないといけないだろ?」
ジークの中では、パルゥシャプリンはすでに決定したらしい。リサとしても異論はないが、何より自分が食べたいんだろうなと想像できて、ついくすりと笑ってしまう。
「そうだね。パルゥシャはこれから三、四ヶ月の間、定期的に入荷する予定だから、スイーツは月ごとに変えてもいいかも。パルゥシャ自体、時期によって若干味が違うと思うし、それに合わせて考えるのもありかな」
「このままでもすごくおいしいのに、いろんなスイーツになると思うと、とても楽しみだわ」
オリヴィアがうっとりしながら言う。パルゥシャが相当気に入ったらしい。
「そんなに長い期間、フェアをするのは初めてじゃないですか? いや、俺がカフェに入る前にはあったのかもしれませんけど……」
「そう言われれば、こんなに長いフェアをするのは初めてかも。他の果物も旬は同じくらい長いし、店頭にも並ぶけど、その間ずっとフェアをしてたことはないもんね」
確かにヘクターの言う通りだとリサは思う。ここまで長期間のフェアというのはやったことがない。それを思うと、メインの食材がパルゥシャだけで大丈夫なのかと不安になる。
「うーん、急に不安になってきた……。パルゥシャだけで三、四ヶ月もフェアって、お客さんが飽きちゃうかな?」
率直な意見が聞きたくて、リサは他のメンバーの顔を窺った。
「でも、スイーツは月ごとに変えるんですよね? それなら……」
デリアがフォローするように言う。だが、ジークが「いや」と口を挟んだ。
「確かにパルゥシャだけで長期間のフェアというのは難しい気がする。他にも売りがあればいいんだが……」
「だよねぇ。パルゥシャだけだと新鮮味がなくなって、最後の方はフェアってことも忘れられそうな気がする。でも他に、売りになりそうな食材かぁ……」
ジークの言葉を受けて、リサは「うーん」と悩む。
果物の旬の時期にフェアをするというのは、リサの元いた世界ではよくあることだ。フルーツパーラーでは旬の果物のパフェや盛り合わせがメニューに並び、ホテルのレストランは期間限定スイーツのビュッフェで賑わう。
だが、一つの果物だけでフェアをするのは、フェリフォミアでは初めての試みだろう。これがお客さんにどのように受け止められるかはわからない。
初めてだからこそパルゥシャだけで挑むべきか、それとも別の食材も取り入れるべきか……
リサは迷ってしまう。
「ねえねえ、リサさん」
オリヴィアの声に、悩んでいたリサは顔を上げた。
「なぁに、オリヴィア」
「パルゥシャを目玉にしつつ、スーザノウルの他の食材も使うっていうのはどうかしら? それならバリエーションも出せるし、スイーツだけじゃなくていろいろ楽しめるかなって思ったの」
「それはいいかも! 同じ地域の特産品なら共通点もあるし、スイーツだけじゃなくて食事系のメニューもたくさんできそう!」
オリヴィアのナイスなアイデアに、リサは表情を明るくする。
スーザノウルの料理にはあまり詳しくないが、食材の持ち味を活かしたオリジナルの料理であれば考えようはある。
ジークも異論はないのか頷いているし、デリアとヘクターはどんな料理ができるのかと期待に目を輝かせていた。
「じゃあ、今度のフェアはパルゥシャをメインにしたスーザノウルの食材フェアってことに決定!」
リサがそう言うと、メンバーは全員一致で賛成するのだった。
第五章 フェアの準備が進みます。
数日後のカフェ休業日。今日はこれからフェアに向けての試作をする予定だ。
リサは午前中だけ料理科の授業が入っていたが、それが終わるとすぐカフェに向かう。裏口から入り、厨房の扉を開けてちらっと中を覗くと、そこにはパルゥシャの甘い香りが充満していた。
「お疲れ様~。試作はどんな感じ?」
調理台で後片付けする男性二人に声をかけると、彼らはパッと顔を上げる。
「リサさん、お疲れ様です!」
「おかえり。試作の方は、まずまずといったところだ」
ヘクターとジークの言葉に笑顔で頷き、リサは着替えのために二階へ向かう。休憩用のダイニングテーブルでは、オリヴィアとデリアが向かい合って作業をしていた。
「二人とも、お疲れ様」
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リサが労うと、オリヴィアが作業をやめて、そう返してくれた。
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