上 下
9 / 36

9.出逢い1(ラウル視点)

しおりを挟む


私はアイロワニー伯爵家の次男、ラウル。


6歳から騎士団養成所で訓練を始め、12歳で騎士団へ正式に入り、実力を買われ18歳には護衛騎士団へ入団した。



今の第一皇子とは歳が同じで、昔からよく手合わせをした気の知れた仲だ。



伯爵家は兄上が継ぐし、護衛騎士とはいつ命を失うか分からない危険と隣り合わせの役目の為、所帯は持たないつもりでいた。


正直に言うと、私の顔だけを見て近づいて来る女性が苦手であったのも1つの理由だ。


皇子はそんな私の事を、

「お前が歩けば男女問わず振り返る程なのに…もったいないな」

などと笑っていたが、あまり興味は無かった。



ある日仕事で、バラレンド侯爵領へお忍びで行く事があった。
我が伯爵家の領地の隣だが、騎士団へ入団していた私はあまり行く機会は無く17歳で久しぶりにゆっくりと視察した。



私が幼い頃は、何というか侯爵領というのにも関わらず寂れた印象があったが、今では街に活気があり、染物に力を入れ始めたようで経済的にもかなり潤っているようだった。


(確か、この間優秀な前侯爵夫人が亡くなったと聞いたが…)


そう疑問に思い、街にいた者に声を掛ける。


「侯爵領は中々活気がありますね。この染物も素晴らしいですね。昔からでしたか?」



そう言うと、職人が手を止め嬉しそうに話してくれた。


「いやぁ、違うのですよ!前侯爵夫人が領地でよく採れるこの植物の染め物を特産物にすれば良いと言って始めたのですが、すぐ夫人が亡くなってしまって…この先どうなるか心配していたのですが、まだ幼いフレミア様がその意志を受け継いでくださってね!」



(ほう…バラレンド侯爵令嬢は確かまだ12.13くらいだったのでは…)


「去年寒波が来て植物が枯れてしまった時も大きな補助金を出してくれましてね!また立て直して今ではこれだけ特産物として確立した物となりましたよ!いやぁ、よく民の話に耳を傾けてくださって、視察にもよく来てくださる素晴らしい方だ。なぁ、みんな!」


そう男が作業している者達に問いかけると一斉に皆が、


「あぁ!本当に!」
「いやぁ、今では経済が潤って街に活気が溢れているね!」
「移住してくる民も増えたんだ!」


などとその令嬢を褒め称えた。



まだ幼い少女がこれだけ民の気持ちを捉え、街を栄えさせているなんて…


それからというもの、私はまだ見ぬフレミア様の事が気になって仕方が無くなってしまった。




そしてフレミア様が16歳になり、社交界デビューの日。

私は最低限しか社交界には顔を出さなかったのだが(どうも近付いてくる令嬢達が苦手で…)この日は嬉々としながらパーティーへ参加した。


(フレミア様はどこだろう…)


そう思っていると私の隣にいた父に1人の令嬢が近づき、


「アイロワニー伯爵、フレミア・バラレンドでございます」


と挨拶をした。


(これが…!フレミア様…!)

初めて見るフレミア様は、思っていたよりもずっと美しく、華奢だった。




その後も、話しかけてくる多くの令嬢達を失礼のない程度に適当にあしらいフレミア様を目で追う。


(しかし…あの両親は今日デビューの娘を放って何をしているのだろうか…)


バラレンド侯爵夫妻はフレミア様を紹介して回る事なく、フレミア様を1人にさせていた。
しかし、フレミア様は慣れない社交場でも1人で堂々と振る舞い、色々な方に挨拶していく。



その姿を見て、さらに心奪われるのだった。




しかし、フレミア様ばかりを見ていた私は気づく事ができなかった。



ずっと私の事を見ていた視線に……。




しおりを挟む
感想 193

あなたにおすすめの小説

私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? ※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定! コミックシーモア様にて12/25より配信されます。 コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。 リンク先 https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/

婚約破棄に全力感謝

あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び! 婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。 実はルーナは世界最強の魔導師で!? ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る! 「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」 ※色々な人達の目線から話は進んでいきます。 ※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)

格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう

柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」  最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。  ……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。  分かりました。  ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。

完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。 結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに 「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……

【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea
恋愛
──愛されない契約の花嫁だったはずなのに、何かがおかしい。 家の借金返済を肩代わりして貰った代わりに “お飾りの妻が必要だ” という謎の要求を受ける事になったロンディネ子爵家の姉妹。 ワガママな妹、シルヴィが泣いて嫌がった為、必然的に自分が嫁ぐ事に決まってしまった姉のミルフィ。 そんなミルフィの嫁ぎ先は、 社交界でも声を聞いた人が殆どいないと言うくらい無口と噂されるロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ様。 ……お飾りの妻という存在らしいので、愛される事は無い。 更には、用済みになったらポイ捨てされてしまうに違いない! そんな覚悟で嫁いだのに、 旦那様となったアドルフォ様は確かに無口だったけど───…… 一方、ミルフィのものを何でも欲しがる妹のシルヴィは……

可愛い妹を母は溺愛して、私のことを嫌っていたはずなのに王太子と婚約が決まった途端、その溺愛が私に向くとは思いませんでした

珠宮さくら
恋愛
ステファニア・サンマルティーニは、伯爵家に生まれたが、実母が妹の方だけをひたすら可愛いと溺愛していた。 それが当たり前となった伯爵家で、ステファニアは必死になって妹と遊ぼうとしたが、母はそのたび、おかしなことを言うばかりだった。 そんなことがいつまで続くのかと思っていたのだが、王太子と婚約した途端、一変するとは思いもしなかった。

【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~

Rohdea
恋愛
───私は美しい姉と間違って求婚されて花嫁となりました。 美しく華やかな姉の影となり、誰からも愛されずに生きて来た伯爵令嬢のルチア。 そんなルチアの元に、社交界でも話題の次期公爵、ユリウスから求婚の手紙が届く。 それは、これまで用意された縁談が全て流れてしまっていた“ルチア”に届いた初めての求婚の手紙だった! 更に相手は超大物! この機会を逃してなるものかと父親は結婚を即快諾し、あれよあれよとルチアは彼の元に嫁ぐ事に。 しかし…… 「……君は誰だ?」 嫁ぎ先で初めて顔を合わせたユリウスに開口一番にそう言われてしまったルチア。 旦那様となったユリウスが結婚相手に望んでいたのは、 実はルチアではなく美しくも華やかな姉……リデルだった───

花嫁は忘れたい

基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。 結婚を控えた身。 だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。 政略結婚なので夫となる人に愛情はない。 結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。 絶望しか見えない結婚生活だ。 愛した男を思えば逃げ出したくなる。 だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。 愛した彼を忘れさせてほしい。 レイアはそう願った。 完結済。 番外アップ済。

処理中です...