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8.ラウルの提案

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「…リアーナ!もういつまで泣いているの??」


ラウル様の求婚を受け、晴れて婚約者となったラウル様と私。


その瞬間から侍女リアーナはずっと泣いていて、今侯爵家へ帰る馬車の中でもずっと泣いている。


「ううぅずびまぜん~だってっだって~嬉しくてぇぇぇひぃぃっく」


ずっとこの調子でハンカチを顔に押し当て嗚咽している


「取り乱しすぎよ…」


「フレミア様、前奥様が亡くなってから私達使用人はずっとずっとフレミア様に幸せになって貰いたかったのです~私達もどかしくてっもどかしくってっ!でも…!ラウル様にならフレミア様を~うううぅ~」


「ありがと、リアーナ…」


お母様が亡くなった時私は12歳だった。
美しくて優しくて強さも兼ね備えたお母様が大好きだった私は、お母様に会いたくて本当に辛くて辛くて泣いてばかりだった。


それなのに、父はひと月もしない内に義母と妹を屋敷に連れてきたのだった。


妹は私と3ヶ月程しか歳が変わらなかった。


母の死を悲しむ事無く、新しい家族が目の前に出来上がり、自分だけが取り残されていく。


「前の侯爵夫人を想ってウジウジ泣いているなんて、私に対する当て付けか」

などと義母に怒鳴られ、私は泣くことも許されなかった。



絶望に打ちひしがれている私を慰め眠れぬ時に側にいてくれたのは、使用人の皆だった。


皆がいたから、ここまで立ち直り前を向く事ができるようになった。


「でも…私がラウル様の所へ嫁いでしまえば、屋敷の皆が心配だわ…」



「それは大丈夫ですよ!今まで、皆があの屋敷にいたのはフレミア様がいたからです。フレミア様がラウル様の元へ行かれたら皆も出て行くのでは無いでしょうか?」


「それなら尚更…」


「フレミア様!ラウル様もおっしゃっていたではないですか。貴女には貴女だけの幸せを考えて欲しいと。それに、ラウル様が何とかすると言っておられましたし…」


"何とかする"
具体的にはどうするのかは聞いていないが、なぜだかラウル様が言うと本当に何とかしてくれる気がするのが不思議だ。



「それにしても、忙しくなりますね。まさかひと月後には生活に慣れる為伯爵家に入り、5ヶ月後には結婚だなんて…」


「そうね…。でもきっとラウル様には考えがあるのだと思うわ」


普通は、少なくとも1年ほどは婚約期間を持つものだ。
その為、5ヶ月後に結婚とは異例の早さだ。

ラウル様から求婚の話の後、3つ提案があった。


1つ目は、婚約をすぐに公表する事。

2つ目は、1ヶ月後には侯爵家を出て伯爵家で過ごす事。

3つ目は、5ヶ月後に建国祭で皆に結婚報告をする事。



あまりの展開の早さに、この短期間で侯爵家の公務を引き継ぐ事はかなり難しいし、やり残した仕事は山のようにあり1ヶ月では到底終わらない。



その事をラウル様には訴えたが、
ラウル様にはにっこり微笑み、


「その方が、使用人や領民の為にも良いのです」


と言われてしまった。


ラウル様が何を考えているのかは分からないが、ラウル様について行こうと決めたのだから、ラウル様を信じようと決心する。



そうこうしている間に屋敷に近付く。


「今日の夕食の後に家族あの人達にこの事を報告するわ。もっと仕事をしないといけない事にあの人達が気付いてくれたら良いのだけれど…。それよりもあの人達は私が出て行く事を大喜びするでしょうね…」



「フレミア様…」




馬車が止まり、屋敷へ入る。
いつからこんなに自分の家に帰る事が億劫になってしまったのだろうか。


「お帰りなさいませ、フレミア様」




しかし、出迎えてくれた使用人達の顔を見て、あとひと月の間に自分ができる事は精一杯しようと思うのだった。














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