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第1章 白い渡り鳥
3.戦に備える街
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旅を始めて2年が経ち、私は20歳になっていた。
色んな国を渡り歩いて『白い渡り鳥』が板についた頃、故郷の町ダーファスからは離れているが、生国であるセゼル領内の街に足を踏み入れた。
この街は小国セゼル、大国ウィニストラ、小国アルベルトの3国が国境を接する場所に近く、セゼルの防衛拠点にもなっている。
街の中に入った途端、門の横に立っていた衛兵達が私達を呼び止めた。
「この先の平原がウィニストラとアルベルトの戦場になる。よって我が国にも影響が及ばぬよう、至急戦力を増強したい。
旅人であっても腕の立つ者がいれば戦力に加わるように命令が出ている。よってそこの傭兵もこちらに来て戦に備えるように」
「ちょっと待って下さい。彼は…」
「申し訳ないですが、例え『白い渡り鳥』様であってもこの国を護るためです。どうかご理解下さい」
私が衛兵の1人に反論しようとすると、別の衛兵が諭すような落ち着いた声で話しかけてきた。
有無を言わせぬその口調と態度に、私と護衛の男性はため息をついた。
「ここでお別れのようだな」
「そうみたいね。怪我しないようにね」
「シェニカもな。今までありがとう。楽しかったよ。これから先、気をつけるんだぞ?じゃあ、またな」
護衛は衛兵に連れられて街の奥へと去って行った。
「護衛が居ないんじゃ、私はこの街から遠くには行けないもんなぁ…。
とりあえずは戦が終わるのを待つしかないけど、次の護衛どうしよう。せっかく良い人が護衛を引き受けてくれたのにな。
あーあ。今度はどこにも行かない、行っても戻ってくる護衛が欲しいな」
私はガックリと肩を落としながら歩き、とりあえず宿を取って情報収集をすることにした。
宿の食堂でお茶を頼み、最新の新聞をいくつか手に取って席に着くと、最初は傭兵組合が発行する傭兵の情報が載っている新聞「傭兵速報」のページをめくった。
今見ているページには、傭兵のランクと名前、ネームタグに刻まれた個人番号が書かれている。
傭兵のランクは一番上がSS、一番下がFで、ランクに応じて貰える給金に差が出る。
「はぁ。ランクの高い傭兵が良いけど、そういう人は戦場が仕事場だから、護衛になんかなってくれないよなぁ…」
私はランクS以上の傭兵の名前を見ながらため息をついた。
「よし、気分転換に買い物しよう!」
私は着ているローブのフードを被って街の市場に向かった。
多くの人が行き交う市場は、この街で戦争に備えて動いているとは思えないほど賑わっている。
私はタレがたっぷりかかった串焼きを片手に、ブラブラとお店を見て回っていると目についたテントの前で足を止めた。
「この飾り可愛いですね」
「これはネームタグにつける飾りだよ」
「へぇ!良いですね。じゃあ、こっちのピンクと青のガラス玉一つずつ買います」
「銅貨8枚だよ。毎度あり」
私はお金を払うと、ピンクと青の小さなガラス玉を受け取った。
ネームタグは世界中の人が必ず首から下げている身分証明書のようなもので、その人が生きている間は外せない特殊な魔法がかけられている。
銀の鎖に銀のプレートが1枚だけというのはシンプル過ぎるということで、ガラス玉や組紐の飾りをつけるのが最近流行りのお洒落の一つだ。
私はその場でローブと旅装束の首元の襟を緩め、ネームタグを引っ張り出して早速プレートを挟むように2色のガラス玉をひっかけてみた。
「お嬢さん、お似合いだよ」
「ありがとうございます」
店主から渡された手鏡を見ていると少し気分が明るくなった。
日が暮れるまではブラブラと買い物をしながら店主と話し込み、夜になると私は街の中にある酒場に行って聞き耳を立てながら情報収集に勤しんだ。
「聞いたか?ウィニストラは今回バルジアラ将軍が出てきているらしいぞ。
対するアルベルトにはあの『赤い悪魔』がいるらしい!」
「へぇ!『銀の将軍』と『赤い悪魔』の対決が実現するかもしれないのか!」
「そりゃあ見ものだな!俺は『赤い悪魔』が勝つ方に銀貨1枚かけるよ!」
「なら俺はバルジアラ将軍に銀貨1枚!
なんたって、大国ウィニストラの名だたる将軍達をまとめる一番強い筆頭将軍だぞ?たかが傭兵ごときに敗れないだろ」
「いや!『赤い悪魔』と言えば、生まれた赤子でも知ってるって言うくらいの悪名高い傭兵だ!
戦場で奴と敵として見えると、その赤い髪に全身の血を吸われるっていうくらいだぞ?是非とも一傭兵が名高い将軍を敗ってほしいもんだ!」
どっちが勝つかの賭けが盛り上がり始めると、あっという間に酒場中の人達が賭けを始めた。
これ以上ここでは情報は得られないだろうと、私はそっと酒場を出て宿に戻った。
宿を拠点に街を散策したり、魔法の勉強をして時間を潰した翌日の昼前。
「おい!戦いが決したらしいぞ!なんとバルジアラ将軍が『赤い悪魔』を討ち取ったそうだ!」
「本当かよ!俺、『赤い悪魔』に銀貨5枚も賭けたのに!」
知らせを聞いた街中は賭けのことで一気に湧き上がっていたから、どうやら街中の多くの人達が賭けに参加していたらしい。
私は『白い渡り鳥』としての仕事をするべく、戦場跡に行って生存者はいないか仕事をすることにした。
死体しかない場所に行くのは正直気が滅入るが、これも一応『白い渡り鳥』としての勤めであるので行かないわけにもいかない。
他の『白い渡り鳥』はこの仕事をしない人も多いと聞いたが、見て見ぬふりをすれば故郷の恩師に顔向けできない。
怒ると怖いローズ様にバレたら長々と説教を受けて、罪悪感に打ちひしがれるのは目に見えている。私にはそっちの方が恐ろしい。
私は宿の女将さんにしばらく留守にすると伝えて、そっと街を出て戦場跡の平原へと向かった。
色んな国を渡り歩いて『白い渡り鳥』が板についた頃、故郷の町ダーファスからは離れているが、生国であるセゼル領内の街に足を踏み入れた。
この街は小国セゼル、大国ウィニストラ、小国アルベルトの3国が国境を接する場所に近く、セゼルの防衛拠点にもなっている。
街の中に入った途端、門の横に立っていた衛兵達が私達を呼び止めた。
「この先の平原がウィニストラとアルベルトの戦場になる。よって我が国にも影響が及ばぬよう、至急戦力を増強したい。
旅人であっても腕の立つ者がいれば戦力に加わるように命令が出ている。よってそこの傭兵もこちらに来て戦に備えるように」
「ちょっと待って下さい。彼は…」
「申し訳ないですが、例え『白い渡り鳥』様であってもこの国を護るためです。どうかご理解下さい」
私が衛兵の1人に反論しようとすると、別の衛兵が諭すような落ち着いた声で話しかけてきた。
有無を言わせぬその口調と態度に、私と護衛の男性はため息をついた。
「ここでお別れのようだな」
「そうみたいね。怪我しないようにね」
「シェニカもな。今までありがとう。楽しかったよ。これから先、気をつけるんだぞ?じゃあ、またな」
護衛は衛兵に連れられて街の奥へと去って行った。
「護衛が居ないんじゃ、私はこの街から遠くには行けないもんなぁ…。
とりあえずは戦が終わるのを待つしかないけど、次の護衛どうしよう。せっかく良い人が護衛を引き受けてくれたのにな。
あーあ。今度はどこにも行かない、行っても戻ってくる護衛が欲しいな」
私はガックリと肩を落としながら歩き、とりあえず宿を取って情報収集をすることにした。
宿の食堂でお茶を頼み、最新の新聞をいくつか手に取って席に着くと、最初は傭兵組合が発行する傭兵の情報が載っている新聞「傭兵速報」のページをめくった。
今見ているページには、傭兵のランクと名前、ネームタグに刻まれた個人番号が書かれている。
傭兵のランクは一番上がSS、一番下がFで、ランクに応じて貰える給金に差が出る。
「はぁ。ランクの高い傭兵が良いけど、そういう人は戦場が仕事場だから、護衛になんかなってくれないよなぁ…」
私はランクS以上の傭兵の名前を見ながらため息をついた。
「よし、気分転換に買い物しよう!」
私は着ているローブのフードを被って街の市場に向かった。
多くの人が行き交う市場は、この街で戦争に備えて動いているとは思えないほど賑わっている。
私はタレがたっぷりかかった串焼きを片手に、ブラブラとお店を見て回っていると目についたテントの前で足を止めた。
「この飾り可愛いですね」
「これはネームタグにつける飾りだよ」
「へぇ!良いですね。じゃあ、こっちのピンクと青のガラス玉一つずつ買います」
「銅貨8枚だよ。毎度あり」
私はお金を払うと、ピンクと青の小さなガラス玉を受け取った。
ネームタグは世界中の人が必ず首から下げている身分証明書のようなもので、その人が生きている間は外せない特殊な魔法がかけられている。
銀の鎖に銀のプレートが1枚だけというのはシンプル過ぎるということで、ガラス玉や組紐の飾りをつけるのが最近流行りのお洒落の一つだ。
私はその場でローブと旅装束の首元の襟を緩め、ネームタグを引っ張り出して早速プレートを挟むように2色のガラス玉をひっかけてみた。
「お嬢さん、お似合いだよ」
「ありがとうございます」
店主から渡された手鏡を見ていると少し気分が明るくなった。
日が暮れるまではブラブラと買い物をしながら店主と話し込み、夜になると私は街の中にある酒場に行って聞き耳を立てながら情報収集に勤しんだ。
「聞いたか?ウィニストラは今回バルジアラ将軍が出てきているらしいぞ。
対するアルベルトにはあの『赤い悪魔』がいるらしい!」
「へぇ!『銀の将軍』と『赤い悪魔』の対決が実現するかもしれないのか!」
「そりゃあ見ものだな!俺は『赤い悪魔』が勝つ方に銀貨1枚かけるよ!」
「なら俺はバルジアラ将軍に銀貨1枚!
なんたって、大国ウィニストラの名だたる将軍達をまとめる一番強い筆頭将軍だぞ?たかが傭兵ごときに敗れないだろ」
「いや!『赤い悪魔』と言えば、生まれた赤子でも知ってるって言うくらいの悪名高い傭兵だ!
戦場で奴と敵として見えると、その赤い髪に全身の血を吸われるっていうくらいだぞ?是非とも一傭兵が名高い将軍を敗ってほしいもんだ!」
どっちが勝つかの賭けが盛り上がり始めると、あっという間に酒場中の人達が賭けを始めた。
これ以上ここでは情報は得られないだろうと、私はそっと酒場を出て宿に戻った。
宿を拠点に街を散策したり、魔法の勉強をして時間を潰した翌日の昼前。
「おい!戦いが決したらしいぞ!なんとバルジアラ将軍が『赤い悪魔』を討ち取ったそうだ!」
「本当かよ!俺、『赤い悪魔』に銀貨5枚も賭けたのに!」
知らせを聞いた街中は賭けのことで一気に湧き上がっていたから、どうやら街中の多くの人達が賭けに参加していたらしい。
私は『白い渡り鳥』としての仕事をするべく、戦場跡に行って生存者はいないか仕事をすることにした。
死体しかない場所に行くのは正直気が滅入るが、これも一応『白い渡り鳥』としての勤めであるので行かないわけにもいかない。
他の『白い渡り鳥』はこの仕事をしない人も多いと聞いたが、見て見ぬふりをすれば故郷の恩師に顔向けできない。
怒ると怖いローズ様にバレたら長々と説教を受けて、罪悪感に打ちひしがれるのは目に見えている。私にはそっちの方が恐ろしい。
私は宿の女将さんにしばらく留守にすると伝えて、そっと街を出て戦場跡の平原へと向かった。
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