バスは秘密の恋を乗せる

桐山なつめ

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「神山くんは、どうして学校に来ないの?」
「オレの口からは言いたくない」
「でも心配してた人もいたよ? 学校へ来ないのに、バスでどこに通ってるのって」

 すると、神山くんはむっとしたように私をにらみつけた。

「言いたくないって言ってるだろ。詮索されるの、きらいなんだけど」
「あ。ごめんなさい」

 うう、神山くんがやさしいからって、ちょっと調子に乗りすぎちゃったかも。
 人には訊かれたくないことはあるよね。私だってそうだもん。
 ガタン、ガタンとバスの走行音だけが響く。
 神山くんはそっぽを向いて、いつの間にか片耳にイヤフォンをつけている。
 すごく気まずい……。なにか話題を変えなくちゃ。

「か、神山くん、いつもイヤフォンでなにを聴いてるの? 好きな歌手とかいる?」
「詮索されるのはきらいだって言ったよな?」
「ごめんなさい」

 撃沈。私のバカ! 墓穴を掘ってどうするの!
 神山くんって謎が多すぎて、むずかしすぎる。
 もうだまっていよう。私はうつむいて、スカートの裾をにぎりこむ。
 すると、となりでふっと笑う声が聞こえた。

「悪かったよ。いまのは冗談だって」

 神山くんはからかうように言って、カバンから真新しいイヤフォンを手渡してきた。

「一応、新品のやつ。片方、つけてみ」
「うん?」

 私は右耳、神山くんは左耳に、それぞれイヤフォンを挿した。
 プラグは神山くんのスマホにつながっているみたい。
 でも、コードが短いせいで、体をくっつけ合うようにしないと外れてしまいそう。
 だけどこれ以上近づいたら肩がぶつかっちゃうし。

「おい、もっと近づけよ」
「は、はあい」

 すこし肩が触れただけなのに、カァッと自分の頬が熱くなるのを感じる。
 こんな近くにかっこいい顔があったら、誰だって意識しちゃうよね?

「おい、聴こえてるか?」

 って、そうだ。ちゃんと聴かないと。自分の心を落ち着けて、耳を澄ました。
 きれいな音楽だな。歌っている女の人の声が、耳を伝って体のすみずみまでしみこんでいく。
 バスの走行音すら……ううん。バスに乗っていることも忘れてしまいそうなくらい、聞き入ってしまう。

「すごくすてきな曲……」
「だろ?」

 神山くんは目をかがやかせながら、ずいっと私に近づいた。

「オレが主演やってたドラマの主題歌なんだ」
「そうなの!?」
「ああ。この曲を聴くと、世界一の役者になるって決めた日を思い出すんだ。心が折れそうになったら、これ聴いて自分をはげましてんだよ」

 世界一の役者……聞いているだけで、私までわくわくしてくる!

「神山くんはすごいね。私と同い年なのに、自分の夢がはっきり決まってるなんて」
「サンキュ。そういうあんたは、夢とかないの?」

 一瞬、言葉につまる。

「な、ないよ」
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