バスは秘密の恋を乗せる

桐山なつめ

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 翌朝。私はバスに乗り込むなり、神山くんのとなりに座った。
 不思議そうな顔をする神山くんへ、美術部に入部したことを伝えると、

「へえ。意外とやる気あったんじゃん」

 そう言って、うれしそうにほほえんでくれた。

「それで、どんな絵にするんだ?」
「あっ。コンクールに出品するわけじゃないよ」
「ん? じゃあ、なんのために入部したんだよ?」

 うっ。たしかに誰でもそう思うよね。
 私は、もじもじと両手の指をからめる。

「絵のそばに、いたかったから……かな」

 ちらっと神山くんを見たけど、帽子の下からのぞく表情はクールなまま。

「ふうん。ま、好きなことから離れるなんて、そう簡単にはできないもんな」

 好きなこと……。
 神山くんは芸能界から距離をおいたのに、もう一度オーディションを受けようとしてるんだよね。それって、やっぱり演技が好きだから?
 訊いてみたい。だけど、友だちでもない私がいきなり尋ねるなんて無神経かな。
 そんなことをぐるぐる頭のなかで考えていると、神山くんがとつぜん手を伸ばしてきた。

「あんたさ……」
「わっ、なに!?」

 顔が近くて、思わずドキッとしちゃう。
 だけど神山くんは動揺する私をからかうように、ほっぺたを軽くつねってきた。

「にゃひ、ひゅるの?(なに、するの?)」
「なんか、言いたそうな顔してたから」
「ひゃんで、わひゃったの?(なんで、わかったの?)」

 神山くんは私から手を離して、自分の目を指さす。

「役者志望の観察眼、なめないでくれる?」

 役者志望?

「それって、うそだよね? 神山くんって、役者さんだったんでしょ?」

 今まで笑顔だった神山くんの顔色が、サッと変わる。

「どこでそれを?」

 一気に神山くんの声が低くなって、背筋がぞうっとした。

「……美術部のみんなから」
「ほかに、なんか聞いた?」

 共演者をケガさせた、なんてとても言える雰囲気じゃない。
 ふるふると首を横にふると、神山くんはほっとしたように息をつく。

「そっか。ま、同じ学校だし、いずれバレるよな」
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