上 下
26 / 687
2巻

2-3

しおりを挟む
 やっぱり、殺しちゃうんだ……
 改めて言われると気持ちが沈む。

「お兄さんが殺すんですか?」

 じっと彼の顔を見つめる。

「いや、僕は殺さないかな、勿体もったいないし」

 勿体もったいないとはどういうことか分からないが、とりあえずすぐには殺されないみたいだ。少し安心して、胸をで下ろす。

「でも……奴隷にするんだよ」

 私がホッとしているのが面白くなかったのか、糸目のお兄さんはおどすように嫌なことを言う。
 奴隷……奴隷って、誰かに仕えたり世話したりするか、労働をいられるんだっけ?
 いまいち、奴隷という言葉にピンとこなくてなにをするのか分からない。首を傾げているとお兄さんが教えてくれた。

「君が奴隷になったらまず貴族に売られるね。いい貴族なら、まぁ召使いにされるくらいだけど……その容姿なら変態貴族にも人気がありそうだ」

 変態貴族? それって……嫌な予感がする。
 嫌悪感が顔に出ていたのだろう。お兄さんは頷くと愉快そうに笑った。

「そう、いるんだよ。小さい子が好きな変態がね」

 どうしよう……それはごめんこうむりたい。今になって恐怖がむくむくと湧いてきた。
 でも泣きたくない。ツンとする鼻の奥に力を入れて、グッとこらえ、ゆっくりと息を吐く。

「まぁ、君の行き先はもう決まってるんだけどね。君みたいな子を探してくれと言われてたから、ちょうどよかったよ」

 このお兄さんが私を売るのか? ならこの人は奴隷商人ってことかな? こんなにニコニコした人が?
 不思議に思って、お兄さんの顔をじーっと見つめて聞いてみる。

「お兄さんが売るの?」
「ああ、そうだよ」
「なんでそんなことをするの?」

 ついお兄さんの気安い雰囲気に流され、普通に聞いてしまう。

「お金のためさ」

 ずっと笑顔を貼り付けていた彼の表情が、また少しゆがんだ。

「こんなことしなくても、お金は稼げますよ」

 違うお金の稼ぎ方なんていくらでもある……こんな人を傷つけるやり方なんて選ばなくても……

「あはは!」

 私の言葉を聞いて、お兄さんは一瞬真顔になった後、腹を抱えて笑い出した。

「僕はねぇ、こんなことをしないとお金を稼げないんだよ! ほら、これを見てみろ」

 お兄さんは上着を脱いで、こちらに背中を見せた。そこにはマルの中にバツ印が書いてある痛々しい火傷やけどあとがあった。焼きごてを押しつけられたあとのように、みみずれになっている。
 酷い……
 思わず口を押さえる。それは決して自分で好んでつける印ではない。とても不快な感じがした。
 思わず駆け寄って、火傷やけどあとを触ろうとすると、お兄さんはバッと上着を羽織りこちらを睨んだ。

「なにをする!」

 お兄さんの仮面ががれて、本当の表情を見せた。その顔は怒っていて、そしてとてもさびしそうだ。
 でも笑顔の仮面よりよっぽどいい……あの笑顔はまるで泣いているように見えたから。

「その傷痕きずあと、どうしたんですか?」

 お兄さんの羽織の下にある傷痕きずあとを思い出し、悲しくなる。自然と眉尻が下がり、お兄さんを見上げた。

「あれが奴隷の印だよ。奴隷になるとあの印を押されるんだ。そうすればずっと奴隷扱いさ、抜け出せない……ずっと奴隷として扱われるんだ。お嬢ちゃんもすぐにそうなるよ」

 お兄さんはまた笑顔の仮面を被った。そして最初に来た時の落ち着きを取り戻すと、上着を正して私を見下ろす。

「少し話しすぎたね……大人しくしてるんだ、そうすればここにいる間は酷いことはしない。一応大切な商品だからね」

 そう言い捨てると扉から出て行ってしまった。
 お兄さんが出て行くとガチャ! っと、鍵の閉まる音がする。
 急いで扉に近づき、ガチャガチャとドアノブを回すがやはり開かない。鍵がかかっていた。
 諦めて、布が敷いてあるところに戻り、膝を抱えて座り込む。
 どうしよう。シルバもシンクも心配してるよね……ベイカーさんに知らせてくれてるかな? コジローさんが通訳できるからきっと大丈夫だよね……
 改めて高スペックな皆のことを思い出す。一人はA級冒険者、もう一人は忍者。従魔はモフモフのイケメンフェンリルにふわふわの可愛い鳳凰ほうおう……うん、やっぱりなんとかなりそうかな?

【シルバ! シンク!】

 念話で呼びかけてみるが、声は返ってこなかった。
 念話がどのくらいの距離まで届くかは分からない。とりあえずできることもないので、ずっとシルバ達に呼びかけ続ける。その時、不意に扉の外が騒がしくなった。
 何事かと扉のほうに目を向けると、鍵が開く音がする。
 そして先程のお兄さんとは違う、ガタイのいい男が、私のいる部屋になにかを放り投げた。
 男は私を一瞥いちべつして、ニタッと粘っこい視線を投げる。
 その視線に背筋がゾワッと粟立つ。
 なるほど、あれが変態のたぐいか……
 しかし男はなにもせず視線だけ向け、また扉を閉めて出て行った。
 ホッとして、男が投げつけたものに恐る恐る近寄ってみる。どうやら男の人のようだ。
 投げ込まれた人はピクリとも動かない。
 体中ボロボロで服も破けている。暴力を受けたみたいで、全身に青痣あおあざがある。
 そっと近づき、腕の脈を取ってみる。生きてはいるようだ。気絶しているらしく、起きる気配はない。
 殴られてところどころれたり切れたりしてはいるが、綺麗な顔をしている。
 髪は薄茶色。そして一番気になるのが頭から生えている耳だった。
 コレってケモ耳? 本物?
 そぉっと触ると、フワフワでかすかに温かかった。
 きゃーー!! 獣人だ!
 私は一瞬誘拐のことなど忘れて歓喜する。
 憧れのケモ耳だ! 三角にとんがっているからきつね? いや、猫系かな!
 起きないことに味をしめて、もう一度優しくちょんと触る。
 尻尾はどうかな? 不躾ぶしつけに探すが見つからない。
 あれー? 尻尾はないの?
 残念に思っていると、ベルトになにか違和感を抱く。もしかして……
 分厚いベルトに手をかけると、ほんわり温かく、耳と同じなめらかな触り心地だった。
 なんとベルトと思っていたものが、尻尾だったのだ。
 尻尾を腰に巻くなんて! 素晴らしい!
 私は興奮してしまい、我を忘れて優しく尻尾をで続けた。

「う、うん……」

 すると、ケモ耳の人が身じろぎし、目を覚ました。
 私は慌ててパッと手を離し、触っていたことを誤魔化ごまかすように声をかけた。

「だ、大丈夫ですか?」

 覗き込んで顔を見ると、目が合い、ビクッと驚かれる。

「ここは?」

 彼はキョロキョロと周りの様子をうかがっている。
 女の人かもしれないと思うほど綺麗な顔をしているが、声は低い。やはり正真正銘しょうしんしょうめい、男の人みたいだ。

「お兄さんも誘拐されたの?」

 ここに来たってことはそうだよね?

「おま……いえ、あなたは俺が誰か分からないのか?」

 えっ? なんか有名な人だったのか。確かにこの見た目ならアイドルでもモデルでもできそうだ。でも、この世界にもそういう職業はあるのかな?
 どうしよう、よく分からない。もう一度じっと顔を見つめてみるが、やはり会ったことも見たこともない気がする。

「俺は獣人だ……」

 凄く辛そうな顔でそう伝えられた……いや、どう見てもそう見えるが。

「えっ?」

 思わず声が漏れた。

「それなら見て分かりました。でも、すみません、獣人のお兄さんのことは知らなくて……」

 正直に話して謝ると、お兄さんは驚いて言葉を失くしてしまっている。
 やはり有名なのに名前も知らないなんて、失礼だったのかもしれない。もう一度謝ろうかと思ったが、お兄さんは緩く首を横に振った。

「いや、ただの獣人だ。あなたとは会ったことはない」

 ――ん?
 なんか話が噛み合わない。なので今度ははっきりと聞いてみる。

「お兄さんは、有名な人じゃないんですか?」

 首を傾げて聞いてみると、言ってる意味が分からないのか、彼は驚いた顔をする。
 えっ、違うの? じゃあなんで分からないのかって聞いたの?
 訳が分からず首をひねる。そんな私に向かって、獣人のお兄さんは自分が獣人の奴隷だと説明してくれた。
 全てを諦めきった瞳で、こちらを見つめる。奴隷の身分を恥じているのか、表情は暗く、辛そうだった。
 しかし、彼が奴隷なことは私には関係ない。

「それがどうしたんですか? お兄さんが獣人で、奴隷だとなんだっていうの?」

 さっきの人も奴隷だったが、だから彼に対して態度を変えようとは思わなかった。
 それよりも、人生を諦めた、投げやりな態度がもどかしい。

「そうか……」

 獣人のお兄さんは感情なく答える。私は無視してとりあえず自己紹介をした。

「ところで私はミヅキっていいます。お兄さんのお名前も聞いてもいいですか?」

 同じく誘拐された仲間だ、ここから出るためにも協力したほうがいいだろう。それに、しゃべるのに名前を知らないと不便だし。

「……名前はない」
「えっ? 名前ないの?」

 私は驚いて目を丸くする。しかし、彼は当たり前のように頷いた。

「誰かに呼ばれる時はなんて言われるんですか?」

 名前のない人なんているのか。

「オイとかお前、コレとかだな」
「……」

 言葉を失う。……奴隷になるって、こういう扱いをされるということ?
 あの奴隷商人のお兄さんも、こういう体験をしてこの仕事をしてるのかな?
 悲しさと、やりきれなさが胸に込み上げる。私は顔をうつむけ、声を落として話しかけた。

「生まれた時から、ずっと奴隷なんですか……」
「いや、兄と子供の頃に捕まってからだ」
「じゃあ、その時は名前があったんじゃないんですか?」
「ああ、唯一今も兄に呼ばれる名前があるが、それを使うことは許されていない」

 悲しみを通り越して怒りが湧く。なんでそんな扱いを受けなければならないのだろう……この人はそんなに酷いことをしたのか?

「その……もしよかったら、その名前、聞いてもいいですか?」

 顔を見られなくて、下を向きながら聞く。

「……シリウスだ」

 お兄さんは、しばらく考えてからそっと答えてくれた。

「シリウスさん、ミヅキです。よろしくおねがいします」

 私は彼の名前を知れたことが嬉しくて、笑って手を差し出した。
 しかしシリウスさんは戸惑い、手を出さない。私の手が行き場をなくして、宙を彷徨さまよっている。
 手を握っていいものかと迷っているのだろうか。
 私はシリウスさんの手を取ると、自分の手をブンブンと振って微笑んだ。

「シリウスさんのお兄さんはなんて名前なんですか?」

 繋いだ手を離したくなくてそのまま質問をすると、彼はじっとその手を見ながら答えてくれた。

「……ユリウスだ」
「いつか紹介してくださいね!」

 私はグッと手を握りしめた。
 シリウスさんは少しビクッと驚いたものの、次の瞬間、かすかだが柔らかい笑みを見せた。


   ◆


 俺達はミヅキの行方ゆくえを捜すためにギルドに戻り、ギルマスとセバスさんに状況を説明した。案の定二人とも表情こそ冷静だが、内から湧き出る怒りを隠しきれずにいる。
 今していた仕事を放り投げて、手が空いている冒険者達を集めてくれた。
 シンクもギルドに戻ってきたが、やはりミヅキは見つけられなかったようだ。しょんぼりとシルバの頭にとまっている。
 俺は訳も分からずに呼び出された冒険者達の前に出て、口を開く。

「皆、自分達の仕事があるのに集まってもらってすまない。実はミヅキが連れ去られたようなんだ」

 そう言うと、集められた冒険者達がにわかにザワつく。しかし、俺はそのまま話を続けた。

さらわれてからそんなに時間が経っていない、なのでまだ町にいるはずだ。だから力を貸して欲しい。ミヅキを、見つけたいんだ」

 俺は恥も外聞もなく、格下の冒険者達に頭を下げた。A級冒険者だからって関係ない。ミヅキが見つかるなら、頭を下げるくらい安いものだ。
 そんな必死な俺を見て、冒険者達は息を呑み、場はシーンと静まり返った。

「――当たり前です!」

 ふと、一人が声をあげる。それを皮切りに、他の冒険者達も口々に騒ぎ始めた。

「ミヅキちゃんはここのギルドのいやしですよ」
「絶対見つけます!」
「一体、俺らはなにをすればいいんですか?」
「絶対に許さねぇ……一体誰が?」

 皆憤怒ふんぬしながら、どこを捜せばよいかと早速話し合いを始める。
 ああ、ミヅキ……お前はもうこの町にとって、なくてはならない存在になっているんだな。
 不意に目に涙がにじむのを、俺は慌ててぬぐった。
 ギルマスが町の門番に、この町から人を出さないように通達したが、対応しきれなくなるかもしれない。そこに何人か配置するために人を出した。
 後は町での聞き込みを冒険者達に頼んだ。

「なにか分かったら、俺かコジロー、ギルマス、セバスさんに言ってくれ」

 皆、俺の指示に一斉に頷く。

「まずは最初に接触してきたという女の捜索にあたってくれ。皆、悪いが頼んだ」

 冒険者達はすぐさま外へと散らばって行った。


   ◆


 ビークワイ達は、他の冒険者達が走り回る中、同じようにギルドを出た。そして、ミヅキを捜すふりをしながらボロ小屋へと帰ってきた。

「アハハハ! あの男上手くやったみたいね! これでこのままいなくなってくれれば計画通りね!」

 ビークワイは口端をゆがませながら、上機嫌で笑っている。

「後は、指定の時間に南門を開ければ大丈夫ね」

 時間を確認してのんびりと椅子に座った。

「しかし、門番の他に何人か配置すると言ってたぞ」
「その時に私達が配置を代わればいいでしょ! 完璧よ!」

 仲間の男が心配そうに言うのに、ビークワイは一笑して答えた。
 もう計画通りに事が進んでいる。余裕だ。

「あーあ。私、一発くらいミヅキって子、叩いておけばよかったわ~」

 カラカラと笑っていると、にわかにビークワイの顔色が変わった……急に全身に悪寒おかんが走る。
 体が金縛りにあったように動かない。
 目だけ動かし他の者を見るが、皆同じように、恐怖の表情を浮かべ固まっている。
 なにかおかしいと扉のほうを見ると、黒い影が揺らめいているのが目に入った。だが、その姿を確認する前に意識を失った。


   ◆


 ベイカーが冒険者達に捜索を頼む中、俺は薄ら笑いをする女達に気付いた。
 なんとなく気になって、コジローとシンクと共に後を追う。コジローによるとこいつらはビークワイというC級冒険者がリーダーのパーティらしい。
 こいつらがミヅキの誘拐に関わっていることを知り、瞬間、怒りで目の前が真っ赤になった。
 俺は音もなく小屋の扉をくぐり、奴らを昏倒させる。

「ガルゥゥ!」
【こやつら、ミヅキを叩くと言ってたぞ……】
【殺しちゃう?】

 怒りを抑えきれず、噛みついて、その頭を粉々にしてやろうかとすら思う。シンクもさすがに怒っているようで、サラッと暴言を吐いた。
 コジローの顔を見るがなにも答えない、いや、あまりの怒りで答えられないでいるようだ。その瞳は憤怒ふんぬで燃え、拳を握ってビークワイ達を睨んでいる。
 ややあって、ようやく口を開いた。

【……それでこいつらどうしますか?】

 先程の話の内容から、ミヅキの誘拐に関わっているのは間違いない。コジローはそう言いながら、更にまなじりを吊り上げる。

【ここでるのはまずい。まずはミヅキの居場所を吐かせてからだ。外に出るぞ】

 ビークワイ達をコジローに運ばせる。
 町の外壁に着くと、奴らを風魔法でへいの外に放り投げた。
 コジローを背に乗せ、軽々とへいを越える。落ちていたビークワイ達を引きずり、更に森の奥へと運んだ。
 人気ひとけのないところまで来ると、パシャッと、ビークワイ達の顔面に水魔法を浴びせる。

「うーん……うっ……」

 ビークワイは意識を取り戻した途端、腕を押さえて眉をひそめた。他の三人の男達も同様にうめき出す。
 へいの外に投げつけた際に、落ちどころが悪かったらしく骨を折ったようだ……まぁどうでもいいが。
 俺は気にせず話し始める。コジローがその言葉をこいつらに伝えた。

「それでお前達、ミヅキになにをした?」

 コジローが殺気をただよわせながら聞く。

「はっ? ミヅキ? 誰それ? 私達なんにもしてないわよ! 今日だってずっとギルドにいたし! 他の仲間達に聞いてみなさいよ!」

 ビークワイはねぇ! と男達を見て、互いに頷き合っている。

「オレにそんな言い訳が通じると思っているのか! たとえ誰かがお前らを見ていたとしても、シルバさんにはそんな言い訳きかないぞ……」

 コジローが四人をキッと睨みつけた。可愛がっているミヅキをターゲットにしたことと、冒険者同士のトラブルが許せないようだ。
 四人はコジローの後ろにいる俺と、ユラユラと燃えているシンクが、自分達のほうにジリジリと近づいて来るのを見ると、震え上がった。

「な、なにするつもり」

 ビークワイの声が震えた。

「グルゥゥ」

 俺は牙をむき出し、威嚇いかくする。

「ひっ!」

 途端、一人の男の股間がジワジワと濡れ出した。

「正直に話せ、と言ってるぞ」

 コジローが俺の言葉を伝えたが、まだ威嚇いかくが足りないようだった。ビークワイは歯の根が合わぬほどおびえているものの、まだ否定する。

「だ、だから……な、なにも……」
「ガルゥ!」

 俺は堪らずに言葉を遮り、一人の男の足に風魔法を放った。

「ギィャアー!」

 男は足を押さえ転げ回る。そこからは大量の血が流れていた。

「お、おれの、足がー!」

 他の者達が恐怖で固まり、息を止める。泣き叫ぶ男の声があまりに耳障りで、俺は顔をしかめた。

「うるさいぞ、その程度でわめくな」

 コジローが黙れと言うが、男は声が聞こえていないのか、痛い痛いとわめいている。

【うるさい!】

 シンクが苛立ちをあらわに叫ぶと、今度は男の腕が燃え上がった。

「ギイヤァーやめてくれー! 消して、この火を消してくれ!」

 更にうるさくなった男に、話が進まず、怒りが頂点に達する。

「ガルゥゥ!」

 俺が再度吠えると、ようやく静かになった。
 先程までわめいていた男が泡を吹いて、気を失っている。

しゃべる奴は、一人いればいいそうだぞ」

 コジローは感情の浮かばない顔でそう呟いた。
 三人は言葉を失くし、口をパクパクと開閉させる。

「な、なんで……こ、んなこ、と」

 ようやく声が出たのか、ビークワイが震えながら言う。

「……警告はしたぞ。それでもミヅキに手を出したんだ、当然のむくいだな。さあ、早く話せ。ミヅキになにかあったらこんなものではすまない」

 先程より強く殺気を出すコジローを見て、ようやく自分達の立場を理解したようだ。

「わ、分かった、話す、話すから命は……」

 ビークワイ達は涙と鼻水で、顔をぐちゃぐちゃにしながら懇願こんがんする。コジローは、しがみつこうとするビークワイを払いのけて、先を促す。

「早く言え」
「奴隷商人の……デボットに頼んだ。あの子をさらって欲しいと……」

 ――奴隷商人! ミヅキを奴隷にするだと……そんなことは絶対にさせない!

「ガルルッ!」
「ひっ!」

 いちいちおびえるこいつらに牙をき、先を続けさせる。

「それで?」
「そ、それで? 後は分からない。私は頼んだだけ、です! 手は出してないから!」

 だから助けてと訴えてくる。
 吐き気がする。この糞共め!
 コジローもこんな奴らが同じ冒険者かと思うと、不快感しか湧かないようだ。

「俺達は、なにもしてない! ビークワイが一人でやったんだ! 俺達は関係ない」

 男達は、手のひらを返してビークワイを責めた。どうやら主犯格のビークワイ一人に罪をなすりつけようとしているみたいだ。
 仲間の行動にビークワイは顔を真っ赤にしてわめく。

「あんた達も賛成したでしょ! 私の言う通りにするって、あのムカつく子供を奴隷に落とすっ……」

 ――ザジュ!

「ガウッ!」
「「うわぁぁぁー!」」

 ビークワイの言葉に耐えきれず、威圧を放ち俺はその口を黙らせた。
 男達は、目の前に倒れ込むビークワイを見て絶叫する。ビークワイの悲惨な姿に震え上がり、逃げ出そうとするが、腰が引けて上手く動けないようだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

ほっといて下さい(番外編)

三園 七詩
ファンタジー
「ほっといて下さい」のもうひとつのお話です。 本編とは関係ありません。時系列も適当で色々と矛盾がありますが、軽い気持ちで読んで頂けると嬉しいです。 ✱【注意】話によってはネタバレになりますので【ほっといて下さい】をお読みになってからの方がいいかと思います。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました

初昔 茶ノ介
ファンタジー
昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。 ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。 冗談半分で言ったことを叶えると言い出し、目が覚めた先は見覚えのない森の中で…。 のんびり書いていきたいと思います。 よければ感想等お願いします。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。