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2巻
2-3
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やっぱり、殺しちゃうんだ……
改めて言われると気持ちが沈む。
「お兄さんが殺すんですか?」
じっと彼の顔を見つめる。
「いや、僕は殺さないかな、勿体ないし」
勿体ないとはどういうことか分からないが、とりあえずすぐには殺されないみたいだ。少し安心して、胸を撫で下ろす。
「でも……奴隷にするんだよ」
私がホッとしているのが面白くなかったのか、糸目のお兄さんは脅すように嫌なことを言う。
奴隷……奴隷って、誰かに仕えたり世話したりするか、労働を強いられるんだっけ?
いまいち、奴隷という言葉にピンとこなくてなにをするのか分からない。首を傾げているとお兄さんが教えてくれた。
「君が奴隷になったらまず貴族に売られるね。いい貴族なら、まぁ召使いにされるくらいだけど……その容姿なら変態貴族にも人気がありそうだ」
変態貴族? それって……嫌な予感がする。
嫌悪感が顔に出ていたのだろう。お兄さんは頷くと愉快そうに笑った。
「そう、いるんだよ。小さい子が好きな変態がね」
どうしよう……それはごめんこうむりたい。今になって恐怖がむくむくと湧いてきた。
でも泣きたくない。ツンとする鼻の奥に力を入れて、グッと堪え、ゆっくりと息を吐く。
「まぁ、君の行き先はもう決まってるんだけどね。君みたいな子を探してくれと言われてたから、ちょうどよかったよ」
このお兄さんが私を売るのか? ならこの人は奴隷商人ってことかな? こんなにニコニコした人が?
不思議に思って、お兄さんの顔をじーっと見つめて聞いてみる。
「お兄さんが売るの?」
「ああ、そうだよ」
「なんでそんなことをするの?」
ついお兄さんの気安い雰囲気に流され、普通に聞いてしまう。
「お金のためさ」
ずっと笑顔を貼り付けていた彼の表情が、また少し歪んだ。
「こんなことしなくても、お金は稼げますよ」
違うお金の稼ぎ方なんていくらでもある……こんな人を傷つけるやり方なんて選ばなくても……
「あはは!」
私の言葉を聞いて、お兄さんは一瞬真顔になった後、腹を抱えて笑い出した。
「僕はねぇ、こんなことをしないとお金を稼げないんだよ! ほら、これを見てみろ」
お兄さんは上着を脱いで、こちらに背中を見せた。そこにはマルの中にバツ印が書いてある痛々しい火傷の痕があった。焼きごてを押しつけられた痕のように、みみず腫れになっている。
酷い……
思わず口を押さえる。それは決して自分で好んでつける印ではない。とても不快な感じがした。
思わず駆け寄って、火傷の痕を触ろうとすると、お兄さんはバッと上着を羽織りこちらを睨んだ。
「なにをする!」
お兄さんの仮面が剥がれて、本当の表情を見せた。その顔は怒っていて、そしてとても寂しそうだ。
でも笑顔の仮面よりよっぽどいい……あの笑顔はまるで泣いているように見えたから。
「その傷痕、どうしたんですか?」
お兄さんの羽織の下にある傷痕を思い出し、悲しくなる。自然と眉尻が下がり、お兄さんを見上げた。
「あれが奴隷の印だよ。奴隷になるとあの印を押されるんだ。そうすればずっと奴隷扱いさ、抜け出せない……ずっと奴隷として扱われるんだ。お嬢ちゃんもすぐにそうなるよ」
お兄さんはまた笑顔の仮面を被った。そして最初に来た時の落ち着きを取り戻すと、上着を正して私を見下ろす。
「少し話しすぎたね……大人しくしてるんだ、そうすればここにいる間は酷いことはしない。一応大切な商品だからね」
そう言い捨てると扉から出て行ってしまった。
お兄さんが出て行くとガチャ! っと、鍵の閉まる音がする。
急いで扉に近づき、ガチャガチャとドアノブを回すがやはり開かない。鍵がかかっていた。
諦めて、布が敷いてあるところに戻り、膝を抱えて座り込む。
どうしよう。シルバもシンクも心配してるよね……ベイカーさんに知らせてくれてるかな? コジローさんが通訳できるからきっと大丈夫だよね……
改めて高スペックな皆のことを思い出す。一人はA級冒険者、もう一人は忍者。従魔はモフモフのイケメンフェンリルにふわふわの可愛い鳳凰……うん、やっぱりなんとかなりそうかな?
【シルバ! シンク!】
念話で呼びかけてみるが、声は返ってこなかった。
念話がどのくらいの距離まで届くかは分からない。とりあえずできることもないので、ずっとシルバ達に呼びかけ続ける。その時、不意に扉の外が騒がしくなった。
何事かと扉のほうに目を向けると、鍵が開く音がする。
そして先程のお兄さんとは違う、ガタイのいい男が、私のいる部屋になにかを放り投げた。
男は私を一瞥して、ニタッと粘っこい視線を投げる。
その視線に背筋がゾワッと粟立つ。
なるほど、あれが変態の類か……
しかし男はなにもせず視線だけ向け、また扉を閉めて出て行った。
ホッとして、男が投げつけたものに恐る恐る近寄ってみる。どうやら男の人のようだ。
投げ込まれた人はピクリとも動かない。
体中ボロボロで服も破けている。暴力を受けたみたいで、全身に青痣がある。
そっと近づき、腕の脈を取ってみる。生きてはいるようだ。気絶しているらしく、起きる気配はない。
殴られてところどころ腫れたり切れたりしてはいるが、綺麗な顔をしている。
髪は薄茶色。そして一番気になるのが頭から生えている耳だった。
コレってケモ耳? 本物?
そぉっと触ると、フワフワで微かに温かかった。
きゃーー!! 獣人だ!
私は一瞬誘拐のことなど忘れて歓喜する。
憧れのケモ耳だ! 三角にとんがっているから狐? いや、猫系かな!
起きないことに味をしめて、もう一度優しくちょんと触る。
尻尾はどうかな? 不躾に探すが見つからない。
あれー? 尻尾はないの?
残念に思っていると、ベルトになにか違和感を抱く。もしかして……
分厚いベルトに手をかけると、ほんわり温かく、耳と同じ滑らかな触り心地だった。
なんとベルトと思っていたものが、尻尾だったのだ。
尻尾を腰に巻くなんて! 素晴らしい!
私は興奮してしまい、我を忘れて優しく尻尾を撫で続けた。
「う、うん……」
すると、ケモ耳の人が身じろぎし、目を覚ました。
私は慌ててパッと手を離し、触っていたことを誤魔化すように声をかけた。
「だ、大丈夫ですか?」
覗き込んで顔を見ると、目が合い、ビクッと驚かれる。
「ここは?」
彼はキョロキョロと周りの様子を窺っている。
女の人かもしれないと思うほど綺麗な顔をしているが、声は低い。やはり正真正銘、男の人みたいだ。
「お兄さんも誘拐されたの?」
ここに来たってことはそうだよね?
「おま……いえ、あなたは俺が誰か分からないのか?」
えっ? なんか有名な人だったのか。確かにこの見た目ならアイドルでもモデルでもできそうだ。でも、この世界にもそういう職業はあるのかな?
どうしよう、よく分からない。もう一度じっと顔を見つめてみるが、やはり会ったことも見たこともない気がする。
「俺は獣人だ……」
凄く辛そうな顔でそう伝えられた……いや、どう見てもそう見えるが。
「えっ?」
思わず声が漏れた。
「それなら見て分かりました。でも、すみません、獣人のお兄さんのことは知らなくて……」
正直に話して謝ると、お兄さんは驚いて言葉を失くしてしまっている。
やはり有名なのに名前も知らないなんて、失礼だったのかもしれない。もう一度謝ろうかと思ったが、お兄さんは緩く首を横に振った。
「いや、ただの獣人だ。あなたとは会ったことはない」
――ん?
なんか話が噛み合わない。なので今度ははっきりと聞いてみる。
「お兄さんは、有名な人じゃないんですか?」
首を傾げて聞いてみると、言ってる意味が分からないのか、彼は驚いた顔をする。
えっ、違うの? じゃあなんで分からないのかって聞いたの?
訳が分からず首を捻る。そんな私に向かって、獣人のお兄さんは自分が獣人の奴隷だと説明してくれた。
全てを諦めきった瞳で、こちらを見つめる。奴隷の身分を恥じているのか、表情は暗く、辛そうだった。
しかし、彼が奴隷なことは私には関係ない。
「それがどうしたんですか? お兄さんが獣人で、奴隷だとなんだっていうの?」
さっきの人も奴隷だったが、だから彼に対して態度を変えようとは思わなかった。
それよりも、人生を諦めた、投げやりな態度がもどかしい。
「そうか……」
獣人のお兄さんは感情なく答える。私は無視してとりあえず自己紹介をした。
「ところで私はミヅキっていいます。お兄さんのお名前も聞いてもいいですか?」
同じく誘拐された仲間だ、ここから出るためにも協力したほうがいいだろう。それに、喋るのに名前を知らないと不便だし。
「……名前はない」
「えっ? 名前ないの?」
私は驚いて目を丸くする。しかし、彼は当たり前のように頷いた。
「誰かに呼ばれる時はなんて言われるんですか?」
名前のない人なんているのか。
「オイとかお前、コレとかだな」
「……」
言葉を失う。……奴隷になるって、こういう扱いをされるということ?
あの奴隷商人のお兄さんも、こういう体験をしてこの仕事をしてるのかな?
悲しさと、やりきれなさが胸に込み上げる。私は顔を俯け、声を落として話しかけた。
「生まれた時から、ずっと奴隷なんですか……」
「いや、兄と子供の頃に捕まってからだ」
「じゃあ、その時は名前があったんじゃないんですか?」
「ああ、唯一今も兄に呼ばれる名前があるが、それを使うことは許されていない」
悲しみを通り越して怒りが湧く。なんでそんな扱いを受けなければならないのだろう……この人はそんなに酷いことをしたのか?
「その……もしよかったら、その名前、聞いてもいいですか?」
顔を見られなくて、下を向きながら聞く。
「……シリウスだ」
お兄さんは、しばらく考えてからそっと答えてくれた。
「シリウスさん、ミヅキです。よろしくおねがいします」
私は彼の名前を知れたことが嬉しくて、笑って手を差し出した。
しかしシリウスさんは戸惑い、手を出さない。私の手が行き場をなくして、宙を彷徨っている。
手を握っていいものかと迷っているのだろうか。
私はシリウスさんの手を取ると、自分の手をブンブンと振って微笑んだ。
「シリウスさんのお兄さんはなんて名前なんですか?」
繋いだ手を離したくなくてそのまま質問をすると、彼はじっとその手を見ながら答えてくれた。
「……ユリウスだ」
「いつか紹介してくださいね!」
私はグッと手を握りしめた。
シリウスさんは少しビクッと驚いたものの、次の瞬間、微かだが柔らかい笑みを見せた。
◆
俺達はミヅキの行方を捜すためにギルドに戻り、ギルマスとセバスさんに状況を説明した。案の定二人とも表情こそ冷静だが、内から湧き出る怒りを隠しきれずにいる。
今していた仕事を放り投げて、手が空いている冒険者達を集めてくれた。
シンクもギルドに戻ってきたが、やはりミヅキは見つけられなかったようだ。しょんぼりとシルバの頭にとまっている。
俺は訳も分からずに呼び出された冒険者達の前に出て、口を開く。
「皆、自分達の仕事があるのに集まってもらってすまない。実はミヅキが連れ去られたようなんだ」
そう言うと、集められた冒険者達がにわかにザワつく。しかし、俺はそのまま話を続けた。
「攫われてからそんなに時間が経っていない、なのでまだ町にいるはずだ。だから力を貸して欲しい。ミヅキを、見つけたいんだ」
俺は恥も外聞もなく、格下の冒険者達に頭を下げた。A級冒険者だからって関係ない。ミヅキが見つかるなら、頭を下げるくらい安いものだ。
そんな必死な俺を見て、冒険者達は息を呑み、場はシーンと静まり返った。
「――当たり前です!」
ふと、一人が声をあげる。それを皮切りに、他の冒険者達も口々に騒ぎ始めた。
「ミヅキちゃんはここのギルドの癒しですよ」
「絶対見つけます!」
「一体、俺らはなにをすればいいんですか?」
「絶対に許さねぇ……一体誰が?」
皆憤怒しながら、どこを捜せばよいかと早速話し合いを始める。
ああ、ミヅキ……お前はもうこの町にとって、なくてはならない存在になっているんだな。
不意に目に涙が滲むのを、俺は慌てて拭った。
ギルマスが町の門番に、この町から人を出さないように通達したが、対応しきれなくなるかもしれない。そこに何人か配置するために人を出した。
後は町での聞き込みを冒険者達に頼んだ。
「なにか分かったら、俺かコジロー、ギルマス、セバスさんに言ってくれ」
皆、俺の指示に一斉に頷く。
「まずは最初に接触してきたという女の捜索にあたってくれ。皆、悪いが頼んだ」
冒険者達はすぐさま外へと散らばって行った。
◆
ビークワイ達は、他の冒険者達が走り回る中、同じようにギルドを出た。そして、ミヅキを捜すふりをしながらボロ小屋へと帰ってきた。
「アハハハ! あの男上手くやったみたいね! これでこのままいなくなってくれれば計画通りね!」
ビークワイは口端を歪ませながら、上機嫌で笑っている。
「後は、指定の時間に南門を開ければ大丈夫ね」
時間を確認してのんびりと椅子に座った。
「しかし、門番の他に何人か配置すると言ってたぞ」
「その時に私達が配置を代わればいいでしょ! 完璧よ!」
仲間の男が心配そうに言うのに、ビークワイは一笑して答えた。
もう計画通りに事が進んでいる。余裕だ。
「あーあ。私、一発くらいミヅキって子、叩いておけばよかったわ~」
カラカラと笑っていると、にわかにビークワイの顔色が変わった……急に全身に悪寒が走る。
体が金縛りにあったように動かない。
目だけ動かし他の者を見るが、皆同じように、恐怖の表情を浮かべ固まっている。
なにかおかしいと扉のほうを見ると、黒い影が揺らめいているのが目に入った。だが、その姿を確認する前に意識を失った。
◆
ベイカーが冒険者達に捜索を頼む中、俺は薄ら笑いをする女達に気付いた。
なんとなく気になって、コジローとシンクと共に後を追う。コジローによるとこいつらはビークワイというC級冒険者がリーダーのパーティらしい。
こいつらがミヅキの誘拐に関わっていることを知り、瞬間、怒りで目の前が真っ赤になった。
俺は音もなく小屋の扉をくぐり、奴らを昏倒させる。
「ガルゥゥ!」
【こやつら、ミヅキを叩くと言ってたぞ……】
【殺しちゃう?】
怒りを抑えきれず、噛みついて、その頭を粉々にしてやろうかとすら思う。シンクもさすがに怒っているようで、サラッと暴言を吐いた。
コジローの顔を見るがなにも答えない、いや、あまりの怒りで答えられないでいるようだ。その瞳は憤怒で燃え、拳を握ってビークワイ達を睨んでいる。
ややあって、ようやく口を開いた。
【……それでこいつらどうしますか?】
先程の話の内容から、ミヅキの誘拐に関わっているのは間違いない。コジローはそう言いながら、更に眦を吊り上げる。
【ここで殺るのはまずい。まずはミヅキの居場所を吐かせてからだ。外に出るぞ】
ビークワイ達をコジローに運ばせる。
町の外壁に着くと、奴らを風魔法で塀の外に放り投げた。
コジローを背に乗せ、軽々と塀を越える。落ちていたビークワイ達を引きずり、更に森の奥へと運んだ。
人気のないところまで来ると、パシャッと、ビークワイ達の顔面に水魔法を浴びせる。
「うーん……うっ……」
ビークワイは意識を取り戻した途端、腕を押さえて眉を顰めた。他の三人の男達も同様に呻き出す。
塀の外に投げつけた際に、落ちどころが悪かったらしく骨を折ったようだ……まぁどうでもいいが。
俺は気にせず話し始める。コジローがその言葉をこいつらに伝えた。
「それでお前達、ミヅキになにをした?」
コジローが殺気を漂わせながら聞く。
「はっ? ミヅキ? 誰それ? 私達なんにもしてないわよ! 今日だってずっとギルドにいたし! 他の仲間達に聞いてみなさいよ!」
ビークワイはねぇ! と男達を見て、互いに頷き合っている。
「オレにそんな言い訳が通じると思っているのか! たとえ誰かがお前らを見ていたとしても、シルバさんにはそんな言い訳きかないぞ……」
コジローが四人をキッと睨みつけた。可愛がっているミヅキをターゲットにしたことと、冒険者同士のトラブルが許せないようだ。
四人はコジローの後ろにいる俺と、ユラユラと燃えているシンクが、自分達のほうにジリジリと近づいて来るのを見ると、震え上がった。
「な、なにするつもり」
ビークワイの声が震えた。
「グルゥゥ」
俺は牙をむき出し、威嚇する。
「ひっ!」
途端、一人の男の股間がジワジワと濡れ出した。
「正直に話せ、と言ってるぞ」
コジローが俺の言葉を伝えたが、まだ威嚇が足りないようだった。ビークワイは歯の根が合わぬほど怯えているものの、まだ否定する。
「だ、だから……な、なにも……」
「ガルゥ!」
俺は堪らずに言葉を遮り、一人の男の足に風魔法を放った。
「ギィャアー!」
男は足を押さえ転げ回る。そこからは大量の血が流れていた。
「お、おれの、足がー!」
他の者達が恐怖で固まり、息を止める。泣き叫ぶ男の声があまりに耳障りで、俺は顔を顰めた。
「うるさいぞ、その程度で喚くな」
コジローが黙れと言うが、男は声が聞こえていないのか、痛い痛いと喚いている。
【うるさい!】
シンクが苛立ちをあらわに叫ぶと、今度は男の腕が燃え上がった。
「ギイヤァーやめてくれー! 消して、この火を消してくれ!」
更にうるさくなった男に、話が進まず、怒りが頂点に達する。
「ガルゥゥ!」
俺が再度吠えると、ようやく静かになった。
先程まで喚いていた男が泡を吹いて、気を失っている。
「喋る奴は、一人いればいいそうだぞ」
コジローは感情の浮かばない顔でそう呟いた。
三人は言葉を失くし、口をパクパクと開閉させる。
「な、なんで……こ、んなこ、と」
ようやく声が出たのか、ビークワイが震えながら言う。
「……警告はしたぞ。それでもミヅキに手を出したんだ、当然の報いだな。さあ、早く話せ。ミヅキになにかあったらこんなものではすまない」
先程より強く殺気を出すコジローを見て、ようやく自分達の立場を理解したようだ。
「わ、分かった、話す、話すから命は……」
ビークワイ達は涙と鼻水で、顔をぐちゃぐちゃにしながら懇願する。コジローは、しがみつこうとするビークワイを払いのけて、先を促す。
「早く言え」
「奴隷商人の……デボットに頼んだ。あの子を攫って欲しいと……」
――奴隷商人! ミヅキを奴隷にするだと……そんなことは絶対にさせない!
「ガルルッ!」
「ひっ!」
いちいち怯えるこいつらに牙を剥き、先を続けさせる。
「それで?」
「そ、それで? 後は分からない。私は頼んだだけ、です! 手は出してないから!」
だから助けてと訴えてくる。
吐き気がする。この糞共め!
コジローもこんな奴らが同じ冒険者かと思うと、不快感しか湧かないようだ。
「俺達は、なにもしてない! ビークワイが一人でやったんだ! 俺達は関係ない」
男達は、手のひらを返してビークワイを責めた。どうやら主犯格のビークワイ一人に罪を擦りつけようとしているみたいだ。
仲間の行動にビークワイは顔を真っ赤にして喚く。
「あんた達も賛成したでしょ! 私の言う通りにするって、あのムカつく子供を奴隷に落とすっ……」
――ザジュ!
「ガウッ!」
「「うわぁぁぁー!」」
ビークワイの言葉に耐えきれず、威圧を放ち俺はその口を黙らせた。
男達は、目の前に倒れ込むビークワイを見て絶叫する。ビークワイの悲惨な姿に震え上がり、逃げ出そうとするが、腰が引けて上手く動けないようだ。
改めて言われると気持ちが沈む。
「お兄さんが殺すんですか?」
じっと彼の顔を見つめる。
「いや、僕は殺さないかな、勿体ないし」
勿体ないとはどういうことか分からないが、とりあえずすぐには殺されないみたいだ。少し安心して、胸を撫で下ろす。
「でも……奴隷にするんだよ」
私がホッとしているのが面白くなかったのか、糸目のお兄さんは脅すように嫌なことを言う。
奴隷……奴隷って、誰かに仕えたり世話したりするか、労働を強いられるんだっけ?
いまいち、奴隷という言葉にピンとこなくてなにをするのか分からない。首を傾げているとお兄さんが教えてくれた。
「君が奴隷になったらまず貴族に売られるね。いい貴族なら、まぁ召使いにされるくらいだけど……その容姿なら変態貴族にも人気がありそうだ」
変態貴族? それって……嫌な予感がする。
嫌悪感が顔に出ていたのだろう。お兄さんは頷くと愉快そうに笑った。
「そう、いるんだよ。小さい子が好きな変態がね」
どうしよう……それはごめんこうむりたい。今になって恐怖がむくむくと湧いてきた。
でも泣きたくない。ツンとする鼻の奥に力を入れて、グッと堪え、ゆっくりと息を吐く。
「まぁ、君の行き先はもう決まってるんだけどね。君みたいな子を探してくれと言われてたから、ちょうどよかったよ」
このお兄さんが私を売るのか? ならこの人は奴隷商人ってことかな? こんなにニコニコした人が?
不思議に思って、お兄さんの顔をじーっと見つめて聞いてみる。
「お兄さんが売るの?」
「ああ、そうだよ」
「なんでそんなことをするの?」
ついお兄さんの気安い雰囲気に流され、普通に聞いてしまう。
「お金のためさ」
ずっと笑顔を貼り付けていた彼の表情が、また少し歪んだ。
「こんなことしなくても、お金は稼げますよ」
違うお金の稼ぎ方なんていくらでもある……こんな人を傷つけるやり方なんて選ばなくても……
「あはは!」
私の言葉を聞いて、お兄さんは一瞬真顔になった後、腹を抱えて笑い出した。
「僕はねぇ、こんなことをしないとお金を稼げないんだよ! ほら、これを見てみろ」
お兄さんは上着を脱いで、こちらに背中を見せた。そこにはマルの中にバツ印が書いてある痛々しい火傷の痕があった。焼きごてを押しつけられた痕のように、みみず腫れになっている。
酷い……
思わず口を押さえる。それは決して自分で好んでつける印ではない。とても不快な感じがした。
思わず駆け寄って、火傷の痕を触ろうとすると、お兄さんはバッと上着を羽織りこちらを睨んだ。
「なにをする!」
お兄さんの仮面が剥がれて、本当の表情を見せた。その顔は怒っていて、そしてとても寂しそうだ。
でも笑顔の仮面よりよっぽどいい……あの笑顔はまるで泣いているように見えたから。
「その傷痕、どうしたんですか?」
お兄さんの羽織の下にある傷痕を思い出し、悲しくなる。自然と眉尻が下がり、お兄さんを見上げた。
「あれが奴隷の印だよ。奴隷になるとあの印を押されるんだ。そうすればずっと奴隷扱いさ、抜け出せない……ずっと奴隷として扱われるんだ。お嬢ちゃんもすぐにそうなるよ」
お兄さんはまた笑顔の仮面を被った。そして最初に来た時の落ち着きを取り戻すと、上着を正して私を見下ろす。
「少し話しすぎたね……大人しくしてるんだ、そうすればここにいる間は酷いことはしない。一応大切な商品だからね」
そう言い捨てると扉から出て行ってしまった。
お兄さんが出て行くとガチャ! っと、鍵の閉まる音がする。
急いで扉に近づき、ガチャガチャとドアノブを回すがやはり開かない。鍵がかかっていた。
諦めて、布が敷いてあるところに戻り、膝を抱えて座り込む。
どうしよう。シルバもシンクも心配してるよね……ベイカーさんに知らせてくれてるかな? コジローさんが通訳できるからきっと大丈夫だよね……
改めて高スペックな皆のことを思い出す。一人はA級冒険者、もう一人は忍者。従魔はモフモフのイケメンフェンリルにふわふわの可愛い鳳凰……うん、やっぱりなんとかなりそうかな?
【シルバ! シンク!】
念話で呼びかけてみるが、声は返ってこなかった。
念話がどのくらいの距離まで届くかは分からない。とりあえずできることもないので、ずっとシルバ達に呼びかけ続ける。その時、不意に扉の外が騒がしくなった。
何事かと扉のほうに目を向けると、鍵が開く音がする。
そして先程のお兄さんとは違う、ガタイのいい男が、私のいる部屋になにかを放り投げた。
男は私を一瞥して、ニタッと粘っこい視線を投げる。
その視線に背筋がゾワッと粟立つ。
なるほど、あれが変態の類か……
しかし男はなにもせず視線だけ向け、また扉を閉めて出て行った。
ホッとして、男が投げつけたものに恐る恐る近寄ってみる。どうやら男の人のようだ。
投げ込まれた人はピクリとも動かない。
体中ボロボロで服も破けている。暴力を受けたみたいで、全身に青痣がある。
そっと近づき、腕の脈を取ってみる。生きてはいるようだ。気絶しているらしく、起きる気配はない。
殴られてところどころ腫れたり切れたりしてはいるが、綺麗な顔をしている。
髪は薄茶色。そして一番気になるのが頭から生えている耳だった。
コレってケモ耳? 本物?
そぉっと触ると、フワフワで微かに温かかった。
きゃーー!! 獣人だ!
私は一瞬誘拐のことなど忘れて歓喜する。
憧れのケモ耳だ! 三角にとんがっているから狐? いや、猫系かな!
起きないことに味をしめて、もう一度優しくちょんと触る。
尻尾はどうかな? 不躾に探すが見つからない。
あれー? 尻尾はないの?
残念に思っていると、ベルトになにか違和感を抱く。もしかして……
分厚いベルトに手をかけると、ほんわり温かく、耳と同じ滑らかな触り心地だった。
なんとベルトと思っていたものが、尻尾だったのだ。
尻尾を腰に巻くなんて! 素晴らしい!
私は興奮してしまい、我を忘れて優しく尻尾を撫で続けた。
「う、うん……」
すると、ケモ耳の人が身じろぎし、目を覚ました。
私は慌ててパッと手を離し、触っていたことを誤魔化すように声をかけた。
「だ、大丈夫ですか?」
覗き込んで顔を見ると、目が合い、ビクッと驚かれる。
「ここは?」
彼はキョロキョロと周りの様子を窺っている。
女の人かもしれないと思うほど綺麗な顔をしているが、声は低い。やはり正真正銘、男の人みたいだ。
「お兄さんも誘拐されたの?」
ここに来たってことはそうだよね?
「おま……いえ、あなたは俺が誰か分からないのか?」
えっ? なんか有名な人だったのか。確かにこの見た目ならアイドルでもモデルでもできそうだ。でも、この世界にもそういう職業はあるのかな?
どうしよう、よく分からない。もう一度じっと顔を見つめてみるが、やはり会ったことも見たこともない気がする。
「俺は獣人だ……」
凄く辛そうな顔でそう伝えられた……いや、どう見てもそう見えるが。
「えっ?」
思わず声が漏れた。
「それなら見て分かりました。でも、すみません、獣人のお兄さんのことは知らなくて……」
正直に話して謝ると、お兄さんは驚いて言葉を失くしてしまっている。
やはり有名なのに名前も知らないなんて、失礼だったのかもしれない。もう一度謝ろうかと思ったが、お兄さんは緩く首を横に振った。
「いや、ただの獣人だ。あなたとは会ったことはない」
――ん?
なんか話が噛み合わない。なので今度ははっきりと聞いてみる。
「お兄さんは、有名な人じゃないんですか?」
首を傾げて聞いてみると、言ってる意味が分からないのか、彼は驚いた顔をする。
えっ、違うの? じゃあなんで分からないのかって聞いたの?
訳が分からず首を捻る。そんな私に向かって、獣人のお兄さんは自分が獣人の奴隷だと説明してくれた。
全てを諦めきった瞳で、こちらを見つめる。奴隷の身分を恥じているのか、表情は暗く、辛そうだった。
しかし、彼が奴隷なことは私には関係ない。
「それがどうしたんですか? お兄さんが獣人で、奴隷だとなんだっていうの?」
さっきの人も奴隷だったが、だから彼に対して態度を変えようとは思わなかった。
それよりも、人生を諦めた、投げやりな態度がもどかしい。
「そうか……」
獣人のお兄さんは感情なく答える。私は無視してとりあえず自己紹介をした。
「ところで私はミヅキっていいます。お兄さんのお名前も聞いてもいいですか?」
同じく誘拐された仲間だ、ここから出るためにも協力したほうがいいだろう。それに、喋るのに名前を知らないと不便だし。
「……名前はない」
「えっ? 名前ないの?」
私は驚いて目を丸くする。しかし、彼は当たり前のように頷いた。
「誰かに呼ばれる時はなんて言われるんですか?」
名前のない人なんているのか。
「オイとかお前、コレとかだな」
「……」
言葉を失う。……奴隷になるって、こういう扱いをされるということ?
あの奴隷商人のお兄さんも、こういう体験をしてこの仕事をしてるのかな?
悲しさと、やりきれなさが胸に込み上げる。私は顔を俯け、声を落として話しかけた。
「生まれた時から、ずっと奴隷なんですか……」
「いや、兄と子供の頃に捕まってからだ」
「じゃあ、その時は名前があったんじゃないんですか?」
「ああ、唯一今も兄に呼ばれる名前があるが、それを使うことは許されていない」
悲しみを通り越して怒りが湧く。なんでそんな扱いを受けなければならないのだろう……この人はそんなに酷いことをしたのか?
「その……もしよかったら、その名前、聞いてもいいですか?」
顔を見られなくて、下を向きながら聞く。
「……シリウスだ」
お兄さんは、しばらく考えてからそっと答えてくれた。
「シリウスさん、ミヅキです。よろしくおねがいします」
私は彼の名前を知れたことが嬉しくて、笑って手を差し出した。
しかしシリウスさんは戸惑い、手を出さない。私の手が行き場をなくして、宙を彷徨っている。
手を握っていいものかと迷っているのだろうか。
私はシリウスさんの手を取ると、自分の手をブンブンと振って微笑んだ。
「シリウスさんのお兄さんはなんて名前なんですか?」
繋いだ手を離したくなくてそのまま質問をすると、彼はじっとその手を見ながら答えてくれた。
「……ユリウスだ」
「いつか紹介してくださいね!」
私はグッと手を握りしめた。
シリウスさんは少しビクッと驚いたものの、次の瞬間、微かだが柔らかい笑みを見せた。
◆
俺達はミヅキの行方を捜すためにギルドに戻り、ギルマスとセバスさんに状況を説明した。案の定二人とも表情こそ冷静だが、内から湧き出る怒りを隠しきれずにいる。
今していた仕事を放り投げて、手が空いている冒険者達を集めてくれた。
シンクもギルドに戻ってきたが、やはりミヅキは見つけられなかったようだ。しょんぼりとシルバの頭にとまっている。
俺は訳も分からずに呼び出された冒険者達の前に出て、口を開く。
「皆、自分達の仕事があるのに集まってもらってすまない。実はミヅキが連れ去られたようなんだ」
そう言うと、集められた冒険者達がにわかにザワつく。しかし、俺はそのまま話を続けた。
「攫われてからそんなに時間が経っていない、なのでまだ町にいるはずだ。だから力を貸して欲しい。ミヅキを、見つけたいんだ」
俺は恥も外聞もなく、格下の冒険者達に頭を下げた。A級冒険者だからって関係ない。ミヅキが見つかるなら、頭を下げるくらい安いものだ。
そんな必死な俺を見て、冒険者達は息を呑み、場はシーンと静まり返った。
「――当たり前です!」
ふと、一人が声をあげる。それを皮切りに、他の冒険者達も口々に騒ぎ始めた。
「ミヅキちゃんはここのギルドの癒しですよ」
「絶対見つけます!」
「一体、俺らはなにをすればいいんですか?」
「絶対に許さねぇ……一体誰が?」
皆憤怒しながら、どこを捜せばよいかと早速話し合いを始める。
ああ、ミヅキ……お前はもうこの町にとって、なくてはならない存在になっているんだな。
不意に目に涙が滲むのを、俺は慌てて拭った。
ギルマスが町の門番に、この町から人を出さないように通達したが、対応しきれなくなるかもしれない。そこに何人か配置するために人を出した。
後は町での聞き込みを冒険者達に頼んだ。
「なにか分かったら、俺かコジロー、ギルマス、セバスさんに言ってくれ」
皆、俺の指示に一斉に頷く。
「まずは最初に接触してきたという女の捜索にあたってくれ。皆、悪いが頼んだ」
冒険者達はすぐさま外へと散らばって行った。
◆
ビークワイ達は、他の冒険者達が走り回る中、同じようにギルドを出た。そして、ミヅキを捜すふりをしながらボロ小屋へと帰ってきた。
「アハハハ! あの男上手くやったみたいね! これでこのままいなくなってくれれば計画通りね!」
ビークワイは口端を歪ませながら、上機嫌で笑っている。
「後は、指定の時間に南門を開ければ大丈夫ね」
時間を確認してのんびりと椅子に座った。
「しかし、門番の他に何人か配置すると言ってたぞ」
「その時に私達が配置を代わればいいでしょ! 完璧よ!」
仲間の男が心配そうに言うのに、ビークワイは一笑して答えた。
もう計画通りに事が進んでいる。余裕だ。
「あーあ。私、一発くらいミヅキって子、叩いておけばよかったわ~」
カラカラと笑っていると、にわかにビークワイの顔色が変わった……急に全身に悪寒が走る。
体が金縛りにあったように動かない。
目だけ動かし他の者を見るが、皆同じように、恐怖の表情を浮かべ固まっている。
なにかおかしいと扉のほうを見ると、黒い影が揺らめいているのが目に入った。だが、その姿を確認する前に意識を失った。
◆
ベイカーが冒険者達に捜索を頼む中、俺は薄ら笑いをする女達に気付いた。
なんとなく気になって、コジローとシンクと共に後を追う。コジローによるとこいつらはビークワイというC級冒険者がリーダーのパーティらしい。
こいつらがミヅキの誘拐に関わっていることを知り、瞬間、怒りで目の前が真っ赤になった。
俺は音もなく小屋の扉をくぐり、奴らを昏倒させる。
「ガルゥゥ!」
【こやつら、ミヅキを叩くと言ってたぞ……】
【殺しちゃう?】
怒りを抑えきれず、噛みついて、その頭を粉々にしてやろうかとすら思う。シンクもさすがに怒っているようで、サラッと暴言を吐いた。
コジローの顔を見るがなにも答えない、いや、あまりの怒りで答えられないでいるようだ。その瞳は憤怒で燃え、拳を握ってビークワイ達を睨んでいる。
ややあって、ようやく口を開いた。
【……それでこいつらどうしますか?】
先程の話の内容から、ミヅキの誘拐に関わっているのは間違いない。コジローはそう言いながら、更に眦を吊り上げる。
【ここで殺るのはまずい。まずはミヅキの居場所を吐かせてからだ。外に出るぞ】
ビークワイ達をコジローに運ばせる。
町の外壁に着くと、奴らを風魔法で塀の外に放り投げた。
コジローを背に乗せ、軽々と塀を越える。落ちていたビークワイ達を引きずり、更に森の奥へと運んだ。
人気のないところまで来ると、パシャッと、ビークワイ達の顔面に水魔法を浴びせる。
「うーん……うっ……」
ビークワイは意識を取り戻した途端、腕を押さえて眉を顰めた。他の三人の男達も同様に呻き出す。
塀の外に投げつけた際に、落ちどころが悪かったらしく骨を折ったようだ……まぁどうでもいいが。
俺は気にせず話し始める。コジローがその言葉をこいつらに伝えた。
「それでお前達、ミヅキになにをした?」
コジローが殺気を漂わせながら聞く。
「はっ? ミヅキ? 誰それ? 私達なんにもしてないわよ! 今日だってずっとギルドにいたし! 他の仲間達に聞いてみなさいよ!」
ビークワイはねぇ! と男達を見て、互いに頷き合っている。
「オレにそんな言い訳が通じると思っているのか! たとえ誰かがお前らを見ていたとしても、シルバさんにはそんな言い訳きかないぞ……」
コジローが四人をキッと睨みつけた。可愛がっているミヅキをターゲットにしたことと、冒険者同士のトラブルが許せないようだ。
四人はコジローの後ろにいる俺と、ユラユラと燃えているシンクが、自分達のほうにジリジリと近づいて来るのを見ると、震え上がった。
「な、なにするつもり」
ビークワイの声が震えた。
「グルゥゥ」
俺は牙をむき出し、威嚇する。
「ひっ!」
途端、一人の男の股間がジワジワと濡れ出した。
「正直に話せ、と言ってるぞ」
コジローが俺の言葉を伝えたが、まだ威嚇が足りないようだった。ビークワイは歯の根が合わぬほど怯えているものの、まだ否定する。
「だ、だから……な、なにも……」
「ガルゥ!」
俺は堪らずに言葉を遮り、一人の男の足に風魔法を放った。
「ギィャアー!」
男は足を押さえ転げ回る。そこからは大量の血が流れていた。
「お、おれの、足がー!」
他の者達が恐怖で固まり、息を止める。泣き叫ぶ男の声があまりに耳障りで、俺は顔を顰めた。
「うるさいぞ、その程度で喚くな」
コジローが黙れと言うが、男は声が聞こえていないのか、痛い痛いと喚いている。
【うるさい!】
シンクが苛立ちをあらわに叫ぶと、今度は男の腕が燃え上がった。
「ギイヤァーやめてくれー! 消して、この火を消してくれ!」
更にうるさくなった男に、話が進まず、怒りが頂点に達する。
「ガルゥゥ!」
俺が再度吠えると、ようやく静かになった。
先程まで喚いていた男が泡を吹いて、気を失っている。
「喋る奴は、一人いればいいそうだぞ」
コジローは感情の浮かばない顔でそう呟いた。
三人は言葉を失くし、口をパクパクと開閉させる。
「な、なんで……こ、んなこ、と」
ようやく声が出たのか、ビークワイが震えながら言う。
「……警告はしたぞ。それでもミヅキに手を出したんだ、当然の報いだな。さあ、早く話せ。ミヅキになにかあったらこんなものではすまない」
先程より強く殺気を出すコジローを見て、ようやく自分達の立場を理解したようだ。
「わ、分かった、話す、話すから命は……」
ビークワイ達は涙と鼻水で、顔をぐちゃぐちゃにしながら懇願する。コジローは、しがみつこうとするビークワイを払いのけて、先を促す。
「早く言え」
「奴隷商人の……デボットに頼んだ。あの子を攫って欲しいと……」
――奴隷商人! ミヅキを奴隷にするだと……そんなことは絶対にさせない!
「ガルルッ!」
「ひっ!」
いちいち怯えるこいつらに牙を剥き、先を続けさせる。
「それで?」
「そ、それで? 後は分からない。私は頼んだだけ、です! 手は出してないから!」
だから助けてと訴えてくる。
吐き気がする。この糞共め!
コジローもこんな奴らが同じ冒険者かと思うと、不快感しか湧かないようだ。
「俺達は、なにもしてない! ビークワイが一人でやったんだ! 俺達は関係ない」
男達は、手のひらを返してビークワイを責めた。どうやら主犯格のビークワイ一人に罪を擦りつけようとしているみたいだ。
仲間の行動にビークワイは顔を真っ赤にして喚く。
「あんた達も賛成したでしょ! 私の言う通りにするって、あのムカつく子供を奴隷に落とすっ……」
――ザジュ!
「ガウッ!」
「「うわぁぁぁー!」」
ビークワイの言葉に耐えきれず、威圧を放ち俺はその口を黙らせた。
男達は、目の前に倒れ込むビークワイを見て絶叫する。ビークワイの悲惨な姿に震え上がり、逃げ出そうとするが、腰が引けて上手く動けないようだ。
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