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貴方に逢えたから
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「気持ちいいと言ってるくせに、毎晩2回しか抱いてくれないよな」
「それは、っ!」
高橋は誤解をとこうと慌てて口を開いた敦士の唇に、人差し指を押し当てて止めた。
敦士の目に映る顔は、表現しがたい微妙な面持ちになっていて、余計なことを言ったら最後、高橋を間違いなく傷つけてしまうと思えるものにも見えた。ここは慎重にならなくてはと考慮し、いいわけを無理やり飲み込む。
「敦士、夢の中じゃ朝まで抱いてくれたんだ。この躰よりも創造主の作った躰のほうが、実際いいのかもしれないが……」
敦士は縛られた両手を駆使して、なんとか起き上がる。プラチナブロンドを乱したまま放心している高橋の肩に、そっと顎をのせた。
(こんなときなのに、抱きしめられないのはすごく歯がゆい……)
「僕に記憶がないから比べることはできませんが、健吾さんが一番だと思ってます」
「敦士……」
「2回でストップしてるのは、健吾さんの躰が大事だからです。僕のシたい気持ちに、無理して付き合わせるわけにはいかないと思いまして」
「そうだったのか。良かった――」
高橋は敦士の両手を拘束している腰紐を解きだした。敦士が肩から顎を外して手元を見つめていたら、解放された手首を指先で撫でる。愛おしそうに何度も肌を撫でながら、ゆっくりと顔を上げたこの世で一番大切な人と目が合った。
安堵に満ちた高橋のまなざしに射竦められただけで、敦士はさっきよりも躰に火がついてしまう。
「健吾さん、僕は」
「このまま俺を抱いてくれ」
細長い両腕が敦士の首に絡みついて、密着する部分を一気に増やした。触れ合う素肌が思いのほか熱くて、自然と息が乱れてしまう。
「健吾さんを抱くって、もう抱き合っているのにですか?」
「こんなものじゃ足りない、抱きつぶしてくれ。夢の中で抱き合った以上に、俺を抱いてほしい」
告げられた言葉が刺激的すぎて、敦士はごくんと生唾を飲んだ。もっと抱き合いたいという気持ちと同じくらいに、高橋を大事にしなきゃという想いもあって、敦士は毎日心の中で葛藤を繰り返していた。
「健吾さんを抱きつぶすなんて、そんなの――」
今まで我慢していた分を含めて、思う存分に抱いてしまったら、それこそ言葉通りになってしまうのは、火を見るよりも明らかだった。
好きという気持ちのダムを決壊させようとする恋人が、興奮して息をきらす姿を見ながら、切なげに微笑んだ。自嘲的な笑みは何度か見たことのあるもので、こんな表情をさせてしまうことに、敦士は首を傾げるしかない。
「俺は絶望的な片想いをして、誰にも愛されないまま、一度死んでしまった。こんな俺でも、過去に愛してくれた人がいたかもしれないが、片想いをするまでは、そんな気持ちに一切見向きもしなかった」
「僕は誰かを好きになっても相手にすらされなくて、いつも寂しい気持ちを抱えていました。そのうち自分に自信がなくなって、なにをしても上手くいかなくなった」
互いに向かい合って、過去について静かに語り合う。下半身を結合したままという変な体位だったが、繋がっているお蔭からか、敦士は妙に落ち着いて話すことができた。
(――不思議だな。いつもだったら過去の陰気な自分の姿を聞いて、嫌われるかもしれないという恐れがあって、話すことを躊躇っていたのに、今は素直に話すことができてる)
「確かに出逢った頃のおまえは、どこか腐ったところがあったな。キャバ嬢に暴力を振るわれて、涙を流していたっけ」
「えっ!?」
「ドМなおまえが、自分を痛めつけるご主人様がいなくなると焦って、夢の番人である俺の腰に縋って、めそめそ泣いていたんだ。悪夢の原因であるキャバ嬢を消さないでくれって懇願されたが、無視して消し去ってやった」
ひと仕事を終えた爽快感を表すような高橋の表情を目の当たりにして、敦士はものすごく恥ずかしくなってしまった。
「そっ、その節はお世話になりました……。一言付け加えると、そこまでドМじゃないです」
「いやいやドМだろ。手首をキツく縛っただけで、アソコを隆起させたくせに」
「違っ! あれは健吾さんのその姿が魅力的だったからで、縛られたからじゃないですっ」
敦士は頬がどんどん赤くなるのが分かり、どうにも高橋と視線を合わせられない。
「それは、っ!」
高橋は誤解をとこうと慌てて口を開いた敦士の唇に、人差し指を押し当てて止めた。
敦士の目に映る顔は、表現しがたい微妙な面持ちになっていて、余計なことを言ったら最後、高橋を間違いなく傷つけてしまうと思えるものにも見えた。ここは慎重にならなくてはと考慮し、いいわけを無理やり飲み込む。
「敦士、夢の中じゃ朝まで抱いてくれたんだ。この躰よりも創造主の作った躰のほうが、実際いいのかもしれないが……」
敦士は縛られた両手を駆使して、なんとか起き上がる。プラチナブロンドを乱したまま放心している高橋の肩に、そっと顎をのせた。
(こんなときなのに、抱きしめられないのはすごく歯がゆい……)
「僕に記憶がないから比べることはできませんが、健吾さんが一番だと思ってます」
「敦士……」
「2回でストップしてるのは、健吾さんの躰が大事だからです。僕のシたい気持ちに、無理して付き合わせるわけにはいかないと思いまして」
「そうだったのか。良かった――」
高橋は敦士の両手を拘束している腰紐を解きだした。敦士が肩から顎を外して手元を見つめていたら、解放された手首を指先で撫でる。愛おしそうに何度も肌を撫でながら、ゆっくりと顔を上げたこの世で一番大切な人と目が合った。
安堵に満ちた高橋のまなざしに射竦められただけで、敦士はさっきよりも躰に火がついてしまう。
「健吾さん、僕は」
「このまま俺を抱いてくれ」
細長い両腕が敦士の首に絡みついて、密着する部分を一気に増やした。触れ合う素肌が思いのほか熱くて、自然と息が乱れてしまう。
「健吾さんを抱くって、もう抱き合っているのにですか?」
「こんなものじゃ足りない、抱きつぶしてくれ。夢の中で抱き合った以上に、俺を抱いてほしい」
告げられた言葉が刺激的すぎて、敦士はごくんと生唾を飲んだ。もっと抱き合いたいという気持ちと同じくらいに、高橋を大事にしなきゃという想いもあって、敦士は毎日心の中で葛藤を繰り返していた。
「健吾さんを抱きつぶすなんて、そんなの――」
今まで我慢していた分を含めて、思う存分に抱いてしまったら、それこそ言葉通りになってしまうのは、火を見るよりも明らかだった。
好きという気持ちのダムを決壊させようとする恋人が、興奮して息をきらす姿を見ながら、切なげに微笑んだ。自嘲的な笑みは何度か見たことのあるもので、こんな表情をさせてしまうことに、敦士は首を傾げるしかない。
「俺は絶望的な片想いをして、誰にも愛されないまま、一度死んでしまった。こんな俺でも、過去に愛してくれた人がいたかもしれないが、片想いをするまでは、そんな気持ちに一切見向きもしなかった」
「僕は誰かを好きになっても相手にすらされなくて、いつも寂しい気持ちを抱えていました。そのうち自分に自信がなくなって、なにをしても上手くいかなくなった」
互いに向かい合って、過去について静かに語り合う。下半身を結合したままという変な体位だったが、繋がっているお蔭からか、敦士は妙に落ち着いて話すことができた。
(――不思議だな。いつもだったら過去の陰気な自分の姿を聞いて、嫌われるかもしれないという恐れがあって、話すことを躊躇っていたのに、今は素直に話すことができてる)
「確かに出逢った頃のおまえは、どこか腐ったところがあったな。キャバ嬢に暴力を振るわれて、涙を流していたっけ」
「えっ!?」
「ドМなおまえが、自分を痛めつけるご主人様がいなくなると焦って、夢の番人である俺の腰に縋って、めそめそ泣いていたんだ。悪夢の原因であるキャバ嬢を消さないでくれって懇願されたが、無視して消し去ってやった」
ひと仕事を終えた爽快感を表すような高橋の表情を目の当たりにして、敦士はものすごく恥ずかしくなってしまった。
「そっ、その節はお世話になりました……。一言付け加えると、そこまでドМじゃないです」
「いやいやドМだろ。手首をキツく縛っただけで、アソコを隆起させたくせに」
「違っ! あれは健吾さんのその姿が魅力的だったからで、縛られたからじゃないですっ」
敦士は頬がどんどん赤くなるのが分かり、どうにも高橋と視線を合わせられない。
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