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新たな転生者と邂逅した日の夜。
沖長はベッドで横になりながら今日のことを振り返っていた。
原作が始まってからというもの、状況が目まぐるしく動いているような気がする。
ダンジョンが出現し、ナクルが勇者になり、新しい転生者と知り合い、そして初代勇者の秘密を知った。
しかもこれでまだ物語的にはプロローグが終わったばかりだというのだから溜息ものだ。
というより後半は主人公のナクルではなく、沖長に起こったイベントではあるが。
(にしても〝カースダンジョン〟に〝ユニークダンジョン〟か……)
ダンジョンにも様々な種類があることが判明し、こうして帰宅してから長門に確認を取ったが、間違いなく存在するという話をもらった。
詳しくはまた学校の屋上で話そうということで、その場が一方的な沖長の質問で終わった。
しかし彼にはどこまで話していいものか迷うところだ。
このえからは、できれば自分のことを他の転生者には言わないでほしいと言われていた。その方が今後も動き易いからということらしい。
まあ、彼女の能力を考えればその方が良いと沖長も思う。あの究極的な情報収集能力の恩恵が受けられるのならば、沖長も納得することができた。
ただ十鞍千疋の存在について話しているし、長門ならば彼女の背負っているものも知っているはず。故に話し合いをして結果的に手を組むことになったということにしておいた方が何かと都合が良いと判断した。
千疋も沖長の思うようにしても良いと言っていたので、長門への説明はそのように行うつもりだ。
幸い千疋が当然ダンジョンに詳しいことを長門も知っているだろうし、彼女からダンジョンについての情報を知り得たといえば矛盾は起きまい。
沖長は上半身をおもむろに起こして眉をひそめる。
「そろそろ次のイベントか……」
長門から聞いていた原作の次なるステージ。当然ナクルを主軸とした物語が進み始める。
端的に言えば、近々再びある場所でダンジョンが開くのだ。
そこでナクルが勇者としての力をさらに自覚し、ダンジョン主と戦うのだが……。
「問題は例の転生者コンビなんだよな……」
赤髪と金剛寺のことだ。
原作当初にも赤髪は登場したし、今度もまた参入してくるだろう。金剛寺も長門が抑えてくれていたが、毎回対処することは難しくなるはず。
どうも金剛寺は、いまだに沖長が転生者ではなく、何かしらのイレギュラー的存在だと認識しているようだが、戦いの場で出くわして沖長が力を振るえば間違いなく転生者だと判断するだろう。そうなれば今後、学校内でも鬱陶しいこと間違いない。
しかしならば参加しないかというと、ナクルを守りたい立場としてはそうもいかない。
「はぁ……バレるのは時間の問題か。まあ……あまり鬱陶しいならあの手を使うこともできるけど」
以前もその手を使おうと覚悟はしていたつもりだが、どうも気乗りはしない手段なのだ。それでもどうしても必要になった時は躊躇いなく使うつもりではある。
長門やこのえみたいに、協力関係を結べる相手なら良いが、あの二人はこちらの話を聞かないし、問答無用で襲い掛かってくるような気質を持っているのだ。
「ま、いざとなった時に考えるか。……ん?」
スマホが震えたので確かめると、ナクルからのメッセージが送られてきていた。
そこには『新しいパジャマッス!』というメッセージとともに、嬉しそうなパジャマ姿のナクルの画像が添付されている。
「はは、似合ってる似合ってる。……そういや、ナクルはあんまり驚かなかったなぁ」
あのダンジョンでの一件のあと、ナクルと二人きりになった時に《アイテムボックス》について伝えていたのだ。その力で蔦絵を蘇生させたということも。
その時、確かに驚いてはいたが、それよりも感動の方が勝っていたように思う。『凄い! 凄いッス! さすがはボクのオキくんッス!』と大喜びする彼女に、沖長の方が驚いたくらいだ。
ナクルの中で沖長は、そういう不可思議なことができてもおかしくない存在になっているのだろうか。
もっともナクルもまたすでに一般人と言い難い存在になっているため、驚きの基準点が上がっているのかもしれないが。
何せダンジョンに妖魔に勇者と、ファンタジーのオンパレードを立て続けに受けたのだから、確かに驚きの沸点が高くなっていてもおかしくはない。
「……! そうだそうだ、忘れてた」
そこでふと思い出したことがあった。
例の十鞍千疋を侵食していた呪い――《カースダンジョンのコア》についてだ。
「んー……やっぱり無限化はしてないか」
改めて見ても、いつもなら〝∞〟という表示がされているところが、数字の〝1〟になっている。
もしかして正常に戻ったのかと思って、近くにある枕を回収してみたが、ちゃんとといったらおかしいのか、普段通りに無限化していた。
あまり口にしたくはないが、ダンジョン内で回収した蔦絵の遺体もまたしっかりと増えていたのである。
「ってことはバグったままのはずだよな。けど何でだ? ……もしかしてランクが高いから? ……ん?」
回収したコアのテキストなどを確認していると、妙な文字が目に入った。
「……〝複製〟?」
それまで見たこともない機能が表示されていたのである。
言うなれば今までの無限化というのは、回収した直後に勝手に複製し、その数が無限化していた。故にそのような機能を示す表示はなかった。
「Sランクのものは自動的に複製するんじゃなくて、自分で決められるってことか?」
とにかく試してみようと、〝複製〟を起動していた。
すると蔦絵の身体を再生した時と同じように、〝12:00:00〟と表示されてカウントダウンされていく。
「おいおい、十二時間もかかるのか。〝複製〟は〝再生〟と違ってかなりかかるな」
だがそこで問題点を発見する。
「……あれ? 枕が取り出せないぞ?」
先ほど回収した枕を出して横になろうとしたが、その機能が発揮されないのだ。
何度も試すが、画面はカウントダウンの数字だけが表示されたまま。
「…………まさかこれって、複製機能を使ってる時は他の機能が使えないってことか?」
試しに回収もしてみたが、やはり反応はなかった。
なので、一旦〝複製〟を中断すると、問題なく能力を使用できたが、コアは一つも増えていなかった。どうやらカウントダウンを中断すれば、複製自体が無かったことになるらしい。
それに加えてさらなるリスクも知ることができた。
「げっ……複製時間が増えてやがる……!?」
先ほどは〝12:00:00〟だったが、二回目は〝24:00:00〟と表示されており、明らかに倍化していたのだ。
「こいつは……下手に中断もできねえし、使ってる間は無能力者になるのかよ」
後日、〝再生〟も改めて試してみたが、同じように使用している間は能力が使えないことが判明したのであった。
沖長はベッドで横になりながら今日のことを振り返っていた。
原作が始まってからというもの、状況が目まぐるしく動いているような気がする。
ダンジョンが出現し、ナクルが勇者になり、新しい転生者と知り合い、そして初代勇者の秘密を知った。
しかもこれでまだ物語的にはプロローグが終わったばかりだというのだから溜息ものだ。
というより後半は主人公のナクルではなく、沖長に起こったイベントではあるが。
(にしても〝カースダンジョン〟に〝ユニークダンジョン〟か……)
ダンジョンにも様々な種類があることが判明し、こうして帰宅してから長門に確認を取ったが、間違いなく存在するという話をもらった。
詳しくはまた学校の屋上で話そうということで、その場が一方的な沖長の質問で終わった。
しかし彼にはどこまで話していいものか迷うところだ。
このえからは、できれば自分のことを他の転生者には言わないでほしいと言われていた。その方が今後も動き易いからということらしい。
まあ、彼女の能力を考えればその方が良いと沖長も思う。あの究極的な情報収集能力の恩恵が受けられるのならば、沖長も納得することができた。
ただ十鞍千疋の存在について話しているし、長門ならば彼女の背負っているものも知っているはず。故に話し合いをして結果的に手を組むことになったということにしておいた方が何かと都合が良いと判断した。
千疋も沖長の思うようにしても良いと言っていたので、長門への説明はそのように行うつもりだ。
幸い千疋が当然ダンジョンに詳しいことを長門も知っているだろうし、彼女からダンジョンについての情報を知り得たといえば矛盾は起きまい。
沖長は上半身をおもむろに起こして眉をひそめる。
「そろそろ次のイベントか……」
長門から聞いていた原作の次なるステージ。当然ナクルを主軸とした物語が進み始める。
端的に言えば、近々再びある場所でダンジョンが開くのだ。
そこでナクルが勇者としての力をさらに自覚し、ダンジョン主と戦うのだが……。
「問題は例の転生者コンビなんだよな……」
赤髪と金剛寺のことだ。
原作当初にも赤髪は登場したし、今度もまた参入してくるだろう。金剛寺も長門が抑えてくれていたが、毎回対処することは難しくなるはず。
どうも金剛寺は、いまだに沖長が転生者ではなく、何かしらのイレギュラー的存在だと認識しているようだが、戦いの場で出くわして沖長が力を振るえば間違いなく転生者だと判断するだろう。そうなれば今後、学校内でも鬱陶しいこと間違いない。
しかしならば参加しないかというと、ナクルを守りたい立場としてはそうもいかない。
「はぁ……バレるのは時間の問題か。まあ……あまり鬱陶しいならあの手を使うこともできるけど」
以前もその手を使おうと覚悟はしていたつもりだが、どうも気乗りはしない手段なのだ。それでもどうしても必要になった時は躊躇いなく使うつもりではある。
長門やこのえみたいに、協力関係を結べる相手なら良いが、あの二人はこちらの話を聞かないし、問答無用で襲い掛かってくるような気質を持っているのだ。
「ま、いざとなった時に考えるか。……ん?」
スマホが震えたので確かめると、ナクルからのメッセージが送られてきていた。
そこには『新しいパジャマッス!』というメッセージとともに、嬉しそうなパジャマ姿のナクルの画像が添付されている。
「はは、似合ってる似合ってる。……そういや、ナクルはあんまり驚かなかったなぁ」
あのダンジョンでの一件のあと、ナクルと二人きりになった時に《アイテムボックス》について伝えていたのだ。その力で蔦絵を蘇生させたということも。
その時、確かに驚いてはいたが、それよりも感動の方が勝っていたように思う。『凄い! 凄いッス! さすがはボクのオキくんッス!』と大喜びする彼女に、沖長の方が驚いたくらいだ。
ナクルの中で沖長は、そういう不可思議なことができてもおかしくない存在になっているのだろうか。
もっともナクルもまたすでに一般人と言い難い存在になっているため、驚きの基準点が上がっているのかもしれないが。
何せダンジョンに妖魔に勇者と、ファンタジーのオンパレードを立て続けに受けたのだから、確かに驚きの沸点が高くなっていてもおかしくはない。
「……! そうだそうだ、忘れてた」
そこでふと思い出したことがあった。
例の十鞍千疋を侵食していた呪い――《カースダンジョンのコア》についてだ。
「んー……やっぱり無限化はしてないか」
改めて見ても、いつもなら〝∞〟という表示がされているところが、数字の〝1〟になっている。
もしかして正常に戻ったのかと思って、近くにある枕を回収してみたが、ちゃんとといったらおかしいのか、普段通りに無限化していた。
あまり口にしたくはないが、ダンジョン内で回収した蔦絵の遺体もまたしっかりと増えていたのである。
「ってことはバグったままのはずだよな。けど何でだ? ……もしかしてランクが高いから? ……ん?」
回収したコアのテキストなどを確認していると、妙な文字が目に入った。
「……〝複製〟?」
それまで見たこともない機能が表示されていたのである。
言うなれば今までの無限化というのは、回収した直後に勝手に複製し、その数が無限化していた。故にそのような機能を示す表示はなかった。
「Sランクのものは自動的に複製するんじゃなくて、自分で決められるってことか?」
とにかく試してみようと、〝複製〟を起動していた。
すると蔦絵の身体を再生した時と同じように、〝12:00:00〟と表示されてカウントダウンされていく。
「おいおい、十二時間もかかるのか。〝複製〟は〝再生〟と違ってかなりかかるな」
だがそこで問題点を発見する。
「……あれ? 枕が取り出せないぞ?」
先ほど回収した枕を出して横になろうとしたが、その機能が発揮されないのだ。
何度も試すが、画面はカウントダウンの数字だけが表示されたまま。
「…………まさかこれって、複製機能を使ってる時は他の機能が使えないってことか?」
試しに回収もしてみたが、やはり反応はなかった。
なので、一旦〝複製〟を中断すると、問題なく能力を使用できたが、コアは一つも増えていなかった。どうやらカウントダウンを中断すれば、複製自体が無かったことになるらしい。
それに加えてさらなるリスクも知ることができた。
「げっ……複製時間が増えてやがる……!?」
先ほどは〝12:00:00〟だったが、二回目は〝24:00:00〟と表示されており、明らかに倍化していたのだ。
「こいつは……下手に中断もできねえし、使ってる間は無能力者になるのかよ」
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