俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

文字の大きさ
上 下
95 / 233

94

しおりを挟む
「ガッハッハッハ! すまなかったな、オキナガよ!」

 あれからこのえの命により土下座を経た王樹。今は沖長を客室へと招いて対面していた。
 ちなみにこのえと千疋もこの場にいる。

 どうやらこのえから沖長という少年が訪問することは、この父親には伝わっていたようだが、沖長の訪問直後には仕事で外に出ていたらしい。
 それで帰宅後すぐにあの離れへとやってきたというわけだ。

「しかし改めて詳しく聞かせてほしいんだがなぁ、千疋よ」
「なぁに、この方こそ我が主に相応しいと長年の勘が囁いたということじゃ」
「長年とは……いや、お前の場合は納得する理由にもなるか」

 どうやら千疋の抱えているものを、この王樹もまた知っているようだ。

「だがお前はさっきも言ったが俺の娘同然だ。いきなり見知らぬ坊主を主にしたとあっちゃ、はいそうですかって黙ってられるわけもあるまい」

 まあ保護者としての立場があるなら当然だろう。

「それにオキナガ……おめえさんは納得してるのか?」
「気迫に負けたというところですね」
「気迫だと?」
「それこそ長年培われたであろう有無を言わさぬような威圧感で」
「ガッハッハッハ! なるほど、女にゃ弱いわけか! 情けねえなぁ!」
「それは……お母様の尻に敷かれているお父様が……言えないセリフ」

 このえの痛烈な攻撃に「ぐふっ!?」と胸を抑える王樹。どうやらどこの世界でも夫は妻には勝てないものらしい。

(うちの親父だってそうだしなぁ。まあキレた母さんマジ怖えし)

 それに家庭円満の秘訣は、妻や娘には逆らわないことというのはよく聞く話でもある。

「けどなぁ、千疋。おめえさんが主を求めてるってのは知ってるが、確かその……」

 チラリと沖長に視線を向けてくる。その真意を察したのか千疋が、

「ああ、大丈夫じゃぞ。主様はワシのすべてをご存じゆえ」

 と口添えし、またも王樹を驚かせていた。

「このえが今日、千疋の知り合いを招くって話は聞いてたけどな。まさか千疋がそこまで信頼してる奴がいるとは……一体どこで知り合った? それだけ親密なら、もっと前からの関係なんだろ?」
「いいや、出会ったのはつい最近じゃぞ」
「はあ? つ、つい最近でおめえ……すべてを託せるって判断しちまったのか?」

 千疋が「そうじゃ」と事も無げに言うので、王樹はいまだに信じられない様子で「何でまた……?」と追及する。

「フフン、ワシと主様は言うなれば運命の出会いを果たしただけじゃ。出会うべくして出会い、結果的に今に至るというわけじゃな!」

 まるで誇らしげに薄い胸を張る。何とも理解しがたい言葉を受け、王樹が助けを求めるようにこのえを見た。

「……諦めて。千が……決めたことだもの」
「いや、だがよぉ……」
「それに……わたしも彼なら信用できると……判断したわ」
「っ……このえまでも、か。…………はぁぁぁぁ」

 とてつもなく長い溜息のあとに王樹がそのまま続ける。

「まあ二人がそこまで認める相手を、俺が一方的に遠ざけるのは筋が通らねえか。けど……おい、オキナガ」
「何でしょうか?」
「おめえさんは、千疋の過去を聞いてどう思った?」
「そうですね。もったいない……と」
「もったいない……か。その理由は?」
「呪いなんていう訳の分からないもので、未来永劫苦しめられるなんて僕だったら耐えられず、とっくの昔に心が壊れてるでしょう。けれど彼女が違う。心が痛んで、苦しみ、嘆き、やり切れなくても、それでもこうして前を向いてる。それは間違いなく彼女の心が強いから。いや、強くあろうとしているから」
「主様……」
「僕は……強くあろうとしている人を尊敬するし、自分もそうありたいと思っています。だからそんな十鞍千疋という存在が、このまま報われずに朽ちてしまうのがもったいないって思ったんです」

 確かに今の十鞍千疋は、いまだに心を壊さずに立ち向かう意志がある。しかしそれも次はどうなるか分からない。救いなど存在しないと認めてしまい心が砕ける可能性だってあるのだ。

(多分今の十鞍が踏ん張っていられるのは、壬生島がいるからってのも大きな要因になっていると思うけどな)

 原作ではどうなっているのか分からないが、それでもこのえの存在は、千疋に祝福の未来を予感させるほど大きいもののはず。だから諦められずに立っていられる。

 人は一人ではいずれ倒れてしまう。しかし誰から傍にいれば、必ず支えになってくれるのだ。たとえどんな悲劇が襲い掛かろうと、仲間がいれば乗り越えられると沖長は信じているから。

「…………おめえさん、本当に小学生か?」

 疑惑の視線が射抜いてくる。確かに子供らしくない発言だったろう。大人にとっては十分に疑う理由にはなる。

「もしかしておめえさんも、千疋の『継ぎ憶』みてえな力があるんじゃねえか?」
「幸い両親の教育が高等だったので。それにそちらのお嬢さんも年齢に見合わず大人っぽいと思われますが?」
「む……そう言われちまうと、確かにうちの娘どもは揃って大人びた考えをするけどよぉ」

 千疋は言わずもがなだが、このえは転生者なので当然だ。しかし父にも転生者であることは伝えていないみたいだ。

「このえ、千疋、コイツもおめえらと同じってわけか?」

 その問いに二人揃ってしっかりと頷く。
 それを見た王樹は、腕を組んでしばらく考え込む。

「まあ、類は友を呼ぶってやつかもなぁ。……分かった。けど、一つだけ言っておくことがある」

 険しい顔つきを浮かべ凄みを増す。鋭い眼光で沖長を見つめて王樹は言葉を発する。

「うちの娘たちを泣かすような真似だけはするんじゃねえぞ?」
「……善処します」
「政治家かおめえさんは……ったく、まあ言質は取ったぜ。あとは若いもんだけで好きにやりな」

 そう言うと、座布団から立ち上がり部屋を出て行った。
 どうやら大事になることもなく親との面談が終わったようで沖長はホッと息を吐いた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

異世界から帰れない

菜花
ファンタジー
ある日、次元移動する魔物に遭遇して異世界に落とされた少女。幸い魔力チートだったので何とかして元の世界へ帰ろうとするが……。カクヨムにも同じ話があります。

チートをもらえるけど戦国時代に飛ばされるボタン 押す/押さない

兎屋亀吉
ファンタジー
チートはもらえるけど戦国時代に強制トリップしてしまうボタン。そんなボタンが一人の男の元にもたらされた。深夜に。眠気で正常な判断のできない男はそのボタンを押してしまう。かくして、一人の男の戦国サバイバルが始まる。『チートをもらえるけど平安時代に飛ばされるボタン 押す/押さない』始めました。ちなみに、作中のキャラクターの話し方や人称など歴史にそぐわない表現を使う場面が多々あります。フィクションの物語としてご理解ください。

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

転生したアラサーオタク女子はチートなPCと通販で異世界でもオタ活します!

ねこ専
ファンタジー
【序盤は説明が多いので進みがゆっくりです】 ※プロローグを読むのがめんどくさい人は飛ばしてもらっても大丈夫です。 テンプレ展開でチートをもらって異世界に転生したアラサーオタクOLのリリー。 現代日本と全然違う環境の異世界だからオタ活なんて出来ないと思いきや、神様にもらったチートな「異世界PC」のおかげでオタ活し放題! 日本の商品は通販で買えるし、インターネットでアニメも漫画も見られる…! 彼女は異世界で金髪青目の美少女に生まれ変わり、最高なオタ活を満喫するのであった。 そんなリリーの布教?のかいあって、異世界には日本の商品とオタク文化が広まっていくとかいかないとか…。 ※初投稿なので優しい目で見て下さい。 ※序盤は説明多めなのでオタ活は後からです。 ※誤字脱字の報告大歓迎です。 まったり更新していけたらと思います!

家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長

ハーーナ殿下
ファンタジー
 貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。  しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。  これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

処理中です...