585 / 625
聖女の旅路
第十三章第12話 奴隷の是非
しおりを挟む
それからレ・タインさんたちには帰ってもらい、難民の皆さんには収納に入っていた食料の一部を提供した。ゴールデンサン巫国で買ったお米がかなり減ってしまったのはちょっと残念だが、困っている人に食べてもらったほうが有意義だろう。
その際にほかの難民の人たちにも話を聞いたのだが、最初に話を聞いた男性と大体同じようなことを話していた。しかもどうやらレッドスカイ帝国の、グリーンクラウド王国との国境に近い南部の森林地帯はどこも同じような状況らしい。
おかげである程度状況が把握できたため、私たちは難民キャンプから太守の館へと戻ってきた。
「うーん、これはグリーンクラウド王国の王様に会う前にちょっと寄り道して、彼らのことを助けた気たほうがいいですかね?」
「お気持ちは分かります。ですがここからさらに首を突っ込んでしまえば、彼らの救世主として祀り上げられるのは間違いありません。そして彼らはレッドスカイ帝国が民を守るという国としての義務を怠った結果、難民として故郷を捨てざるを得なくなりました。ですから彼らはレッドスカイ帝国に対して不信感を抱いているでしょうし、最悪の場合はフィーネ様の庇護を盾にして祖国に反旗を翻す可能性も考えられます。そうなればゴールデンサン巫国から拉致された者たちの救出はより難しくなるでしょう」
「……そうですね」
「拙者は虐げられている者がいて、その者たちを救うということであれば異存はないでござるよ。もしそれで攻撃されるというのであれば、拙者がすべて斬り伏せるでござるよ。特にあの皇帝は偉そうに吸血鬼退治など言っておきながら、その実は奴隷と領土欲しさからくるただの侵略だったでござるからな」
あまりそんな素振りを見せていなかったが、シズクさんもあの侵略に対してかなり怒っていたようだ。
それに今のシズクさんに勝てる人間はレッドスカイ帝国にはいないはずだ。となると、本当にすべてを斬り伏せてしまえるだろう。もちろんシズクさんが本当にそうしたいとは思っていないだろうし、私だってシズクさんにそんなことはさせたくない。
うん、決めた。やはりこの件はひとまず首を突っ込まないほうがいいだろう。
「分かりました。今回は余計なことはせず、話し合いで解決してもらいましょう。レ・タインさんもレ・タインさんなりに難民たちの支援はしていますし、グリーンクラウド王国としてもその件をレッドスカイ帝国に交渉したいでしょうから」
「そうですよね!」
「そうでござるな……」
クリスさんは明らかにほっとした様子だ。シズクさんは……普段と変わらない様子だがどことなく残念そうに見えるのは気のせいだろうか。
「となると、拉致された島民たちの救出もグリーンクラウド王国に力を借りるということでござるな?」
「はい。そうしようと思います。手紙を書くくらいはいいですよね? クリスさん」
「え? あ……はい。その、問題ないと思います」
なんだかクリスさんらしくない物言いだが、これはきっと私が救出すると宣言したから合わせてくれているのだろう。
「分かりました。それじゃあ早速手紙を書いて、チャンドラ王子にお願いしましょう」
「そうでござるな」
こうして私はレッドスカイ帝国の皇帝に向けて手紙をしたためるのだった。
◆◇◆
「なるほど、戦地ではそのようなことが……」
「はい。いくらなんでも何もしていない島民たちを無理やり連れて行くなど、あってはならないと思います」
「……きっと島民たちは無理やり奴隷にされているのでしょうね」
「やっぱりそう思いますか?」
「はい。レッドスカイ帝国には表向き奴隷などいないことになっていますが、現実には奴隷として扱われている者が多数おります」
「……」
なんというか、胸糞悪い話だ。ホワイトムーン王国でもブルースター共和国でも奴隷が禁止されているくせに、奴隷を売買する奴らがいた。レッドスカイ帝国ではそういった話を聞かなかったが、結局同じなのだろう。
そしてそんな悪いことをする奴らが瘴気をたくさん作って魔物を生み出し、人々だけでなく魔物たちをも苦しめているのだ。
「聖女様、承知しました。どのように話を持っていくかは一度王と相談することになりますが、お任せください。必ずや、このチャンドラがレッドスカイ帝国の皇帝にお届けいたしましょう。ちょうどスイキョウ陛下から終戦交渉の仲介をお願いされていますし、その件と併せて進めることになると思います」
「ありがとうございます」
私がチャンドラ王子のところに行って事情を話すと、そう言って手紙を届けることを約束してくれた。
だが、チャンドラ王子はすぐに真剣な表情となる。
「聖女様」
「なんでしょう?」
「我が国のことで聖女様には知っておいていただきたいことがございます」
「知っておいて欲しいことですか?」
「はい。我が国には奴隷制度がございます」
「え? 奴隷がいるんですか?」
「はい。借金を返せなくなった者は借金を返すまで金を借りた相手の奴隷となり、罪を犯した者は罪を償うまで国の奴隷として扱われることとなります。ですが主人が奴隷に対して罪を犯した場合、その主人もまた罪に問われ、その罪の内容によっては奴隷となります」
「そうなんですね」
いきなり奴隷制度があるなんて言われたから何事かと思ったけれど、そういうことなら問題なさそうだ。
「はい。聖女様は奴隷制度そのものを嫌悪していらっしゃるように思いましたので……」
「いえ、ちゃんと人としてまともに扱われているなら問題ないと思います。特に罪を犯した人が牢屋に入って罪を償うのは当然のことです。ただ、何もしていない人を拉致して奴隷にするなんてことを、私は決して認めるわけにはいきません」
「聖女様のご意志、しかと承りました。このチャンドラにお任せください!」
チャンドラ王子はそう強い意志の宿った目でそう返事をしてくれた。
ううん、あの皇帝もチャンドラ王子くらいまともだったら良かったのだけれど……。
その際にほかの難民の人たちにも話を聞いたのだが、最初に話を聞いた男性と大体同じようなことを話していた。しかもどうやらレッドスカイ帝国の、グリーンクラウド王国との国境に近い南部の森林地帯はどこも同じような状況らしい。
おかげである程度状況が把握できたため、私たちは難民キャンプから太守の館へと戻ってきた。
「うーん、これはグリーンクラウド王国の王様に会う前にちょっと寄り道して、彼らのことを助けた気たほうがいいですかね?」
「お気持ちは分かります。ですがここからさらに首を突っ込んでしまえば、彼らの救世主として祀り上げられるのは間違いありません。そして彼らはレッドスカイ帝国が民を守るという国としての義務を怠った結果、難民として故郷を捨てざるを得なくなりました。ですから彼らはレッドスカイ帝国に対して不信感を抱いているでしょうし、最悪の場合はフィーネ様の庇護を盾にして祖国に反旗を翻す可能性も考えられます。そうなればゴールデンサン巫国から拉致された者たちの救出はより難しくなるでしょう」
「……そうですね」
「拙者は虐げられている者がいて、その者たちを救うということであれば異存はないでござるよ。もしそれで攻撃されるというのであれば、拙者がすべて斬り伏せるでござるよ。特にあの皇帝は偉そうに吸血鬼退治など言っておきながら、その実は奴隷と領土欲しさからくるただの侵略だったでござるからな」
あまりそんな素振りを見せていなかったが、シズクさんもあの侵略に対してかなり怒っていたようだ。
それに今のシズクさんに勝てる人間はレッドスカイ帝国にはいないはずだ。となると、本当にすべてを斬り伏せてしまえるだろう。もちろんシズクさんが本当にそうしたいとは思っていないだろうし、私だってシズクさんにそんなことはさせたくない。
うん、決めた。やはりこの件はひとまず首を突っ込まないほうがいいだろう。
「分かりました。今回は余計なことはせず、話し合いで解決してもらいましょう。レ・タインさんもレ・タインさんなりに難民たちの支援はしていますし、グリーンクラウド王国としてもその件をレッドスカイ帝国に交渉したいでしょうから」
「そうですよね!」
「そうでござるな……」
クリスさんは明らかにほっとした様子だ。シズクさんは……普段と変わらない様子だがどことなく残念そうに見えるのは気のせいだろうか。
「となると、拉致された島民たちの救出もグリーンクラウド王国に力を借りるということでござるな?」
「はい。そうしようと思います。手紙を書くくらいはいいですよね? クリスさん」
「え? あ……はい。その、問題ないと思います」
なんだかクリスさんらしくない物言いだが、これはきっと私が救出すると宣言したから合わせてくれているのだろう。
「分かりました。それじゃあ早速手紙を書いて、チャンドラ王子にお願いしましょう」
「そうでござるな」
こうして私はレッドスカイ帝国の皇帝に向けて手紙をしたためるのだった。
◆◇◆
「なるほど、戦地ではそのようなことが……」
「はい。いくらなんでも何もしていない島民たちを無理やり連れて行くなど、あってはならないと思います」
「……きっと島民たちは無理やり奴隷にされているのでしょうね」
「やっぱりそう思いますか?」
「はい。レッドスカイ帝国には表向き奴隷などいないことになっていますが、現実には奴隷として扱われている者が多数おります」
「……」
なんというか、胸糞悪い話だ。ホワイトムーン王国でもブルースター共和国でも奴隷が禁止されているくせに、奴隷を売買する奴らがいた。レッドスカイ帝国ではそういった話を聞かなかったが、結局同じなのだろう。
そしてそんな悪いことをする奴らが瘴気をたくさん作って魔物を生み出し、人々だけでなく魔物たちをも苦しめているのだ。
「聖女様、承知しました。どのように話を持っていくかは一度王と相談することになりますが、お任せください。必ずや、このチャンドラがレッドスカイ帝国の皇帝にお届けいたしましょう。ちょうどスイキョウ陛下から終戦交渉の仲介をお願いされていますし、その件と併せて進めることになると思います」
「ありがとうございます」
私がチャンドラ王子のところに行って事情を話すと、そう言って手紙を届けることを約束してくれた。
だが、チャンドラ王子はすぐに真剣な表情となる。
「聖女様」
「なんでしょう?」
「我が国のことで聖女様には知っておいていただきたいことがございます」
「知っておいて欲しいことですか?」
「はい。我が国には奴隷制度がございます」
「え? 奴隷がいるんですか?」
「はい。借金を返せなくなった者は借金を返すまで金を借りた相手の奴隷となり、罪を犯した者は罪を償うまで国の奴隷として扱われることとなります。ですが主人が奴隷に対して罪を犯した場合、その主人もまた罪に問われ、その罪の内容によっては奴隷となります」
「そうなんですね」
いきなり奴隷制度があるなんて言われたから何事かと思ったけれど、そういうことなら問題なさそうだ。
「はい。聖女様は奴隷制度そのものを嫌悪していらっしゃるように思いましたので……」
「いえ、ちゃんと人としてまともに扱われているなら問題ないと思います。特に罪を犯した人が牢屋に入って罪を償うのは当然のことです。ただ、何もしていない人を拉致して奴隷にするなんてことを、私は決して認めるわけにはいきません」
「聖女様のご意志、しかと承りました。このチャンドラにお任せください!」
チャンドラ王子はそう強い意志の宿った目でそう返事をしてくれた。
ううん、あの皇帝もチャンドラ王子くらいまともだったら良かったのだけれど……。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる