勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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聖女の旅路

第十三章第12話 奴隷の是非

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 それからレ・タインさんたちには帰ってもらい、難民の皆さんには収納に入っていた食料の一部を提供した。ゴールデンサン巫国で買ったお米がかなり減ってしまったのはちょっと残念だが、困っている人に食べてもらったほうが有意義だろう。

 その際にほかの難民の人たちにも話を聞いたのだが、最初に話を聞いた男性と大体同じようなことを話していた。しかもどうやらレッドスカイ帝国の、グリーンクラウド王国との国境に近い南部の森林地帯はどこも同じような状況らしい。

 おかげである程度状況が把握できたため、私たちは難民キャンプから太守の館へと戻ってきた。

「うーん、これはグリーンクラウド王国の王様に会う前にちょっと寄り道して、彼らのことを助けた気たほうがいいですかね?」
「お気持ちは分かります。ですがここからさらに首を突っ込んでしまえば、彼らの救世主として祀り上げられるのは間違いありません。そして彼らはレッドスカイ帝国が民を守るという国としての義務を怠った結果、難民として故郷を捨てざるを得なくなりました。ですから彼らはレッドスカイ帝国に対して不信感を抱いているでしょうし、最悪の場合はフィーネ様の庇護を盾にして祖国に反旗を翻す可能性も考えられます。そうなればゴールデンサン巫国から拉致された者たちの救出はより難しくなるでしょう」
「……そうですね」
「拙者は虐げられている者がいて、その者たちを救うということであれば異存はないでござるよ。もしそれで攻撃されるというのであれば、拙者がすべて斬り伏せるでござるよ。特にあの皇帝は偉そうに吸血鬼退治など言っておきながら、その実は奴隷と領土欲しさからくるただの侵略だったでござるからな」

 あまりそんな素振りを見せていなかったが、シズクさんもあの侵略に対してかなり怒っていたようだ。

 それに今のシズクさんに勝てる人間はレッドスカイ帝国にはいないはずだ。となると、本当にすべてを斬り伏せてしまえるだろう。もちろんシズクさんが本当にそうしたいとは思っていないだろうし、私だってシズクさんにそんなことはさせたくない。

 うん、決めた。やはりこの件はひとまず首を突っ込まないほうがいいだろう。

「分かりました。今回は余計なことはせず、話し合いで解決してもらいましょう。レ・タインさんもレ・タインさんなりに難民たちの支援はしていますし、グリーンクラウド王国としてもその件をレッドスカイ帝国に交渉したいでしょうから」
「そうですよね!」
「そうでござるな……」

 クリスさんは明らかにほっとした様子だ。シズクさんは……普段と変わらない様子だがどことなく残念そうに見えるのは気のせいだろうか。

「となると、拉致された島民たちの救出もグリーンクラウド王国に力を借りるということでござるな?」
「はい。そうしようと思います。手紙を書くくらいはいいですよね? クリスさん」
「え? あ……はい。その、問題ないと思います」

 なんだかクリスさんらしくない物言いだが、これはきっと私が救出すると宣言したから合わせてくれているのだろう。

「分かりました。それじゃあ早速手紙を書いて、チャンドラ王子にお願いしましょう」
「そうでござるな」

 こうして私はレッドスカイ帝国の皇帝に向けて手紙をしたためるのだった。

◆◇◆

「なるほど、戦地ではそのようなことが……」
「はい。いくらなんでも何もしていない島民たちを無理やり連れて行くなど、あってはならないと思います」
「……きっと島民たちは無理やり奴隷にされているのでしょうね」
「やっぱりそう思いますか?」
「はい。レッドスカイ帝国には表向き奴隷などいないことになっていますが、現実には奴隷として扱われている者が多数おります」
「……」

 なんというか、胸糞悪い話だ。ホワイトムーン王国でもブルースター共和国でも奴隷が禁止されているくせに、奴隷を売買する奴らがいた。レッドスカイ帝国ではそういった話を聞かなかったが、結局同じなのだろう。

 そしてそんな悪いことをする奴らが瘴気をたくさん作って魔物を生み出し、人々だけでなく魔物たちをも苦しめているのだ。

「聖女様、承知しました。どのように話を持っていくかは一度王と相談することになりますが、お任せください。必ずや、このチャンドラがレッドスカイ帝国の皇帝にお届けいたしましょう。ちょうどスイキョウ陛下から終戦交渉の仲介をお願いされていますし、その件と併せて進めることになると思います」
「ありがとうございます」

 私がチャンドラ王子のところに行って事情を話すと、そう言って手紙を届けることを約束してくれた。

 だが、チャンドラ王子はすぐに真剣な表情となる。

「聖女様」
「なんでしょう?」
「我が国のことで聖女様には知っておいていただきたいことがございます」
「知っておいて欲しいことですか?」
「はい。我が国には奴隷制度がございます」
「え? 奴隷がいるんですか?」
「はい。借金を返せなくなった者は借金を返すまで金を借りた相手の奴隷となり、罪を犯した者は罪を償うまで国の奴隷として扱われることとなります。ですが主人が奴隷に対して罪を犯した場合、その主人もまた罪に問われ、その罪の内容によっては奴隷となります」
「そうなんですね」

 いきなり奴隷制度があるなんて言われたから何事かと思ったけれど、そういうことなら問題なさそうだ。

「はい。聖女様は奴隷制度そのものを嫌悪していらっしゃるように思いましたので……」
「いえ、ちゃんと人としてまともに扱われているなら問題ないと思います。特に罪を犯した人が牢屋に入って罪を償うのは当然のことです。ただ、何もしていない人を拉致して奴隷にするなんてことを、私は決して認めるわけにはいきません」
「聖女様のご意志、しかと承りました。このチャンドラにお任せください!」

 チャンドラ王子はそう強い意志の宿った目でそう返事をしてくれた。

 ううん、あの皇帝もチャンドラ王子くらいまともだったら良かったのだけれど……。
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