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聖女の旅路

第十三章第13話 ハイディンの奇岩群

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 それから数日間かけ、私たちは周囲の魔物を解放してあげた。森のかなり奥まで行って魔物たちを解放してあげたのに加え、太守の館に種を植えてあるのでしばらくは魔物の被害に悩まされることはないはずだ。

 それに魔物と瘴気のこともきちんと人々に伝えてもらうように言ってある。これで人々が悪しき欲望を打ち消すほどに人々が光り輝いてくれればいいのだけれど……。

「聖女様、この度はありがとうございました」
「少しでもお役に立てたのなら嬉しいです」

 さて、私たちは今、ハイディンを出発するところで、港でレ・タインさんたちの見送りを受けている。

 だがチャンドラ王子は王様と相談するため、一足早く王都へと出発しているため、この場にはもういない。私たちは途中の町でも魔物を解放してあげなければならないわけだし、こうすることがレッドスカイ帝国に連れていかれた人たちを解放する一番の近道のはずだ。ついでにルーちゃんの妹のこともお願いし、探してくれると約束してくれた。だからきっとこれがベストな選択だと思う。

「聖女様、またどうぞいらしてください。住民一同、歓迎いたします」
「ありがとうございます。機会があればぜひ」

 こうしてレ・タインさんと別れ、私たちは船に乗り込んだ。すると船は帆を広げ、ゆっくりと動き出す。

 港ではレ・タインさんたちが大きく手を振っており、私は彼らに手を振り返す。そうしているうちに港は徐々に遠くなった。きっともうレ・タインさんたちからは私の姿は見えていないはずだ。にもかかわらず、レ・タインさんたちはずっと手を振り続けている。

 それを見ているとなんとなく手を振るのを止めるのも申し訳ない気になり、私は手を振り返し続ける。

 そうしていると港が島に隠れ、見なくなったのでようやく手を振るのを止めることができた。

「ふぅ」

 気が付けば、自然と小さなため息が出ていた。

 いやはや、まさか本当に見えなくなるまでこっちに向かって手を振り続けるとは。

「フィーネ様、お疲れ様でした」
「え? あ、はい」
「彼らはずっと手を振り続けていたのですか?」
「そうなんですよ。まさか見えなくなっても振り続けるなんて」
「それだけフィーネ様に感謝しているのでしょう。難民たちもフィーネ様のおかげで、ハイディンの者たちに多少は協力的になったようですし」
「彼らがもっと仲良くできるといいですね。本当なら元の場所に戻れればいいんでしょうけど……」
「そうですね。グリーンクラウド王が上手く事を進めてくれると良いのですが……」
「はい」

 あのチャンドラ王子の親であればきっとおかしな人ではないと思うけれど……。

 それからつらつらと他愛ない話をしていると、遠くになにやらごつごつとした不思議な形をした岩や島が海面のあちこちから突き出している光景が見えてきた。

「あそこを通るんでしょうか?」
「そのようですね」

 ううん、なんだか難所のような気がするけれど……。

 そんな心配をしていると、船長さんが近づいてきた。

「聖女様、こちらがハイディンの名物、奇岩群でございます」
「奇岩群ですか?」
「はい。奇岩群の周辺はエメラルドグリーンの美しい海と表情豊かな千を超える奇岩が特徴的な海域でございます。言い伝えでは、この奇岩群が誕生したのは数千年前、まだハイディンという地名がなかったころにまで遡るそうです」

 船長さんは不思議な形をしている岩々を指さしながら説明を続ける。

「当時のハイディンはまだ小さな集落だったそうですが、ある日その集落に大量の魔物が押し寄せてきたのだそうです」
「魔物が、ですか」
「はい。しかしそのとき、西の空より現れた龍が魔物を追い払ってくれたのだそうです」
「龍が、ですか?」
「はい。龍の力はすさまじかったそうで、当時は陸地だったこの一帯を吹き飛ばして海に変えてしまったのです」
「へ? 陸地ごと全部吹き飛ばして海にしちゃったんですか?」

 なんだか守り神的な話だと思ったけど、そんなことをしたら集落ごと吹き飛ばされているような気もするのだが……。

「はい。そのときに吹き飛ばされずに残った岩がこれらの奇岩であると伝えられております」
「え、ええと、その集落は無事だったんですか?」
「もちろんです。だからこそハイディンの町にこの伝承が残っているのです」
「そ、そうですか。それはそれは……」

 なんというか、単に暴れていた龍がちょうどいい魔物の群れを見つけて蹂躙していっただけのような気がするのは私だけだろうか?

 そうして話を聞いていると、気が付けば海の色が美しいエメラルドグリーンへと変化した。

「聖女様、あちらは鶏岩と呼ばれている岩でございます」

 船長さんの指さした先には二つの大きな岩が海面から突き出ているが、どのあたりが鶏なのだろうか?

「ええと、鶏ですか?」
「はい。左の鶏が右の鶏にちょうど蹴りを入れているのです」
「え? 蹴り? 鶏がですか?」
「はい」
「ええと……」

 そう言われても鶏には見えないし、蹴りを入れているというのも想像がつかないのだが……。

「あっ!」

 船長さんは突然大きな声を上げ、何やら申し訳なさそうに頭をく。

「え? どうしたんですか?」
「い、いえ。その、実はこれ、闘鶏のシーンでして、その……」
「トウケイ?」
「フィーネ様、闘鶏とは鶏同士を戦わせ、どちらが勝つかを競う賭博のことです」
「あ! 闘鶏ですね。ああ、なるほど。見たことはありませんが言われてみればそう見えなくもないような?」

 一応そうは言ってあげたものの、やはり鶏には見えない。

「は、はい。あ! そうだ! あちらの岩はですね」

 船長さんはそう言って慌てたように次の岩の解説を始めるのだった。

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 元ネタが気になる方は「闘鳥岩」で検索してみてください。
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